2 / 10
第一章:魔剣いっこ拾う
伝説剣が僕に継承される日
しおりを挟む
「俺はオウガ。地獄から来た男だ」
その男は腕組みをしたまま力強くそう言い放った。
身に纏う紺色の闘衣は体にフィットし、武闘家系のクラスである事を示している。
やや背が高いもののさほど大きな体格ではないが、体は逞しく均整がとれ、鍛え抜かれている事が一目でわかる。
短く乱れた髪といい、太く男らしい眉といい、不敵で恐れる物の無いその眼差しといい、男は強烈な存在感を放っていた。
なのになぜ今まで誰も気にしなかったのか?
「え? 新人じゃなかったのか? なぜ二人いるのかとは思っていたけどよ……」
そう言ったのは戦闘士のバサルス。
「パーティのメンバーかギルドの関係者かと思っていた……」
暗殺者のアズル。その横で高位神官のザダランも戸惑っていた。
「いや、明らかに職員ではないでしょう。ただ私も新人さんの知り合いか何かかと……」
気にしなかったわけではなかった。ただ少し勘違いがあったようだ。
リーダーのザーゴルがいきり立つ。
「結局なんなんだオメーは! 意味わからん事言って! 滑ってんぞ!」
そう言われて男――オウガは腕を解いた。
「お前らに用事は無いが、俺達の話を邪魔しないならそこで聞いておけばいい。そうすればすぐにわかる」
オウガは先刻からずっと目を丸くしているバルチェへを指さした。
「バルチェ。お前は十二聖魔剣の継承者だ。それを手にし、魔王を倒す戦いの旅へ行くぞ」
「「「はああああ!?」」」
テーブルにいる者の半数が素っ頓狂な声をあげた。残りはぽかんと口を開けていた。他のテーブルにいる者達は奇異の目で見ていた。
十二聖魔剣‥‥それこそはこの世界最高最強の、伝説の武器である。
この世が邪悪な神の襲撃を受けた時、幾たびか姿を現した、神でも悪魔でも滅ぼす事のできる剣。
その威力は天を裂き、一撃は大地を割るという。
伝承によれば最後に姿を現したのは五百年前。もはや実在を疑う者も少なくない。
魔王の襲撃を受けている今、伝説を頼りに探している者もいないではないが、世間的には雲か霞を掴むような話で宛てにはできないと思われていた。
「は……はは……頭おかしいのかオマエ。本当にそんな物の情報があるなら聞かせてみろよ。勇者の俺が手に入れてやんよ」
顔を引き攣らせながら笑うザーゴル。
だがオウガは気にした様子もなくバルチェを見ていた。
「あ、うん。僕はこれからフリーだから協力してもいいけど、詳しい話を聞かせては欲しいね」
バルチェはおっかなびっくりながらそう言った。
正直、半信半疑なんて物ではない。何かの詐欺ではないかと疑ってさえいる。
だが返答は思わぬ方から来た。
「すぐに実物を見る事ができますよ。むしろ急いだ方がいい」
驚きふり向く一同。
側の壁にもたれている青年が優雅に微笑んでいた。
長い金髪に線の細い美形顔。にこやかに笑いながら、かけたメガネを人差し指でくいくいと弄ぶ。
スマートな長身を革の鎧が包んでいるが、肩や胸など、一部は薄手の金属が覆っていた。これは軽装の戦士や魔法戦士系のクラスが好むタイプの防具だ。
「来たかアーサー……」
呟くオウガ。彼の知人のようだ。
青年――アーサーは頷き、バルチェの側へ来た。
「君の剣は、代々常に継承者の側にありました。いつの時代も、共にいる乙女から継承者へ与えられるのです」
「えっ!? でも僕の知り合いの、近くにいる女の子って……一人しか……」
驚くバルチェはその少女へとふり向いた。釣られて他の者もふり向いた。
皆の視線を受け、その少女・戦魔術師のラザリアは硬直した唇から呻くような声を漏らした。
「何を言ってるの? 私、剣なんて持ってないけど……」
「持ってないって……」
バルチェはアーサーを見上げる。
皆も釣られて彼を見る。しかし――
「ちょっとくすぐったいぞ」
そう言ったのはオウガだ。
いつの間にやらラザリアの背後。彼女の背を、誰が何を反応する暇もなく両手で突いた。
「え? ちょ? 何? アッー……!」
混乱と悲鳴。ラザリアの体が不自然に湾曲し、ぐねぐねと波打つ。それが次第にぼやけ、すぐに霧散した。
後にはひとふりの剣が――!
