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第1部 学校~始まり
馬車の中
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「……ていうかさ、今更だけど年齢も話し合いで決まったとか、本当すごいよね」
「うん、そうだね」
隣りから話しかけてくる友人の言葉に、半ば上の空で相槌を打つ。ちゃんと顔を見ないと怒られるので、そちらに身体は向けながら、でも目だけは前に座る兄、ソルの様子をチラチラ……。
「でも大体、合ってるんじゃない?オレ、モーネが同い年って言われた時、全然、違和感なかったもん。今だってないし」
「うん、そうだね」
モーネが今いるのは、学校へと向かう馬車の中だ。
馬車は村で1番大きな畑を持っているマグワルト氏の持ち物で、乗っているのはソルとモーネの他にマグワルト氏の長男、モーネと“同い年”のシェリー。
3人は毎朝2時間かけて、村を2つ越えた場所にあるクレイドル中等高等学校に通っている。
因みに3人の住むヴィルデ村では中等高等学校の前、6歳から12歳までを村の幼年学校で過ごすことになっていて、シェリーとモーネはそこで仲良くなった。明るく裏表のないシェリーは、いつも人の輪の真ん中にいるような存在で、後から来たモーネが学校に溶け込めたのは、このシェリーが側にいて、常に屈託無く話しかけてくれていたからというのが大きい。
それでしょっちゅう家に遊びにきているうちに、ソルとも親しくなっており、今では自分も立派な弟分だからと、ソルを『ソル兄』と呼んで慕っている。
村から距離のあるクレイドルに進んだのはこの3人だけ。いつもなら騒ぎすぎる程に騒いで、御者席に座るマグワルト家の下男、ルートから「お3人とも、もう少しだけ静かにしてくだせえ」と頼み込まれることもあるくらいなのだけど……。
今朝は少しだけ雰囲気が違っていた。それは馬車に乗り込んだ瞬間から、ソルが教科書を広げ、予習とやらを始めてしまったから。
尋ねると「今日は小テストがある」などという返事が返ってきたが、モーネの知る限り、昨日までは、いや今の今までそんな話はしていなかった。
(これは、アレだよね。今朝、起こしに来てくれた時、僕が部屋を追い出しちゃったのが原因だよね……)
あれくらいで、そんなに拗ねなくてもよいのではないか。そもそも、あれは不意打ちを仕掛けてきたソルがいけないのだ。寝起きに、耳元で囁かれるなんて、お年頃の男なら誰だって人に見せられない、ヤバいことになるに決まっている。
しかも遠い過去、ソルはモーネにとって初恋の相手で……。
「……まあさ、テストがあるんじゃしょうがないよね。ソル兄には予習を頑張ってもらうとして。さっきの話の続きだけどさ、モーネは何か自分の年齢について思うことはあるの?例えば本当はもう少し上なんじゃないか、とか、下なんじゃないか、とか」
「……うん、そうだね」
「……もしかしたら、本当はソル兄よりも年上だったりなんかして……」
自分の名前が出たせいか、ソルの耳が一瞬ピクリと動く。
しかし『話を聞いていない』アピールなのか、顔を上げることはなく、それどころかより一層、下を向いて教科書を睨み始める。
(でも、こっちを意識してるのバレバレ……可愛い!)
