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10 王都 3
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魔王軍を打ち破ったジン達は王都へ入った。
戦艦Cガストニアを今まで見た中で一番大きなドックに入れると、ブリッジに使者が大急ぎで駆け込んでくる。彼によってジン達は王城へ――その謁見の間に、引っ張られるように向かった。
吹き抜けかと思うほど高い天井、陽の光に輝くいくつものステンドグラス。居並ぶ騎士や大臣達。豪華な長い絨毯の奥に設置された玉座に座る、長い顎髭をたくわえた老人が、スイデン国の現国王だった。
豪華な装飾の施されたローブを纏い、頭上には上品な宝飾で彩られた王冠を頂く、『王様』という単語をそのまま形にしたような王……なのだが。
(人のいい爺さんには見えるが、あんまり仰々しい威厳みたいな物は感じねぇな……)
失礼だとは思いつつ、ジンは正直、そう感じた。
少なくとも乱世に覇を唱えるなどという大げさな言葉とはかけ離れた印象だ。ただ、このお爺さんなら悪い事はしないだろうと思わせる雰囲気はあった。
王の前で膝をつくヴァルキュリナ。
ジン達三人はその後ろで彼女のマネをし、膝をついている。
そんな一行に、王は上機嫌で笑いかけた。
「膝んどつかんでよいよい! 見事じゃ! まことに見事じゃ! そなた達こそ真の英雄よ!」
「はっ。ありがとうございます」
ヴァルキュリナは王の言葉に従い立ち上がる。
ジン達もそれに倣って立ち上がった。
「うむ、英雄は堂々としておかんとな。そして讃えられねばならん。よって今夜は祝勝会をひらこう! ヴァルキュリナ殿、そして三人の聖勇士殿。もちろん讃えられてくれるな?」
「は、はい! 身に余る光栄です」
上機嫌の王に、ヴァルキュリナは緊張しながらも応える。
「ゲッゲー」
ダインスケンはいつも通り鳴いた。
「おう、そうかそうか。大いに楽しんでくれ」
王はどちらにもにこやかに声をかけた。
複眼のリザードマンを見て、周囲にいた騎士や大臣は警戒と困惑を見せていたが、当の王様は全く気にしていないようで、人間相手と変わらぬ態度であった。
(大物なのか適当なのか、判断に困る爺さんだな。まぁこちらとしてはありがたいが)
失礼だとは思えど、それがジンの正直な思いだった。
その夜。
城内有数の大きな部屋で夜会は行われた。
立食形式のテーブルが所狭しと並びながらも、部屋の中央は広く空間が確保され、楽団の演奏とともに多数の男女が輪をかいて踊る。それら皆この国の名士、貴族や騎士だ。
戦ばかりで日々を送って来たジン達にとって、幻想的でさえある華やかな会場である――筈なのだが。
ヴァルキュリナはいつもの鎧を脱ぎ、純白のドレスに着替えていた。
均整のとれた体は引き締まっていながらも女性らしい優美な物であり、上品でありながらも肩や胸の上半分が露出したドレスが清楚と艶めかしさを両立させている。
今回の戦いの功労者という事もあり、騎士や貴族の男性に次々とダンスパートナーを申し込まれていた。
戸惑いながら慣れないダンスを一生懸命踊る彼女のぎこちなさも、また男性達を虜にする一因になっているようだった。
と、その一方。
やはり功労者である筈のジンとダインスケンは、壁の側で近くのテーブルから料理をつまんでいた。
周囲には誰もいない。会場の者達は近寄り難そうにちらちら見はするが、話しかけて来る者はいなかった。
(ま、予想はしていた事だがよ)
ジンは甲殻に覆われた自分の右腕を見る。上品な服の袖など通る筈もなく、おかげで今も部分鎧で武装したいつもの格好だ。パーティ会場では絶望的に浮いている。
ダインスケンの方はいつもの短パン一丁だ。ズボンは尻尾を通す穴が無いので衣裳部屋に置いてきた。上着は持ってきたが、上等なタキシードをマントのように羽織っている。袖を首の辺りで括って留め紐にして――衣装を借りたはいいが、どう着るのか根本的に理解していないのだ。浮いてるとかそういう問題ではなかった。
一人、ナイナイだけは貴族のお嬢様方に囲まれていたが。
小柄なだけで服を着るのに問題のある体ではないので、ややゴシック調の礼服を身に着けている。上等な物を貸してもらったので、黙っていれば貴族家の少年に十分見えた。
