異世界スペースNo1(ランクB)

マッサン

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11 雷甲 2

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 二日後、戦艦Cガストニアは荒野を進んでいた。
 追撃の許可はディーンが裏切った当日のうちに降りた。本来なら新型機の部品搬入もあわせ、数々の手続きや許可が要る筈だった。そしてそれには数日かかる。
 だが――

黄金級機ゴールドクラスが魔王軍に増えるような事になればこちらはお終いじゃろ。許可は全部ワシが出させておくから、可能な限り早く追撃しておくれ」
 王の鶴の一声で、全ての手続きが飛ばされたのだ。

 ただ実際に追いかけるには武装も物資も必要だ。
 当日出撃できたのは、Cガストニアだけだったのである。

 戦艦のブリッジは緊張に包まれていた。
 ジンはヴァルキュリナに訊く。
「ディーンの足取りは追えるのか?」
「ああ。今の所、こちらの探知魔法にかかっている。黄金級機ゴールドクラス設計図には城でこちらの探知対象になるよう、処理が施されていたからな」
 そうは言うが、ヴァルキュリナの声も顔も硬い。
 それを聞いてジンには気になる事ができた。
「俺ら三人の体も魔王軍の探知魔法にかかるんだよな。向こうにも追いかけている事がバレているわけか?」
「わからない。あれから探知阻害の魔法を施している。だが……発見と隠蔽、どちらが勝つかは魔法の威力次第だ。王城の魔術師達を信じるしかない」
 ヴァルキュリナからの、なんとも不安になる返答。
 とはいえジンにも、信じる以外の道が無いのは確かだ。

 ゴブオが後ろからジンに小声で話しかける。
「アニキ。ケイオス・ウォリアーができてからにしませんかい? それでこの国がやられちまうなら、それは仕方無かったという事っスよ」
「ちょっとォ! 本気なの!?」
 批難するリリマナ。
 だが……材料が揃い、壊れたBCカノンピルバグを元にするとはいえ、やはり巨大ロボットが簡単に組み立てられるわけもない。クロカ達整備班が徹夜で作業し、完成は間近だが、それでもまだ使えない。
 ナイナイとダインスケンの機体は一応動くようにはなっていた。だがハリボテに近いパーツがあちこちにあり、戦闘力がいくら残っているのかは怪しい状態だ。

 要するに戦える状況ではない。
 それを追いつくまでに戦闘可能に持って行こうという、無茶苦茶な作戦なのである。

 ゴブオの意見は、薄情ではあるがおかしくないとも言える。
 それでも怒られるゴブオを他所に、ナイナイはジンに訊いた。
「ジンはなぜこんな状況でも戦おうとするの? 本当にヴァルキュリナさんと結婚するため?」
 艦前方を見て二人に背を向けたまま、ピクリと反応するヴァルキュリナ。
「悪くはねぇが、そんなわけねぇな」
 笑いながら言うジン。
 小さく「そうか……」とヴァルキュリナが漏らしたが、それには気づかず、ナイナイはジンに訴える。
「その方が納得できるよ。そうじゃないと、何故なのかなって。僕達を気持ち悪いって言う人、やっぱり多いし……」

 先日の訓練場での揉め事を含め、今まで受けてきた扱いがナイナイには引っかかっていたのだ。

 それに対し、ジンは――
「ああ。嫌な野郎も多いし、それを助けようと思うほど人間ができちゃいないが……」
 そう言いつつも優しく微笑む。
「助けてやりたい人もいるからな。ナイナイの友達とかよ」
 ナイナイに会いに来た二人の少女の事だ。
 またそう言いながらも、ジンの頭には自分達に感謝していた少年騎士の姿もあった。
「その少しのためでいいんじゃねぇか。その他大勢はそのついで……たまたま助かる範囲にいて良かったな、という程度の話だ。嫌な野郎どものために助けたい人を見捨てるのも癪だしよ」
 冗談めかしてはいる。
 だが、紛れもない本音である。

 その事がナイナイにはわかった。
 造られた関係とはいえ、兄弟である。想いの共感もできるようになっている。


 その時、クルーの一人が叫んだ。
「敵の反応! ディーンの進行方向から、入れ違いでこちらへ……!」
「不味いな、迂回していては逃がしてしまう。艦だけで戦うしかないのか?」
 焦りながら迷うヴァルキュリナ。彼女は急いで格納庫へ通信を入れる。
「敵だ、出撃はできないか?」
『もう少しで新型は動く! それまで艦の戦闘はやめてくれ!』
 クロカが怒鳴るように答えた。
「それじゃどうしようもないじゃん!」
 宙で情けない声をあげるリリマナ。

