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12 金星 2
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山間の谷を奥へとCガストニアは進む。
切り立った崖が左右に聳える天然の通路……その途中でジン達は戦艦から出撃した。修理と補給は大至急で終えている。
艦の前を走るジン達の機体。その視界が大きく開けた。
奥には巨大な翼竜がいた。全身に金属板の装甲が張り付いた、やけに胴体の大きな翼竜が。地面に両の足を降ろし、翼を畳んで首をもたげている。
リリマナジンの肩で叫んだ。
「あれ、戦艦だよォ!」
「まぁ魔王軍だって持ってるだろ」
部隊ごと来ているのだから、それを運ぶ物があってもおかしくはない。そう考えるジンの前で、翼竜の腹部にあるハッチが開いた。
『奴では相手にならなかったか。そのせいで俺の相手をせねばらなんとは、お前達もまた不幸な奴だ』
ハッチの奥から通信が届く。
姿を現すのは、黄金の装甲を鎧にしたケイオス・ウォリアー……!
「あいつは……スクク基地を吹き飛ばした黄金級機の!」
そう言うジンの前に現れたのは、確かに魔王軍四天王の一人・ジェネラルアルタルフが駆る黄金級機、Gアビスキャンサー……!
「ディーンがおかしくなったのはお前のせいか?」
ジンはアルタルフに訊いた。
相手は「ククク……」と嘲るように笑う。
『裏切る奴を信用するのは馬鹿げているからな。そのための「措置」をとらせてもらった。暗黒大僧正が直々にくださった「薬」を注入したのだが……まぁやる気に満ち溢れて良かったではないか』
『やはり……奴らのせいか……!』
怒りの滲む声で呟くヴァルキュリナ。
だがアルタルフはそれを気にした様子も無かった。
『こちらに近づいてきたのは奴の勝手よ。あいつが倒れた今、俺自らがスイデン国を滅ぼしに行かねばな。お前達の命をその狼煙としよう』
黄金級機によって滅ぼされた国など、歴史上枚挙にいとまがない――それを思い出しながら、ジンはスピリットコマンド【スカウト】を放つ。
いつも通り、相手のステータスがジン機のモニターに表示された。
>
ジェネラルアルタルフ レベル33
Gアビスキャンサー
HP:40000/40000 EN:265/265 装甲:2370 運動:135 照準:200
HP回復(小) EN回復(小) オールキャンセラー
射 ヘルホール(MAP) 攻撃4300 射程1―6
格 ゴールドシザー 攻撃4800 射程P1-2
射 ヘルホール 攻撃5300 射程1-8
HP回復(小):一定時間ごとにHPが10%回復する。
EN回復(小):一定時間ごとにENが10%回復する。
オールキャンセラー:あらゆるバッドステータスを無効にする。
>
「HPが……40000!? 白銀級機が一万や二万なんだから次は三万じゃねぇのか? スジが通らねえ!」
一足飛びに上がったステータスを見て歯軋りするジン。
(なるほど、一国を滅ぼす事もできるわけだ。いくら掠り傷を負わせても再生し、ENは半無尽蔵……並の兵士が何百何千いてもこいつには絶対に勝てねぇ!)
「なによォ! 強い機体に頼って!」
リリマナも頬を膨らませた。
だがアルタルフはその言葉をせせら笑う。
「ならば俺のステータスも見てみたらどうだ」
自信に満ちた声に嫌な予感を覚えつつも、ジンは画面を切り替えた。
>
ジェネラルアルタルフ レベル33
格闘222 射撃222 技量239 防御174 回避132 命中152 SP116
ケイオス9 アタッカー 指揮官4
アタッカー:気力130以上で与ダメージ20%上昇。
>
「ケイオス9レベル!?」
目を疑うジン。
他世界から召喚された者が持つ次元の力、異界流。それを0~9までの十段階で表示したのが、モニターに映るスキル名とそのレベルだった筈だ。
目の前の敵は……召喚された戦士として、最高の素質を開花させている事になる。
モニターにアルタルフの顔が映った。これまではシルェツトに隠れ、声しかわからなかった男の顔が。
口髭をたくわえ、ターバンを巻いた浅黒い肌の中年男だ。鋭い眼光を放つ双眸は、余裕と侮蔑を籠めて笑っていた。
『黄金級機に乗る物はほぼ全て最高の異界流をもつ。この世に初めてケイオス・ウォリアーが誕生した遙か古代よりな。異界流の真髄を極めた戦士、それが黄金級機の聖勇士!』
初めて黄金級機を見た日の後、ジンはケイオス・ウォリアーの誕生について調べた。
艦にあった本をヴァルキュリナに借りて、休憩時間に。
源流を遡れば、鎧を強化する魔法から始まったそうだ。
「本来装備できない者が着る事のできる鎧」――魔法使いでも装備できる板金鎧、等――に行きつくという。
必要な筋力や体格、動作の阻害。それらを鎧側で補うよう付与魔術を進歩させるうち、小柄な着用者でも装備できる大きな魔法鎧も多々生まれた。
そして、技術とは組み合わされて進歩するもの。
そうした魔法鎧に、ある種のゴーレム……動く甲冑の作成術を組み込む者が現れた。
こうなると「着用」というより「中に入って鎧に戦わせる」という形になってくる。
そうすると、非人間型――獣や虫など――の形をしたゴーレムで同じ事をしてもいいのでは?と考える者も現れ、実際に造られもした。