ソルの拗ねたり怒ったりしている時の表情が、そしてそれを隠そうとする雰囲気が、実はモーネは大好きだ。
普段はお兄ちゃんの顔をして自分の面倒を見てくれているソルの、少しだけ素の部分。多分誰に対しても意図的には見せないであろう部分が、緩く垣間見えている気がするから。
そして、モーネにはそういう時のソルがとても可愛く思える。それこそ、本当に年上なのか疑ってしまうくらいに。
「……ソル、今朝はごめんね」
「え……」
突然、謝られるとは思っていなかったのだろう。ソルが不意を突かれたような表情で、目を上げる。実際モーネも、自分がこのタイミングで謝るとは、言葉が出るその瞬間まで思っていなかった。
「あの、えっと何か、せっかく起こしに来てもらったのに。部屋から追い出すようなマネしちゃって悪かったなって。だから、その、ごめん……」
「えーーーーーっ!モーネったら、そんなことしたのーーーー!」
ソルが返事をする前に、シェリーが大声を上げた。
「何でそんなことしたの!ソル兄が可哀想じゃん!ねえねえ、何で、何で……」
(シマッタ……その言い訳を考えてなかった……)
まさか正直な理由は言えない。モーネにもそのくらいの常識や人としての羞恥心はある。
何より、本当のことを言ったら、もうソルは朝起こしに来てくれないかもしれない。
(そんなのヤダヤダヤダ……どうしよ、どうしよ、どうしよ……)
何だか動悸、息切れ、目眩が襲ってきた。もしかしたら、これがソルのいつも心配している、『精気の不足していることによる不調』というやつなのではないか……。
「……もう、その辺にしといてやって、シェリー」
「えっ、でも、ソル兄……」
「何か思いっきり熟睡してるところをたたき起こしちゃったからさ。寝起きで機嫌悪かったんだろ。コイツ、たまにあるんだよ。やっぱ精気が足りないからなのかな」
「…………」
恐る恐る見上げたソルの顔は、自分と目が合うとスイと横を向かれてしまったけれど。
(でも、やっぱり、年上なんだよな……)
隣りではシェリーが「ソル兄がいいなら、オレもいいんだけどさ」などと言いながら、椅子に座り直している。その前で教科書を閉じたソルは、「そういえば、お前たち最近は?テストとか、ないの?」
(知ってる。本当は優しくて良いお兄ちゃんだってこと、僕が誰より1番よく知ってる)
可愛いところも大人なところも、どちらも好き。
笑ってくれていれば勿論、嬉しいけど、たまに怒らせたりもしてみたくなる。だって、可愛いし。
自分の中のこの感情には一体、どういう名前をつければよいのだろう。
(恋じゃない。これはそういう気持ちではない)
モーネだって恋がどういうものかは知っている。
それを教えたのは他でもないソルで、モーネの初恋は7年前、目覚めたと同時に始まって、そして終わったのだ。
「うん、そうだね」
隣りから話しかけてくる友人の言葉に、半ば上の空で相槌を打つ。ちゃんと顔を見ないと怒られるので、そちらに身体は向けながら、でも目だけは前に座る兄、ソルの様子をチラチラ……。
「でも大体、合ってるんじゃない?オレ、モーネが同い年って言われた時、全然、違和感なかったもん。今だってないし」
「うん、そうだね」
モーネが今いるのは、学校へと向かう馬車の中だ。
馬車は村で1番大きな畑を持っているマグワルト氏の持ち物で、乗っているのはソルとモーネの他にマグワルト氏の長男、モーネと“同い年”のシェリー。
3人は毎朝2時間かけて、村を2つ越えた場所にあるクレイドル中等高等学校に通っている。
因みに3人の住むヴィルデ村では中等高等学校の前、6歳から12歳までを村の幼年学校で過ごすことになっていて、シェリーとモーネはそこで仲良くなった。明るく裏表のないシェリーは、いつも人の輪の真ん中にいるような存在で、後から来たモーネが学校に溶け込めたのは、このシェリーが側にいて、常に屈託無く話しかけてくれていたからというのが大きい。
それでしょっちゅう家に遊びにきているうちに、ソルとも親しくなっており、今では自分も立派な弟分だからと、ソルを『ソル兄』と呼んで慕っている。
村から距離のあるクレイドルに進んだのはこの3人だけ。いつもなら騒ぎすぎる程に騒いで、御者席に座るマグワルト家の下男、ルートから「お3人とも、もう少しだけ静かにしてくだせえ」と頼み込まれることもあるくらいなのだけど……。
今朝は少しだけ雰囲気が違っていた。それは馬車に乗り込んだ瞬間から、ソルが教科書を広げ、予習とやらを始めてしまったから。
尋ねると「今日は小テストがある」などという返事が返ってきたが、モーネの知る限り、昨日までは、いや今の今までそんな話はしていなかった。
(これは、アレだよね。今朝、起こしに来てくれた時、僕が部屋を追い出しちゃったのが原因だよね……)
あれくらいで、そんなに拗ねなくてもよいのではないか。そもそも、あれは不意打ちを仕掛けてきたソルがいけないのだ。寝起きに、耳元で囁かれるなんて、お年頃の男なら誰だって人に見せられない、ヤバいことになるに決まっている。
しかも遠い過去、ソルはモーネにとって初恋の相手で……。
「……まあさ、テストがあるんじゃしょうがないよね。ソル兄には予習を頑張ってもらうとして。さっきの話の続きだけどさ、モーネは何か自分の年齢について思うことはあるの?例えば本当はもう少し上なんじゃないか、とか、下なんじゃないか、とか」
「……うん、そうだね」
「……もしかしたら、本当はソル兄よりも年上だったりなんかして……」
自分の名前が出たせいか、ソルの耳が一瞬ピクリと動く。
しかし『話を聞いていない』アピールなのか、顔を上げることはなく、それどころかより一層、下を向いて教科書を睨み始める。
(でも、こっちを意識してるのバレバレ……可愛い!)
