嫌われ隊長が綴る呪われ姫の冒険譚

halsan

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嵐の国の章

出発

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「ディアン、さっさと呪いを解きに行きましょう」

 アリアウェットはなんとか自分を取り戻した。
 ディアンには、彼女のワールストームに長居をしたくないという気持ちが痛いほど伝わってくる。 

 すると二人の部屋をダンカンが訪ねてきた。
「ディアン、これを持っていけ。さすがに本名では今後も問題があるだろうからな」

 ダンカンがディアンに手渡したのは、偽名で発行されたワールストーム冒険者ギルド発行の冒険者証だ。
 そこに記載された名前は「ディアンソン」「アリアリット」と、互いの呼び方はそのままに、それっぽいものに変更されている。

 ダンカンはワールストーム東を守る領主から、ワールフレイムの動向についての情報も手に入れてくれていた。
 ワールフレイムは数年前の国王暗殺事件後、複数の王位継承権者が互いに対立し、内戦状態が続いているという。
  国の四方に構えられた砦は既に機能しておらず、それぞれを別々の王位継承権者が占拠しているそうだ。

 また、各継承者が競うように行った召喚魔法によりワールフレイムに現れた魔族らの暗躍により、領土の荒廃が進んでいるという。
 民は王国への納税を拒否し、本来は王国へ税金として納められるはずの金で、冒険者を街の自警団として雇っているらしい。
 その結果、ワールフレイムには冒険者が集まり、冒険者ギルドが大きな影響力を持っているという。
 そうしたことから、ワールフレイムには旅の冒険者を名乗って出向くのが最も都合がいいとのことだった。

 ダンカンは礼だと言って、新たな馬車も用意してくれた。
 それはこれまでの馬車よりも堅牢で、サイズも一回り大きい一般的な冒険者のパーティが利用するものだ。
 馬もこれまでの二頭立てから四頭立てとなっている。
 これでそれなりの装備をディアンとアリアウェットが整えれば、二人は一端いっぱしの冒険者に見えるだろう。
 
 その後二人はアリアウェットの胸当てが処刑姫の鞭で壊されてしまったこともあり、装備を新しく買い直すために冒険者の店を訪れた。

 まず二人はお揃いの軽くて非常に動きやすい革鎧を選んだ。
 すると一人の女性店員が、鎖と綿布で作られた鎖胸当セパレートチェインをアリアウェットにお勧めしてきた。
「灼熱の荒野は暑いですから、普段は通気性の良いこちらのほうが快適ですよ」
 と、女性店員は積極的に商品をお勧めしてくる。

 アリアウェットは勧められるがままに、試着室で鎖胸当を身につけてみた。
 これは革製の胸当てと違い、最初から乳房の形に細い鎖が編み込まれ、裏地に綿布を止めたもの。
 なので鎖の隙間から空気が通り、汗もそこから出て行く仕組みとなっている。

 アリアウェットは、二つのカップを両の乳房に当てると、背中でボタンを留めてみる。
 次にカップが下にずり落ちないように、カップとカップの中央から伸びたリボンを首に回し、ネックレスのように首の裏から吊るす。

「うん、快適だわ」

 試着室から出てきたアリアウェットは、店員に「似合うかな?」と訪ねてみた。
 すると店員は、
「周りの方々の反応をご覧くださいな」と、我が意を得たばかりに微笑み返した。
 店内の男性陣の視線が、全て彼女、正確には彼女の胸元に集まっているのがアリアウェットにも分かった。
「どう、ディアン?」
 ディアンの前でしなって見せたアリアウェットに彼はぶっきらぼうに答えた。
「ふん、涼しそうでいいな。しっかし、本当に無駄にデカイな」
 あまりにデリカシーのない表現に、アリアウェットはむくれ、店員はつい吹き出してしまった。
 
 次に冒険者然とするために、二人は武器も選択してみる。
 しかし戦闘に武器を使用しない二人にとって、それらの選択は正直なところ適当なもので構わない。
 アリアは先端が尖った三十センチほどの針短剣ニードルダガーを選び、ディアンはなぜか本来は補助武器である折刃剣ソードブレイカーを選んだ。
 ディアンのそれは五十センチほどの長さで、片方に刃、片方に相手の剣を捕らえるためのギザギザがついているナタのような武器。

 二人はそれぞれをそれぞれの腰につけてみる。
「なんかそれっぽいね」
「それなりにらしく見えるな」
 アリアウェットとディアンは、二人で互いの格好を見比べて笑いあった。
 そう、二人は久しぶりに笑った。

 その翌朝、二人は東に向かって旅立っていった。

 オルウェンは二人を見送りながら、父が彼にそっと教えてくれたことを思い出していた。

 アリアウェットの本名は「アリアウェット・ワールフラッド」
 彼女はワールフラッド王国の正当な後継者である。
 ミドルネームがないということは、直系の王位継承権者であることを示している。
 つまり彼女は魔王の姫様だということだ。

 父はオルウェンに向けてニヤリと笑い、息子は父の言葉に顔を真赤に染めてしまう。

「他国の姫を妻にめとるのは何の問題もないからな。国交こっこうのことを考えれば、むしろそのほうがありがたい。まあ、頑張れや」

 彼は誓った。
 必ずアリアウェットに釣り合うような男になることを。
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