フェアリー・フェロウ~追い出されたフーテン野郎だが、拾い物でまぁなんとか上手くいく~

マッサン

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2章

18 死亡‥‥! 4

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 激しく咳き込みながらイムが上空に飛んで煙から逃れる。
 その下でガイは――
「ぐっ……」
 くぐもった呻きとともに倒れていた。

 ミオンはハンカチで鼻と口を抑え、必死に煙を仰いでガイへと近づく。屋外という事もあり、辿り着く頃には煙はほとんど散っていた。
 倒れて動かないガイへ、ミオンは必死に呼びかける。
「ガイ!? どうしたの?……あ!」

 ミオンは見た。
 ガイの首に、細く鋭い針が撃ち込まれているのを。

「そこか!」
 突然レレンが叫び、炎の拳を離れた茂みへ撃つ。
 炎で茂みが散る中、その爆発から近くの樹上へと跳ぶ影があった。
「貴様は影針えいしん!」

「お久しぶりだな、マスターキメラ」
 枝の上に立つ黒装束の男は、かつて魔王軍親衛隊だった暗殺者。
 ギリリと奥歯を噛むレレン。
「貴様はカサカ村にいる筈では……」
「そういう事にしていたな。ガイの不意をうつために」
 静かに答える影針えいしんを見てレレンは察した。
「グーズが妙なアイテムを使って自爆したのは、お前の差し金か……!」

 元副隊長が最後に取り出した毒薬の煙玉。それを渡しておいたのも、追い詰められたら使うよう指示していたのも……いよいよ取り出された時に手裏剣を投げて即座に破裂させたのも。
 全てこの男だったのだ。

「ガイのみならジュエラドンでおそらく始末できると踏んだが、念のためにな。実際それが役立った」
 肯定する影針えいしん
「おのれ!」
 レレンは激怒した。握り締めた拳が怒りに震える。この暗殺者の非道に……そして己自身に。
(あまりに迂闊だった……!)
 レレンは悔やんだ。事ここに至って気付いたのだ。

 自分は泳がされていた。あえて見逃されていたのだ。
 重傷でガイ達と合流する。そこへ元副隊長達が現れ、村で非道が行われていると煽り、大きな戦力をぶつける。
 ガイは逃げる事なく戦って突破する事を選ぶ。そこで怪獣どもに倒されるならよし、勝利しても疲労した所に次の罠を用いる。
 敵の策の布石の一つが、レレンの逃亡だったのだ。

 怒りと後悔に震えるレレン。影針えいしんはその後ろ……ミオンに目を向ける。
「さて、お嬢さん。あんたが毒煙に巻き込まれなかった場合、できれば連れて来いと言われている。素直に同行してくれればケガをさせずに済むのだが」
 キッと暗殺者を睨むミオン。
「私に何の用で、どこへ行くのかしら?」
「用事は知らんが、マスターボウガスに頼まれている。どうせカサカ村へ戻るのだろう? あいつも今あそこにいる。丁度良いではないか」

 しかしレレンが怒鳴った。
「そこまで何もかも思い通りに行かせるか!」
「面倒な事だ」
 溜息をつく影針えいしん


 暗殺者の両手に針のような棒手裏剣が握られた。
 素早く二つの凶器が投擲される――が、レレンは身を捻ってそれを避けつつ、炎の拳を放った。
「ブレイズボルトーー!!」
 ほとばしる熱線。
 それは影針えいしんを撃ち抜く!

