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1章
11 過去を訪ねて 5
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――ケイオス・ウォリアーの運搬機・改造ゾウムシの操縦席――
ガイ達は帰路についていた。村を旅立ってから二週間以上になるが、それはあちこち寄り道したからであり、真っすぐ帰るなら明後日には到着するだろう。
人里離れた荒野の街道を行く運搬機。
その助手席で、ミオンは憂い顔で「ふう……」と溜息をついた。
それを聞きつけてガイは呟く。
「振り出しに戻っちまったな」
そう言いながら、ガイに沈んだ様子は全く無い。
むしろ明るく心軽く……といった調子だ。
しかしミオンは窓枠に頬杖をついて外を眺めていた。
「むしろ後退よね。名前では私の身元がわからない事がはっきりしたわ。顔を知っている人を探さないと、本当はどこの誰かわからないのよ」
しかしガイは事も無げに――
「ま、いいじゃないか」
「ちょっとぉ……」
ミオンはむくれ、横目でガイを睨む。
しかしガイは上機嫌で言葉を続けた。
「セイカ家のミオンさんの持ち物が落ちていたのは、同じ場所で働いていたって事だろ。なら宮女だった事はほぼ確実。顔を知っている人を探すなら都へ上京すればいいって事だ。次の目的地がはっきりしたんだから、後退はしてないさ」
「あ……!」
言われてミオンの表情が一変する。
空振りの衝撃で彼女はそこまで考えが及んでいなかった。
皇帝は生死不明だが、皇族は全滅したわけではない。その娘は一人残っている。皇帝一族が残ってる以上、以前の関係者もまだ残っているだろう。
ミオンが本当はどこの誰なのか、知る者がいる可能性は高い。
とはいえケイト帝国内は混乱の極みにあり、今すぐ急行するには危ない。
行くにしても一旦帰宅して準備を整えてからの話だ。
それらに気付き、ミオンの表情に明るさが戻ってきた。
しかし「む……」と眉を顰める。
「でも、お金は無くなっちゃったわね。貴族かどうかもわからないし、ガイに何も出せなくなったわ」
しかしガイは事もそれにも無げに――
「ま、いいじゃないか」
「それも何か案があるの?」
ミオンが訊くと、ガイは軽く笑って頷く。
「案ていうか、希望的観測か。宮女になれるなら貴族か名家だろ。むしろそれが保証されたようなもんだ」
元々、実家を見つけて送り届けた時の報酬に期待しての仕事……だった筈である。
そう考えると状況は別に悪化などしていないのだ。
だがしかし。
その顔から陰は薄れたものの、ミオンは小首を傾げる。
「本名もわからないから、これから何と名乗ればいいのかしら」
ガイはやっぱり笑っていた。
「ミオンでいいじゃないか」
「それは別の人の名前よ?」
ミオンがそう言っても、ガイは前方を見て運転しながら「ヘッ」と笑う。
「同名の人ぐらいいくらでもいるさ。ここ最近、セイカ家のミオンさんだと思いこんでいたけど。これからは俺ん家のミオンてだけのこと」
ガイにとってはミオンこそミオンなのだ。
さて、そう言われたミオン……いやミオンは。
「!?」
驚き、目を見張り、ガイから目を逸らして窓の外へ顔を向けた。
そして躊躇いがちに、ちょっと小さめの声で訊いてくる。
「俺のミオン……て言った?」
意表をつかれて慌てふためくガイ。
「ちょ、いやいや、俺ん家のミオン! 俺の家の、だよ」
「あ、なんだ」
そう言ってガイへ振り返った時、彼女はくすくすと悪戯っぽく笑う、いつものミオンに戻っていた。
「つまり……まだ一緒に暮らすわけね?」
微笑みながら、期待を瞳に籠めて。ミオンはガイにそう訊く。
本当の意味で質問なのかどうか、それは別の話だが。
そしてガイは……
「いや、だって、他にないだろ」
ちょっとぶっきらぼうに、ちょっとつっけんどんに。
ミオンが予想した通りの答えを返してきた。
にんまりと微笑んでから、ミオンは芝居がかった考えるふりをした。
「思えば姉弟設定でも良かったかな?」
ガイは「む……」と唸り、考えてから言う。
「それだとミオンに言い寄る男がいたら追い払えないだろ」
上機嫌な笑みを浮かべ、ミオンは芝居がかった考えるふりを続けた。
「いっそ本当の事を言っちゃうのもアリかな?」
ガイは「む……」と唸り、考えてから言う。
「それじゃ身元を知ってるふりした詐欺師が利用しようとするかもしれないぜ」
「これからも夫婦という事にしようと、ガイは思っているわけね?」
微笑みながら、期待を瞳に籠めて。ミオンはガイにそう訊く。
本当の意味で質問なのかどうか、それは別の話だが。
そしてガイは……
「まぁ、その……色々考えたらそうかな、と」
ミオンは笑った。
口元に手の甲をあてて隠しながら、くすくすと、とても楽しそうに、嬉しそうに。ガイを横目で見つめて。
「なんだよ」
口調こそちょっと拗ねたようではあるが、ガイに気分を悪くしたような様子はちっとも無かった。