「僕が行く。足止めしてくるよ」
 そう言ったのはナイナイだ。
「おい……」
 慌てて止めようとするジン。
 BCバイブグンザリはかろうじて動けるだけで、数分の一のパワーしか出ない。
 だがナイナイは必死な視線をジンに向けた。
「怖いよ。勝てないのもわかってる。けど……僕もこの世界に、大切な人がいるから」

 そして事実、誰かが捨て石になるしか打開策は無いだろう。
 それはジンにもわかった。

「きっと行く」
 だから、それしか言えなかった。
 そんなジンにナイナイは微笑む。
「うん、待ってる」
 そしてナイナイはブリッジを走り出た。

 ナイナイ機が艦から飛び出す姿が、すぐに見えた。
 その後ろにもう一機いるのも。
「ダインスケン!? 私は聞いていないぞ?」
 慌てて通信を入れるヴァルキュリナ。
『ゲッゲー』
 応えはいつもの、全く変わらぬ鳴き声だった。


 艦の戦闘MAPに敵影が映る。
 20を超える数の部隊。先頭にいるのは見覚えのある白銀級機シルバークラス
 マスターウインドの乗るSフェザーコカトリスだった。
「あいつが居るのか……!」
 強敵の存在に思わず歯軋りするジン。
 敵軍の機体が前回程度に強化改造されている事も容易に想像できた。今のナイナイとダインスケンには、それをどうにもできない事も……。

 そして暗雲の下、戦闘が始まった。


「うわ、うわぁ……!」
 リリマナが顔を覆う。
 艦のモニターには戦場が映っていた。ほとんど一方的である。
 ナイナイ機もダインスケン機もまともに出力が上がらない。動きも鈍いし、少しの被弾ですぐに装甲が剥がれる。そこに敵は容赦なく雨霰あめあられと攻撃を撃ち込んできた。
 敵の半数は重装甲砲撃機のBカノンピルバグであり、射程の長さと頑丈さが今の二人とは相性も悪い。
 それでも撃墜されず持ち堪えているのは、元がフル改造済みの機体である事、防戦を重視して立ち回っているが故だ。

 それでも限界はある。
 ナイナイ機の足が折れかけ、膝をつく。
 それでもナイナイは悲鳴一つあげなかった。押し殺した呻き声が小さく漏れはしたけれど。
 それをダインスケン機が庇い、片腕が吹き飛ぶ。

 ジンからただならぬ気配を感じ、ヴァルキュリナはそちらを見た。
 だがその形相を見て、一瞬で目を逸らし、慌ててモニターへ視線を戻す。
 ジンの右拳が固く握られ、震えていた。

 そしてブリッジに通信が入る。
『ジン! すぐに格納庫へ来い!』
 クロカだ。
 それ以上、誰が何を言うより前に、ジンはブリッジを飛び出した。
「ちょ、待ってェ!」
 リリマナが空を飛んでそれを追う。


 少し後、戦場にて。
 荒野を乾いた風が吹き抜ける。
 その中に倒れる二機の巨人――ナイナイとダインスケンの機体。動こうともがくが立つ事すらままならない。
 少し離れた所で見下ろしながら、マスターウインドは部下達にとどめを指示しようとしていた。
『完全に破壊するのだ。攻撃開――』

 だが言い終える前に、戦闘MAPに増援が映った。
 全速力で突撃してくる艦。見間違える筈も無いCガストニアである。

(来たか。だが二機を捨て駒にして時間を稼いだという事は……)
 何かがある。それをマスターウインドは察していた。
 果たして、艦が戦闘可能距離に入る直前、そこから飛び出す機体が一機……!

 見覚えの無い機体である。
 だがマスターウインドにはわかった。
 この状況で乗り込んでくるのはあの男しかいない。
『新型か。それを調整していたのだな。だが超個体戦闘員スーパーオーガニズムコンバタントの真価はあくまで同族との連携――』
 そこまで言った時、彼の予想通りの声で返事がきた。

鬼甲戦隊きこうせんたい……オーガリッシュアームドフォース。このジン=ライガ、今日よりその隊長をはらせてもらう。この白銀級機シルバークラス・Sサンダーカブトでな」

 黒雲の下、黒い素体を包む鎧が赤と銀に輝いていた。
 スマートながら屈強――以前のずんぐりした体型とはまるで違う。だが胸部と肩部の装甲は厚く、マッシブなフォルムを見せている。
 両手両足を守る装甲には、各3つずつの半透明な球体が並ぶ。その球体はへそにも、そして頭部にもあった。
 その頭部には大きな複眼と、球体が設置された大きな角があった。Y字型に割れた大きな角の形状を見れば、この機体がその名の通り、カブトムシをかたどって造られた事は明らかだった。



