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1章
8 山中の死闘 1
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――スティーナがガイに弟子入りし、数日が経った――
昼前にガイ宅にやってきたスティーナは、テーブルの上に風呂敷包みを広げる。
「師匠。宿題をやってきました」
「へえ、よくできてるじゃないか」
珠紋石を手に取りながら鑑定するガイ。
「お褒めに与かり恐悦至極」
頭を下げるスティーナに、ガイは上機嫌で告げた。
「では免許皆伝。明日から珠紋石も全部任せるから」
「師匠!? それはないでしょう!」
一転、スティーナは仰天して食ってかかってきた。
その傍らで【骸骨の杖】――にあるシロウの頭蓋骨――ががちがちと歯を鳴らして笑った。
シロウに生活を覗かれたくないので、ガイはこの杖を弟子にプレゼントしてやったのである。
そんなガイは困惑して頭を掻いた。
「え? なんで? 4レベル以上の珠紋石は高価であんまり売れないぜ。今のスティーナでも3レベル以下なら問題なく作れるし、十分なんじゃ‥‥」
「師匠!? 私は技術を勉強するために弟子入りしたのであって、低級品を道具屋に売る事自体は目的ではありませんよ?」
必死なスティーナ。
どうも師弟間で認識の違いがあったようだ。
スティーナの意思は初対面で説明された筈だが、数日の間にすっかり忘れていたらしい。
そこへミオンが顔を出す。
「もう、ガイったら。可愛いお弟子さんには優しくしてあげないとダメよ?」
「いや、悪気は無いんだけどさ‥‥」
あったら問題だが、ともかくガイはバツが悪そうだった。
その様子にスティーナは安心し、ミオンに笑顔を向ける。
「流石は奥様。師匠も頭が上がらないんですね」
ミオンも「うふふ」と楽しそうにほほ笑む。
「コツは頭ごなしに怒るんじゃなくて、めっ!ていう感じで叱って、その後は優しくしてあげる事かな?」
スティーナはきらきらと目を輝かせて身を乗り出す。
「優しくですか! 具体的にはどんな事をどんな風に? ワンちゃん系の旦那を甘々しつける展開は大好物ですので、そっちに沿っていただければ嬉しく思います!」
「何を学びに来てるんだよオマエさんは!」
ガイがそう叫んだが、正確には覚えていなかった彼に言う資格がどれほど有るかは微妙な所だ。
だからというわけではないだろうが、ミオンはガイの後ろに回り込んだ。
テーブルを前に椅子に座るガイは当然ミオンより低い位置にいる。そんなガイに後ろから覆いかぶさるように、ミオンは手を回して抱き着いた。
「ではこれからオシオキしちゃおうかな? ナニをしようかなー」
「!、!、!‥‥」
声にならない声をあげ、わたわたと慌てふためくガイ。
なお力で振りほどいたりは決してしない。
そんな二人を前に、ミオンは椅子から降りてテーブルから目より上だけを出して覗き見るかのような姿勢。期待をこめて呟いた。
「がんばれ、がんばれ」
だが好事魔多し。
家の戸を勢いよく開け、村長のコエトールが太った体に汗をかきつつ飛び込んできたではないか。
「ガイ殿! 相談があるのですが!」
溜息をつくミオン。
大きな溜息をつくスティーナ。
一瞬顔を顰めてから一転、極めて平静な顔で応対するガイ。
「納品なら今日はもう済ませたぜ」
しかし村長は首を横に振った。
「いえ、素材の方で」
首を傾げるガイ。
「何か足りないのか?」
「ちょっと違いますが、概ねそうです。このまま販売を続けていくなら、生産を拡大する必要があるかと。つまり‥‥畑を広げたいのですよ」
なぜこのタイミングなのかを除けば、村長の言う事はいずれ解決しなければならない問題だった。
――村近くの山中――
農夫のタゴサック主導で難民と敗残兵が集められていた。そこへガイとスティーナも連れて来られる。
「村に作った畑の隣でも耕すのかと思ったけど‥‥なんでこんな山中に?」
戸惑うガイに、タゴサックはぎょろりと目を向けた。
「無論、領主やその犬どもに見つからん場所を考えるのですじゃ」
仰天するガイ。
「畑を広げるって、隠し田畑の事かよ!」
「その通り。お上の畜生どもがうろつかんように考えながら作らないといけませぬ」
そう言うタゴサックの目は敵意と殺意を伴って、山上から荒野の向こうを見据えていた。おそらく領主がその向こうにいるのだろう。
スティーナの側で【骸骨の杖】――の先端にあるシロウの頭蓋骨――ががちがちと歯を鳴らして笑った。
(なんだか余計な注文もついてきている気がしてならないんだが‥‥)
