薬師の薬も、さじ加減

ミリ

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第2部 魔獣 救護所編

再び、終わりと始まり【第2部 了】

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「ありがとうございます!ありがとうございます!このご恩は一生忘れません!」

「いえ、我々は上から言われて来ただけですので」

 救護所最後の重傷者を30分ほどで治したヒーセントは、熱く礼を言うその騎士に対して徹底的にクールだった。

「……お礼を言われて、嬉しくないのかな」

 もう杖を使わなくてもよくなったシェリーが、小声でソルの服を引っ張る。
 ソルも少しだけ身体を寄せた状態で。

「ヒーセントは特別を作らないんだって。国から決められてるらしいよ?」

「それにしても……もうちょっと愛想よくてもいいと思うんだけど……」

「ソルさん!と言いましたか。ここの負傷者は以上で全てでしょうか」

「は、はいっ!今、責任者を呼んできます!」

 慌てて控え所に入り、タローを探す。

「すみません!タロー先生、いますか?ヒーセントの方が、全ての方の治療を終えられたそうです!」

「タローなら、外に行ったぞ?ちょっと風に当たってくるって」

「ありがとうございます!行ってみます!」

 医師のレッディにお礼を言って、テントの外へ。
 タローの姿はすぐに見つかった。

「先生、ヒーセントの方達が治療を終えられたそうです」

「そうですか……すぐに行きます」

 テントに向かって数歩、歩きかけたタローは1度ソルを振り返って。

「救護所もいよいよ終了ですね」

「はい……お世話になりました」

「こちらこそ。ここに来てくれて、本当にありがとう」

 忙しい、慢性的な寝不足に悩まされる日々だったけれども、得たものもまた多かったと思う。
 救護所自体は、勿論もう1度やりたいとは思わないけど、一緒に働く仲間がいるという環境はまたいつか加わってみたい。
 そうして、タローがテントに戻って行くのを感慨深く見送っていると……。

「ソル君」

「うわあああっ、先輩!びっくりした……」

「いや、いくら何でも今のでそこまで驚くのは、ぼんやりし過ぎだろう……」

 ユザーンは可笑しそうに笑った。
 が、本来ならユザーンはこんな所にいるべきではなく……。

「今、タロー先生が中に行きましたよ。ヒーセントの方、最後の患者さんの治療が終わったって。先輩、監督者として行かなくて良いんですか?」

「ただ“終わった”っていう報告なんて、別に僕が聞いてる必要もないよ。現場のトップは別にいるから、彼に任せておけばいい」

「はあ……」

「それより、僕達はもっと有意義な話をしよう」

 ユザーンが手にした紙をひらひらと振った。

「昨日、王都からの早馬が届けてくれた。父が5大治療院の取りまとめ役になったって」

「お父様が!それはおめでとうございます!」

「ついでに、微力ながら僕自身もその補佐を任されることになってね」

「えっ!先輩も……すごい!!」

「そこで、だ。僕は父に頼んで、弟君がもう1度ヒーセントのテストを受けられるようにしてもらおうと思う。ソル君には、弟君がそれを承諾するよう導いてもらいたい」

――うわ……いきなり、すごい難問……。

「……弟は、とにかくヒーセントを憎んでいるので……頑張ってはみますが……」

「憎んでいるからこそ、本当は力を持っていたのに誤魔化して逃げたのかもしれない。或いは、君が話していた“遅れていた成長”の中に、この能力が含まれていた……僕は、こっちが有力だと思うね」

 それはソルも薄らと考えていたことだ。
 そして、それを確かめるには、もう1度テストを受けてもらうしかない。

「あ、でも……それで、もしモーネに力があるって分かったら……」

――モーネは家を出て行っちゃう?

(どうしよう、それは望んでない……)

 ズキリと痛んだ胸に、自分で驚いた。

「その!モーネは、将来もずっと村に残りたいって言ってるって!シェリーが言ってたので……」

「僕がどうかした?」

 またもや後ろから声を掛けられ、飛び上がりそうになる。
 胸を押さえて振り向くと、そこにはニッコリと音のしそうな笑顔を浮かべたシェリーがいて。

「……お話中、すみません。ソル兄、向こうでモリオンさんが探してるよ?何か、記憶に関わる?薬草がどーたらこーたらって」

「分かった!すぐ行く!」

 コクコクと頷いたソルの耳元で。

「後のことは、また後で考えればいいさ」

 ユザーンの低い囁き声。
 しかし、それに返事をする暇もなく、ソルの腕を引っ張ったシェリーが。

「失礼します!ソル兄、早くっ!!」

「ちょ、引っ張るな!あと、先輩にそんな態度とったら駄目……」

「ちゃんと、失礼しますって言った!何なら、もう1回、言う?」

「回数の問題じゃない!!」

 取り敢えず、ユザーンに頭を下げてテントに入る。
 その後ろ姿を見ながら、ユザーンもまた歩き始めて……。

「……家から出したくないって?」

 目の前の、共通の目的に向かって手を組んだとはいえ、更にその先にある目的地は全く違う。
 慌てて言い訳をし出したソルの顔を思い出すうちに、ユザーンの眉間には知らず皺が寄っていった。

「絶対、出してやる……」



 それから1週間の後、クレスロード周辺に立てられた救護所は全て片付けられ、メンバーはそれぞれの場所に帰ることとなった。

【第2部 了】
 →第3部 皇国動乱編へ続く
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