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第1部 学校~始まり
ヒーセンスという能力
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(今日のモーネ、何だか様子がおかしかった。ちょっと意地悪し過ぎたかな……)
2人と別れて高等科の教室へと向かいながら、ソルは小さく溜息を吐いた。
行き交う生徒達は皆、同じ紺色のブレザー。下は男子がグレーチェックのズボンで、女子は同じ柄のスカートだ。シャツは全員白と決められていて、そこに男子はネクタイ、女子はリボン。この色だけは中等部と高等部で違っていて、中等部は濃い臙脂にシルバーのポイント、高等部は少し曇ったブルーグレーに同じシルバーのポイントとなっている。
見渡す限り、同じ制服で埋め尽くされている生徒達の波。でも、その中で1人だけ、違う制服を着ている生徒を、ソルはめざとく見つけた。白いブレザーに紺色のチェックのズボン。ソル達とは違う、『特別クラス』の生徒だ。
ソル達が通うこの学校には、ソルやモーネ、シェリーのような普通の生徒達が在籍している『一般科』と、もう1つ、選ばれた生徒達だけが通うことのできる特別なクラスがある。
特別クラスに入れるのは、国で稀に生まれてくる、どんな病気でも治すことの出来る力 “ヒーセンス”を持った子供たちだけ。その数は1万人に1人とも、10万人に1人とも言われているけれど、正確なところはソルには分からない。ただ、ヒーセンスを持って生まれた子供達は、それが分かった時点で国の管理下に置かれ、国にいくつかあるこうした特別クラスで特殊な授業を受ける。そうして、行く行くは国が管理する5大治療院のいずれかに配属され、“ヒーセント”と呼ばれる国家最高の治療者となるのだ。
ソルは、昔からこのヒーセンスの力に興味津々だった。
他にもっと近い学校があるにも関わらず、このクレイドルを選んだのも、そのヒーセンスを持った生徒達を実際に見てみたかったから。
そしてもっと言えば、入学した当初は、ソルはまだ自分にも可能性を感じていた。ヒーセンスの力が示されるのは、大体10才前後と言われていたので、当時12歳だったソルは密かに期待を捨てきれなかったのだ。
全ての病気を治す神秘の力、それは具体的にどんなもので、どんな風に発揮されるんだろう。
医師や薬師と同じ、人を助ける仕事のはずだけど、やっぱりどこか違うんだろうか。
そして……。
――もし、自分がその力を持って生まれていたら、モーネには希望があった?
ヒーセント達は、その能力があると分かった時から国の監視下に置かれると決まっているし、力を使いこなせるようになってからはやはり国に管理されて、誰かを好きなように治療することはできないという。
それでも、もし自分にその力があったら。
ヒーセントとして働くことができれば、莫大なお金が手に入る。それを全てつぎ込めば、モーネをヒーセントに見せることも可能だろう。いや、自分がこの手で治してやれるし、そこで入ってきたお金は今度こそモーネやフォード達に送り、家族の生活も豊かになるはずだ。
もし、自分にその力があったら。そしてモーネが、自分が一人前になるまで頑張ってくれたら……。
でも、ソルの願いは残念ながら叶わなかった。
ヒーセンスを持っている人間は大体10歳くらいになるとその片鱗を見せ始める。なのでソル達の暮らす王国マリフォルドでは、どんな小さな村であっても8歳から14歳までの子供たちに対して毎年必ずテストを行うよう触れ書きが出ていて、ソルも当然、そのテストを受けた。7年間、欠かさず受け続けて、その最後の年。
モーネとシェリーは、テストの行われた幼年学校の入口まで揃って様子を見に来ていた。
モーネが拾われてきたのと同じ、寒い時期で、2人とも赤くなった手に息を吹きかけながら、足元の石を蹴り蹴りしていて……。
校門まで出て来たソルが無理矢理、笑顔を作って「ダメだった」と告げると、2人は一瞬泣きそうに顔を歪め、その後シェリーは殊更に大きな声を出して、ソルの背中をバシバシと叩いた。
「お帰り、ソル兄!帰ろう!」
モーネは家に着くまで何も言わずに黙っていたけれど。
家に帰って、本当は食欲なんてなかったけれども、労ってくれる祖父の気持ちを考えて、無理矢理ご飯をかき込んで。
それで、もう何もする気になれずにベッドに潜り込もうとした瞬間、小さくドアがノックされた。
「こんなこと言ったら、ソルは怒るかもしれないけど……」
自分の顔を見ずに、下を向いたまま、モーネは言った。
「ヒーセンスを持ってるって分かったら、ソルは遠くに行っちゃうって……フォードおじいちゃんから聞いた」
「ああ……うん、そう、だね……」
正直、ソルはそこのところは深く考えていなかった。まだ14歳で、今よりも更に子供だったから。とにかく、力さえあれば全て上手くいくと、そう信じ込んでいた。
「……ソルが遠くに行かなくてよかった。多分、フォードおじいちゃんもそう思ってる」
モーネはそこまで言うと、泣きそうな顔で自分を見上げて。
「ごめんねっ、忘れて。お休み!」
そう、その時のモーネはまだ、『ソルに遠くに行って欲しくないから』『ソルにヒーセンスがなくて良かった』と言っていた。