だが本人はそんな格好にも人の注目を浴びるのにも慣れておらず、恥ずかしさと戸惑いで狼狽えていた。
そんなナイナイを囲む娘達は、十代の前から中頃の子ばかり。魔王軍相手の活躍がどんな物だったか、目を輝かせてナイナイを質問責めにしている。そうしながらも小さな英雄がおどおどした一面を持つ可愛らしい少年である事を楽しんでいた。
(指揮官とパイロットしか呼ばれてないのも少々不公平だな。ゴブオとクロカに土産でも持って帰ってやらんとよ)
ジンは風呂敷に包んでいた箱を開け、美味かった料理を適当に詰め込んだ。
もちろんますますパーティ会場では浮くが、もう気にしても仕方が無いのも確かだ。
そんなジンの所へ、女の子達の包囲網から脱出したナイナイが必死の形相で戻ってきた。
「どうした。麗しいお嬢さん達が名残惜しくてたまらんようだぞ」
「ジンはすぐそんな事言う!」
笑いかけるジンにナイナイは頬を膨らませる。
そんな二人の頭上を舞う小さな影。
「せっかくパーティなのに、なんでこんな隅にいるのよォ」
「おう、来てたのか」
いつの間にか入り込んでいたリリマナを見上げるジン。
「ま、辛い所を突いてくれるな。世の中みんながモテモテというわけにもいかねぇからよ。なぁダインスケン」
そう言いつつ、ジンは隣のテーブルで肉の塊を食べていた筈のダインスケンへ目をやった。
いつの間にか、テーブルから少し離れてた所で貴族の子供達――十歳に満たないぐらいの――を相手に、腕にぶら下がられたり、尻尾で持ち上げたりして遊んでいるダインスケン。
子供達は恐れる様子もなく、物珍しさで彼の鱗を触りに来ていた。
(はいはい、俺が一番モテないのな……)
ジンは自嘲的な笑いを浮かべて、さらに料理を箱に詰める。
そんなジンの肩にリリマナが停まった。
「ねぇジン、これからはどうするの?」
肩を竦めるジン。
「俺が訊きたいからよ。黄金級機設計図を届ける目的は果たしたからな……以前の話だとヴァルキュリナが食わせてくれるという事だったが、あれをまだ覚えているかどうか」
「ディーンに結婚する意志がないなら、ジンがお婿入りする事はできると思うけど……」
ヴァルキュリナのかつての婚約者、その弟。その名を出すリリマナ。
「ケイドの家……クイン公爵家か。そこが納得しないんじゃねぇの。なんだかんだで弟さんが一緒になると思うんだがな」
両貴族家同士が婚姻にどの程度重きを置いていたかは知らないが、片方が死んだからといってもう片方がすぐ別の誰かと一緒になる事が許されるのだろうか。
ジンはそこに疑問を感じていた。
そんなジンに横から声がかかる。
「私にその意思はありませんがね」
それはディーン――ヴァルキュリナの婚約者の弟――本人であった。
彼が来ていた事は知らなかったが、いるなら顔を出しても当然であろう。
ジンはそれほど驚く事はなく、彼に訊く。
「兄貴の婚約者とくっつくのは嫌なのかい? ヴァルキュリナは悪い女じゃねぇと思うが」
「私は家を出ると決心した身ですので。彼女は素敵な女性だと思いますが、そういう問題ではないのですよ」
そう言ってディーンは遠くで囲まれているヴァルキュリナを見る。男性達からダンスの申し出責めにあっている彼女へ、近づく気も話しかける気もないようだ。
「それよりジン達三人は、今後もヴァルキュリナの下で国防にあたる事を期待されていると思いますが」
「やっぱりそうなんだ……」
ディーンのその言葉に小さく溜息をつくナイナイ。
ジンの肩でリリマナがこくこく頷く。
「仕方ないし当然だよネ。この都、陥落寸前だったし。ジン達が助けなかったら首都を放棄してとんずらだった筈だし。魔王軍と人間の国、すごい力の差があるよ……今もち堪えている国は、魔王軍があちこち手広く同時侵攻しているから耐えているだけで、もし戦力を集中されたら生き残れる国なんて無いのかも」
ジンは土産の箱を風呂敷に包みながら「ふうむ」と呟く。
「よくもまぁこの世界は魔王に支配されてねぇもんだな。この世界最強兵器の黄金級機も、七つ中四つがあちらにある筈なのによ。もしかして魔王――暗黒大僧正とやらは、世界征服なんて別にする気ないんじゃねぇのか」
その言葉に、ディーンは頭をふる。
「何年も世界中相手に戦っててそれは無いでしょう。それに魔王が黄金級機を四つも確保してるなら、ますますこの国が手に入れた設計図は大きな意味があります」
そう言った後、ディーンは何やら考えながら言葉を続けた。
「制作するためにはどうしても秘宝神蒼玉が必要になるので、そうそう作る事はできませんが……近隣諸国に協力を仰げば少しは話が変わりますね。それにより、諸国との連合を作る事さえできるかもしれません。スイデン国主導で……ね」
「結局、パワーゲームになるのか?」
少し顔をしかめるジン。
その肩でリリマナも両足をぶらぶらさせる。
「なんだかなァ。もうジン達が魔王軍の本拠地にバーッと攻め込んでドカンとやっつけちゃえ。そうしたら世界は次の魔王が出てくるまで平和になるよ」
「ええ……そんな事できないと思うけど……」
不安そうな、そしてあからさまに嫌そうなナイナイ。
ジンも軽く頷き同意する。
「相手は黄金級機が最低四機だからな。フル改造とはいえ青銅級機と白銀級機の真ん中な機体の俺ら三人じゃ、ちと厳しいだろうよ」
そんな話をしていると、また横から声がかけられた。
「ふむ。それについてはなんとかしようという動きがあるようじゃな」
これまた聞き覚えのある老人の声。
ふり向いたディーンの顔に、サッと緊張が走る。
「国王……」
スイデン国の王その人が、供もつけずにそこにいた。
「王さま! 黄金級機をジン達にくれるの?」
期待と興奮に顔を輝かせて身を乗り出すリリマナ。
ジンは思わず苦笑い。
(転移者が無礼なのはまぁまぁよくあるらしいが、地元人のお前がそんなんでいいのか……)
だが王の方は気にした様子も無い。
「もし造れるなら考えるがな。残念ながら目途は立っておらん」
「なァんだ……」
がっくり肩を落とすリリマナを見て、王はニヤリと笑った。
「ま、新型機製造の許可申請が出ておる事が、ワシの所にも聞こえておるでな。それもお前さんらの戦艦からじゃよ」
それ聞いて、ナイナイがジンを見る。
「知ってる?」
「俺は初耳だな……」
頭をふるジン。
「ワシも詳しい事は聞いておらんが、ま、許可を出すよう言っておいたからの。すぐにわかるじゃろ」
そう言いながらも王はどこか楽しそうだった。
(口ではそう言っても、多少は内容を知っているみたいだな)
直感的にそう思うジン。
ナイナイはわけがわからずジンと王様を交互に眺め、ディーンは何やら考え込んでいるようだった。
戦艦Cガストニアを今まで見た中で一番大きなドックに入れると、ブリッジに使者が大急ぎで駆け込んでくる。彼によってジン達は王城へ――その謁見の間に、引っ張られるように向かった。
吹き抜けかと思うほど高い天井、陽の光に輝くいくつものステンドグラス。居並ぶ騎士や大臣達。豪華な長い絨毯の奥に設置された玉座に座る、長い顎髭をたくわえた老人が、スイデン国の現国王だった。
豪華な装飾の施されたローブを纏い、頭上には上品な宝飾で彩られた王冠を頂く、『王様』という単語をそのまま形にしたような王……なのだが。
(人のいい爺さんには見えるが、あんまり仰々しい威厳みたいな物は感じねぇな……)
失礼だとは思いつつ、ジンは正直、そう感じた。
少なくとも乱世に覇を唱えるなどという大げさな言葉とはかけ離れた印象だ。ただ、このお爺さんなら悪い事はしないだろうと思わせる雰囲気はあった。
王の前で膝をつくヴァルキュリナ。
ジン達三人はその後ろで彼女のマネをし、膝をついている。
そんな一行に、王は上機嫌で笑いかけた。
「膝んどつかんでよいよい! 見事じゃ! まことに見事じゃ! そなた達こそ真の英雄よ!」
「はっ。ありがとうございます」
ヴァルキュリナは王の言葉に従い立ち上がる。
ジン達もそれに倣って立ち上がった。
「うむ、英雄は堂々としておかんとな。そして讃えられねばならん。よって今夜は祝勝会をひらこう! ヴァルキュリナ殿、そして三人の聖勇士殿。もちろん讃えられてくれるな?」
「は、はい! 身に余る光栄です」
上機嫌の王に、ヴァルキュリナは緊張しながらも応える。
「ゲッゲー」
ダインスケンはいつも通り鳴いた。
「おう、そうかそうか。大いに楽しんでくれ」
王はどちらにもにこやかに声をかけた。
複眼のリザードマンを見て、周囲にいた騎士や大臣は警戒と困惑を見せていたが、当の王様は全く気にしていないようで、人間相手と変わらぬ態度であった。
(大物なのか適当なのか、判断に困る爺さんだな。まぁこちらとしてはありがたいが)
失礼だとは思えど、それがジンの正直な思いだった。
その夜。
城内有数の大きな部屋で夜会は行われた。
立食形式のテーブルが所狭しと並びながらも、部屋の中央は広く空間が確保され、楽団の演奏とともに多数の男女が輪をかいて踊る。それら皆この国の名士、貴族や騎士だ。
戦ばかりで日々を送って来たジン達にとって、幻想的でさえある華やかな会場である――筈なのだが。
ヴァルキュリナはいつもの鎧を脱ぎ、純白のドレスに着替えていた。
均整のとれた体は引き締まっていながらも女性らしい優美な物であり、上品でありながらも肩や胸の上半分が露出したドレスが清楚と艶めかしさを両立させている。
今回の戦いの功労者という事もあり、騎士や貴族の男性に次々とダンスパートナーを申し込まれていた。
戸惑いながら慣れないダンスを一生懸命踊る彼女のぎこちなさも、また男性達を虜にする一因になっているようだった。
と、その一方。
やはり功労者である筈のジンとダインスケンは、壁の側で近くのテーブルから料理をつまんでいた。
周囲には誰もいない。会場の者達は近寄り難そうにちらちら見はするが、話しかけて来る者はいなかった。
(ま、予想はしていた事だがよ)
ジンは甲殻に覆われた自分の右腕を見る。上品な服の袖など通る筈もなく、おかげで今も部分鎧で武装したいつもの格好だ。パーティ会場では絶望的に浮いている。
ダインスケンの方はいつもの短パン一丁だ。ズボンは尻尾を通す穴が無いので衣裳部屋に置いてきた。上着は持ってきたが、上等なタキシードをマントのように羽織っている。袖を首の辺りで括って留め紐にして――衣装を借りたはいいが、どう着るのか根本的に理解していないのだ。浮いてるとかそういう問題ではなかった。
一人、ナイナイだけは貴族のお嬢様方に囲まれていたが。
小柄なだけで服を着るのに問題のある体ではないので、ややゴシック調の礼服を身に着けている。上等な物を貸してもらったので、黙っていれば貴族家の少年に十分見えた。
だが本人はそんな格好にも人の注目を浴びるのにも慣れておらず、恥ずかしさと戸惑いで狼狽えていた。
そんなナイナイを囲む娘達は、十代の前から中頃の子ばかり。魔王軍相手の活躍がどんな物だったか、目を輝かせてナイナイを質問責めにしている。そうしながらも小さな英雄がおどおどした一面を持つ可愛らしい少年である事を楽しんでいた。
(指揮官とパイロットしか呼ばれてないのも少々不公平だな。ゴブオとクロカに土産でも持って帰ってやらんとよ)
ジンは風呂敷に包んでいた箱を開け、美味かった料理を適当に詰め込んだ。
もちろんますますパーティ会場では浮くが、もう気にしても仕方が無いのも確かだ。
そんなジンの所へ、女の子達の包囲網から脱出したナイナイが必死の形相で戻ってきた。
「どうした。麗しいお嬢さん達が名残惜しくてたまらんようだぞ」
「ジンはすぐそんな事言う!」
笑いかけるジンにナイナイは頬を膨らませる。
そんな二人の頭上を舞う小さな影。
「せっかくパーティなのに、なんでこんな隅にいるのよォ」
「おう、来てたのか」
いつの間にか入り込んでいたリリマナを見上げるジン。
「ま、辛い所を突いてくれるな。世の中みんながモテモテというわけにもいかねぇからよ。なぁダインスケン」
そう言いつつ、ジンは隣のテーブルで肉の塊を食べていた筈のダインスケンへ目をやった。
いつの間にか、テーブルから少し離れてた所で貴族の子供達――十歳に満たないぐらいの――を相手に、腕にぶら下がられたり、尻尾で持ち上げたりして遊んでいるダインスケン。
子供達は恐れる様子もなく、物珍しさで彼の鱗を触りに来ていた。
(はいはい、俺が一番モテないのな……)
ジンは自嘲的な笑いを浮かべて、さらに料理を箱に詰める。
そんなジンの肩にリリマナが停まった。
「ねぇジン、これからはどうするの?」
肩を竦めるジン。
「俺が訊きたいからよ。黄金級機設計図を届ける目的は果たしたからな……以前の話だとヴァルキュリナが食わせてくれるという事だったが、あれをまだ覚えているかどうか」
「ディーンに結婚する意志がないなら、ジンがお婿入りする事はできると思うけど……」
ヴァルキュリナのかつての婚約者、その弟。その名を出すリリマナ。
「ケイドの家……クイン公爵家か。そこが納得しないんじゃねぇの。なんだかんだで弟さんが一緒になると思うんだがな」
両貴族家同士が婚姻にどの程度重きを置いていたかは知らないが、片方が死んだからといってもう片方がすぐ別の誰かと一緒になる事が許されるのだろうか。