ガイは納得し難い物を感じていたが、まぁ農民には彼らなりの悩みがあるのだ。
昼前にガイ宅にやってきたスティーナは、テーブルの上に風呂敷包みを広げる。
「師匠。宿題をやってきました」
「へえ、よくできてるじゃないか」
珠紋石を手に取りながら鑑定するガイ。
「お褒めに与かり恐悦至極」
頭を下げるスティーナに、ガイは上機嫌で告げた。
「では免許皆伝。明日から珠紋石も全部任せるから」
「師匠!? それはないでしょう!」
一転、スティーナは仰天して食ってかかってきた。
その傍らで【骸骨の杖】――にあるシロウの頭蓋骨――ががちがちと歯を鳴らして笑った。
シロウに生活を覗かれたくないので、ガイはこの杖を弟子にプレゼントしてやったのである。
そんなガイは困惑して頭を掻いた。
「え? なんで? 4レベル以上の珠紋石は高価であんまり売れないぜ。今のスティーナでも3レベル以下なら問題なく作れるし、十分なんじゃ‥‥」
「師匠!? 私は技術を勉強するために弟子入りしたのであって、低級品を道具屋に売る事自体は目的ではありませんよ?」
必死なスティーナ。
どうも師弟間で認識の違いがあったようだ。
スティーナの意思は初対面で説明された筈だが、数日の間にすっかり忘れていたらしい。
そこへミオンが顔を出す。
「もう、ガイったら。可愛いお弟子さんには優しくしてあげないとダメよ?」
「いや、悪気は無いんだけどさ‥‥」
あったら問題だが、ともかくガイはバツが悪そうだった。
その様子にスティーナは安心し、ミオンに笑顔を向ける。
「流石は奥様。師匠も頭が上がらないんですね」
ミオンも「うふふ」と楽しそうにほほ笑む。
「コツは頭ごなしに怒るんじゃなくて、めっ!ていう感じで叱って、その後は優しくしてあげる事かな?」
スティーナはきらきらと目を輝かせて身を乗り出す。
「優しくですか! 具体的にはどんな事をどんな風に? ワンちゃん系の旦那を甘々しつける展開は大好物ですので、そっちに沿っていただければ嬉しく思います!」
「何を学びに来てるんだよオマエさんは!」
ガイがそう叫んだが、正確には覚えていなかった彼に言う資格がどれほど有るかは微妙な所だ。
だからというわけではないだろうが、ミオンはガイの後ろに回り込んだ。
テーブルを前に椅子に座るガイは当然ミオンより低い位置にいる。そんなガイに後ろから覆いかぶさるように、ミオンは手を回して抱き着いた。
「ではこれからオシオキしちゃおうかな? ナニをしようかなー」
「!、!、!‥‥」
声にならない声をあげ、わたわたと慌てふためくガイ。
なお力で振りほどいたりは決してしない。
そんな二人を前に、ミオンは椅子から降りてテーブルから目より上だけを出して覗き見るかのような姿勢。期待をこめて呟いた。
「がんばれ、がんばれ」
だが好事魔多し。
家の戸を勢いよく開け、村長のコエトールが太った体に汗をかきつつ飛び込んできたではないか。
「ガイ殿! 相談があるのですが!」
溜息をつくミオン。
大きな溜息をつくスティーナ。
一瞬顔を顰めてから一転、極めて平静な顔で応対するガイ。
「納品なら今日はもう済ませたぜ」
しかし村長は首を横に振った。
「いえ、素材の方で」
首を傾げるガイ。
「何か足りないのか?」
「ちょっと違いますが、概ねそうです。このまま販売を続けていくなら、生産を拡大する必要があるかと。つまり‥‥畑を広げたいのですよ」
なぜこのタイミングなのかを除けば、村長の言う事はいずれ解決しなければならない問題だった。
――村近くの山中――
農夫のタゴサック主導で難民と敗残兵が集められていた。そこへガイとスティーナも連れて来られる。
「村に作った畑の隣でも耕すのかと思ったけど‥‥なんでこんな山中に?」
戸惑うガイに、タゴサックはぎょろりと目を向けた。
「無論、領主やその犬どもに見つからん場所を考えるのですじゃ」
仰天するガイ。
「畑を広げるって、隠し田畑の事かよ!」
「その通り。お上の畜生どもがうろつかんように考えながら作らないといけませぬ」
そう言うタゴサックの目は敵意と殺意を伴って、山上から荒野の向こうを見据えていた。おそらく領主がその向こうにいるのだろう。
スティーナの側で【骸骨の杖】――の先端にあるシロウの頭蓋骨――ががちがちと歯を鳴らして笑った。
(なんだか余計な注文もついてきている気がしてならないんだが‥‥)
ガイは納得し難い物を感じていたが、まぁ農民には彼らなりの悩みがあるのだ。
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