それが大きく変わったのはその2年後。
モーネが最後のテストを受けた時のことだった。
2人と別れて高等科の教室へと向かいながら、ソルは小さく溜息を吐いた。
行き交う生徒達は皆、同じ紺色のブレザー。下は男子がグレーチェックのズボンで、女子は同じ柄のスカートだ。シャツは全員白と決められていて、そこに男子はネクタイ、女子はリボン。この色だけは中等部と高等部で違っていて、中等部は濃い臙脂にシルバーのポイント、高等部は少し曇ったブルーグレーに同じシルバーのポイントとなっている。
見渡す限り、同じ制服で埋め尽くされている生徒達の波。でも、その中で1人だけ、違う制服を着ている生徒を、ソルはめざとく見つけた。白いブレザーに紺色のチェックのズボン。ソル達とは違う、『特別クラス』の生徒だ。
ソル達が通うこの学校には、ソルやモーネ、シェリーのような普通の生徒達が在籍している『一般科』と、もう1つ、選ばれた生徒達だけが通うことのできる特別なクラスがある。
特別クラスに入れるのは、国で稀に生まれてくる、どんな病気でも治すことの出来る力 “ヒーセンス”を持った子供たちだけ。その数は1万人に1人とも、10万人に1人とも言われているけれど、正確なところはソルには分からない。ただ、ヒーセンスを持って生まれた子供達は、それが分かった時点で国の管理下に置かれ、国にいくつかあるこうした特別クラスで特殊な授業を受ける。そうして、行く行くは国が管理する5大治療院のいずれかに配属され、“ヒーセント”と呼ばれる国家最高の治療者となるのだ。
ソルは、昔からこのヒーセンスの力に興味津々だった。
他にもっと近い学校があるにも関わらず、このクレイドルを選んだのも、そのヒーセンスを持った生徒達を実際に見てみたかったから。
そしてもっと言えば、入学した当初は、ソルはまだ自分にも可能性を感じていた。ヒーセンスの力が示されるのは、大体10才前後と言われていたので、当時12歳だったソルは密かに期待を捨てきれなかったのだ。
全ての病気を治す神秘の力、それは具体的にどんなもので、どんな風に発揮されるんだろう。
医師や薬師と同じ、人を助ける仕事のはずだけど、やっぱりどこか違うんだろうか。
そして……。
――もし、自分がその力を持って生まれていたら、モーネには希望があった?
ヒーセント達は、その能力があると分かった時から国の監視下に置かれると決まっているし、力を使いこなせるようになってからはやはり国に管理されて、誰かを好きなように治療することはできないという。
それでも、もし自分にその力があったら。
ヒーセントとして働くことができれば、莫大なお金が手に入る。それを全てつぎ込めば、モーネをヒーセントに見せることも可能だろう。いや、自分がこの手で治してやれるし、そこで入ってきたお金は今度こそモーネやフォード達に送り、家族の生活も豊かになるはずだ。
もし、自分にその力があったら。そしてモーネが、自分が一人前になるまで頑張ってくれたら……。
でも、ソルの願いは残念ながら叶わなかった。
ヒーセンスを持っている人間は大体10歳くらいになるとその片鱗を見せ始める。なのでソル達の暮らす王国マリフォルドでは、どんな小さな村であっても8歳から14歳までの子供たちに対して毎年必ずテストを行うよう触れ書きが出ていて、ソルも当然、そのテストを受けた。7年間、欠かさず受け続けて、その最後の年。
モーネとシェリーは、テストの行われた幼年学校の入口まで揃って様子を見に来ていた。
モーネが拾われてきたのと同じ、寒い時期で、2人とも赤くなった手に息を吹きかけながら、足元の石を蹴り蹴りしていて……。
校門まで出て来たソルが無理矢理、笑顔を作って「ダメだった」と告げると、2人は一瞬泣きそうに顔を歪め、その後シェリーは殊更に大きな声を出して、ソルの背中をバシバシと叩いた。
「お帰り、ソル兄!帰ろう!」
モーネは家に着くまで何も言わずに黙っていたけれど。
家に帰って、本当は食欲なんてなかったけれども、労ってくれる祖父の気持ちを考えて、無理矢理ご飯をかき込んで。
それで、もう何もする気になれずにベッドに潜り込もうとした瞬間、小さくドアがノックされた。
「こんなこと言ったら、ソルは怒るかもしれないけど……」
自分の顔を見ずに、下を向いたまま、モーネは言った。
「ヒーセンスを持ってるって分かったら、ソルは遠くに行っちゃうって……フォードおじいちゃんから聞いた」
「ああ……うん、そう、だね……」
正直、ソルはそこのところは深く考えていなかった。まだ14歳で、今よりも更に子供だったから。とにかく、力さえあれば全て上手くいくと、そう信じ込んでいた。
「……ソルが遠くに行かなくてよかった。多分、フォードおじいちゃんもそう思ってる」
モーネはそこまで言うと、泣きそうな顔で自分を見上げて。
「ごめんねっ、忘れて。お休み!」
そう、その時のモーネはまだ、『ソルに遠くに行って欲しくないから』『ソルにヒーセンスがなくて良かった』と言っていた。
それが大きく変わったのはその2年後。
モーネが最後のテストを受けた時のことだった。
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