美しい剣だった。
柄や鍔に無駄な装飾はないが、汚れ一つ無い。刀身は透明感のある黒――その内に無数の煌きが瞬いている。
まるで夜空で、宇宙でできたような剣だった。
厳かにアーサーが告げる。
「十二聖魔剣のひとつ、スターゲイザーです」
バルチェはその剣を手に取った。
異常な状況だったが、誰かに背を押されたように、半ば憑かれたように。
すると……
『何よこれ! ちょっと! 変でしょおかしいでしょアカンでしょ!』
剣からラザリアの声が響いた。
驚愕するバルチェ。
「ら、ラザリアが剣になってるの!? 彼女にも何か宿命が……?」
「いいえ、別に。この剣の魂は伝承者の側でこうして実体化するのです。いま彼女しか乙女がいないから彼女が剣を与える役目になっただけの事。まぁ伝説通りになりました」
『無茶苦茶じゃない! 与えてるんじゃなくて乗っ取ってるんでしょうが! つかこの剣はずっとこんな事やってきたの!?』
澄まして答えるアーサーへ再びラザリアが剣から怒鳴った。
他の面々が呆然と見つめる中、オウガがザーゴルに話しかける。
「勇者のお前がこの剣を手に入れる、だったな。ちょっと貸してもらえ」
促されたザーゴルは戸惑いながらも頷いた。
「お、おう。つーかこれ元に戻さにゃいかんだろ……」
そう言ってバルチェの手から剣を奪おうとする。
だが柄を握った途端、刀身から放たれた無数の光線に撃ちまくられて吹っ飛んだ!
「ブベラアアァァ!?」
無様な悲鳴をあげ、壁際に倒れてブスブスと煙をあげる。
嗚呼、無残……さっきまで調子こいていたイケメン勇者はびくんびくんと痙攣するのみ。
当然のようにオウガが言った。
「相応しく無い者が持つと剣の怒りを買う。場合によっては粉微塵だ。あの程度で済んだのならまぁ容赦はされているだろう」
『あんたわかってやらせたんかい!』
ラザリアの怒鳴り声がまた響いた。剣から。
その傍らで焦げたリーダーを見ながら戦闘士のバサルスが呟いた。
「ラザリアは乙女だったのか? ザーゴルと付き合っていたんじゃ……」
『なんで今そこを気にするの!? そういう場面じゃないわよねマジで!』
ラザリアの怒りの声が止まらない。
さらにアーサーも頷いた。
「ええ、今はここを出るべきです。我々が目指すのは魔王の首、ただ一つ」
話が繋がっているようでそうでもないが、ギルドの高官が戸惑いながらも口を挟んできた。
「いや、あのな、バルチェはこれからSランクの再審査をだな……」
「SランクだかM奴隷だかはどうでもいい話だ。そんな物を魔王軍に名乗っても手加減などしてくれん。それとも……試してみるか?」
そう言ってオウガはふり向いた。店の出入口へと。
店のドアは開きっぱなしになっていた。
いつからだろうか、入ってきた者が出入口を塞ぐように立っている。
灰色のローブで体を、フードで頭部を隠した人影。背丈も体格も並、体つきに凡そ特徴らしい特徴は無い。
「魔王軍……刺客を放ってきましたね」
そう言いつつも、アーサーには動揺がまるで無い。
むしろ驚いて慌てふためいたのは他の客だ。高位神官のザダランが裏返りそうな甲高い声をあげた。
「こ、この街に魔物が!? 結界がある筈ですよ、生半可な魔物では入れないレベルの物が!」
フッと笑うオウガ。
「神殺の剣に向けられる刺客が生半可なわけもあるまい……」
人影の頭はバルチェの方へ向いている。
それに気づいたバルチェの背に戦慄が走った。
(僕が……狙われているんだ!?)
