嫌われ隊長が綴る呪われ姫の冒険譚

halsan

文字の大きさ
68 / 147
嵐の国の章

決起

しおりを挟む
「お父様! どこをほっつき歩いてらっしゃったのですか!」

 パニックになっているアリアウェットとダンカンに見せたこともない剣幕で掴みかかるオルウェンの背後から、兵士長が悔しそうにダンカンに状況を報告した。

「申し訳ございません、ディアン様、ダンカン様。夕刻にルナル様が突然お見えになられ、オルウェン殿に挨拶をとの名目で城内に立ち入り、そのままぷーさん殿と消え去りました」
 兵士長の報告にダンカンはやられたという表情となり、ディアンは眉をひそめた。

「ルナル殿とは?」
「現王の側室であり、処刑姫の教師だ」
 ディアンの問いに吐き捨てるように答えたダンカンは、苦々しげな表情で兵士長に詰め寄った。
「俺は誰も城に入れるなと、貴様に命じたはずだ」

 しかしダンカンの怒気を兵士長は直立不動で正面から受け止めた。
「申し訳ございません。全ては私の判断ミスであります」
 その後も彼はひたすら自身のミスだと繰り返すだけだ。

 その覚悟を決めた表情に、ダンカンはため息で答えた。
「そうか、貴様なりに考えた上の結果ということだな」
 続けてダンカンはディアンに振り向いた。
「かくなる上は、全てを話そう」

「決起するだと!」
 驚きのディアンに構わずダンカンは進めていく。
「ああ、実は準備は殆ど終わっていてな。後はタイミングを図るだけだったのだが、運がよいのか悪いのか、このタイミングでの聖水牛騒動だ」

 彼らの計画は次の通りである。
 まず、王城でダンカン側、すなわち反王派の貴族が決起宣言を行う。
 その後、彼らは速やかにダンカンの砦方面に撤退。
 そこでダンカン軍と合流し、追ってくるであろう王軍を迎撃する。

 迎撃後は返す刀でそのまま再度王城に進軍し、王と処刑姫を逮捕。
 続けて緊急裁判を開き、王、処刑姫、そして反乱の首謀者であるダンカン将軍も同時に裁く。
 最後は王位継承権順に従い、オルウェンが新王に即位するというものだ。

「この計画を王側に漏らさないために、女魔術師に対しても平時と同様の対応を取る必要があった。こやつがルナルを城に通したのは、そうした判断からだ。すまなかったな。ディアン、アリアウェット殿」

「女魔術師は、まだ街に潜んでいるのではないか?」
 ディアンの疑問は的を射ている。

 通常転移テレポートの到達範囲は、馬車で一日程度の距離までに限られている。
 砦から王城までは数日の距離がある。
 なので、途中の街や村での中継が必要となるであろう。
 また、転移はかなりの魔力を消耗する。
 この魔法は本来、魔術師が自身の身を守るための最終手段として用いられるものなのだ。

 なのでディアンは、まだ女魔術師が近くにいるのではないかと推測したのだ。
 しかしダンカンはあきらめの表情でかぶりを振った。
女魔術師ルナルの魔力は異常なのだ、残念ながら多分今頃は既に王城に到達しているであろう」

「なら私達も王城に行きましょう!」
 そう訴えるアリアウェットをなだめながら、ディアンは現在の状況を分析した。

 ここから飛翔フライでアリアウェットとともに王城に向かい、魔法を乱打してぷーさんを取り返してくることは可能ではある。
 しかしその後が続かない。

 そんなことをすればダンカンの計画が台無しになってしまう。
 最悪の場合、処刑姫と女魔術師はダンカンを「聖水牛隠匿」の罪で告発する恐れもある。
 ダンカンが罪人だと告発された後での決起では意味が無い。
 当然ながら王側はダンカンが告発をあいまいにするために私利私欲で決起したと喧伝するだろう。
 そうなると王派と反王派のバランスが崩れてしまう恐れは十分に考えられる。

 やはりディアンにとって気になるのは女魔術師の存在だ。
 彼やアリアウェットが遅れを取ることはなかろうが、ダンカンたちにとっては十分に脅威であろう。

「ぷーさんが聖水牛だと喧伝されたらアウトだな」
 ディアンはダンカンに決起への協力を申し出た。

 反王派の決起後、ダンカン軍が王軍を迎え撃つタイミングでディアンとアリアウェットはピンポイントで女魔術師を遊撃し、ぷーさんを救い出す。
 その後、可能であれば王と処刑姫の身柄も確保し、ダンカンに引き渡す。

「それは心強い」
 ディアンの計画にダンカンは感謝を述べた。
 処刑姫の目的が聖水牛の入手なら、ぷーさんがすぐにどうこうされることはないだろう。
 しかしディアンが立案した計画は、後に彼へ後悔をもたらすものになる。
 
「姫様、よく聞け」
 ディアンはアリアウェットの両肩を掴みながら、ぷーさん救出計画を説明した。
 まずは反王派の決起を待ち、進軍に歩調を合わせながらぷーさんの奪還と女魔術師の無力化を図る。
 アリアウェットは今すぐぷーさんを救いにいかないことに不満気であったが、ぷーさんは王城で大事にされているだろうからというディアンの説得に、しぶしぶ頷いた。
  
 ダンカンは反王派の魔術師と魔法で連絡を取り、王城に詰めている仲間に「明日の朝決起」と伝えさせた。
 続けて砦の兵たちにも進軍の準備をさせる。
 底無の湿地から帰還中の兵たちには、そのまま砦の守備隊として街に残るよう、早馬で指示を出す。

「出発!」
 翌朝、ダンカン軍は砦を出発した。
 オルウェンはその両脇をディアンとアリアウェットに固められながら、軍の最後尾に位置を取っている。

 一方の女魔術師は一回目の転移で、砦内に設けた魔法陣に飛んでいた。
 そこで何が起きたかわからないような表情できゅーきゅー鳴いている牛のぬいぐるみに睡眠スリープを唱え、おとなしくさせてから胸に抱え直す。

 そこから彼女は苦もなく転移を何度も重ねていく。
 砦から中継地の魔法陣へ。
 中継地から王都外れの魔法陣へ。
 そしてもう一度。
 最後に彼女は王城内の自身の居室に、ぬいぐるみとともに到着した。

 彼女はその足で処刑姫の謁見部屋に向かった。
 さらなる「恐怖」の流布に胸を躍らせながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...