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嵐の国の章
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ディアンが旅の準備を急いだおかげで、二日後にはすべての準備が整った。
ちょうどそのころにはアリアウェットとオルウェンの短期講習も目処が付いていた。
さて、その日の夕方のこと。
「おい、街に飲みに行くぞ」
ダンカンの誘いにディアンはゲンナリとした。
「お前には俺の呪いについては説明したよな」
ディアンにとって、街で飲むというのは、女性共から嫌悪の眼差しを向けられるということに他ならない。
しかしダンカンは余裕の表情を見せている。
「任せとけ! 貴様の呪いなんぞ、俺が打ち払ってやる」
続けてダンカンは兵士長に振り向いた。
「ちょっとこいつと街に遊びに行ってくる。アリアウェット殿とぷーさんには失礼のないようにな。くれぐれもこの城には誰も入れぬよう申し付けるぞ」
ダンカンは街の繁華街から路地を幾つか曲がった奥まった場所にある店にディアンを案内した。
その店でディアンはダンカンの言葉が真実であったことに驚愕する。
「お前ら、俺が気持ち悪くないのか?」
「全然! お兄さんかっこいいよ!」
そう、店のキレイどころの誰一人としてディアンに侮蔑の視線を向ける者はいなかったのだ。
これは久しぶりの天国。
ディアンは事情が飲み込めないままに、二人の娘に囲まれると、久しぶりの感触が両側から迫るのを堪能する。
そんな彼にダンカンは豪快に笑いかけた。
「どうだ、ワールストームにも良い店はあるだろう」
ディアンは右隣の娘にちょっかいを出してみる。
娘は「いやん」と、扇情的に身を捩って返す。
「えー、私にはぁ?」
左隣の娘がおねだりをするように、ディアンの太腿に手を置く。
「おっと、その先は危険地帯だぜ!」
ディアンは久々に猛った。
「よっしゃ、行くぞディアン、勝負だ!」
宣戦布告と同時にダンカンは服を脱ぎ始めた。
「望むところよ!」
ダンカンの挑発に応えるかのように、ディアンも威勢よく服を脱ぎ始めたのだ。
彼ら二人はその店で他の客たちを巻き込みながら乱痴気を粋まで極めた。
なぜ誰もディアンに侮蔑の目線を送らなかったのか。
実はこの店はいわゆるおかまばーだったのである。
さて、おっさんどもが乱痴気を繰り広げている時と同じ頃のこと。
目の前に突然現れた存在に門番は緊張を走らせながら、名代である兵士長の元に走って行った。
兵士長は突然の来訪者の姿に、とっさに声が出なかった。
「兵士長殿、ご無沙汰しております。ダンカン様はいらっしゃいますか?」
兵士長は自らの背に冷や汗が流れるのがはっきりとわかった。
しかし平静を装いなんとか儀礼を返す。
「いえ、我が主は不在であります」
「なら、オルウェン様はいらっしゃるかしら?」
兵士長は一瞬言葉に詰まる。
しかし目の前の存在に彼が逆らうことはこの国の儀礼上許されない。
「オルウェン様はご在宅です」
「ならば、オルウェン様にだけでもご挨拶をさせてくださいな」
兵士長は全身から汗を吹き出した。
主の命令はこの城に誰も入れぬようにというもの。
しかし目の前の存在はこの国において、現在は主を上回る地位の者とされている。
ここで主の命を頑なに守れば、その後に主の立場を悪くしてしまうのは明らかである。
ならば主の怒りを一身に受けようとも、この者を通すべきなのではないか。
彼のダンカンに対する忠誠心は、後者を選択させた。
「かしこまりました。オルウェン様のもとにご案内いたします」
「オルウェン様、ご無沙汰しております」
アリアウェットとぷーさんとの三人で「お豆ロシアンルーレット」を楽しんでいたオルウェンは、背後から突然掛けられた声に身体を固くさせた。
しかし彼は努めて冷静に、感情を表情に乗せないように、ゆっくりと声の主に振り向いた。
「こちらこそご無沙汰しております。本日はどうされましたか? ルナル様」
訪問者は現王の側室であり、処刑姫の教師でもある魔術師であった。
「近くに参ったものですからね。ところで、そちらの可愛らしい娘さんと、獣族さんかしら? 私にご紹介いただけますか?」
ルナルはその黒髪と赤い瞳を輝かせながら、オルウェンに微笑みかける。
すると彼はつられるかのように反射的に返事をしてしまった。
「あ、はい、こちらはアリアウェット様とぷーさんです」
ルナルの奇妙な存在感を敏感に察知し、アリアウェットは彼女を訝しみ、ぷーさんを自身の背後に隠す。
しかしルナルは場の雰囲気を制圧したまま、アリアウェットの後ろに隠れるぷーさんのところに歩み周ってきた。
「可愛らしいわ。撫でて差し上げたいくらい」
「ちょっと待って!」
ルナルはアリアウェットの静止を待たずに、ぷーさんの頭をそっとひとなでする。
同時に彼女とぷーさんはアリアウェットたちの目の前から突然消え去ってしまった。
「今帰ったぞ野郎ども!」
ディアンとダンカンが肩をくみあいながら城に帰ってきた。
そこにアリアウェットとオルウェンが息せき切って走り寄って来る。
「おうおう、出迎えご苦労」
ディアンの軽口を、アリアウェットの炎嵐が遮る。