Sサンダーカブト
HP:10500/10500 EN:300/300 装甲:3100 運動:140 照準:210
EN回復(小)
格 アームドナックル        攻撃4200 射程P1―2
射 スウォームマイザー       攻撃4700 射程1―5
射 マキシマムサイクロン(MAP) 攻撃5000 射程1―4
射 ライトニングレイ        攻撃5500 射程1-7
格 サンダーアーム         攻撃5700 射程P1―2

EN回復(小):一定時間ごとにENが最大値の10%回復する。


「やっちゃえ、ジン!」
 操縦者の肩でリリマナが叫ぶ。
『やれ!』
 マスターウインドも部下に号令をかけた。
 途端に弾と矢の雨が新型機を襲う!
 そしてジンは――
「情けは無用、呼ばれちゃいないが只今参上!」
 死の雨の中へ真っすぐ機体を進めた。

 矢が勢いよく飛び、砲弾が爆発する。そのうち結構な数が当たっている。
 だがSサンダーカブトはその中を歩いていた。悠然と、余裕で。
『撃て! 撃つのだ!』
 マスターウインドの声が部下達の機体に飛ぶ。

(撃ってるじゃねぇか! こんなに撃ってるじゃねぇか!)
 魔王軍兵の一人、オークの戦士が胸の内で叫んだ。
 どれだけ弾を食らっても前進する相手に、それでも撃ち続けながら。
(なのにあいつは平気じゃねぇか!)

 モニターに表示されるダメージ値は10ばかり――ただ当たったというだけの表記。
 そこから兵士は目を逸らした。見たくなかった。信じたくなかった。

 弾の雨の中、サンダーカブトが何かを取り出した。
 筒が四連、縦に並んでいる。片手持ちのそれを少し離れたBソードアーミーへ向けた。
 次の瞬間、筒が火を吹いた!
 ソードアーミーは穴だらけになり、そして爆発する!

 スウォームマイザー……一種の散弾銃である。
 四つの銃口から放たれた散弾は面で敵を捉え、中距離で絶大な命中率を実現するのだ。

(こっちは一発じゃねぇか!)
 怖気に震えるオーク兵。
 その目に、反対側の腕を持ち上げるカブトが映る。
 腕に連なる三つの半球が輝いた。

 そして放たれる三条の電光!
 目も眩む輝きとともに隣にいたBカノンピルバグが射抜かれ、爆発する!
 重装甲の筈の砲撃機が、煙をあげる残骸に成り果て倒れた……。

 ライトニングレイ……古来より攻撃魔法の定番である雷撃を、全身に十四基搭載された発雷結晶エレクトロオーブにてスケールアップして放つ光線砲。
 両手両足に各三基ずつ装備され、三つの雷光が遠距離まで減衰する事無く目標を撃ち抜く。

(こんなのどうにもならないじゃねぇか!)
 絶望に沈むオーク兵の前で、それでもカブトに斬りかかる友軍機があった。
 その操縦者もヤケクソだったのかもしれない。
 だがカブトの反撃の拳により、強風に煽られた小枝同然に吹き飛ばされた。

 アームドナックル……格闘専用にナックルガードが搭載され、打撃時にスライド・拳へ装備される。

 離れても駄目、近づいても駄目。
 もはや思考は半ば停止し、オーク兵も、他の兵士も、利かぬ弾を闇雲に撃つだけだ。
 そんな物が通じる筈も無いというのに。

 当たった砲弾の爆発を物ともせず、カブトが構えを大きく開いた。
 腰溜めの両手の、やや開いた両足の、へその、そして角の――全十四基の発雷結晶エレクトロオーブがスパークする。
 操縦席でリリマナが叫んだ。
「マキシマムサイクロン!」

 オーク兵は雷光の滝が花開くのを見た。

 マキシマムサイクロン……MAP兵器。同時放射された十四本の電光は、カブトを中心とした周囲一帯を完全に焼き払う。

 最期に目を焼いた死の輝きの中、オーク兵は泣いていた。
(なんなんだよコイツはぁ……!)


