薬師の薬も、さじ加減

ミリ

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第1部 学校~始まり

なくて、よかった

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 ソルがヒーセンスのテストを受けてから2年後、モーネとシェリーも最後のテストを受けた。ソルと同じ、3人が幼い頃に過ごした幼年学校で。
 結果は2人とも不合格。
 シェリーにもモーネにも、ヒーセンスの力は宿っていなかった。

「もうさぁ、分かってたよね!だって、そんな何万人?何十万人に1人?くらいしか生まれないような特別な人間が、こんなヴィルデ村なんかに生まれてくるはずないもーん」

 シェリーは、ソルの時のような悲痛な様子は一切見せず、カラカラと明るく笑い飛ばした。

「うちのお父さんがよく言うんだ。人間なんて9割が“一般人”なんだからって。自分も一般人で当たり前。普通に生まれた自分を精一杯生かして、1番いいように生きればいいんだよってさ」

「マグワルトさん、いいお父さんだよね」

 事実、マグワルト氏はその畑が村で1番大きいから、というだけではなく、常に村のことを考え、周りのために動くことのできる人間として村中から尊敬と信頼を集めている。

「モーネは?その……大丈夫?」

 シェリーとは対照的に口数の少ないモーネに、ソルは2年前の自分を重ね合わせて声を掛けた。もしかしたら、分かっていても少し位はショックを受けたのかもしれないと思って……。
 でも、「え?全然、大丈夫だよ?」とモーネが顔を上げた。そこには今までソルが見たことのない表情があって。

「むしろ、よかったー。そんなヒーセンスなんてクソみたいな能力、持って生まれてきてなくて」

 モーネの言葉にソルは勿論、シェリーも驚いたような顔になって一瞬、口をつぐんだ。

「モ、モーネ。その、いくら何でもその言い方はちょっと……」

「そう。あの、もしかしたら、その……悔しい思いもあるかもしれないけど……」

「悔しい?まさか!あんなクズたちと一緒になるために、村を離れるなんてことにならなくて、本当に良かった!明日からもよろしくね、ソル、シェリー」

「よろしく……って言えば、こちらこそよろしくだけど……」

「でも……やっぱりそんな言い方は止めろよ。良い面ばかりじゃないかもしれないけど、でも一応、国民の命を守ってくれてる人たちなんだから」

「国民の命を守ってる……?」

 モーネの眉が釣り上がった。とても子供とは思えないくらい、凄惨に。

「ソル、それ本気で言ってる?」

「それは……勿論、守れないことだってあるかもしれないけど。でも一応は、そうしようと努力している訳で……」

「嘘だ。努力なんてしてない」

 ソルの言葉を、モーネは一言の元に切り捨てた。

「ヒーセントなんてクズだよ、ソル」

「モーネ……」

「あいつらは金でしか動かない。知ってるでしょ?あいつら、1回、流行り病が流行したら、3,4年は遊んで暮らせるんだ。その後にまた別の病気が流行ったら、更に3、4年。病人から法外な金をむしりとって、半分は国の金庫に入る。王様はそのお金で新たなヒーセンスを育てあげて、永遠に財源に困らない。本当に皆、クソ」

「……」

 ヒーセントの治療が法外な値段であることは、国をあげての常識だ。
 でも、それが具体的にどんな風に回っているかなんて、ソルは知らなかった。村では博識なマグワルト氏を父に持つシェリーだって、多分聞かされていない。モーネはそれを一体、どこで知ったのだろう。
 
「僕はヒーセントなんて絶対認めない。ソルも、いい加減そんなクズ野郎になりたいなんて夢は捨てて!」

「それは……もうとっくに諦めてるから……」

「ねえ、モーネ、落ち着いて。クズ野郎とか、そんな汚い言葉、モーネには似合わないよ。ソル兄のことだって、そんな風に言うの、モーネらしくない……」

 腕に手を掛けたシェリーを、モーネが「うるさい!」と勢いよく振り払う。
 ショックで固まるシェリーを見て、一瞬、モーネも動きを止めたけれども、すぐに顔を背けて「ごめん、帰る」

 その晩、やはり2年前のソルと同じように、無理矢理ご飯を食べて自分の部屋に引っ込んだモーネを、ソルは2年前のモーネと同じように様子を見に行った。
 ベッドの上で三角座りをして、頭を膝の間に埋めているモーネの横に並んで座ると、モーネは少しだけ頭を動かして「ごめん」と呟く。

「……何があったの?教えて?」

「……記憶、思い出した。ほんのわずか、っていうか、本当に一場面、ワンシーンていうの?それだけだけど」

 モーネの思い出した記憶。
 それは、両親がモーネをヒーセントのところに連れて行った時のことだった。
 ヒーセントの治療が高額であることは常識なので、その時点でモーネの両親にはある程度の蓄えがあったのだろう。少なくとも、息子の命をヒーセントに託そうと思えるくらいには。

「……でも、追い出された。お金が足りなかったのか、何なのかはよく分からない。ただ、あいつらは自分達は他の医師や薬師達とは違う、患者を選ぶ側なんだって……今、思えば、それはその人がそう言ってただけかもしれないけど」

 周りにはモーネ達と同じように、治療院から追い出された人たちがたくさんいた。
 その中の、どういう人間かは分からないが、誰かがモーネとその両親に伝えた。ヒーセントと国の繋がり、ヒーセントがどれだけ悪辣な存在かということを。
 そして、「もし力があるなら、西へ行け。かなり遠いがヴィルデ村という小さな村に、腕の良い薬師がいるから、無理を覚悟で訪ねてみろ」と。

「……ソルは、将来、フォードおじいちゃんみたいな薬師になるの?」

 祖父に聞こえないようにという思いからか、モーネの声は小さく、細かった。

「もし、ソルが薬師を目指すなら、僕は全力で応援する。僕のことも、好きなだけ実験台に使っていいよ?」

「実験台だなんて言うなよ。俺はそんなつもりない」

「いいの。役に立ちたいんだ、ソルの」

 だから……と、モーネは小指を立てた。

「約束して。ソルはヒーセントなんかにならないで、もし薬師にはなりたくないって言うなら、そこは尊重するけど。でも、ヒーセントにだけは、なりたいなんて思わないで」

「言われなくても、それはもうなれないから……」

「なれるか、なれないかじゃない。なりたいっていう気持ちを捨てて欲しいんだ」

 部屋の灯りは落とされていて、自分たちを照らすのはソルが念のために持って来た卓上ランプのみ。モーネの顔はよく見えなくて、だからこそ少しだけ弱気な言葉が零れ落ちた。

「……なれるかな。じいちゃんみたいな、薬師に……」

「なれるよ。ソルなら、絶対」
 
 弱気な言葉を拾い上げて、小指が絡む。

「僕が、側で見てる」

***

 あれから1年。
 モーネとシェリーはすぐに仲直りし、翌日には揃って教室へと向かっていた。
 そしてソルは、モーネの前でヒーセントの話題を出したことはない。ヒーセントだけでなく、特別クラスやその生徒たちについても。

 でも、どこかで、それで良いのかと囁く声がする。

 彼らと話さなくてよいのか?ヒーセンスの力について、何も知らないままでよいのか?
 それは、将来、自分が薬師になるなら尚更。自分と違うものについて、自分は知らないままでよいのか?
 この学校を卒業したら、多分もうヒーセントと関わることはない。今だけ、自分が彼らの近くにいられるのは、今この瞬間だけなのだ。
 モーネとの約束を破るつもりはない。
 それでも、どこかで、ソルは待っている。
 その神秘の力がどういうものなのか、自分の目で実際に見るチャンスを。
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