薬師の薬も、さじ加減

ミリ

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第1部 学校~始まり

相手は貴族

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 その日の昼休み、ソルの周りにはソアラと3人の男友達と、もう1人、ソアラと仲の良いメルリーという女子生徒が集まってきた。
 
「えーっと、どこから話せばいいかな。まず、きっかけは、この前のお茶会だったんだけど……」

 ソアラが話し出すと、メルが「はい!私も参加しました!」と右手を上げる。

「そこで、ソアラがユザーン先輩から髪を褒められたのよね」

「そう。それで私、嬉しくなっちゃって、ソル君のことを話しちゃって……」

「いや、ちょっと待って。さっきからユザーン先輩とか、随分親しげだけど、相手、貴族様なんでしょ?そんな風に気軽に名前なんか呼んでいいの?」

 メルリーに倣って、ソルも右手を上げながら尋ねると。

「それは、ねえ」

「ユザーン先輩が、そう呼んでいいよ、って」

 気さくな性格なのだろうか。
 貴族籍を楯に、学校の伝統や先生達も無視できるというのは、なかなか癖のある人物かと思っていたが、意外とそうでもないらしい。

「それで、ソアラは、ソルのことをどんな風に話したの?」

 そう尋ねたのは、中等部からソルと仲良くしているティファール。頭の良いティファールは、話が膠着しかけた時、常に前へと進めてくれる頼もしい友人だ。

「えっとね、話したのは普通のことなの。ソル君のお祖父様が薬師で、ソル君自身も薬草に詳しいから、薬を作ってもらってたんです、って。でも、そうしたらユザーン先輩、すっごい興味を引かれたみたいで……」

「多分、薬師っていう言葉が気になったんだと思うな。薬って具体的にどんな風に作るの、とか、薬草はどうやって選ぶの、とか、そういうことばっかり聞いてたし」

「そうね。1番は、そこだったと思うわ」

 でも、薬についてソアラに答えられることは少ない。
 それで、最後には音を上げたところ、ソルと直接話してみたいと教室まで訪ねてきたのだそうだ。

「そのユザーン先輩?が、そこのドアから覗いた時、クラス中しーんとなってさあ。すっげー空気だったんだぞ~」

「でも、先輩自身は全く気にしてないみたいでさ。ドアのすぐ近くにいた女子を呼び止めて『ねえ、ソル君て、どの子?』って」

「しかも、それがまたカッコ良いのなんのって。あれ、誰だったっけ?声掛けられた子、ポーッとなっちゃって、ろくに返事もできなかったよな?」

「特別クラスで貴族籍って、それだけでもすげーのに。それで更に見た目もいいとか、なあ」

 口々に言い合うのは、ソルとは高等部に入ってから仲良くなった、クロスとサレム。この2人は、どことなく雰囲気が似ていて、入学したばかりの頃はよくお互いに間違えられていた。どちらも、少しぽっちゃりめで笑うと目が細くなる、憎めないタイプだ。

「という訳で、ユザーン先輩は多分、ソル君から薬のことを聞きたいと思ってるんだと思うんだけど……って、あの、ソル君、大丈夫?」

「えっ!?あ、えーと、何が?」

「何がって……何だかボーッとしてるみたいだから……」

「いや!大丈夫!全然、万事オッケー!!」

 ソルはガクガクと頷いて見せたけれども……。

(え、何これ、何これ、本当に現実!?)

    実際には、予想もしていなかった状況に頭がついていかない。え、もしかして俺、異世界に転生した!?

「ソル君……ソル君!!どうしよう……やっぱり急に特別クラスの先輩が来たなんて、ショックだったのかも……」

「しかも、貴族、だものね」

「おい、ソル!戻ってこいよ!!これから皆で、作戦を練るぞ!」

「え?作戦?」

 思わず我に返ったソルが首を傾げると。

「当たり前だろ。まさか何の準備もさせずに、ソルを貴族様の前に放り出すなんて、俺達そんな薄情な友達じゃねーぞ」

「え、ティファール、準備って……」

「ソル君、貴族の方とお話したことある?貴族社会の常識とか、ちゃんと身についてる?」

「え、あ、いや。そういうのは全く……」

「だと思ったぜ!ソル、お前、あの先輩の前で何か粗相でもしてみろ。即、親父様に引っ捕らえられて、晒し首だぞ!」

「さ、晒し首……!?」

「そうよ、ソル君。貴族社会って、本当に礼儀作法に厳しくて。ソアラも私も、貴族でもないのに、小さい頃からそりゃあ仕込まれてきたんだから!」

「俺達みたいなド平民には、到底理解できないようなしきたりが山ほどあるんだぞ!」

「ド平民……しきたり……」

 衝撃的な言葉の数々に、思わずおののいてしまう。
 ソルとしては、ただ相手の知りたいことを話して、自分もいくつかは質問させてもらえたら嬉しいな、というくらいの気持ちだったが、どうやらたったそれだけのことが、貴族相手には命がけらしい。

「だーいじょうぶ。だから、作戦を練るって言ったろ?」

 ティファールの言葉に、ソルの右側からクロス、左側からサレムが肩を組んでくる。そして、正面には任せておいてと胸を叩く、ソアラとメルリーの女子生徒コンビ。

「あのね、私達、ソル君がいつ学校に来られるか分からなかったから」

「それを正直に伝えたら、ユザーン先輩が『では、ソル君のために改めてお茶会を開くことにしよう』って」

「そのお茶会?ってのが、大体1ヶ月後くらいにやるんだってさ。俺にしてみたら、そんな頻繁にお茶会とやらが開かれてるのが信じられないんだけど」

「貴族様にとっては、別に珍しくもないらしいぜ。ユザーン先輩は学校があるからともかく、親父様なんて多分、お茶会が仕事だろうよ」

「本当は領地をしっかり治めるのが仕事だけどね。でも、中にはそういう人もいると思う。残念だけどね」

「とにかく!それで私達、考えたの!」

 ソアラの言葉を合図に、メルリーが机にドンと何かを置いた。えっ、これ何?

「本よ」

「これで1ヶ月間、貴族社会についてお勉強しましょう、ソル君」

「大丈夫、1人でとは言わねえ。俺達も付き合ってやるから」

「難しい問題とか出して、間違ったら容赦なく突っ込んでやるからな!」

「マナーについては女子2人が実地で教えてくれるらしいし、付け焼き刃でもとにかくこの場を乗り切ればいいからさ」

――頑張って、ソル(君)!!

(いや、待って待って!)

 目の前に山と積まれた本を見ながら、ソルは危うくその場を逃げ出しそうになった。
    でも……。

(特別クラスの人とは話してみたいし、それで相手のことを何も知らないまま行くのは、確かに失礼かもしれない……)

    その結果、粗相はともかく、気分を悪くさせてしまうことがあったらそれは本当に申し訳ない。相手は、ソルと話したいと言って、教室までも来てくれたというのに。
 
(勉強も、多分1人では無理だろうけど、今はこんな風に心配してくれる仲間がいるし…)

「…頑張ってみようかな」

   本を1冊、手に取ると。

「おう!頑張れ、ソル!」

「絶対に死ぬなよ!」

「応援してるからな!!」

「……」

    男友達の不穏な応援を受けながら、本を鞄にしまおうとして、ソルは大事なことを思い出した。

(この本、モーネに見つかったら、また喧嘩になりそう……)

   本は鞄の底の底に、秘かにしまわれた。
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