 魔王軍兵士は全滅。機体は全て焦げた残骸と化した。
 その中をSサンダーカブトが歩く。
 迫る相手を前に、マスターウインドは感慨深く呟いた。
『お前を殺しておかなかったのは私のミスだ。だが、お前の可能性を考慮したのは間違いでは無かった。お前がこちらに来さえすればな……』
 ジンは応える。
 おごそかとさえ言える声で。
「褒めてくれた礼だ。逃げれば見逃す。俺達は急いでいるからよ」
 それに応えるマスターウインドは「フッ」と自嘲気味に笑っていた。
『私も尻に火がついていてな。ここでお前達を倒さねばならん』

 そして、Sフェザーコカトリスが翼を広げた!



マスターウインド レベル30
Sフェザーコカトリス
HP:22500/22500 EN:245/245 装甲:1970 運動:135 照準:185
格 ヘブンズソード    攻撃3500 射程P1―3
射 ブレイドフェザー   攻撃4000 射程2-7
射 ペトリフィケーション 攻撃4500 射程P1-6 機体能力全低下2



『私はこの世界で死ぬわけにはいかんのだ!』
 石化の呪力を秘めた竜巻、ペトリフィケーションがカブトを襲う。

 カブトは右腕を上げた。
 ナックルガードがスライドして拳を覆い、三連の発雷結晶エレクトロオーブがそこに電撃を流す。
 その拳を構え、ジンは敵へと打った!

 サンダーアーム……ジン本人の右腕の威力を、搭載した武装を組み合わせて再現した格闘戦用モード。加撃と共に流れ込む電撃のダブルインパクトが敵を焼き尽くす。

 最強部武器同士のぶつかり合い!
 フェザーコカトリスが吹き飛ばされた。胸部装甲には大きな亀裂が走り、大地に激しく叩きつけられる。
 サンダーカブトは――立っていた。全身傷ついてはいる。だがよろめきさえもせずに立っていた。

 マスターウインドはモニターを見た。
 受けたダメージは7700以上。だが与えたダメージは1500少々……!
 フェザーコカトリスのHPが元は20000を超えていても、勝ち目は見えない。

 攻撃を避ければ話は別だが、ジンはスピリットコマンド【ヒット】でこちらを捉えるだろう。
 それを続けるSPの余力はある筈だ。ジンは魔王軍兵士達を全滅させる際、一度もスピリットコマンドを使っていないのだから……。

 マスターウインドはフェザーコカトリスを飛ばした。相手の最強武器が格闘武器なら、飛ぶ事でそれから逃れられると踏んで。

 だが、カブトの背に翅が展開した。
 半透明の翅を広げ、空へと飛ぶ!
(飛行能力もあるのか……!)
 歯軋りするマスターウインド。

 実は飛べはするのだが、空の適応は高くない。移動の補助に使うための機能なのだ。
 だが上空にいる敵を捉えるには十分に役に立つ。

 天で再び激突する二機!
 そして、コカトリスはまたも落ちた。今度はギリギリで体勢を立て直すものの、着地して膝をつく。
 カブトも地に降りた。こちらは相手を追って、操縦者の意思で。

『次で……決まるか……』
 苦しい息を吐いて呟くマスターウインド。
 その結果は既にわかってはいたが。
「ああ。決めるからよ」
 ジンは応えた。
 三度、カブトの右腕が電撃を帯びる。

 コカトリスが最後の竜巻を放った。
 その中に飛び込み、カブト渾身のストレートが放たれた。
 風を蹴散らし、電光が貫く!

 竜巻が消えた。
 コカトリスは胸部を穿たれ、全身から火花をあげていた。
 カブトは敵の胸から拳を引き抜く。
 リリマナが叫んだ。
「いち・にい・さん!」
サンダーキック……!」
 機体と一体化し、ジンはとどめを放つ。
 足の発雷結晶エレクトロオーブが放電した。撥ねるように回る足。電撃を帯びた高角度の回し蹴りが炸裂する!
 それはコカトリスの頭部を捉え、薙ぎ倒し、地面で盛大な爆発を起こさせた。

 決着はついた。
 

 頭の無くなった機体から脱出装置で弾き出されたマスターウインドは荒野に転がる。
 彼は己に背を向けるSサンダーカブトを見た。
 手持ちの小型通信機で問いかける。
『とどめはどうした……?』

 カブトは仲間の二機を両の肩に担ぐ。
「お前には何度か見逃されたからな。俺は人間できてねぇからこの一度しか借りは返さねぇが」
 そう言い残し、ジンは艦へ向かい、戦場を去った。


「逃げれば見逃すって言ったのに、戦っても助けちゃうんだ?」
 ジンの肩でリリマナが茶化す。
 だがジンは涼しい顔だ。
「両立させても矛盾は無いからよ」
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