「別に? 早く帰りましょう」
「ああ、帰ろう」
機嫌よく促すミオンに機嫌良く応え、ガイは運搬機の速度をあげる。
その肩でイムが「えへへ」と嬉しそうに笑っていた。
ガイ達は帰路についていた。村を旅立ってから二週間以上になるが、それはあちこち寄り道したからであり、真っすぐ帰るなら明後日には到着するだろう。
人里離れた荒野の街道を行く運搬機。
その助手席で、ミオンは憂い顔で「ふう……」と溜息をついた。
それを聞きつけてガイは呟く。
「振り出しに戻っちまったな」
そう言いながら、ガイに沈んだ様子は全く無い。
むしろ明るく心軽く……といった調子だ。
しかしミオンは窓枠に頬杖をついて外を眺めていた。
「むしろ後退よね。名前では私の身元がわからない事がはっきりしたわ。顔を知っている人を探さないと、本当はどこの誰かわからないのよ」
しかしガイは事も無げに――
「ま、いいじゃないか」
「ちょっとぉ……」
ミオンはむくれ、横目でガイを睨む。
しかしガイは上機嫌で言葉を続けた。
「セイカ家のミオンさんの持ち物が落ちていたのは、同じ場所で働いていたって事だろ。なら宮女だった事はほぼ確実。顔を知っている人を探すなら都へ上京すればいいって事だ。次の目的地がはっきりしたんだから、後退はしてないさ」
「あ……!」
言われてミオンの表情が一変する。
空振りの衝撃で彼女はそこまで考えが及んでいなかった。
皇帝は生死不明だが、皇族は全滅したわけではない。その娘は一人残っている。皇帝一族が残ってる以上、以前の関係者もまだ残っているだろう。
ミオンが本当はどこの誰なのか、知る者がいる可能性は高い。
とはいえケイト帝国内は混乱の極みにあり、今すぐ急行するには危ない。
行くにしても一旦帰宅して準備を整えてからの話だ。
それらに気付き、ミオンの表情に明るさが戻ってきた。
しかし「む……」と眉を顰める。
「でも、お金は無くなっちゃったわね。貴族かどうかもわからないし、ガイに何も出せなくなったわ」
しかしガイは事もそれにも無げに――
「ま、いいじゃないか」
「それも何か案があるの?」
ミオンが訊くと、ガイは軽く笑って頷く。
「案ていうか、希望的観測か。宮女になれるなら貴族か名家だろ。むしろそれが保証されたようなもんだ」
元々、実家を見つけて送り届けた時の報酬に期待しての仕事……だった筈である。
そう考えると状況は別に悪化などしていないのだ。
だがしかし。
その顔から陰は薄れたものの、ミオンは小首を傾げる。
「本名もわからないから、これから何と名乗ればいいのかしら」
ガイはやっぱり笑っていた。
「ミオンでいいじゃないか」
「それは別の人の名前よ?」
ミオンがそう言っても、ガイは前方を見て運転しながら「ヘッ」と笑う。
「同名の人ぐらいいくらでもいるさ。ここ最近、セイカ家のミオンさんだと思いこんでいたけど。これからは俺ん家のミオンてだけのこと」
ガイにとってはミオンこそミオンなのだ。
さて、そう言われたミオン……いやミオンは。
「!?」
驚き、目を見張り、ガイから目を逸らして窓の外へ顔を向けた。
そして躊躇いがちに、ちょっと小さめの声で訊いてくる。
「俺のミオン……て言った?」
意表をつかれて慌てふためくガイ。
「ちょ、いやいや、俺ん家のミオン! 俺の家の、だよ」
「あ、なんだ」
そう言ってガイへ振り返った時、彼女はくすくすと悪戯っぽく笑う、いつものミオンに戻っていた。
「つまり……まだ一緒に暮らすわけね?」
微笑みながら、期待を瞳に籠めて。ミオンはガイにそう訊く。
本当の意味で質問なのかどうか、それは別の話だが。
そしてガイは……
「いや、だって、他にないだろ」
ちょっとぶっきらぼうに、ちょっとつっけんどんに。
ミオンが予想した通りの答えを返してきた。
にんまりと微笑んでから、ミオンは芝居がかった考えるふりをした。
「思えば姉弟設定でも良かったかな?」
ガイは「む……」と唸り、考えてから言う。
「それだとミオンに言い寄る男がいたら追い払えないだろ」
上機嫌な笑みを浮かべ、ミオンは芝居がかった考えるふりを続けた。
「いっそ本当の事を言っちゃうのもアリかな?」
ガイは「む……」と唸り、考えてから言う。
「それじゃ身元を知ってるふりした詐欺師が利用しようとするかもしれないぜ」
「これからも夫婦という事にしようと、ガイは思っているわけね?」
微笑みながら、期待を瞳に籠めて。ミオンはガイにそう訊く。
本当の意味で質問なのかどうか、それは別の話だが。
そしてガイは……
「まぁ、その……色々考えたらそうかな、と」
ミオンは笑った。
口元に手の甲をあてて隠しながら、くすくすと、とても楽しそうに、嬉しそうに。ガイを横目で見つめて。
「なんだよ」
口調こそちょっと拗ねたようではあるが、ガイに気分を悪くしたような様子はちっとも無かった。
「別に? 早く帰りましょう」
「ああ、帰ろう」
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