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第1部 学校~始まり
体験
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「それで?どうすれば良いんですか?座るとか、床に寝っ転がるとか……」
「まあまあ、焦るなよ。必要なことはこっちが指示するから、白髪くんは落ち着いて椅子にでも座ってな?」
「お水をお持ちいたしました。どうぞ」
ルートから事情を聞かされているらしい主人は、人数分の水をテーブルに置いて。チラリとルートを見て、次にユザーンに目をやって、最後にもう1度ルートを見てから奥へと引っ込んでいった。
そのカップを持ち上げたユザーンは。
「ふうん……陶器製か……」
「ユザーン様、30分でお願いいたします。もうそろそろ、本当に日が傾いてきます故」
「分かりました。では、早速いきましょうか。白髪くん、こっちへ来て。俺の前に立って」
「……」
モーネは無言で、言われた通り相手の前に立つ。と……。
「ソル君、よかったら近くに来なよ。俺が力を使うところ、側で見たいんだろ?」
――失敗した!僕が言えば良かったのに。先、越されちゃった!
「……ッ、ソル!近くに来て……見てて、いーよっ!」
「あ、はいっ!モーネも、ありがと」
ソルは向かい合う2人の横に立って……、顔を少しだけモーネの方に傾けた。
「大丈夫?怖い?」
「は!?別に、怖い事なんてない……」
「大丈夫だよ。ユザーン先輩は大丈夫。俺は信じてる」
「……」
「先輩、お願いします」
「はいはい。お任せあれ、だよ」
ユザーンは1度、息を吸って吐くと、すっと右手を上げた。
その瞬間、瞳にキラキラとした光の点のようなものが浮かび上がる。それは、どんどん数を増して、濃茶色の虹彩、瞳孔にも夜空の星のように広がっていった。
「ゆっくり呼吸して……そう、特別なことは何もしなくていい……緊張もしない……怒るのもなしだ」
「……ッ」
思わず言い返そうとしたモーネの頭に、右手がかざされる。何か、熱のようなものが辺りの空気を震わせるのを、モーネは確かに感じた。
「最初は頭……順番に下に下がっていこう……」
しばらく頭の位置に留まっていた右手が顔の前に降りてくる。目の前の空気が震えて、手の向こうの景色もまるでレンズを通したようにぐにゃぐにゃだ。
――ソルにも、これが見えてるの?
顔を動かさないまま、ちらりと目を向ける。
ソルは真剣な顔で、ユザーンとモーネを交互に見ていた。
(すごい、真剣。かわいい)
後で、ソルの目からはどんな風に見えていたのか、聞いてみよう。
そう思っているうちに、右手は喉を通って、胸、お腹へと降りていった。そして、そこで一旦、止まって。
「お腹、ちょっと何かあるみたいだ。消化、の辺りかな」
「それは、薬のふく……」
少し離れたところで、シェリーが口を開きかけるのが見えた。
思わず『言っちゃだめ!』と力を込めて睨むと、慌てて口を押さえるシェリー。幸い、ソルもユザーンも、彼の言葉が耳に入った様子はなさそうだ。
ただ……。
(でもお腹、本当に悪いのかも。空気、めちゃくちゃビリビリして熱い、痛い……)
「後は……やっぱり、精気……」
更に下に降りていった手が腰の辺りで止まる。そこは念入りに、背中の方まで手が回されて……。
(ちょっと待って。痛い、痛い、痛い!)
待って、ヒーセントの治療ってこんなに痛いの!?っていうか、これまだ治療じゃなくて、見てるだけだよね?これで治療までするって、これより更に痛かったりするの!?
もう結構です!と言いたくなるのを、必死で堪える。だって、ソルが見ている。
「表はこんな感じかな。次は背中側、後ろを向いて?って、どうしたのさ、白髪くん。怖くて固まってるの?」
「そんなこと、ない……ただ、ちょっと……いたか……っただけ」
実際にはちょっとどころじゃない、もう後ろを向くために身体を動かすのも辛い。手が離れた後でも、内臓がビリビリしびれている感じで、もう座り込んでしまいたいくらいなのに……。
「痛い?そんなこと、あるのかい?」
ユザーンは眉をひそめた。
「ヒーセンスの力は普通の人には感じられない。そう書物には書いてあるんだけどね。何か特殊な例なのかな」
「モーネは、退魄症を経験しています。それも、結構深いところまで。そこから戻った人はそう多くないはずなので、もしかしたら書物とは少し違うのかもしれません……モーネ、大丈夫?」
「だい……じょうぶ……」
このまま続けさせるべきか否か、ソルが迷っているのが見える。
でも、大丈夫。せっかくここまで我慢したのだから、最後までソルのお願いを叶えてあげたい。
掠れた声でもう1度「大丈夫」と重ねると、ソルはまだ迷っている様子ながらも小さく頷いた。
そして、ユザーンは「なるほどね」と口角を上げて。
「君のそういうところが好きだよ、ソル君。考察力があって賢い、加えて信念もある。さすがは俺の同志だ」
「……!!」
――好きって言った!……僕も言いたくて……言えないのに……。
身体の痛みが少し薄らいで、代わりに心が痛くなってくる。
今の“好き”は一体、どういう意味なんだろう。
(単に人間としての好き?それしかあり得ないよね。だって、この人、男だし。ソルに対して恋愛感情の好きとか、あり得ないよね?)
痛みとぼんやり感で、自分からは動けないモーネに、若干苛立った様子で、ユザーンが後ろに回る。
そのまま、さっきと同じように背中に手をかざし始め、その手がやはり腰の辺りまで来た時。
「いあーあ゛あ゛ぁ゛ぁ゛っ!」
ソルのことばかり考え過ぎて、全く構えていなかった。
そこに突然訪れた激痛は表側で感じたものの比ではなく、モーネは思わず声を上げて膝をつく。
「モーネ!大丈夫!」
ソルが慌てて抱き留めてくれる感覚。――ああ、かっこ悪い……。
――でも、あったかい……僕も、本当に、好き……。
「まあまあ、焦るなよ。必要なことはこっちが指示するから、白髪くんは落ち着いて椅子にでも座ってな?」
「お水をお持ちいたしました。どうぞ」
ルートから事情を聞かされているらしい主人は、人数分の水をテーブルに置いて。チラリとルートを見て、次にユザーンに目をやって、最後にもう1度ルートを見てから奥へと引っ込んでいった。
そのカップを持ち上げたユザーンは。
「ふうん……陶器製か……」
「ユザーン様、30分でお願いいたします。もうそろそろ、本当に日が傾いてきます故」
「分かりました。では、早速いきましょうか。白髪くん、こっちへ来て。俺の前に立って」
「……」
モーネは無言で、言われた通り相手の前に立つ。と……。
「ソル君、よかったら近くに来なよ。俺が力を使うところ、側で見たいんだろ?」
――失敗した!僕が言えば良かったのに。先、越されちゃった!
「……ッ、ソル!近くに来て……見てて、いーよっ!」
「あ、はいっ!モーネも、ありがと」
ソルは向かい合う2人の横に立って……、顔を少しだけモーネの方に傾けた。
「大丈夫?怖い?」
「は!?別に、怖い事なんてない……」
「大丈夫だよ。ユザーン先輩は大丈夫。俺は信じてる」
「……」
「先輩、お願いします」
「はいはい。お任せあれ、だよ」
ユザーンは1度、息を吸って吐くと、すっと右手を上げた。
その瞬間、瞳にキラキラとした光の点のようなものが浮かび上がる。それは、どんどん数を増して、濃茶色の虹彩、瞳孔にも夜空の星のように広がっていった。
「ゆっくり呼吸して……そう、特別なことは何もしなくていい……緊張もしない……怒るのもなしだ」
「……ッ」
思わず言い返そうとしたモーネの頭に、右手がかざされる。何か、熱のようなものが辺りの空気を震わせるのを、モーネは確かに感じた。
「最初は頭……順番に下に下がっていこう……」
しばらく頭の位置に留まっていた右手が顔の前に降りてくる。目の前の空気が震えて、手の向こうの景色もまるでレンズを通したようにぐにゃぐにゃだ。
――ソルにも、これが見えてるの?
顔を動かさないまま、ちらりと目を向ける。
ソルは真剣な顔で、ユザーンとモーネを交互に見ていた。
(すごい、真剣。かわいい)
後で、ソルの目からはどんな風に見えていたのか、聞いてみよう。
そう思っているうちに、右手は喉を通って、胸、お腹へと降りていった。そして、そこで一旦、止まって。
「お腹、ちょっと何かあるみたいだ。消化、の辺りかな」
「それは、薬のふく……」
少し離れたところで、シェリーが口を開きかけるのが見えた。
思わず『言っちゃだめ!』と力を込めて睨むと、慌てて口を押さえるシェリー。幸い、ソルもユザーンも、彼の言葉が耳に入った様子はなさそうだ。
ただ……。
(でもお腹、本当に悪いのかも。空気、めちゃくちゃビリビリして熱い、痛い……)
「後は……やっぱり、精気……」
更に下に降りていった手が腰の辺りで止まる。そこは念入りに、背中の方まで手が回されて……。
(ちょっと待って。痛い、痛い、痛い!)
待って、ヒーセントの治療ってこんなに痛いの!?っていうか、これまだ治療じゃなくて、見てるだけだよね?これで治療までするって、これより更に痛かったりするの!?
もう結構です!と言いたくなるのを、必死で堪える。だって、ソルが見ている。
「表はこんな感じかな。次は背中側、後ろを向いて?って、どうしたのさ、白髪くん。怖くて固まってるの?」
「そんなこと、ない……ただ、ちょっと……いたか……っただけ」
実際にはちょっとどころじゃない、もう後ろを向くために身体を動かすのも辛い。手が離れた後でも、内臓がビリビリしびれている感じで、もう座り込んでしまいたいくらいなのに……。
「痛い?そんなこと、あるのかい?」
ユザーンは眉をひそめた。
「ヒーセンスの力は普通の人には感じられない。そう書物には書いてあるんだけどね。何か特殊な例なのかな」
「モーネは、退魄症を経験しています。それも、結構深いところまで。そこから戻った人はそう多くないはずなので、もしかしたら書物とは少し違うのかもしれません……モーネ、大丈夫?」
「だい……じょうぶ……」
このまま続けさせるべきか否か、ソルが迷っているのが見える。
でも、大丈夫。せっかくここまで我慢したのだから、最後までソルのお願いを叶えてあげたい。
掠れた声でもう1度「大丈夫」と重ねると、ソルはまだ迷っている様子ながらも小さく頷いた。
そして、ユザーンは「なるほどね」と口角を上げて。
「君のそういうところが好きだよ、ソル君。考察力があって賢い、加えて信念もある。さすがは俺の同志だ」
「……!!」
――好きって言った!……僕も言いたくて……言えないのに……。
身体の痛みが少し薄らいで、代わりに心が痛くなってくる。
今の“好き”は一体、どういう意味なんだろう。
(単に人間としての好き?それしかあり得ないよね。だって、この人、男だし。ソルに対して恋愛感情の好きとか、あり得ないよね?)
痛みとぼんやり感で、自分からは動けないモーネに、若干苛立った様子で、ユザーンが後ろに回る。
そのまま、さっきと同じように背中に手をかざし始め、その手がやはり腰の辺りまで来た時。
「いあーあ゛あ゛ぁ゛ぁ゛っ!」
ソルのことばかり考え過ぎて、全く構えていなかった。
そこに突然訪れた激痛は表側で感じたものの比ではなく、モーネは思わず声を上げて膝をつく。
「モーネ!大丈夫!」
ソルが慌てて抱き留めてくれる感覚。――ああ、かっこ悪い……。
――でも、あったかい……僕も、本当に、好き……。
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