ジンはそこに疑問を感じていた。
そんなジンに横から声がかかる。
「私にその意思はありませんがね」
それはディーン――ヴァルキュリナの婚約者の弟――本人であった。
彼が来ていた事は知らなかったが、いるなら顔を出しても当然であろう。
ジンはそれほど驚く事はなく、彼に訊く。
「兄貴の婚約者とくっつくのは嫌なのかい? ヴァルキュリナは悪い女じゃねぇと思うが」
「私は家を出ると決心した身ですので。彼女は素敵な女性だと思いますが、そういう問題ではないのですよ」
そう言ってディーンは遠くで囲まれているヴァルキュリナを見る。男性達からダンスの申し出責めにあっている彼女へ、近づく気も話しかける気もないようだ。
「それよりジン達三人は、今後もヴァルキュリナの下で国防にあたる事を期待されていると思いますが」
「やっぱりそうなんだ……」
ディーンのその言葉に小さく溜息をつくナイナイ。
ジンの肩でリリマナがこくこく頷く。
「仕方ないし当然だよネ。この都、陥落寸前だったし。ジン達が助けなかったら首都を放棄してとんずらだった筈だし。魔王軍と人間の国、すごい力の差があるよ……今もち堪えている国は、魔王軍があちこち手広く同時侵攻しているから耐えているだけで、もし戦力を集中されたら生き残れる国なんて無いのかも」
ジンは土産の箱を風呂敷に包みながら「ふうむ」と呟く。
「よくもまぁこの世界は魔王に支配されてねぇもんだな。この世界最強兵器の黄金級機も、七つ中四つがあちらにある筈なのによ。もしかして魔王――暗黒大僧正とやらは、世界征服なんて別にする気ないんじゃねぇのか」
その言葉に、ディーンは頭をふる。
「何年も世界中相手に戦っててそれは無いでしょう。それに魔王が黄金級機を四つも確保してるなら、ますますこの国が手に入れた設計図は大きな意味があります」
そう言った後、ディーンは何やら考えながら言葉を続けた。
「制作するためにはどうしても秘宝神蒼玉が必要になるので、そうそう作る事はできませんが……近隣諸国に協力を仰げば少しは話が変わりますね。それにより、諸国との連合を作る事さえできるかもしれません。スイデン国主導で……ね」
「結局、パワーゲームになるのか?」
少し顔をしかめるジン。
その肩でリリマナも両足をぶらぶらさせる。
「なんだかなァ。もうジン達が魔王軍の本拠地にバーッと攻め込んでドカンとやっつけちゃえ。そうしたら世界は次の魔王が出てくるまで平和になるよ」
「ええ……そんな事できないと思うけど……」
不安そうな、そしてあからさまに嫌そうなナイナイ。
ジンも軽く頷き同意する。
「相手は黄金級機が最低四機だからな。フル改造とはいえ青銅級機と白銀級機の真ん中な機体の俺ら三人じゃ、ちと厳しいだろうよ」
そんな話をしていると、また横から声がかけられた。
「ふむ。それについてはなんとかしようという動きがあるようじゃな」
これまた聞き覚えのある老人の声。
ふり向いたディーンの顔に、サッと緊張が走る。
「国王……」
スイデン国の王その人が、供もつけずにそこにいた。
「王さま! 黄金級機をジン達にくれるの?」
期待と興奮に顔を輝かせて身を乗り出すリリマナ。
ジンは思わず苦笑い。
(転移者が無礼なのはまぁまぁよくあるらしいが、地元人のお前がそんなんでいいのか……)
だが王の方は気にした様子も無い。
「もし造れるなら考えるがな。残念ながら目途は立っておらん」
「なァんだ……」
がっくり肩を落とすリリマナを見て、王はニヤリと笑った。
「ま、新型機製造の許可申請が出ておる事が、ワシの所にも聞こえておるでな。それもお前さんらの戦艦からじゃよ」
それ聞いて、ナイナイがジンを見る。
「知ってる?」
「俺は初耳だな……」
頭をふるジン。
「ワシも詳しい事は聞いておらんが、ま、許可を出すよう言っておいたからの。すぐにわかるじゃろ」
そう言いながらも王はどこか楽しそうだった。
(口ではそう言っても、多少は内容を知っているみたいだな)
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※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
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