その男は腕組みをしたまま力強くそう言い放った。
身に纏う紺色の闘衣は体にフィットし、武闘家系のクラスである事を示している。
やや背が高いもののさほど大きな体格ではないが、体は逞しく均整がとれ、鍛え抜かれている事が一目でわかる。
短く乱れた髪といい、太く男らしい眉といい、不敵で恐れる物の無いその眼差しといい、男は強烈な存在感を放っていた。
なのになぜ今まで誰も気にしなかったのか?
「え? 新人じゃなかったのか? なぜ二人いるのかとは思っていたけどよ……」
そう言ったのは戦闘士のバサルス。
「パーティのメンバーかギルドの関係者かと思っていた……」
暗殺者のアズル。その横で高位神官のザダランも戸惑っていた。
「いや、明らかに職員ではないでしょう。ただ私も新人さんの知り合いか何かかと……」
気にしなかったわけではなかった。ただ少し勘違いがあったようだ。
リーダーのザーゴルがいきり立つ。
「結局なんなんだオメーは! 意味わからん事言って! 滑ってんぞ!」
そう言われて男――オウガは腕を解いた。
「お前らに用事は無いが、俺達の話を邪魔しないならそこで聞いておけばいい。そうすればすぐにわかる」
オウガは先刻からずっと目を丸くしているバルチェへを指さした。
「バルチェ。お前は十二聖魔剣の継承者だ。それを手にし、魔王を倒す戦いの旅へ行くぞ」
「「「はああああ!?」」」
テーブルにいる者の半数が素っ頓狂な声をあげた。残りはぽかんと口を開けていた。他のテーブルにいる者達は奇異の目で見ていた。
十二聖魔剣‥‥それこそはこの世界最高最強の、伝説の武器である。
この世が邪悪な神の襲撃を受けた時、幾たびか姿を現した、神でも悪魔でも滅ぼす事のできる剣。
その威力は天を裂き、一撃は大地を割るという。
伝承によれば最後に姿を現したのは五百年前。もはや実在を疑う者も少なくない。
魔王の襲撃を受けている今、伝説を頼りに探している者もいないではないが、世間的には雲か霞を掴むような話で宛てにはできないと思われていた。
「は……はは……頭おかしいのかオマエ。本当にそんな物の情報があるなら聞かせてみろよ。勇者の俺が手に入れてやんよ」
顔を引き攣らせながら笑うザーゴル。
だがオウガは気にした様子もなくバルチェを見ていた。
「あ、うん。僕はこれからフリーだから協力してもいいけど、詳しい話を聞かせては欲しいね」
バルチェはおっかなびっくりながらそう言った。
正直、半信半疑なんて物ではない。何かの詐欺ではないかと疑ってさえいる。
だが返答は思わぬ方から来た。
「すぐに実物を見る事ができますよ。むしろ急いだ方がいい」
驚きふり向く一同。
側の壁にもたれている青年が優雅に微笑んでいた。
長い金髪に線の細い美形顔。にこやかに笑いながら、かけたメガネを人差し指でくいくいと弄ぶ。
スマートな長身を革の鎧が包んでいるが、肩や胸など、一部は薄手の金属が覆っていた。これは軽装の戦士や魔法戦士系のクラスが好むタイプの防具だ。
「来たかアーサー……」
呟くオウガ。彼の知人のようだ。
青年――アーサーは頷き、バルチェの側へ来た。
「君の剣は、代々常に継承者の側にありました。いつの時代も、共にいる乙女から継承者へ与えられるのです」
「えっ!? でも僕の知り合いの、近くにいる女の子って……一人しか……」
驚くバルチェはその少女へとふり向いた。釣られて他の者もふり向いた。
皆の視線を受け、その少女・戦魔術師のラザリアは硬直した唇から呻くような声を漏らした。
「何を言ってるの? 私、剣なんて持ってないけど……」
「持ってないって……」
バルチェはアーサーを見上げる。
皆も釣られて彼を見る。しかし――
「ちょっとくすぐったいぞ」
そう言ったのはオウガだ。
いつの間にやらラザリアの背後。彼女の背を、誰が何を反応する暇もなく両手で突いた。
「え? ちょ? 何? アッー……!」
混乱と悲鳴。ラザリアの体が不自然に湾曲し、ぐねぐねと波打つ。それが次第にぼやけ、すぐに霧散した。
後にはひとふりの剣が――!
