薬師の薬も、さじ加減

ミリ

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第2部 魔獣 救護所編

手紙

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   どうやらこの場所は世界から断絶されかかっているらしい。
 そんな風に思ってしまう話を聞いたからだろうか。
 その翌日、郵便係からモーネの手紙を渡されたソルは、思わず声を上げてその封書を抱きしめてしまった。

「手紙!手紙が来たー!!」

「何?手紙だと!」

「良かった!ここ、まだ他の町と繋がってたんだね!」

「早くあけよ、早く!」

 他のメンバーも勇気付けられたらしい。中身は見ないから開けて、開けてとせっつかれて、その場で封筒を開けようとした時。

「あの……実は、人を探しているのですが……」

 サザフィーと名乗った、郵便係がおずおずと口を開いた。

「この救護所にシェリーという名前の男の子は運ばれていませんか?年は10代半ばくらいで、髪は普通に茶色くて……今、あなたが受け取った手紙と同じヴィルデ村に縁のある子だと思うんですが……」

「シェリーを知ってるんですか!」

 ソルは弾かれたように聞き返した。

「僕も探してるんです!あ、僕はシェリーの幼馴染みで、ヴィルデ村のソルと言います。シェリーとは、こんなことになってから全然連絡が取れなくて、僕も家族も……村中が心配しています!」

「……ということは、ここにもいないんですね……」

 サザフィーは少しだけ落胆したような、それでいてどこかホッとしたような顔を見せた。

「僕は、彼が手紙を出しに来た時に知り合いました。ただ丁度その時、魔獣の暴動が起きて……。最初は2人で僕の家に避難していたのですが、僕が事態を知らせに王都へ行っている間に家が壊されてしまったらしく、帰った時には姿が見えなくなっていたんです。でも、魔獣にやられた血の痕とか、その、亡くなってる遺体みたいなものはなかったので……無事に逃げてくれてるとよいのですが……」

「あの、その時、もう1人、ティファールという男の子がいませんでしたか?シェリーとはよく一緒に行動していたはずの、僕の友人なのですが……」

「シェリー君は、うちに避難しながら、誰か先輩?を探しているみたいでした。多分、その子がティファール君だと思うのですが、僕は彼には会っていなくて……」

 サザフィーは職業柄、あちこちの避難所へ行く度にシェリーのことを聞いて回っているらしい。
 そして今後はティファールのことも併せて探してみると約束してくれた。

「でも、少しでも名前が聞けたことで勇気付けられました。手紙も、本当にありがとうございます。お仕事、頑張って下さい」

「お互いにね。遠くて危険な中、ヴィルデ村や北の町から来てくれた薬師さん達がいるって分かって、こっちも勇気をもらえたよ。今は皆大変だけど、お互いに頑張ろう」

 いや、自分はまだ薬師ではない……なんて、そんなこと今はどうでも良い。大事な部分は、きっとそこじゃない。

「ちゃんと繋がっていましたね。外と」

 ソルの零した言葉に、メンバー全員が大きく頷いた。

***

『ソル、お元気ですか?身体を壊したり、怪我をしたりしていませんか?こちらは、フォードおじいちゃんを始め、シェンバーさん夫妻も、ヨロイお婆ちゃんも皆、変わりなく元気です。皆、ソルのことを気にかけていて、元気に戻ってきてくれることだけを願っています』


 モーネの手紙は、そんな当たり障りのない文章で始まっていた。

『また、ソルの助けになるように、国史学の先生が魔獣の特性について調べられる範囲で調べて、まとめてくれました。中には毒を持っているものもいて、その解毒薬についても、入手できた資料に書かれているものは全て書き写しました。フォードおじいちゃんにも見せたところ、中でそちらでは手に入らない薬草があれば、何としても手配するから知らせて欲しいとのことです。』

 同封された解毒薬のレシピ、各魔獣の特徴などを見て、薬師のクローディアとモリオンが「すごーい!」と歓声を上げる。

「ねえ、ソル君!すごいよ、これ!材料から作り方まで、必要なことが全部書いてある!」

「普通に勉強用の資料として欲しいレベルだ。後で、時間ができたら写させてもらってもいいかな?」

「はい、これは救護所全員のためのものなので……」

 頷きながら、ソルはそのまとめられた資料よりも手紙本文の方が気になっていた。
 続きに目を落とすと。

『何か必要なものがあったら、いつでも連絡下さい。今は郵便も届きにくいみたいですが、ルートさんは定期的にシェリーを探しにそちらに行っているので、ソルの救護所にもちょくちょく顔を出してくれるとのことです。では、ソル自身もくれぐれも身体に気を付けて。モーネより』

 最初から最後まで、きれいにまとめられた文章。何もおかしなところなんてない。
 なのに。

――何でだろう。何かが引っかかる。何か、モーネの書いた手紙じゃないみたいだ……。

 筆跡は間違いなくモーネのもの。目が良くなってきたというだけあって、以前よりも大きさの揃った文字が真っ直ぐに並んでいる。

「ソルー、また魔獣の暴れ出す時間が来る前に、この薬草が救護所にあるかどうか調べてみようぜー!」

「うん、リフォルテ。今、行くよ」

――やっぱり気のせいかも。モーネから手紙をもらうことなんてほとんどなかったし、手紙だとちょっとよそ行きの言葉になっちゃうこと、自分だってきっとあるし……。

 手紙を薬師用エプロンのポケットに丁寧にしまうと、ソルは慌てて皆の後を追いかけた。

 
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