 燃える人影が地に崩れ落ちた……と見えるや、だがしかし、そこには焦げた黒布があるだけだった。

 そしてレレンの肩に棒手裏剣が刺さる!
「ぐあっ!」
「俺とてこの程度はやれる。拾った命を失うとは馬鹿な女よ」
 悲鳴をあげるレレンを嘲る影針えいしんは、先程とは別の樹上にいた。右手は鋼線を操り、それは外れた筈の手裏剣を操ってレレンの肩を死角から襲ったのだ。

 だがレレンは苦痛に顔を歪めながらも拳を燃え上がらせる。
「ブレイズプラズマー!!」
 叫びとともに辺りを縦横無尽に走る熱線の群れが覆いつくした。
「!」
 影針えいしんは声もあげられず炎に飲まれ、樹上から落ちた。

 だが宙で体勢を戻すと器用に着地する。
 しかしその体が明らかによろめいた。卓越した体術で直撃を避けたものの、無傷で済ます事はできなかったのだ。
「魔獣の獣人だけはあるな。まぁいい。できれば程度の話……ここは退いてやろう」
 そう言うと左手を動かし、第二の鋼線を操る。

 まるで生き物のように戻ってくる、もう一本の手裏剣。
 それはガイの聖剣に食い込み、影針えいしんの手元へと運んできていた。
 影針えいしんはガイの聖剣を……鋼線をたぐって奪ったその武器を手に呟く。
「何の力も感じない。ガイの手にある時のみ力を発揮するのか」
 そして、懐から油瓶を出して木刀に流し、躊躇ためらう事なく火をつけた!

 仰天するレレンへ燃える木刀が投げつけられる。
 慌ててそれを避けるも、地面に刺さった燃える木刀にレレンは駆け寄った。
 しかしどうやって消火しようか考えあぐねている間に……木刀は燃えて崩れ落ちた。

 次に顔をあげた時、影針えいしんの姿は既に無かった。


 一方、ミオンは。
 ガイの側に膝をつき、彼の鞄を必死に漁っていた。 
「これね!?」
 取り出したのは解毒剤。この世界では一般的な、ほとんどの毒素に有効な魔法薬。
 ガイの頭を抱え、首に刺さっている針を抜くと、ミオンは薬を口に流し込んだ。

 しかし……ガイの息は急速に弱まり、血色も力も抜けてゆく!

「効いてない!?」
 焦り戸惑うミオン。
 レレンがハッと気づいた。
「……あの針か!」

 地面に捨てた針の先は何かを塗られて変色していた。

 毒にもそれを打ち消す呪文にも威力の強弱がある。強い毒を魔法で消すには強い魔力が必要だ。
 ただでさえ危険な量の毒に、さらに追加で打ち込まれた致死毒。それを消すには並の解毒ポーションでは力不足だったのだ。

 レレンも焦りから叫ぶ。
「もっと上級の回復魔法薬は無いのか!?」
 ミオンが再び鞄に手を伸ばす。
「薬の調合は攻撃魔法の道具ほど得意じゃないと言っていたわ。それでも一つ、【キュアオール】と同じ効果の薬があったけど……」

【キュアオール】聖領域6レベルの回復呪文。ほとんどの状態悪化を治療し、同時に負傷を最大限に癒す。

「じゃあそれだ!」
 身を乗り出すレレンに、ミオンが泣きそうな声で返した。
「貴女に使ったの!」


 二人は悟った。
 治療手段を消費させる事も、レレンが重傷で逃がされた狙いの一つなのだと。


「威力不足なら量を飲ませるしかないぞ! もっと無いのか?」
 言いながら鞄を覗き込むレレン。
 その時にはミオンは既に手を突っ込んでいたが。
「有ったわ、さっき見えた……筈だもの!」
 焦りか動顛どうてんか。その手は本人が望むほど的確には動いていなかった。


 もしミオンがもっと戦い慣れしていれば、この状況を一早く見抜いて迅速な対処ができたかもしれない。
 だが……彼女は愚鈍ではないが、兵士でも冒険者でもないのだ。この修羅場にいきなり対応するのは無理があった。


 ミオンが次の薬瓶を引っ張り出した時。
 ガイの息は止まっていた。

 空中から呆然と、イムがガイを見下ろして呟く。
「ガイ……死んじゃった」
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