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第2部 魔獣 救護所編
変身準備
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「私、1度でいいから、ソル君にお化粧してみたかったんだよねー。色白で肌きれいだし、目とか口元とか化粧映えしそう!」
ソルを控え室の椅子に座らせたアリドネの口調は、いつもよりウキウキと楽しそうだ。
しかもそんなアリドネの様子に、布団から半身を起こしたクローディアが。
「姐さん、ずるい~。私も、一緒にやりたい~」
「あんたはダメ!しっかり寝て、早く元気になってちょうだい。そしたら、仲間に入れてあげるから」
「待って下さい。クローディアさんが帰ってきたら、僕がお化粧する必要はないのでは?」
聞くところによると、この2人は元々家が近く仲が良いらしい。
救護所が増設され、他のスタッフ達が奥へと移って行った時も、この2人はお互いがいれば大丈夫だと信じて、ここに残ったのだそうだ。
幼馴染みだけあって、何かあった時の息はピッタリ。
今だってアリドネがソルのために置いた椅子は、控え所の隅で横になっているクローディアからも見えるよう、角度が微妙に調節されている。いらぬ気遣いなのだが。
「さっ、時間がないからちゃっちゃといくよー。あとクローディアは、風邪を伝染さないためにこれ以上のお喋りは禁止ね」
大きさの違う3本のブラシが、次々と肌の上を滑っていく。それに抵抗することなく、ソルがその身を委ねているのは、それまでに散々抵抗し尽くした結果だ。
自分は絶対女装なんてしない、したところですぐにバレるに決まっている。ソルは全力を込めてそう言ったが、スタッフメンバーは全員「そんなことはない!」と反論。タローとレッディは他意無くソルなら女装してもいけるのではないかと思っているようだが、モリオンとリフォルテはここで負けたら、自分たちにお鉢が回ってくるのではないかと、別の意味で必死だった。
「ソル君ならいける!化粧の名手、アリドネに任せておけば、間違いなく可愛い女子になれる!!」
「そうだよ、ソル!女の子の格好なんて、普通じゃできない体験だし、これを逃したら一生チャンスないかもよ?」
別にチャンスなんてなくていい。普通の男子は一生、女子の真似事なんてしないのだ。そう主張したソルに、兄貴肌のモリオンは一瞬ほだされそうになり。
「そんなに嫌がってるのを、無理矢理やらせるのは可哀想だよな……よし、しょうがないから、俺が代わりにやろう……」
身長180cm越え、しかもひょろではなく、がっしりと筋肉のついた体躯の持ち主である彼の言葉に、場は一瞬微妙な空気に包まれた。
そんな状態から「では、お願いします」と言えるほどの図々しさは、ソルにはない。そもそも、自分がしたくないことを人にやらせるという行為自体が、いかがなものか。
そのため、こうして大人しく椅子に座っているのだが……。
「……アリドネさん。顔は、お化粧で何とかなるとして、その……体型とか、は……」
「大丈夫よ!出るところを出す仕掛けはばっちりだし、後はウエストとか、ソル君は……何て言ったらいいか、その、細いから……」
「……はっきり言って下さっていいですよ。農村出身だけど、他の人達みたく常に畑仕事をしているわけじゃないから“もやし”なんです」
「そんな、もやしだなんて……」
何となく既視感のあるやり取りをしながら、顔の上ではブラシがくるくると踊る。
完成してからのお楽しみだと鏡を取り上げられたソルは、全体像が分からないまま、ただその動きの滑らかさに感心していた。
「はい、メイク完成―!次は、洋服ね!」
ノリノリで準備をしていくアリドネの鞄から出て来たのは、真っ白なワンピース。落ち着いた女性らしいデザインのそのワンピースは、しかしソルも含めてこの場の誰も、本人が着ているところを見たことがない。
「家が壊れて避難するとき、ふと目に入って、気付いたら鞄に入れてたの。救護所じゃスカートを穿く機会はないから、本当に持ってるだけだけど、こういう服があるっていうだけで何か元気が出てくるんだよね」
目の前で広げられた、腕の部分は肩から上腕部にかけてふんわりと膨らんでいて、それが先の方へ行くにつれて細くぴったりとしたものになっていく。ウエストはベルトできゅっと絞られていて、果たして男の自分が入るのか心配になるレベルだ。そして逆にスカスカに余裕のある胸の部分には、「これをつけてね」と、柔らかな素材のパッドを渡されて……。
――女性、こっわ!もうどんなに綺麗な人を見ても、何にも信じられない!!
スカート部分の丈はくるぶし近くまであり、しかも無闇に膨らんではいないのでホッとする。それでも少し出ている足を隠すのは、薄いグレーのストッキング。学校では指定のものがあって皆、履いているが、村ではすぐにひっかけてダメにしてしまうので“上流階級のお召し物”として憧れられているアイテムだ。まさか、自分がそれを身に着ける日がくるなんて、夢にも思わなかった。
「さっ、着てみて、着てみて。それから最後の仕上げに、髪をセットするからね」
「髪を……セット?」
――できるの?この長さで?