同じくしてダンカンには、オルウェンが掴みかかる。
そして二人は同時に声を荒らげた。
「ぷーさんが消えちゃった!」
ちょうどそのころにはアリアウェットとオルウェンの短期講習も目処が付いていた。
さて、その日の夕方のこと。
「おい、街に飲みに行くぞ」
ダンカンの誘いにディアンはゲンナリとした。
「お前には俺の呪いについては説明したよな」
ディアンにとって、街で飲むというのは、女性共から嫌悪の眼差しを向けられるということに他ならない。
しかしダンカンは余裕の表情を見せている。
「任せとけ! 貴様の呪いなんぞ、俺が打ち払ってやる」
続けてダンカンは兵士長に振り向いた。
「ちょっとこいつと街に遊びに行ってくる。アリアウェット殿とぷーさんには失礼のないようにな。くれぐれもこの城には誰も入れぬよう申し付けるぞ」
ダンカンは街の繁華街から路地を幾つか曲がった奥まった場所にある店にディアンを案内した。
その店でディアンはダンカンの言葉が真実であったことに驚愕する。
「お前ら、俺が気持ち悪くないのか?」
「全然! お兄さんかっこいいよ!」
そう、店のキレイどころの誰一人としてディアンに侮蔑の視線を向ける者はいなかったのだ。
これは久しぶりの天国。
ディアンは事情が飲み込めないままに、二人の娘に囲まれると、久しぶりの感触が両側から迫るのを堪能する。
そんな彼にダンカンは豪快に笑いかけた。
「どうだ、ワールストームにも良い店はあるだろう」
ディアンは右隣の娘にちょっかいを出してみる。
娘は「いやん」と、扇情的に身を捩って返す。
「えー、私にはぁ?」
左隣の娘がおねだりをするように、ディアンの太腿に手を置く。
「おっと、その先は危険地帯だぜ!」
ディアンは久々に猛った。
「よっしゃ、行くぞディアン、勝負だ!」
宣戦布告と同時にダンカンは服を脱ぎ始めた。
「望むところよ!」
ダンカンの挑発に応えるかのように、ディアンも威勢よく服を脱ぎ始めたのだ。
彼ら二人はその店で他の客たちを巻き込みながら乱痴気を粋まで極めた。
なぜ誰もディアンに侮蔑の目線を送らなかったのか。
実はこの店はいわゆるおかまばーだったのである。
さて、おっさんどもが乱痴気を繰り広げている時と同じ頃のこと。
目の前に突然現れた存在に門番は緊張を走らせながら、名代である兵士長の元に走って行った。
兵士長は突然の来訪者の姿に、とっさに声が出なかった。
「兵士長殿、ご無沙汰しております。ダンカン様はいらっしゃいますか?」
兵士長は自らの背に冷や汗が流れるのがはっきりとわかった。
しかし平静を装いなんとか儀礼を返す。
「いえ、我が主は不在であります」
「なら、オルウェン様はいらっしゃるかしら?」
兵士長は一瞬言葉に詰まる。
しかし目の前の存在に彼が逆らうことはこの国の儀礼上許されない。
「オルウェン様はご在宅です」
「ならば、オルウェン様にだけでもご挨拶をさせてくださいな」
兵士長は全身から汗を吹き出した。
主の命令はこの城に誰も入れぬようにというもの。
しかし目の前の存在はこの国において、現在は主を上回る地位の者とされている。
ここで主の命を頑なに守れば、その後に主の立場を悪くしてしまうのは明らかである。
ならば主の怒りを一身に受けようとも、この者を通すべきなのではないか。
彼のダンカンに対する忠誠心は、後者を選択させた。
「かしこまりました。オルウェン様のもとにご案内いたします」
「オルウェン様、ご無沙汰しております」
アリアウェットとぷーさんとの三人で「お豆ロシアンルーレット」を楽しんでいたオルウェンは、背後から突然掛けられた声に身体を固くさせた。
しかし彼は努めて冷静に、感情を表情に乗せないように、ゆっくりと声の主に振り向いた。
「こちらこそご無沙汰しております。本日はどうされましたか? ルナル様」
訪問者は現王の側室であり、処刑姫の教師でもある魔術師であった。
「近くに参ったものですからね。ところで、そちらの可愛らしい娘さんと、獣族さんかしら? 私にご紹介いただけますか?」
ルナルはその黒髪と赤い瞳を輝かせながら、オルウェンに微笑みかける。
すると彼はつられるかのように反射的に返事をしてしまった。
「あ、はい、こちらはアリアウェット様とぷーさんです」
ルナルの奇妙な存在感を敏感に察知し、アリアウェットは彼女を訝しみ、ぷーさんを自身の背後に隠す。
しかしルナルは場の雰囲気を制圧したまま、アリアウェットの後ろに隠れるぷーさんのところに歩み周ってきた。
「可愛らしいわ。撫でて差し上げたいくらい」
「ちょっと待って!」
ルナルはアリアウェットの静止を待たずに、ぷーさんの頭をそっとひとなでする。
同時に彼女とぷーさんはアリアウェットたちの目の前から突然消え去ってしまった。
「今帰ったぞ野郎ども!」
ディアンとダンカンが肩をくみあいながら城に帰ってきた。
そこにアリアウェットとオルウェンが息せき切って走り寄って来る。
「おうおう、出迎えご苦労」
ディアンの軽口を、アリアウェットの炎嵐が遮る。
同じくしてダンカンには、オルウェンが掴みかかる。
そして二人は同時に声を荒らげた。
「ぷーさんが消えちゃった!」
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