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1章

5 特産品 2

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――村の側の山中――


「あっち」
 ガイの肩で指さすイム。
「イムには何かの感知能力があるみたいね」
 ミオンはガイの後ろから身を乗り出して感心していた。
「おかげで随分と助かってきたなぁ」
 出会ってからの事を思い出しつつ、ガイはしみじみと呟く。


 今、三人はケイオス・ウォリアーに乗って移動していた。
 魔王軍から鹵獲した機体、ガイが急造でこしらえたガラクタ同然の機体。その全ての修理が終わっていたのだ。
 今乗っているのは鎧を着た狼男のような犬頭の機体。移動力に優れるBダガーハウンドである。


 身軽に傾斜を登りながら、操縦席でガイはふと呟いた。
「そういや難民があんなにいたんだから、いくさで娘が行方不明になった貴族家に心当たりがないか訊けば良かったな。ミオンの故郷に見当がついたかもしれないのに」
 するとミオンがまたも後ろから身を乗り出す。
「それなら何人かに訊いてみたわよ?」
「あ、そうなんだ」
(流石、抜け目がないな)
 ガイは感心したが、ミオンは軽く溜息一つ。
「でもダメね。ケイト帝国全土が戦火にみまわれたせいで、そんな話、あちこちにあるみたい」
「うーん‥‥」
 悩むガイ。

 大陸でも最大の三国の一つケイト帝国。その領域も広大であり、あちこちにある等と言われては手がかりにならない。
 ミオンの生家がどこか、未だ見当もつかなかった。

「まだ当分は夫婦のままね?」
 そう言ってガイの顔を覗き込むミオン。悪戯っぽい笑顔がとても近い。
「お、おう」
 すぐ側の大きな瞳と女性の香りに動揺するガイ。

 そのせいで運転から意識が逸れた。
 段差のある所でつまずいてしまう。

 バランスを崩すも転倒はしなかったが、操縦席は揺れた。
「きゃっ!」
「おわっ! ご、ごめん」
 悲鳴をあげつつ前に倒れ込むミオン。謝りながらガイは彼女を受け止める。
 己の膝の上で上下逆になりかけたミオンを抱え、引っ張り上げながら姿勢を戻してやろうとし、ミオンもまたガイに掴まって体を起こそうとして――

――ミオンを膝に乗せ、ガイは彼女と互いに腕を回して抱き合うような恰好になった。

 動揺して固まるガイ。
 動顛して固まるミオン。
 抱き合い、間近で見つめあったまま、二人の時間は止まっていた。

「あっちだよ?」
 動かない二人にミオンが頭上で声をかけた。
 途端、二人は大慌ててで離れた。
 ミオンは座席の後ろに回り込んで座り、ガイに声をかける。
「私こそごめんなさい。ケイオス・ウォリアーに乗った事はあまり無いみたいね。大人しくしているわ」

 その声にはまだ動揺が残っており、俯いた顔は平静を失って紅潮していたが。

「う、うん」
 か細い声で応えるガイも、頬を染めてやけに速い心臓の鼓動を抑えようとしていた。


――数時間後――


 イムの案内先では、相変わらず良質な合成素材を見つける事ができた。
 村で養殖や栽培ができないかと、いくつかは箱や袋に入れて機体に積み込んだ。
 途中で昼を過ぎたので、機体を歩かせながらも昼食をとる。
 弁当はミオンが作った握り飯だ。

「美味しい?」
 笑顔で覗き込むミオン。調子はいつも通りに戻っている――ように見えて、先刻よりもちゃんと身を乗り出すのを控えめにし、ガイとの距離もあけてはいるが。
 ガイは大真面目に頷く。
「もう俺より上手だよ」
 くすりと笑ってミオンは座席の後ろに戻る。
 ガイの視界から外れた所で、ほっとした顔で胸に手を当てた。

 そうして握り飯を頬張りながら進むうち、イムの案内先に柑橘類の木が群生しているのが見つかった。


蜜柑みかん? ゆずかな?」
 呟きながらガイは危険が無いか周囲を窺った。
 獣や魔物の類はいなさそうなので、三人は機体を降りる。

 柑橘類の強い香りに誘われ、ガイは実を一つ齧ってみた。
 しかし顔をしかめる。
「酸っぱいし苦いなぁ。蜜柑みかんの方が美味しい」

 一方、ミオンは実を見つめながら小首を傾げた。
「これは‥‥もしかしてジャバラかしら?」
「知ってるんだ?」
 驚くガイの前で、ミオンは実を一つ手に取る。
「ええ。とても珍しい植物で、外国の一地方でしか見つかっていない‥‥筈よ」
「へえ。広いケイト帝国にも無いのか」
(そんな物を知っているなんて‥‥実家は広く貿易でもやっていたのか?)
 ガイがミオンの氏素性について考えている間にも、彼女は記憶を掘り起こしていた。
「このまま食べるには適さないけど、汁の風味は豊かだから飲料や食酢になるわ」

 
 ガイは考え、腰の鞄から片メガネを取り出す。鑑定用の消費アイテムを。
 それで実を調べ――

「もしかしてジャバラって『邪払』なのか?」
「ええ、そうだけど。よくわかったわね」
 ガイの疑問にミオンは驚いた。
 ガイはしばし実を手の中で転がす。
「これ、村で栽培したら特産品にならないかな」
「それはいいわね。珍しい物で知らない人も多いし、加工すれば美味しいから向いているかも」
 ミオンは笑顔で賛成した。
 その頭上でイムは笑顔で頷いていた。

 三人はジャバラを積み込み、村に持って帰る事にした。

 その頃――村に近づく一団がある事を、この時はまだ知らないまま。
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