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1章

13 チマラハ攻略戦 4

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 赤い鎧で全身を覆った戦士、魔王軍親衛隊の一人・マスターボウガス。
 新たに現れたその男に、太った副隊長が泣いて訴えた。
「あ、あんたにここの全権を譲る! 今譲った! さあ、こいつらを倒してくれ」

「え? そんな適当でいいのか」
 驚くガイ。
 マスターボウガスも顔を覆うマスクの下で小さく溜息をつく。
「全くだ。成り行きでこれだけの相手と戦わされては‥‥」
 そう言って彼はガイ達一行を見渡す。
 が‥‥
「!」
 その視線が止まり、彼は息を飲んだ。

 ガイの後ろにいるミオンを見て。

 そして、彼は剣を抜いた。
「‥‥やってみるか」

(ミオンを見て態度を変えた? まさか身元を知っているのか?)
 相手の態度をガイは不審に思う。
 だが何を言うよりも先に、タリンが大声をあげた。
「ようし、魔王軍親衛隊の首はもらった!」
 そして全力で突撃し、斬りかかる!

 身構えるマスターボウガス。
 戦闘態勢をとる敵に満ちる力をガイは感じとった。
(こいつの異界流ケイオスは‥‥今までの敵でも最強か!?)

 だがその時にはタリンが技を放っていた。警告も制止も間に合わない。
「必殺剣・アサルトタイガーー!!」
 大上段に振りかぶった剣が、虎のごときオーラを放つ!

 だがしかし。
 身構え睨みつける敵の前で「ぐっ?」と呻き、タリンの動きが止まった。
 直後、胸板に敵の剣戟が打ちこまれる!
 タリンは吹き飛び、床に転がった。切り裂かれた胸部装甲が転がり落ち、大量の出血が服を赤く染める。
 一撃で彼は動かなくなった。

「お主らはいかんのか?」
 タゴサックがタリンのパーティメンバーに訊いたが――

「うす」
 頷くウスラ。
「無理よねコレ」
 敵の実力を前に諦めるララ。
「無理無理! こっち治すので手一杯だから! こんな重傷、もう一人いたら助けられないから!」
 リリはタリンに必死で回復魔法を唱えながら泣きそうな声で叫んだ。


 マスターボウガスが前進する。その進行先には‥‥ミオン。
 ガイは聖剣を握り、その前に立ちはだかった。

 だがしかし。
 その間に鍛冶屋のイアンが割って入った。
 ガイに背を向け、振り向きもせず敵を睨みつける。
「奴の手の内を探りまする」
 そう言うと「技術点12」と書かれた鉢巻を締め直し、巨大なメイスを構えると、雄叫びをあげて敵へ打ちかかった!

 マスターボウガスは再び身構え、イアンを睨みつける。
 イアンの動きが止まった‥‥ように見えた。
 だがそれも一瞬。何かを振りほどくように身を捩り、再びイアンは突撃する!

 するとボウガスに変化が起きた。
 彼の影から小さな黒いがいくつも飛び出し、剣に吸い込まれたのだ。
 剣に赤黒いオーラが生じる。それをボウガスは振るった。

 激突!
 メイスと剣での一撃‥‥吹き飛んだのはイアンの巨体だった。
 壁にめり込み、イアンは「ぐぬう‥‥」と唸ると動かなくなる。
 鎧が裂け、深い傷を負っていたが――


「お爺ちゃん!」
 悲鳴をあげるスティーナ。
 その横でガイは敵の得体の知れない力に戦慄する。
(なんだ今のは?)

 ボウガスが再び歩き出した。
 やはりミオンに向かって。


 今度こそ、ガイはボウガスの前に立ち塞がった。
(魔法戦士? 武器に魔力を籠めて戦うタイプなのか。しかし何の魔法を使ったのかわからない。呪文を唱えたようにも見えなかった)
 正直、恐ろしくはある。
 だが打つ手を一つ思いついてはいた。
(試しに、やってみるか)

 腰の小鞄から珠紋石じゅもんせきを取り出すガイ。
 出した結晶は二つ‥‥どちらも防御の魔法を籠めた物である。
 それを聖剣の窪みに次々とセット。
 聖剣が呪文を読み込む。
『マジックスクリーン。アーマープレート』


【マジックスクリーン】魔領域4レベルの防御呪文。呪文全般への抵抗力を上げる。
【アーマープレート】地領域4レベルの防御呪文。防具の強度を上昇させる。


 ガイは敵へと走った。
「抗魔鉄壁・一文字斬りぃ!」
 金色と茶色、ガイの全身を二種の輝きが淡く包む。

 ボウガスが兜の奥からガイを睨んだ。
 途端にガイの全身を痺れが駆け巡る。
(タリンを止めたのは、これか!)
 しかしガイはその痺れをあっさり振り切った。
 魔力への抵抗を強化する【カウンターマジック】の力に助けられて。

 ガイが止まらぬと見て、敵は再び影から飛び出すを剣に籠め、斬りつけてくる。
 木刀と剣が互いへと打ち込まれ――

 互いに後ろへ吹き飛んだ!


 なんとか転倒せず踏みとどまるガイ。
 革鎧を切り裂き、脇腹をざっくり斬られている。傷は肉にまで及んでいるのに、やはり血はでなかった。
(なんだ? 血が‥‥吸われた?)
 そう感じるガイ。剣がどうやって血を吸ったのかはわからないが。

 だが傷は徐々に塞がっていく。聖剣の持つ【自動回復ヒーリング能力】で。
 それに深手でもなかった。【アーマープレート】の呪文がダメージを軽減するからだ。

 魔力への抵抗力と物理的な防御力。その二つを、ガイは詳細不明の敵の能力への対抗措置として上昇させていたのである。

 一方、ガイの一撃を受けたボウガスは‥‥
「この傷は‥‥?」
 砕かれた上腕の装甲と、煙をあげる打ち身を見て戸惑っていた。
 木刀が金属鎧を砕いた事をまず驚いているのだろう。
 そして焼けたような煙が打たれた痣から上がっているのを見て驚いているのだろうが‥‥なぜそんな事が起きているのか、ガイにもわからない。
 だが普通より大きな痛手になっている事はなんとなく察した。


「やはり場当たりな戦いはいかんな。軍一つを潰すほどの者達だ‥‥こちらも相応の準備をするため出直すとしよう」
 ボウガスは――一睨みすると――じりじりと退く。
「覚悟しておくがいい」
 距離をあけた所で、身を翻した。

「待て!」
 慌ててガイは制止をかける。
(こんな奴に態勢を整えられたらまずい!)
 敵の力の底知れなさに焦るガイ。
 多少無理をしてでもここで倒すべきだと、直感が訴えていた。


 だがしかし。
「待てというのはこちらのセリフだ」
 別の通路から現れてガイ達の前に立ち塞がる者が一人。
 見覚えのあるその姿は――

「マスターキメラ!?」
 驚くガイの前に、戦闘形態バトルフォーム獣人ワーキマイラが立っている。
 ガイを睨んで彼女は吠えた。
「地獄の底から帰ってきたぞ!」
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