美しい剣だった。
柄や鍔に無駄な装飾はないが、汚れ一つ無い。刀身は透明感のある黒――その内に無数の煌きが瞬いている。
まるで夜空で、宇宙でできたような剣だった。
厳かにアーサーが告げる。
「十二聖魔剣のひとつ、スターゲイザーです」
バルチェはその剣を手に取った。
異常な状況だったが、誰かに背を押されたように、半ば憑かれたように。
すると……
『何よこれ! ちょっと! 変でしょおかしいでしょアカンでしょ!』
剣からラザリアの声が響いた。
驚愕するバルチェ。
「ら、ラザリアが剣になってるの!? 彼女にも何か宿命が……?」
「いいえ、別に。この剣の魂は伝承者の側でこうして実体化するのです。いま彼女しか乙女がいないから彼女が剣を与える役目になっただけの事。まぁ伝説通りになりました」
『無茶苦茶じゃない! 与えてるんじゃなくて乗っ取ってるんでしょうが! つかこの剣はずっとこんな事やってきたの!?』
澄まして答えるアーサーへ再びラザリアが剣から怒鳴った。
他の面々が呆然と見つめる中、オウガがザーゴルに話しかける。
「勇者のお前がこの剣を手に入れる、だったな。ちょっと貸してもらえ」
促されたザーゴルは戸惑いながらも頷いた。
「お、おう。つーかこれ元に戻さにゃいかんだろ……」
そう言ってバルチェの手から剣を奪おうとする。
だが柄を握った途端、刀身から放たれた無数の光線に撃ちまくられて吹っ飛んだ!
「ブベラアアァァ!?」
無様な悲鳴をあげ、壁際に倒れてブスブスと煙をあげる。
嗚呼、無残……さっきまで調子こいていたイケメン勇者はびくんびくんと痙攣するのみ。
当然のようにオウガが言った。
「相応しく無い者が持つと剣の怒りを買う。場合によっては粉微塵だ。あの程度で済んだのならまぁ容赦はされているだろう」
『あんたわかってやらせたんかい!』
ラザリアの怒鳴り声がまた響いた。剣から。
その傍らで焦げたリーダーを見ながら戦闘士のバサルスが呟いた。
「ラザリアは乙女だったのか? ザーゴルと付き合っていたんじゃ……」
『なんで今そこを気にするの!? そういう場面じゃないわよねマジで!』
ラザリアの怒りの声が止まらない。
さらにアーサーも頷いた。
「ええ、今はここを出るべきです。我々が目指すのは魔王の首、ただ一つ」
話が繋がっているようでそうでもないが、ギルドの高官が戸惑いながらも口を挟んできた。
「いや、あのな、バルチェはこれからSランクの再審査をだな……」
「SランクだかM奴隷だかはどうでもいい話だ。そんな物を魔王軍に名乗っても手加減などしてくれん。それとも……試してみるか?」
そう言ってオウガはふり向いた。店の出入口へと。
店のドアは開きっぱなしになっていた。
いつからだろうか、入ってきた者が出入口を塞ぐように立っている。
灰色のローブで体を、フードで頭部を隠した人影。背丈も体格も並、体つきに凡そ特徴らしい特徴は無い。
「魔王軍……刺客を放ってきましたね」
そう言いつつも、アーサーには動揺がまるで無い。
むしろ驚いて慌てふためいたのは他の客だ。高位神官のザダランが裏返りそうな甲高い声をあげた。
「こ、この街に魔物が!? 結界がある筈ですよ、生半可な魔物では入れないレベルの物が!」
フッと笑うオウガ。
「神殺の剣に向けられる刺客が生半可なわけもあるまい……」
人影の頭はバルチェの方へ向いている。
それに気づいたバルチェの背に戦慄が走った。
(僕が……狙われているんだ!?)
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる