薬師の薬も、さじ加減

ミリ

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第2部 魔獣 救護所編

王城

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 サスイル皇国の柵が壊れ、国に魔獣が流れ込んできた。
 その報告が届いた瞬間、王城は騒然となったが、同時に政務に携わる者達にはまた別の思いも生まれる。それは「ついに来たか」と……。
 
「だから、言ったのだ!サスイル皇国が自国側に柵を作ると言い出した時、既にこうなる予感はしていた。それまでの他の国々と同様、頃合いを見て魔獣を送り込み、我々をも攻め落とすつもりだったに違いない!」

 1番に口火を切ったのは、5大治療院を始めとした国の医事を司る医技官大臣、ヒロノア。
 それを諫めたのは文官大臣のノームウェルで。
 
「口を慎まれよ、ヒロノア。あなたの言っていることは、皇国が意識的に柵を壊して魔獣を差し向けたというのも同じこと。真偽の分からぬうちに、そのような発言をしたことが伝われば、それこそ皇国から物言いがつきますぞ」

「ノームウェルの言う通り。それよりも、今は援軍を送ることが第一だ。ルードヴィル辺境伯の文によれば、魔獣には伯爵家の私設兵団だけではなく、特別国境警備隊も総出で対応しておるようだが、数が多すぎて制圧できぬと。また、魔獣の一部には爪から瘴気を出し、切り裂いた場所から腐らせていくものもいると書かれておる。至急、援護と救護を送らねば」

「しかし、武官大臣。我が国には、魔力者が生まれなくなって久しい。魔獣に対抗できる力を持つ者はおらず、装備も限られております」

「そもそも、魔獣がそんなにも多く出ていること自体がおかしいではないか!いかにサルとはいえど、町中を埋め尽くすほどの数だなど、皇国の魔力者が力を使い、国中のサル型魔獣をおびき寄せているのであろう!」

「ですから、医技官大臣はどうか口を慎んでいただきたく……」

「それは文官大臣も同じこと!装備がないなど、そんなことは私とて分かっておる!だが、放っておくわけにはいくまい。このままでは、国全土が魔獣に冒されことになる。そうなればどっちみち皇国がしゃしゃり出てくるぞ!」

「皆々様、どうか落ち着いて下さい。武官大臣も仰りたいことは分かるが、少々言葉と勢いが過ぎまするぞ」

 柔らかく皆を窘め、場をまとめたのは宰相ナード。文官、武官、医技官の3大臣の上に立つ、政務の最高位に着く人物だ。
 表向きは当然、国王の補佐という立ち位置だが、実際には重要な政策の大半は彼が立案、施行に関わっており、世襲制で国王となったマリフォルド8世より頭脳、実行力、リーダーシップの面でも勝っていると言わざるを得ない。
 そんな彼の願いはただ1つ、マリフォルド王国の平和と繁栄に尽きるのだが……。

「陛下、皇国側が魔獣を引き受けるに当たっては、我が国に条件が与えられました。我々がそれを守っている限り、皇国が突如、魔獣を送り込んでくるとは私には思えぬのですが……」

「条件……反乱の火種を始末せよ、というあれか……」

 マリフォルド8世の言葉に、執政室の空気が重くなる。
 文官大臣も、医技官大臣も、普段は自ら騎士団の先頭に立って訓練を行う勇猛果敢な武官大臣すらも、口をつぐんで視線を彷徨わせることしかできない。
 宰相ナードも一瞬目を伏せたが、内心の思いを押し隠してもう1度顔を上げた。

「いかにも。我が国は先王の時代から、亡命と称して皇国より送り込まれる反勢力を秘密裏に処理して参りました。20年前、最後の魔力者がこの世を去り、魔獣に関して皇国の力を頼らざるを得なくなった時、それを条件とする旨が改めて約定とされております」

「仕方のないことだ。条件をのまなければ、我が国は皇国に攻め入られるか、魔獣によって内側から食い尽くされるかのどちらかだった……」

「仰る通りでございます。そして裏を返せば、皇国がそれを条件としてきたのは、彼の国に反乱の火種が尽きぬということ。それを周囲に知られず先んじて潰すために、我が国は必要であったということであります。それは今も同じでございましょう」

「つまり、皇国がわざと柵を壊した可能性は低いということですね」

 文官大臣の言葉に、ナードは「その通り」と頷いた。

「まずは皇国の真意を質すための使者を送ることに。もし年数が経って朽ち落ちたということであれば、約定に則り、至急新たな柵を建立して頂くよう願い出ねばなりませぬ」

「うむ。宰相ナード、そなたに任せる」

「陛下、ルードヴィル卿の方はいかがいたしますか。まさか、このまま何もしないというわけには……」

「うむ……」

 武官大臣の言葉に、腕組みをしたマリフォルド8世がチラリとナードを見る。
 ナードは心得たように小さく頭を下げ。

「武官大臣、イリアド。あなたの仰ることは尤もです。確かにこのままという訳にはいかない。すぐに王国騎士団から何部隊か選んで、ルードヴィル卿の応援に向かわせましょう。ただし……」

 宰相ナードは前に身を乗り出し、代わりに声を小さくした。

「そうは言っても、やはり皇国の考えは我々には計り知れぬところがあります。真意の分かるまでは国の大事にせず、他の貴族諸侯や国民達には伏せる方針で参りましょう」

「フン、確かに。偽の噂を流して浮き足だったところを叩いてくるのもまた、皇国の常套手段だからな」

 医技官大臣の皮肉に、今度は誰も反対しない。
 ただナードがパンと手を打って、その場の閉会を合図すると。

「陛下、ルードヴィル卿への返信ですが、手紙を受けた者が、運んできた郵便係を応接室で休ませているとのことです」

「何?郵便係?早馬ではないのか?」

「町の混乱が激しく、早馬が捕まらなかったとのこと。郵便係が馬を飛ばして、2日かけて辿り着いたとのことにございます」

「何と……しかし、郵便係なら町に戻るのだろう。すぐに応援を送る旨、書き送って伝えよ」

 言い置いて、執政室を出て行こうとしたマリフォルド8世はふとその足を止めた。

「ナード……最後に皇国から亡命者が来たのはいつの話であったか。そなた、覚えておるか?」

「はい。確か7年、いや、もう8年になるかと思います。現皇弟殿下のご子息で、12、3才くらいの子供であったと思いますが……」

「12、3才か……」

 国王は頭を横に振って「むごいものだな」と呟くと、そのまま今度こそ部屋を後にした。

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