そうしてこの世界・インタクセクシルに「操縦する兵器」が生まれた。
しかし一部の付与魔術師が造るだけで数は少なく、まだまだ強い人間の勇者がふるう魔剣で倒す事ができた。この時点では造るコストと強さが見合っているかは疑わしい物でしかなかったのだ。
それが、ある時代を境に一変した。
神域を強大過ぎる邪悪から救う時のために神が創り与えたもうた秘宝・神蒼玉。神の武具を召喚するための宝玉で、天の代行者に選ばれし七人の勇者が代々預かっていた宝玉。
それを動力源にした動く甲冑が造られたために。
強大なエネルギーを秘めた品を武具に組み込む事は、それ以前からよくあった。
だが長年の研究と実験の末に神域で造られた動く甲冑はケタ外れの威力を発揮した。
人間の十倍ほどの大きさで、中にいる者が半ば一体化して動かす事ができる。鎧に組み込んだ兵装を使い、剣技や魔法をそのまま数十~数百倍化して放つ事ができた。
人がその頭脳となり、巨大な魔神と化す事ができたのだ。
それこそがこの世界に誕生した、最初のケイオス・ウォリアーだった。
だがそれ一品で終わっていれば、歴史に刻まれた1ページでしかなかっただろう。
それ以前にも以後にも、途方もなく強力な秘宝はあるのだ。人の生死や天候・気候、時に天変地異まで起こすような神々の品が。
ケイオス・ウォリアーが違ったのは……そこから量産品が生まれてしまった事だ。
神蒼玉を用いて完成した、人が一体化する巨大魔神の体。
完成後にそれは神域をあげて研究された。同様のアイテムが7個あった事は、その研究や実験に大いに役立った。
当時は7体の人造巨神を造る事が目的であり、それは達成されたのだが――その過程で技術が体系化され、マニュアル化する事に成功した者が出た。さらに材料・素材も試行錯誤を繰り返された。
その結果、遥かに力の劣る紛い物を、神蒼玉を使わずに造る製法もできたのである。
結果的に、その紛い物こそが後の時代を大きく変えてしまった。
なにせ7体の巨神と違い、全てを人の手で製造する事が可能なのだ。神域を守るために協力していた近隣諸国もその紛い物たる人造巨人をいくつか造り、数を増やした。
そうすると対抗する勢力も真似をする。次の時代の魔王もその人造巨人を使い、巨大兵士の軍で人間達を襲った。
必要となれば入手するしかない。次の時代になる頃には、大概の国は人造巨人を多少の差はあれ配備するようになった。
その頃には紛い物などと言う者はいなくなっていた。
量産型のケイオス・ウォリアー……軍に必要不可欠な兵器として認められていたのである。
『より多くの者が扱える事を目指したのが量産型のケイオス・ウォリアー。だがこの黄金級機は違う。真の強者だけが操縦可能な、選ばれし者の機体なのだ!』
高らかに笑うアルタルフ。
『だ、だけど……僕ら三人なら。いくら強くてもあっちは一機じゃないか』
ナイナイが言う。必死に、訴えるように。
それは自分にそう言い聞かせているようでもあった。
だがそれを聞いて、またもアルタルフは笑った。
『フッ……この場の黄金級機は確かに俺一機だ。黄金級機はな』
そう言うや、ハッチの――格納庫の奥にいくつもの影が浮かび上がった。
奥から出てくるのは長方形の機体。以前ジンが乗っていたBカノンピルバグもずんぐりはしていたが、そいつらは人間というより箱に近い体だった。ヒレやぬめった体で巨大な魚人だとわかるが、おおよそ「人間型」ではない。
そいつらは深海型の機体……フグのケイオス・ウォリアーだった。
それらは黄金級機の前に出ると、横に並んで壁を作る。
「チッ……さすが大隊長サマだ。部下がいて当然かい」
言いながらもジンは【スカウト】で敵の能力を調べた。
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魔王軍兵 レベル30
Bポイズングローブ
HP:6500/6500 EN:200/200 装甲:1480 運動:105 照準:169
格 ポイズンバブル 攻撃3300 射程P1-4
射 トキシックストリーム(MAP) 攻撃3500 射程1-7
>
「や、野郎! MAP兵器機体ばっかりずらずら並べやがった!」
敵機の壁を見て顔を引きつらせるジン。
敵のMAP兵器は横幅こそ狭いが直線に真っすぐ伸びる範囲を持ち、それが横に並ぶ事で死角を無くしている。MAP兵器の範囲に入らず敵へ接近するのは不可能だ。
『獅子は兎を狩るのにも全力を尽くす。それは蟹が雑魚を食らう時も同じ事だ』
言いながらアルタルフは機体の指をくいくいと曲げてジン達を挑発する。来れるものなら来てみろ、と。
『ジン、これじゃ近づけないよ!』
泣き言を口にするナイナイ。
だがジンは……静かに、落ち着いて言った。
「いや……やり方次第だからよ」
ジンは味方に指示を飛ばす。
アルタルフは見た。
Sサンダーカブトを先頭に、遅れて他の機体と母艦がついて来るのを。
『なるほど、範囲攻撃の絨毯爆撃に対して単騎無双で突破する手に出たか。だが――浅はかな手だな』
Gアビスキャンサーの背中にある四本の節足。その先に黒い球体が生まれた。
その球が放たれ、サンダーカブトに炸裂する!
ヘルホール……超重圧で敵を圧殺する死界の穴!
