異世界スペースNo1(ランクB)

マッサン

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12 金星 1

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 敵の迎撃部隊を突破した、その翌日。
 ジン達は朝から格納庫を見に行った。

「とりあえず皆、生きてはいるようだな」
 ジンの前には格納庫一面に倒れている整備員達がいる。
 昨日とは各人の位置が違うので、起きて作業してまた倒れたのだろう。
 寝息やいびきが聞こえるので、死んでいない事は確かだ。それを良しとしていいのかどうかはともかくとして。

 ナイナイが困った顔で考えこむ。
「魔法で元気にしてあげたりできないのかな……?」
「回復魔法を使ってるからここまでできたんだよ」
 そう教えるリリマナ。
 魔法を使い過ぎて倒れた治療術師がニ、三人、混ざって倒れているし、三人の機体は修理が終わってハンガーに立っていた。
 自機の前でクレーンの操作盤にもたれて寝ているクロカを眺めながら、呟くジン。
「これで負けたらあの世で集団リンチされるな、俺は……」
 ダインスケンが「ゲッゲー」と鳴いた。

 機体が使える事を確認したジン達はブリッジに上がった。
 現場がどうなっているのか、それを確認するためだ。
 ブリッジには既にヴァルキュリナが入っており、ジン達を見るや、付近のMAPを宙に映す。
「設計図の動きが止まった。その手前に敵の部隊が展開している」
 それを聞いたナイナイの顔に緊張が走り、ゴブオは面倒臭そうにため息をつく。
 ジンは軽く肩をすくめた。
「あちらさんもやる気満々だな。地獄の一丁目に到着ってとこかい」


 格納庫に戻り、待機するジン達。
 待つ事しばし、ヴァルキュリナからの指示が出た。
鬼甲戦隊きこうせんたい、出撃!』
「了解。こちらジン、出るぞ!」
 母艦から真っ先に飛びだすジンの新型機・Sサンダーカブト。ナイナイとダインスケンの機体もそれに続いた。三機が母艦より僅かに前へ出て、敵軍と対峙する。
 敵は山間部の谷の前に、奥への道を阻む形で展開していた。量産機達を前に出し、後ろに控えている隊長機は――ディーンの乗る白銀級機シルバークラス、槍を持つ巨人騎士! 

「ディーン! 貴様が戦うのか?」
 訝しむジン。
 黄金級機ゴールドクラス設計図の反応は谷の奥からである。それを届け終え、もうディーンの手からは離れたという事だ。
(仕事を終えたあいつに、危険を冒して俺達と戦う理由があるとは思えないがよ……。敵と一緒にさっさと国外逃亡するならわかるんだが)

 だがジンの疑いなどお構いなく、ディーンは高揚した声を張り上げた。
『そう……今の私は魔王軍親衛隊最強の戦士、マスターディーン! 鬼甲戦隊きこうせんたい等と名乗ってここまで来たのがお前達の運の尽き! 次元を超えて異世界へ来たお前達が次に行くべきは、地獄の底だ!』

『なんだか様子がおかしくない?』
 ナイナイも違和感を覚えてジンに訊いてくる。
 ケイオス・ウォリアーにジン達を乗らせずに攻撃してきた、姑息で慎重な男だと思えない態度だ。
「妙な術でもかけられてるのかもな。裏切り者には似合いの末路かもしれねえが……」
 ジンの言葉にディーンは笑った。
『まるで私がここで終わるかのような物言いだな。だが私は昨日までの私ではないぞ。さあ、見ろ!』
 そう言うとディーンの機体に無数の亀裂が走り、装甲が砕ける。
「え? 壊れるの?」
 戸惑うリリマナ。
 だが通信機からクロカの声が響いた。
『ゲェーッ! 違う、あれはオーバーボディだ!』

 砕けた装甲の下から新たな装甲が現れた。
 それはまさに脱皮……鎧は同じ白銀だが、騎士の外観は消え去り、禍々しい蜘蛛の頭が八つの瞳を輝かせる。
 背中からも節くれだった二対四本の節足が現れる。
『これが! マスターディーンのケイオス・ウォリアー! Sマンベレスパイダー!』
 声高に名乗るディーン。

 だがジンはブリッジへ通信を入れた。
「クロカ! お前、寝不足のままブリッジに入ったのか」
『そうだけど、今それ別にいいだろ! 目の前の敵の変化に注目しろよ!』
 怒鳴るクロカ。
 一方、ディーンは「ククク……」と含み笑いを漏らす。
『いくら目を凝らしても私の恐ろしさは変わらない。お前達はまさに蜘蛛の網にかかった羽虫なのだ』
 そして魔王軍の兵士に号令をかけた。
『前進! 隊列は乱すな!』
 兵士達――その全ては不死型の骸骨兵・Bシックルスカルであった。

(全機が一種に統一されているだと? 奇妙だな……)
 不自然に感じ、前進してくる敵機にジンはスピリットコマンド【スカウト】を放ち、その能力を探る。



護衛兵 レベル30
Bシックルスカル
HP:5500/5500 EN:200/200 装甲:1380 運動:110 照準:169
HP回復(小)
射 ダガーショット 攻撃2800 射程1―4
格 デスサイズ   攻撃3100 射程P1

HP回復(小):一定時間ごとにHPが最大値の10%回復する。


(ウザい雑魚だが特に問題は……む?)
 敵機の能力を見て、大した相手ではない事にむしろ疑問を抱くジン。
 だが……敵兵士が「魔王軍兵」では事に気づいた。
 初めて見る敵兵士の名前に、ジンは急いでステータス画面を切り替える。



護衛兵 レベル30
格闘175 射撃175 技量205 防御155 回避115 命中133 SP97
援護防御1



「こいつら! 全員が援護防御を持ってやがるのか!」
 ジンは察した。
 なぜ敵が密集陣形をとり、全機が固まって動いて来るのかを。
『ククク……気づいたか。そう、再生能力のある機体が互いにカバーしあいながらお前達に迫る。そして私は、その後ろから貴様を好きに狙わせてもらう!』
 得意満面といったディーン。
 ジンは彼にも【スカウト】を放った。



ディーン レベル32
Sマンベレスパイダー
HP:23500/23500 EN:245/245 装甲:1970 運動:125 照準:180
射 クラレシュリケン     攻撃3000 射程1―7  装甲低下2
格 ヘルファイヤアチャクラム 攻撃3500 射程P1ー4 装甲低下1
射 クモベノムフンガムンガ  攻撃4500 射程1―8  運動性低下2

ディーン レベル32
格闘202 射撃186 技量216 防御161 回避126 命中146 SP100
ケイオス4 援護攻撃2 H&A



「最強武器しかいらんだろって武装かよ……」
 呆れるジンの前で、敵の白銀級機シルバークラスが四本の節足に武器を構える。
 三本の曲がった刃が突き出た、信じられないほど邪悪な見た目の投げ短剣だ。
(アフリカ投げナイフ!?)
 驚くジンに、ディーンは言う。
『一応、この最強武器が弾数で言えば79発で最少なのでね。真ん中が89、最弱が99とバランスもいい』
 話している間にも、敵軍はジン達へ遠慮なく間合いを詰めてきた。
『勝つのは私だ! 負けるのはそれ以外だ! この世界は私の手にあるのだ!』
 ディーンは高らかに笑っていた。

「やっぱり変になってるゥ……」
 君悪そうなリリマナ。
 ジンも考えていた。
(確かに変だ。ケイオスレベルが4だと? 異世界人かそのハーフでもないとまず3以上にはならない筈だろ。兄貴のケイドでも2だったと思うが……なぜディーンはあそこまで上がっている?)

 だが考え事をしている時間もない。
『ジン、来たよ……』
 ナイナイの緊張した声。
 ジンは落ち着いて言った。

「ま、とりあえずデストロイウェーブをブチ込め」
『あ、うん。発射』
 素直に範囲攻撃を撃ち込むナイナイ。高周波振動の結界が敵軍を包み込み、次々と爆発をひき起こした。
『いきなりMAP兵器だと!?』
 叫ぶディーン。
「開幕、即撃てるようにしてあるからな」
 高い気力の必要な武器ながら、グレートエースボーナスと気力系スキルにより必要条件を常に突破するようにした成果が発揮されたのだ。
 
 広範囲へ一気に浴びせるMAP兵器には、互いを庇い合う援護防御も効果が無い。
 穴の開いた敵陣形へ、ジン達は遠慮なく切り込んだ。
 AをBがカバーし、BをCがカバーし、CをDがカバーし……それを全機に行き渡らせる事で鉄壁を誇る、巨大なファランクス。だがそれも大穴を穿たれては、威力は半減……いや、それにも満たなくなる。
 ジンは穴へ右寄りに、他の二人と母艦は少し離れて左寄りに突入した。
 敵軍は集結して穴を塞ぐ事ができず、ジン達に割り込まれて分断された形になってしまう。

 もちろん、魔王軍とて飛び込んでこられてただ見ているだけではない。逆に見れば、ジン達は自ら包囲されに来たとも言えるのだ。
 骸骨巨人達は大鎌をふりあげ、敵を切り刻もうとした。

 だがそれもジン達の狙い目だったのだ。
 自ら挑みかかるその時、互いのカバーはどうしても甘くなる。

 Sサンダーカブトの装甲が鎌を弾き返した。
 お返しに撃ち込まれた雷撃光線ライトニングレイが一撃で骸骨の胴体を撃ち抜く。
 その向かいでは、BCクローリザードが鎌を避け、横一閃の斬撃で髑髏を斬り飛ばした。
 次々と破壊される骸骨巨人――殺到する魔王軍は火に誘われる蛾も同然だった。

 そんな乱戦の中、風を切って飛来する四つの刃!
『死ねぇ!』
 ディーンの機体が投げつけた三枚刃の奇怪な投げナイフ。それがナイナイのBCバイブグンザリを襲う!

 MAP兵器を持ち広範囲へ強力な攻撃を撃てるぶん、この機体は防御面が三機の中で一番弱い。
 サンダーカブトほどの装甲もクローリザードほどの運動性も無く、中途半端ゆえの脆さがあった。
 そしてディーンもそれを知っていた。弱い所から攻めるのは戦闘の常識である。

 だが――
『そうはさせない!』
 母艦Cガストニアが割り込み、その巨体で射線を塞いだ。
 流石の威力、四つのナイフが頑丈な装甲を切り裂いて食い込む。しかも刃に仕込まれた毒性の薬液が回路を冒し、機体の動きを目に見えて鈍くした。
 だがそれに構わず、ヴァルキュリナが叫ぶ。
『ディーン! これ以上、家の名を辱めるな!』
 だがディーンはせせら笑うだけだ。
『ならば代わりに貴女を辱めてやろう! 魔王軍の兵はそういうのが大好きな奴ばかりだ、丁度いい!』

 ゴブオがうんうん頷くのを他所に、ジンは敵を前にしながら叫ぶ。
「そりゃいかんな。ナイナイ! そっち側は頼む!」
『うん!』
 応えながら、ナイナイは次のアクションを起こしていた。

 Sサンダーカブトの全身にあるオーブが輝く。次の瞬間、発雷結晶エレクトロオーブ十四基から電撃の奔流が放たれ、周囲を焼いた。
 MAP兵器・マキシマムサイクロン! 半壊していた右側の敵部隊は全てが吹き飛ぶ。
 同時にBCバイブグンザリが二度目のデストロイウェーブを放った!
 残り僅かだった左側の部隊は、高周波振動の結界の中で残らず砕け散った。

 陣形と機体特性を用いて組まれた鉄壁の布陣は、風の前の塵のごとく吹き飛んで消えた。


「破廉恥な兵どもはいなくなったからよ。残るはお前さんだけだ」
 ただ一人残ったディーンへ、ジンは言い放つ。
 言われた相手は――
『ならば次はお前がいなくなれぇ!』
 猛り狂い、その機体が新たな投げナイフを取り出した。

「まだ戦うんだ……前のあの人なら、絶対逃げようとした筈なのに」
 首を傾げるリリマナ。
「まぁこのていたらくでどこへ逃げるのかって話でもあるがよ」
 そう言ってから、ジンは艦へ通信を送る。
「クロカ! アナライズ!」
『あいさ、やってやるよ!』
 声と力を振り絞り、クロカはスピリットコマンド【アナライズ】で敵の防御の弱い所を探し、そのデータをジン達の機体へ送る。

『トライシュートォ!』
 ナイナイが叫んで撃った。コンマ1秒未満の誤差で他の二人も射撃を浴びせる。
 それはSマンベレスパイダーの節足の付け根に食い込み、そのうちの一本を根本から砕く。
『が、あッ!』
 獣じみたディーンの叫び。しかし残り三本のナイフはナイナイ機へと投げられた。
 だがナイナイは機体の身を沈めさせ、それらを紙一重の所で避けると、地を蹴らせて一気に間合いを詰めた!

 射撃から流れるような動きで移動に繋ぐ――ナイナイもまた射撃とその後の移動を繋げるスキル【H&Aヒットアンドアサルト】を習得していたのだ。

 そのナイナイとともに、ジンも機体を加速・前進させる。
 サンダーカブトの右腕が電光を帯びた。まさしく稲妻の一撃と化し、スパークするストレートがマンベレスパイダーを貫く!
 サンダーアーム……サンダーカブト単機での最強攻撃。

 だがスパイダーはかろうじて立っていた。モニターに表示されるHPを20000以上失い、残り4000に満たないが、それでも立っていた。
 そして至近距離のカブトへ、三本の節足でナイフを投げる……いや、突き立てる。刃が装甲を破った。

 その刃を、カブトは左腕で払いのけた。
 装甲に食い込んでいた切っ先が抜け、ナイフが力無く地に落ちる。
 スパイダー必死の抵抗は……頑強なジンの機体に碌なダメージを与えていなかった。
 モニターに表示された数値は1200程度。強化パーツ込みで10500に達するHPには到底致命傷にならない打撃だったのだ。

『ケケェーッ!』
 叫び声が響いた。宙に飛んだダインスケンのBCクローリザードである。
 その刃が縦に炸裂し、弱ったスパイダーを深々と切り裂いた。

 直後、真正面からスパイダーを打ち抜く一撃!
 ナイナイのバイブグンザリがナックルガードに守られた拳で叩いたのである。
 よろめき無防備になったスパイダー……その操縦席でディーンは見た。
 クローリザードが着地するのと入れ違いにサンダーカブトが跳び、飛び込みながら放電する右拳を打ち込んでくるのを。
サンダー……マグナム!」
 操縦席で叫ぶジン。
 必殺拳はスパイダーの頭を叩き潰し、吹き飛ばした……!

 以前から使っていた連携・合体攻撃、トリプルウェーブ。
 それはジンが機体を新たにした事で、それに合わせて最適化されていた。
 超個体戦闘員スーパーオーガニズムコンバタントの三人にとって、一人の機体が変わった事に連携を合わせるのは簡単な事だったのである。

 弱りきった機体に最強の破壊力を受け、スパイダーの全身から火が噴き出る。
 炎に包まれた操縦席で、ディーンは……

 笑っていた。
『私は死なない! 決して!』
 そう叫びながら、高らかに。

 Sマンベレスパイダーは爆発した。
 脱出装置が動いた様子は全く無かった。ディーンが機体の外に出る事も無かった。


『ディーン……そんな道を選んだばかりに……』
 異様な最期を前に、ヴァルキュリナが辛そうに呟いた。

 戦いは終わった。
 資材回収班が急いで飛び出す中、リリマナがカブトの操縦席でモニターを見る。
「奥にまだ敵がいるよォ!」
「ああ。そっちが本命だろうぜ」
 ジンも確認した。
 山間の谷を奥に進んだ先に、敵の反応があるのを。
 ヴァルキュリナが指示を出す。
黄金級機ゴールドクラス設計図もそこから動いていない。鬼甲戦隊きこうせんたいはすぐに艦へ戻って修理と補給を受けてくれ。行こう!』
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