ソルの拗ねたり怒ったりしている時の表情が、そしてそれを隠そうとする雰囲気が、実はモーネは大好きだ。
普段はお兄ちゃんの顔をして自分の面倒を見てくれているソルの、少しだけ素の部分。多分誰に対しても意図的には見せないであろう部分が、緩く垣間見えている気がするから。
そして、モーネにはそういう時のソルがとても可愛く思える。それこそ、本当に年上なのか疑ってしまうくらいに。
「……ソル、今朝はごめんね」
「え……」
突然、謝られるとは思っていなかったのだろう。ソルが不意を突かれたような表情で、目を上げる。実際モーネも、自分がこのタイミングで謝るとは、言葉が出るその瞬間まで思っていなかった。
「あの、えっと何か、せっかく起こしに来てもらったのに。部屋から追い出すようなマネしちゃって悪かったなって。だから、その、ごめん……」
「えーーーーーっ!モーネったら、そんなことしたのーーーー!」
ソルが返事をする前に、シェリーが大声を上げた。
「何でそんなことしたの!ソル兄が可哀想じゃん!ねえねえ、何で、何で……」
(シマッタ……その言い訳を考えてなかった……)
まさか正直な理由は言えない。モーネにもそのくらいの常識や人としての羞恥心はある。
何より、本当のことを言ったら、もうソルは朝起こしに来てくれないかもしれない。
(そんなのヤダヤダヤダ……どうしよ、どうしよ、どうしよ……)
何だか動悸、息切れ、目眩が襲ってきた。もしかしたら、これがソルのいつも心配している、『精気の不足していることによる不調』というやつなのではないか……。
「……もう、その辺にしといてやって、シェリー」
「えっ、でも、ソル兄……」
「何か思いっきり熟睡してるところをたたき起こしちゃったからさ。寝起きで機嫌悪かったんだろ。コイツ、たまにあるんだよ。やっぱ精気が足りないからなのかな」
「…………」
恐る恐る見上げたソルの顔は、自分と目が合うとスイと横を向かれてしまったけれど。
(でも、やっぱり、年上なんだよな……)
隣りではシェリーが「ソル兄がいいなら、オレもいいんだけどさ」などと言いながら、椅子に座り直している。その前で教科書を閉じたソルは、「そういえば、お前たち最近は?テストとか、ないの?」
(知ってる。本当は優しくて良いお兄ちゃんだってこと、僕が誰より1番よく知ってる)
可愛いところも大人なところも、どちらも好き。
笑ってくれていれば勿論、嬉しいけど、たまに怒らせたりもしてみたくなる。だって、可愛いし。
自分の中のこの感情には一体、どういう名前をつければよいのだろう。
(恋じゃない。これはそういう気持ちではない)
モーネだって恋がどういうものかは知っている。
それを教えたのは他でもないソルで、モーネの初恋は7年前、目覚めたと同時に始まって、そして終わったのだ。
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