>
射 ヘルホール 攻撃5300 射程1-8
消費EN10 条件:ケイオス7
>
部下と共に敵部隊へ範囲攻撃を放つべく後ろにいたアルタルフ。
だが敵が単騎ならば範囲を絞って強力な武器を撃つだけの事だ。
しかし……黒いエネルギーの渦が晴れた時。
そこにはカブトが立っていた。
装甲に亀裂が走り、欠けた所もある。
だが立っている。両腕を交差させ、防御に徹した体勢で。
『ぬ……』
アルタルフの声から、初めて笑いが消えた。
ジンが呟く。
「なるほど、スゲェ威力だ。大概の奴ならこの一撃で終わりだな」
カブトが前進を再開した。
「効いてないわけじゃない。やられたぜ、かなりな。だが……」
カブトが腕をもたげた。
「俺とコイツは、まだ立っている!」
並の攻撃を完全に弾く鉄壁の装甲を誇る、Sサンダーカブト。それが全力で守りにまわり、なお防ぎきる事はできなかった。
だがモニターに表示されたダメージは2000に満たず……到底致命傷ではない。
そしてカブトから放たれる電撃光線。それはポイズングローブを打ち貫く! 爆発を起こし、一機消し飛んだ。
グローブ達とて黙ってやられるわけもなく、揃ってカブトを撃つ。毒の泡が無数に放たれ、ジン機を包んだ。
だかカブトは装甲を焼こうとする毒液の中、怯む事なく反撃を撃つ。電撃が、散弾が、次々とグローブを撃ち、半壊させ、爆発させた!
『ええい!』
忌々しげに吐き捨て、アルタルフは再びヘルホールを撃った。
狙い過たずカブトを包む超重圧の球体群!
そして……
『こ、こいつ! 二度も受けて、まだ……』
カブトは立っていた。
「一度受けた技は二度通じない……とまで言えるほど無敵じゃねぇが。さっきより上手く受ける事ぐらいなら、俺でもなんとかなるからよ」
あちこちが損傷したカブトの操縦席て、しかしジンは笑っていた。
リリマナが肩で力強く頷く。
アルタルフは見た。
モニターに表示された、ジン機が被ったダメージの量を。
それが1500程度なのを。与えたダメージが減少しているのを。
(奴の底力が……奴の機体を堅固にしている!?)
だからといって、黄金級機最強の武器をこうも耐えるとは。
アルタルフの目の前で、再びジン機の反撃が炸裂する。並んだ魔王軍の機体へと。
『おのれ……ならば! 受けきってみせろぉ!』
アルタルフは怒鳴り、ヘルホールを撃った。魔王軍の親衛隊にも、これを三発耐えられる者などそうはいない筈だ。
超重力の球体がカブトを襲い、その全身を三度重力渦が覆い隠す!
そしてそれが晴れた時――やはり、カブトは立っていた。
『クッ! こいつ……どれほど耐える気だ?』
苛立つアルタルフ。
応えるジンの不敵な声。
「そろそろ終わりが見えてきたかな。邪魔者は消える頃だからよ」
一列に並んだポイズングローブの群れは、もういくらも残っていなかった。無傷の機大は皆無だ。
カブト一機の反撃でほとんど壊滅させられたのである。
『突撃! 打ち倒せ!』
ヴァルキュリナの指示で、戦艦が、ナイナイ機とダインスケン機が残りに撃ちかかった。それが決定打……MAP兵器の連列歩兵は、その真価を発揮する事無く全滅となった。
味方が突っ込むと同時に、カブトも走った。
『来るか!』
迎え撃とうと再び節足の先に重力球を生み出すキャンサー。
これまでのどの敵よりも強力な攻撃ながら、回復能力も用いてほぼ無尽蔵に撃つ事ができる。アルタルフはまだ自分の勝利を疑っていなかった。
だが……カブトはキャンサーに突っ込まず、横に逸れる。少しの距離をあけたまま、半円を描くように右手に回り込んだのだ。
正面には……ナイナイのBCバイブグンザリが。いや、それもやや斜めに、左側に逸れた。
アルタルフは閃く。
(そうか。こやつら……俺のMAP兵器で一網打尽にされるのを恐れ、分散して俺を包囲する戦法に出たな)
そう思いつき、彼はニヤリと笑った。
勝利を確信して。
(全員で組んでの援護陣形や合体技で勝利してきた奴らが、俺の得意手を恐れるあまり自らの得意手を放棄したか。実に……愚か!)
抑えきれずにアルタルフは笑った。
『己らの流儀を貫けん程度では! しょせん三下止まりというものよ!』
笑いながら、アビスキャンサーはヘルホールを放った。
狙うはカブト。
その頑強さはわかっていたが、既に何度もこの攻撃を受けているカブトのHPは残り半分。このまま撃ち続ければ倒せると踏んだのだ。
走りながら、カブトは重力球の渦から身を守った。装甲は傷つき、きしみ、あちこちから破片が舞い上がる。もはやこの機体に無傷のパーツなど無いかもしれない。
だが――それでもこの機体は走り続けた。
そして機体を捉える超重力! アルタルフのスキル【アタッカー】の効果で、その威力はさらに上がっていた。
しかし、それでも、黒い重力の魔力からカブトは走り出た。装甲片をまき散らしながら、それでも。
「ジン! HPが四割をきったよォ!」
モニターを見て悲鳴をあげるリリマナ。
だがジンは叫ぶ。
「最強の敵からこれだけ食らいまくってまだ四割もあるのか! この耐久度、惚れ惚れするな!」
それを聞いて笑うアルタルフ。
『死ぬまで、しておけぇ!』
キャンサーの節足がさらなる黒球を生み出す!
「するのは俺だが、死ぬのはどっちだろうな?」
ジンが言うや、カブトは足を止めた。
途端にアルタルフの全身を襲う倦怠感!
ジンとリリマナの放つスピリットコマンド【ウィークン】である。
『小細工を!』
吐き捨てるアルタルフ。
だが彼は見た。カブトの全身が……十四基の発雷結晶が発光するのを。
「マシキマム、サイクロン!」
リリマナの声とともに雷光の滝が花開いた。
黒球を放とうとしていたアビスキャンサーを幾条もの電撃が貫く!
『ぬ、お、おぅ!?』
衝撃に怯むアルタルフ。
その耳にナイナイの声が届いた。
『デストロイウェーブ! いくよ!』
体勢を整える暇もなく高周波振動の結界が黄金級機を包み、衝撃で揺さぶった。
広範囲を一気に蹂躙するMAP兵器に対し、反撃する事はまず不可能だ。
よってジン達は「反撃を受けない武器」として、単体の敵相手にMAP兵器を用いたのである。
(分散したのは……味方同士で攻撃に巻き込まないためか!)
亀裂の入る機体の中でアルタルフはそれに気づいた。
H&Aのスキルを用い、MAP兵器を撃った直後に駆け寄ってくるジン機とナイナイ機を見ながら。
そしてダインスケン機が宙を跳び、腕の刃を振り下ろすのを。
黄金の装甲が深々と切り裂かれた!
飛び散る火花と舞う破片。
『お、のれぇ!』
怒りに叫ぶアルタルフ。節足に充填されていた重力はクローリザードへ放たれた。
だが……リザードはそれを避けた。
重力球の隙間へ跳び込むように、それらを潜って。
スピリットコマンド【ヒット】と【フレア】の威力が発揮された時、ダインスケンは一方的に敵を切り刻むのだ。
一瞬で齎されたジン達の優勢。
だが戦いは常に流転する。ジン達は揃ってキャンサーの至近距離に潜り込んでいた。
アルタルフが大打撃を受けた機体の中で嗤う。
『調子に乗り過ぎたようだな。ここまで俺に肉薄した事は褒めてやるが……な!』
キャンサーの節足に重力球が生み出され……それらが放たれ、弾けあった!
>
射 ヘルホール(MAP) 攻撃4000 射程1-6・着弾点中心半径3
気力100 消費EN20 条件:ケイオス8
>
着弾点で拡散させ、周辺を粉々に破壊する空間圧搾攻撃。その高重力波がジン達三機を捉えた!
ナイナイの絹を裂くような悲鳴が響き、三機の装甲が砕ける!
その一方……キャンサーの装甲は、亀裂が徐々に埋まっていた。
自己修復能力により戦闘中でも損傷が直っていくのである。
「グッ……フフ、ステータス画面を見てればわかろう。このGアビスキャンサーには自己修復能力がある……黄金級機にとっては標準装備なのだからな!」
逆転により高揚するアルタルフ。
だが彼はすぐに気づいた。
ジン達三機は傷つきはすれど、今だ健在である事を。
バイブグンザイリとクローリザードは無傷だったが故に、大打撃は受けても一撃で倒されはしない。3000以上のダメージは受けたが、まだ限界の半分といった所だ。
そしてカブトは……表示ダメージ10。掠り傷でしかなかった。
ジンの能力が作用し、量産機を一撃で破壊する威力でももはや全く通じなくなっていたのである。
「クロカ! ヴァルキュリナ!」
『あいよ!』
『わかった! 行け、突撃せよ!』
叫ぶジンに二人の女性が応える。
クロカはスピリットコマンド【アナライズ】で敵の装甲の弱点を探し、ヴァルキュリナはそこを叩くべくCガストニアを突っ込ませた。
巨大な刃の駒と化した巨体がキャンサーに激突する!
『クッ……こんな事で、黄金級機は!』
叫びながらアルタルフは重力球を接触している戦艦へ叩きつけた。
高密度の重力に押しのけられ、戦艦の巨体が押し流され、大音響とともに地へ叩きつけられる。
『ケケェーッ!』
間髪入れず響く声。そして動く三つの機影。
ダインスケン機の刃が、ナイナイ機のナックルガードが、そしてジン機の電撃を帯びた鉄拳が、黄金級機に次々と叩きこまれた。
10000を超えるダメージ値が各機のモニターに表示される。
だが――
『耐えた!?』
驚くナイナイの前で、黄金級機は踏ん張り、持ち堪える。
しかし、キャンサーも限界の手前だった。
もう一度。もう一度同じ打撃を叩き込めば、キャンサーを倒す事もできるだろう。
だがそれより早く――アルタルフは叫んだ。
『ククク……やはり私の勝ちだ。死ねぇ!』
渾身の重力球が反撃で撃たれる。
ジン達が勝利へ手を伸ばす、その前に。
それで全ては灰塵と化していただろう。
それが当たった、その瞬間に。
だがそれは、またもやリザードの身のこなしですり抜けられ、敵機の遠い後方で大地を穿つ。
入れ替わるように、ジンが叫んだ。
「トリプルウェーブ!」
『うん!』
『ケケェーッ!』
「いっけェ!」
ジンの号令にナイナイとダインスケンが応え、リリマナが叫ぶ。
リザードの刃とグンザリのナックルがまたもキャンサーを打って――
跳ね除けた敗北、掴んだはずの勝利。だが流転の果てに、決定打は今アルタルフを襲った。
跳びこむカブトに、魔王軍の将軍は叫んでいた。
『なぜ! なぜ貴様らごときに! なぜ貴様らごときが!?』
ジンは機体と一体化し、全重量をかけて電撃の拳を放った。
「こちとら無敵のチートなんぞ無いからよ。追い詰められもするが……俺ら三人でやってりゃ、傷だらけの状況が続いても……」
拳がキャンサーを捉える。
「可能性は必ず! ゼロじゃない筈だからよ!」
激しい放電とともに黄金級機の頭が吹き飛んだ。
「電雷……インパクト!」
ジン達の前で。
頭を失った最強の機体が、火花をあちこちから吹きながら、大地に倒れた。
切り立った崖が左右に聳える天然の通路……その途中でジン達は戦艦から出撃した。修理と補給は大至急で終えている。
艦の前を走るジン達の機体。その視界が大きく開けた。
奥には巨大な翼竜がいた。全身に金属板の装甲が張り付いた、やけに胴体の大きな翼竜が。地面に両の足を降ろし、翼を畳んで首をもたげている。
リリマナジンの肩で叫んだ。
「あれ、戦艦だよォ!」
「まぁ魔王軍だって持ってるだろ」
部隊ごと来ているのだから、それを運ぶ物があってもおかしくはない。そう考えるジンの前で、翼竜の腹部にあるハッチが開いた。
『奴では相手にならなかったか。そのせいで俺の相手をせねばらなんとは、お前達もまた不幸な奴だ』
ハッチの奥から通信が届く。
姿を現すのは、黄金の装甲を鎧にしたケイオス・ウォリアー……!
「あいつは……スクク基地を吹き飛ばした黄金級機の!」
そう言うジンの前に現れたのは、確かに魔王軍四天王の一人・ジェネラルアルタルフが駆る黄金級機、Gアビスキャンサー……!
「ディーンがおかしくなったのはお前のせいか?」
ジンはアルタルフに訊いた。
相手は「ククク……」と嘲るように笑う。
『裏切る奴を信用するのは馬鹿げているからな。そのための「措置」をとらせてもらった。暗黒大僧正が直々にくださった「薬」を注入したのだが……まぁやる気に満ち溢れて良かったではないか』
『やはり……奴らのせいか……!』
怒りの滲む声で呟くヴァルキュリナ。
だがアルタルフはそれを気にした様子も無かった。
『こちらに近づいてきたのは奴の勝手よ。あいつが倒れた今、俺自らがスイデン国を滅ぼしに行かねばな。お前達の命をその狼煙としよう』
黄金級機によって滅ぼされた国など、歴史上枚挙にいとまがない――それを思い出しながら、ジンはスピリットコマンド【スカウト】を放つ。
いつも通り、相手のステータスがジン機のモニターに表示された。
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ジェネラルアルタルフ レベル33
Gアビスキャンサー
HP:40000/40000 EN:265/265 装甲:2370 運動:135 照準:200
HP回復(小) EN回復(小) オールキャンセラー
射 ヘルホール(MAP) 攻撃4300 射程1―6
格 ゴールドシザー 攻撃4800 射程P1-2
射 ヘルホール 攻撃5300 射程1-8
HP回復(小):一定時間ごとにHPが10%回復する。
EN回復(小):一定時間ごとにENが10%回復する。
オールキャンセラー:あらゆるバッドステータスを無効にする。
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「HPが……40000!? 白銀級機が一万や二万なんだから次は三万じゃねぇのか? スジが通らねえ!」
一足飛びに上がったステータスを見て歯軋りするジン。
(なるほど、一国を滅ぼす事もできるわけだ。いくら掠り傷を負わせても再生し、ENは半無尽蔵……並の兵士が何百何千いてもこいつには絶対に勝てねぇ!)
「なによォ! 強い機体に頼って!」
リリマナも頬を膨らませた。
だがアルタルフはその言葉をせせら笑う。
「ならば俺のステータスも見てみたらどうだ」
自信に満ちた声に嫌な予感を覚えつつも、ジンは画面を切り替えた。
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ジェネラルアルタルフ レベル33
格闘222 射撃222 技量239 防御174 回避132 命中152 SP116
ケイオス9 アタッカー 指揮官4
アタッカー:気力130以上で与ダメージ20%上昇。
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「ケイオス9レベル!?」
目を疑うジン。
他世界から召喚された者が持つ次元の力、異界流。それを0~9までの十段階で表示したのが、モニターに映るスキル名とそのレベルだった筈だ。
目の前の敵は……召喚された戦士として、最高の素質を開花させている事になる。
モニターにアルタルフの顔が映った。これまではシルェツトに隠れ、声しかわからなかった男の顔が。
口髭をたくわえ、ターバンを巻いた浅黒い肌の中年男だ。鋭い眼光を放つ双眸は、余裕と侮蔑を籠めて笑っていた。
『黄金級機に乗る物はほぼ全て最高の異界流をもつ。この世に初めてケイオス・ウォリアーが誕生した遙か古代よりな。異界流の真髄を極めた戦士、それが黄金級機の聖勇士!』
初めて黄金級機を見た日の後、ジンはケイオス・ウォリアーの誕生について調べた。
艦にあった本をヴァルキュリナに借りて、休憩時間に。
源流を遡れば、鎧を強化する魔法から始まったそうだ。
「本来装備できない者が着る事のできる鎧」――魔法使いでも装備できる板金鎧、等――に行きつくという。
必要な筋力や体格、動作の阻害。それらを鎧側で補うよう付与魔術を進歩させるうち、小柄な着用者でも装備できる大きな魔法鎧も多々生まれた。
そして、技術とは組み合わされて進歩するもの。
そうした魔法鎧に、ある種のゴーレム……動く甲冑の作成術を組み込む者が現れた。
こうなると「着用」というより「中に入って鎧に戦わせる」という形になってくる。
そうすると、非人間型――獣や虫など――の形をしたゴーレムで同じ事をしてもいいのでは?と考える者も現れ、実際に造られもした。
そうしてこの世界・インタクセクシルに「操縦する兵器」が生まれた。
しかし一部の付与魔術師が造るだけで数は少なく、まだまだ強い人間の勇者がふるう魔剣で倒す事ができた。この時点では造るコストと強さが見合っているかは疑わしい物でしかなかったのだ。
それが、ある時代を境に一変した。
神域を強大過ぎる邪悪から救う時のために神が創り与えたもうた秘宝・神蒼玉。神の武具を召喚するための宝玉で、天の代行者に選ばれし七人の勇者が代々預かっていた宝玉。
それを動力源にした動く甲冑が造られたために。
強大なエネルギーを秘めた品を武具に組み込む事は、それ以前からよくあった。
だが長年の研究と実験の末に神域で造られた動く甲冑はケタ外れの威力を発揮した。
人間の十倍ほどの大きさで、中にいる者が半ば一体化して動かす事ができる。鎧に組み込んだ兵装を使い、剣技や魔法をそのまま数十~数百倍化して放つ事ができた。
人がその頭脳となり、巨大な魔神と化す事ができたのだ。
それこそがこの世界に誕生した、最初のケイオス・ウォリアーだった。
だがそれ一品で終わっていれば、歴史に刻まれた1ページでしかなかっただろう。
それ以前にも以後にも、途方もなく強力な秘宝はあるのだ。人の生死や天候・気候、時に天変地異まで起こすような神々の品が。
ケイオス・ウォリアーが違ったのは……そこから量産品が生まれてしまった事だ。
神蒼玉を用いて完成した、人が一体化する巨大魔神の体。
完成後にそれは神域をあげて研究された。同様のアイテムが7個あった事は、その研究や実験に大いに役立った。
当時は7体の人造巨神を造る事が目的であり、それは達成されたのだが――その過程で技術が体系化され、マニュアル化する事に成功した者が出た。さらに材料・素材も試行錯誤を繰り返された。
その結果、遥かに力の劣る紛い物を、神蒼玉を使わずに造る製法もできたのである。
結果的に、その紛い物こそが後の時代を大きく変えてしまった。
なにせ7体の巨神と違い、全てを人の手で製造する事が可能なのだ。神域を守るために協力していた近隣諸国もその紛い物たる人造巨人をいくつか造り、数を増やした。
そうすると対抗する勢力も真似をする。次の時代の魔王もその人造巨人を使い、巨大兵士の軍で人間達を襲った。
必要となれば入手するしかない。次の時代になる頃には、大概の国は人造巨人を多少の差はあれ配備するようになった。
その頃には紛い物などと言う者はいなくなっていた。
量産型のケイオス・ウォリアー……軍に必要不可欠な兵器として認められていたのである。
『より多くの者が扱える事を目指したのが量産型のケイオス・ウォリアー。だがこの黄金級機は違う。真の強者だけが操縦可能な、選ばれし者の機体なのだ!』
高らかに笑うアルタルフ。
『だ、だけど……僕ら三人なら。いくら強くてもあっちは一機じゃないか』
ナイナイが言う。必死に、訴えるように。
それは自分にそう言い聞かせているようでもあった。
だがそれを聞いて、またもアルタルフは笑った。
『フッ……この場の黄金級機は確かに俺一機だ。黄金級機はな』
そう言うや、ハッチの――格納庫の奥にいくつもの影が浮かび上がった。
奥から出てくるのは長方形の機体。以前ジンが乗っていたBカノンピルバグもずんぐりはしていたが、そいつらは人間というより箱に近い体だった。ヒレやぬめった体で巨大な魚人だとわかるが、おおよそ「人間型」ではない。
そいつらは深海型の機体……フグのケイオス・ウォリアーだった。
それらは黄金級機の前に出ると、横に並んで壁を作る。
「チッ……さすが大隊長サマだ。部下がいて当然かい」
言いながらもジンは【スカウト】で敵の能力を調べた。
>
魔王軍兵 レベル30
Bポイズングローブ
HP:6500/6500 EN:200/200 装甲:1480 運動:105 照準:169
格 ポイズンバブル 攻撃3300 射程P1-4
射 トキシックストリーム(MAP) 攻撃3500 射程1-7
>
「や、野郎! MAP兵器機体ばっかりずらずら並べやがった!」
敵機の壁を見て顔を引きつらせるジン。
敵のMAP兵器は横幅こそ狭いが直線に真っすぐ伸びる範囲を持ち、それが横に並ぶ事で死角を無くしている。MAP兵器の範囲に入らず敵へ接近するのは不可能だ。
『獅子は兎を狩るのにも全力を尽くす。それは蟹が雑魚を食らう時も同じ事だ』
言いながらアルタルフは機体の指をくいくいと曲げてジン達を挑発する。来れるものなら来てみろ、と。
『ジン、これじゃ近づけないよ!』
泣き言を口にするナイナイ。
だがジンは……静かに、落ち着いて言った。
「いや……やり方次第だからよ」
ジンは味方に指示を飛ばす。
アルタルフは見た。
Sサンダーカブトを先頭に、遅れて他の機体と母艦がついて来るのを。
『なるほど、範囲攻撃の絨毯爆撃に対して単騎無双で突破する手に出たか。だが――浅はかな手だな』
Gアビスキャンサーの背中にある四本の節足。その先に黒い球体が生まれた。
その球が放たれ、サンダーカブトに炸裂する!
ヘルホール……超重圧で敵を圧殺する死界の穴!
>
射 ヘルホール 攻撃5300 射程1-8
消費EN10 条件:ケイオス7
>
部下と共に敵部隊へ範囲攻撃を放つべく後ろにいたアルタルフ。
だが敵が単騎ならば範囲を絞って強力な武器を撃つだけの事だ。
しかし……黒いエネルギーの渦が晴れた時。
そこにはカブトが立っていた。
装甲に亀裂が走り、欠けた所もある。
だが立っている。両腕を交差させ、防御に徹した体勢で。
『ぬ……』
アルタルフの声から、初めて笑いが消えた。
ジンが呟く。
「なるほど、スゲェ威力だ。大概の奴ならこの一撃で終わりだな」
カブトが前進を再開した。
「効いてないわけじゃない。やられたぜ、かなりな。だが……」
カブトが腕をもたげた。
「俺とコイツは、まだ立っている!」
並の攻撃を完全に弾く鉄壁の装甲を誇る、Sサンダーカブト。それが全力で守りにまわり、なお防ぎきる事はできなかった。
だがモニターに表示されたダメージは2000に満たず……到底致命傷ではない。
そしてカブトから放たれる電撃光線。それはポイズングローブを打ち貫く! 爆発を起こし、一機消し飛んだ。
グローブ達とて黙ってやられるわけもなく、揃ってカブトを撃つ。毒の泡が無数に放たれ、ジン機を包んだ。
だかカブトは装甲を焼こうとする毒液の中、怯む事なく反撃を撃つ。電撃が、散弾が、次々とグローブを撃ち、半壊させ、爆発させた!
『ええい!』
忌々しげに吐き捨て、アルタルフは再びヘルホールを撃った。
狙い過たずカブトを包む超重圧の球体群!
そして……
『こ、こいつ! 二度も受けて、まだ……』
カブトは立っていた。
「一度受けた技は二度通じない……とまで言えるほど無敵じゃねぇが。さっきより上手く受ける事ぐらいなら、俺でもなんとかなるからよ」
あちこちが損傷したカブトの操縦席て、しかしジンは笑っていた。
リリマナが肩で力強く頷く。
アルタルフは見た。
モニターに表示された、ジン機が被ったダメージの量を。
それが1500程度なのを。与えたダメージが減少しているのを。
(奴の底力が……奴の機体を堅固にしている!?)
だからといって、黄金級機最強の武器をこうも耐えるとは。
アルタルフの目の前で、再びジン機の反撃が炸裂する。並んだ魔王軍の機体へと。
『おのれ……ならば! 受けきってみせろぉ!』
アルタルフは怒鳴り、ヘルホールを撃った。魔王軍の親衛隊にも、これを三発耐えられる者などそうはいない筈だ。
超重力の球体がカブトを襲い、その全身を三度重力渦が覆い隠す!
そしてそれが晴れた時――やはり、カブトは立っていた。
『クッ! こいつ……どれほど耐える気だ?』
苛立つアルタルフ。
応えるジンの不敵な声。
「そろそろ終わりが見えてきたかな。邪魔者は消える頃だからよ」
一列に並んだポイズングローブの群れは、もういくらも残っていなかった。無傷の機大は皆無だ。
カブト一機の反撃でほとんど壊滅させられたのである。
『突撃! 打ち倒せ!』
ヴァルキュリナの指示で、戦艦が、ナイナイ機とダインスケン機が残りに撃ちかかった。それが決定打……MAP兵器の連列歩兵は、その真価を発揮する事無く全滅となった。
味方が突っ込むと同時に、カブトも走った。
『来るか!』
迎え撃とうと再び節足の先に重力球を生み出すキャンサー。
これまでのどの敵よりも強力な攻撃ながら、回復能力も用いてほぼ無尽蔵に撃つ事ができる。アルタルフはまだ自分の勝利を疑っていなかった。
だが……カブトはキャンサーに突っ込まず、横に逸れる。少しの距離をあけたまま、半円を描くように右手に回り込んだのだ。
正面には……ナイナイのBCバイブグンザリが。いや、それもやや斜めに、左側に逸れた。
アルタルフは閃く。
(そうか。こやつら……俺のMAP兵器で一網打尽にされるのを恐れ、分散して俺を包囲する戦法に出たな)
そう思いつき、彼はニヤリと笑った。
勝利を確信して。
(全員で組んでの援護陣形や合体技で勝利してきた奴らが、俺の得意手を恐れるあまり自らの得意手を放棄したか。実に……愚か!)
抑えきれずにアルタルフは笑った。
『己らの流儀を貫けん程度では! しょせん三下止まりというものよ!』
笑いながら、アビスキャンサーはヘルホールを放った。
狙うはカブト。
その頑強さはわかっていたが、既に何度もこの攻撃を受けているカブトのHPは残り半分。このまま撃ち続ければ倒せると踏んだのだ。
走りながら、カブトは重力球の渦から身を守った。装甲は傷つき、きしみ、あちこちから破片が舞い上がる。もはやこの機体に無傷のパーツなど無いかもしれない。
だが――それでもこの機体は走り続けた。
そして機体を捉える超重力! アルタルフのスキル【アタッカー】の効果で、その威力はさらに上がっていた。
しかし、それでも、黒い重力の魔力からカブトは走り出た。装甲片をまき散らしながら、それでも。
「ジン! HPが四割をきったよォ!」
モニターを見て悲鳴をあげるリリマナ。
だがジンは叫ぶ。
「最強の敵からこれだけ食らいまくってまだ四割もあるのか! この耐久度、惚れ惚れするな!」
それを聞いて笑うアルタルフ。
『死ぬまで、しておけぇ!』
キャンサーの節足がさらなる黒球を生み出す!
「するのは俺だが、死ぬのはどっちだろうな?」
ジンが言うや、カブトは足を止めた。
途端にアルタルフの全身を襲う倦怠感!
ジンとリリマナの放つスピリットコマンド【ウィークン】である。
『小細工を!』
吐き捨てるアルタルフ。
だが彼は見た。カブトの全身が……十四基の発雷結晶が発光するのを。
「マシキマム、サイクロン!」
リリマナの声とともに雷光の滝が花開いた。
黒球を放とうとしていたアビスキャンサーを幾条もの電撃が貫く!