「そのメイクとワンピースならサイドを流してピンで留めるだけで、ちゃんと女の子になるから大丈夫」
最早、何かの呪文にしか聞こえない。
半分くらい意味の分からないアリドネの言葉を聞きながら、ソルは服を持ってついたての後ろへと逃げ込んだ。
ソルを控え室の椅子に座らせたアリドネの口調は、いつもよりウキウキと楽しそうだ。
しかもそんなアリドネの様子に、布団から半身を起こしたクローディアが。
「姐さん、ずるい~。私も、一緒にやりたい~」
「あんたはダメ!しっかり寝て、早く元気になってちょうだい。そしたら、仲間に入れてあげるから」
「待って下さい。クローディアさんが帰ってきたら、僕がお化粧する必要はないのでは?」
聞くところによると、この2人は元々家が近く仲が良いらしい。
救護所が増設され、他のスタッフ達が奥へと移って行った時も、この2人はお互いがいれば大丈夫だと信じて、ここに残ったのだそうだ。
幼馴染みだけあって、何かあった時の息はピッタリ。
今だってアリドネがソルのために置いた椅子は、控え所の隅で横になっているクローディアからも見えるよう、角度が微妙に調節されている。いらぬ気遣いなのだが。
「さっ、時間がないからちゃっちゃといくよー。あとクローディアは、風邪を伝染さないためにこれ以上のお喋りは禁止ね」
大きさの違う3本のブラシが、次々と肌の上を滑っていく。それに抵抗することなく、ソルがその身を委ねているのは、それまでに散々抵抗し尽くした結果だ。
自分は絶対女装なんてしない、したところですぐにバレるに決まっている。ソルは全力を込めてそう言ったが、スタッフメンバーは全員「そんなことはない!」と反論。タローとレッディは他意無くソルなら女装してもいけるのではないかと思っているようだが、モリオンとリフォルテはここで負けたら、自分たちにお鉢が回ってくるのではないかと、別の意味で必死だった。
「ソル君ならいける!化粧の名手、アリドネに任せておけば、間違いなく可愛い女子になれる!!」
「そうだよ、ソル!女の子の格好なんて、普通じゃできない体験だし、これを逃したら一生チャンスないかもよ?」
別にチャンスなんてなくていい。普通の男子は一生、女子の真似事なんてしないのだ。そう主張したソルに、兄貴肌のモリオンは一瞬ほだされそうになり。
「そんなに嫌がってるのを、無理矢理やらせるのは可哀想だよな……よし、しょうがないから、俺が代わりにやろう……」
身長180cm越え、しかもひょろではなく、がっしりと筋肉のついた体躯の持ち主である彼の言葉に、場は一瞬微妙な空気に包まれた。
そんな状態から「では、お願いします」と言えるほどの図々しさは、ソルにはない。そもそも、自分がしたくないことを人にやらせるという行為自体が、いかがなものか。
そのため、こうして大人しく椅子に座っているのだが……。
「……アリドネさん。顔は、お化粧で何とかなるとして、その……体型とか、は……」
「大丈夫よ!出るところを出す仕掛けはばっちりだし、後はウエストとか、ソル君は……何て言ったらいいか、その、細いから……」
「……はっきり言って下さっていいですよ。農村出身だけど、他の人達みたく常に畑仕事をしているわけじゃないから“もやし”なんです」
「そんな、もやしだなんて……」
何となく既視感のあるやり取りをしながら、顔の上ではブラシがくるくると踊る。
完成してからのお楽しみだと鏡を取り上げられたソルは、全体像が分からないまま、ただその動きの滑らかさに感心していた。
「はい、メイク完成―!次は、洋服ね!」
ノリノリで準備をしていくアリドネの鞄から出て来たのは、真っ白なワンピース。落ち着いた女性らしいデザインのそのワンピースは、しかしソルも含めてこの場の誰も、本人が着ているところを見たことがない。
「家が壊れて避難するとき、ふと目に入って、気付いたら鞄に入れてたの。救護所じゃスカートを穿く機会はないから、本当に持ってるだけだけど、こういう服があるっていうだけで何か元気が出てくるんだよね」
目の前で広げられた、腕の部分は肩から上腕部にかけてふんわりと膨らんでいて、それが先の方へ行くにつれて細くぴったりとしたものになっていく。ウエストはベルトできゅっと絞られていて、果たして男の自分が入るのか心配になるレベルだ。そして逆にスカスカに余裕のある胸の部分には、「これをつけてね」と、柔らかな素材のパッドを渡されて……。
――女性、こっわ!もうどんなに綺麗な人を見ても、何にも信じられない!!
スカート部分の丈はくるぶし近くまであり、しかも無闇に膨らんではいないのでホッとする。それでも少し出ている足を隠すのは、薄いグレーのストッキング。学校では指定のものがあって皆、履いているが、村ではすぐにひっかけてダメにしてしまうので“上流階級のお召し物”として憧れられているアイテムだ。まさか、自分がそれを身に着ける日がくるなんて、夢にも思わなかった。
「さっ、着てみて、着てみて。それから最後の仕上げに、髪をセットするからね」
「髪を……セット?」
――できるの?この長さで?
「そのメイクとワンピースならサイドを流してピンで留めるだけで、ちゃんと女の子になるから大丈夫」
最早、何かの呪文にしか聞こえない。
半分くらい意味の分からないアリドネの言葉を聞きながら、ソルは服を持ってついたての後ろへと逃げ込んだ。
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