『ぬ、お、おぅ!?』
衝撃に怯むアルタルフ。
その耳にナイナイの声が届いた。
『デストロイウェーブ! いくよ!』
体勢を整える暇もなく高周波振動の結界が黄金級機を包み、衝撃で揺さぶった。
広範囲を一気に蹂躙するMAP兵器に対し、反撃する事はまず不可能だ。
よってジン達は「反撃を受けない武器」として、単体の敵相手にMAP兵器を用いたのである。
(分散したのは……味方同士で攻撃に巻き込まないためか!)
亀裂の入る機体の中でアルタルフはそれに気づいた。
H&Aのスキルを用い、MAP兵器を撃った直後に駆け寄ってくるジン機とナイナイ機を見ながら。
そしてダインスケン機が宙を跳び、腕の刃を振り下ろすのを。
黄金の装甲が深々と切り裂かれた!
飛び散る火花と舞う破片。
『お、のれぇ!』
怒りに叫ぶアルタルフ。節足に充填されていた重力はクローリザードへ放たれた。
だが……リザードはそれを避けた。
重力球の隙間へ跳び込むように、それらを潜って。
スピリットコマンド【ヒット】と【フレア】の威力が発揮された時、ダインスケンは一方的に敵を切り刻むのだ。
一瞬で齎されたジン達の優勢。
だが戦いは常に流転する。ジン達は揃ってキャンサーの至近距離に潜り込んでいた。
アルタルフが大打撃を受けた機体の中で嗤う。
『調子に乗り過ぎたようだな。ここまで俺に肉薄した事は褒めてやるが……な!』
キャンサーの節足に重力球が生み出され……それらが放たれ、弾けあった!
>
射 ヘルホール(MAP) 攻撃4000 射程1-6・着弾点中心半径3
気力100 消費EN20 条件:ケイオス8
>
着弾点で拡散させ、周辺を粉々に破壊する空間圧搾攻撃。その高重力波がジン達三機を捉えた!
ナイナイの絹を裂くような悲鳴が響き、三機の装甲が砕ける!
その一方……キャンサーの装甲は、亀裂が徐々に埋まっていた。
自己修復能力により戦闘中でも損傷が直っていくのである。
「グッ……フフ、ステータス画面を見てればわかろう。このGアビスキャンサーには自己修復能力がある……黄金級機にとっては標準装備なのだからな!」
逆転により高揚するアルタルフ。
だが彼はすぐに気づいた。
ジン達三機は傷つきはすれど、今だ健在である事を。
バイブグンザイリとクローリザードは無傷だったが故に、大打撃は受けても一撃で倒されはしない。3000以上のダメージは受けたが、まだ限界の半分といった所だ。
そしてカブトは……表示ダメージ10。掠り傷でしかなかった。
ジンの能力が作用し、量産機を一撃で破壊する威力でももはや全く通じなくなっていたのである。
「クロカ! ヴァルキュリナ!」
『あいよ!』
『わかった! 行け、突撃せよ!』
叫ぶジンに二人の女性が応える。
クロカはスピリットコマンド【アナライズ】で敵の装甲の弱点を探し、ヴァルキュリナはそこを叩くべくCガストニアを突っ込ませた。
巨大な刃の駒と化した巨体がキャンサーに激突する!
『クッ……こんな事で、黄金級機は!』
叫びながらアルタルフは重力球を接触している戦艦へ叩きつけた。
高密度の重力に押しのけられ、戦艦の巨体が押し流され、大音響とともに地へ叩きつけられる。
『ケケェーッ!』
間髪入れず響く声。そして動く三つの機影。
ダインスケン機の刃が、ナイナイ機のナックルガードが、そしてジン機の電撃を帯びた鉄拳が、黄金級機に次々と叩きこまれた。
10000を超えるダメージ値が各機のモニターに表示される。
だが――
『耐えた!?』
驚くナイナイの前で、黄金級機は踏ん張り、持ち堪える。
しかし、キャンサーも限界の手前だった。
もう一度。もう一度同じ打撃を叩き込めば、キャンサーを倒す事もできるだろう。
だがそれより早く――アルタルフは叫んだ。
『ククク……やはり私の勝ちだ。死ねぇ!』
渾身の重力球が反撃で撃たれる。
ジン達が勝利へ手を伸ばす、その前に。
それで全ては灰塵と化していただろう。
それが当たった、その瞬間に。
だがそれは、またもやリザードの身のこなしですり抜けられ、敵機の遠い後方で大地を穿つ。
入れ替わるように、ジンが叫んだ。
「トリプルウェーブ!」
『うん!』
『ケケェーッ!』
「いっけェ!」
ジンの号令にナイナイとダインスケンが応え、リリマナが叫ぶ。
リザードの刃とグンザリのナックルがまたもキャンサーを打って――
跳ね除けた敗北、掴んだはずの勝利。だが流転の果てに、決定打は今アルタルフを襲った。
跳びこむカブトに、魔王軍の将軍は叫んでいた。
『なぜ! なぜ貴様らごときに! なぜ貴様らごときが!?』
ジンは機体と一体化し、全重量をかけて電撃の拳を放った。
「こちとら無敵のチートなんぞ無いからよ。追い詰められもするが……俺ら三人でやってりゃ、傷だらけの状況が続いても……」
拳がキャンサーを捉える。
「可能性は必ず! ゼロじゃない筈だからよ!」
激しい放電とともに黄金級機の頭が吹き飛んだ。
「電雷……インパクト!」
ジン達の前で。
頭を失った最強の機体が、火花をあちこちから吹きながら、大地に倒れた。
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