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灼熱の荒野の章
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「さて、どうしたものか」
ディアンは考える。
目的地であるワールフレイムの状況については、ダンカンのお陰である程度は把握できたが、肝心な「解呪師」の情報がまるでない。
彼ら二人は今、ワールストームの東に設置された砦に連なる街に滞在している。
ここからすぐ東が灼熱の荒野であることから、この街は冒険者たちの活気であふれかえっている。
何故なら、灼熱の荒野は「四大未開地」の中で最も金目のものが採取できる土地だからだ。
それは例えば貴重な鉱物であり、棲息するモンスター達から採取できる各種原料など。
「一攫千金を狙うなら灼熱の荒野に向かえ」
と言われるのは、あながち嘘ではない。
但し、この土地では水と食料の採取はほぼ期待できない。
食用の植物だけはやたら豊富だった底無湿地とは、このあたりが大きく異なるのだ。
そのため、水や食料を失った冒険者共が野盗となり、他の冒険者達を襲うのが灼熱の荒野では日常となっている。
「人が人を殺す場所」
それが灼熱の荒野の、もうひとつの異名となっている。
無事冒険者として活動を始めたアリアウェットとディアンは、冒険者の店に設けられた食堂の一席で、情報をさり気なく集めていた。
冒険者への依頼に「解呪師」の単語が含まれていないか。
冒険者達の会話の中に、それが含まれていないか。
だが、実際に聞き耳を立てて情報を集めているのはディアンだけで、アリアウェットは目の前の料理を睨みつけている。
何なの! この甘酸っぱくて香ばしくてジューシーなものは!
確か親衛隊長殿は、肉団子の甘酢あんと注文されていましたね。
獣の肉を挽いて丸めたものを油で揚げてから、とろりとしたスープを掛けていますね。
肉団子を一個食べた後、団子を凝視しながら上気しているアリアウェットをあきれた表情で横目に見ながら、ディアンは引き続き聞き耳を立てている。
するとそこに突然若者の叫び声が届いた。
「いきなり何しやがる!」
ディアンはやれやれと肩を落としてしまう。
彼が耳にしたいのは。そんな叫び声とかではなくて、もっと有益な情報であるからだ。
そして横目でため息をつきながら見送った。
アリアウェットが声の主へと勇んで向かっていくところを。
「女の子になんてことするのよ!」
アリアウェットは叫びながら、若者がかばっていた娘を抱きしめた。
いきなりの乱入に兵士共は一瞬戸惑うも、兵士の一人は若者に対して恫喝を続ける。
「ここをどこだと思ってるんだ!」
それに対し、若者に代わってアリアウェットが兵士に恫喝をし返した。
「ここは肉団子のお店でしょ!」
彼女から発せられた予想外の回答に兵士達の顔はひきつった。
「この小娘が、バカにしているのか!」
「あー面倒くせえ」
ディアンは独り言を呟きながら、アリアウェットの方に向かうと、彼女の「ここは肉団子のお店」宣言でからかわれたと激高している兵達に頭を下げた。
「悪い、そいつらは俺の連れなんだ。勘弁してやってくれ」
突然現れた男に兵士達は怪訝そうな表情を浮かべるも、直後に彼らは直立不動の姿勢となり、ディアンに次々と敬礼を始めたのだ。
そんな兵達に戸惑うディアンに、そのうちの一人が興奮しながら彼に確認を求めた。
「恐れながら、もしやディアンソン様ではいらっしゃいませんか?」
途端に周囲が兵たちを中心にどよめきに包まれる。
その変化に驚くディアンに、周囲から次々と声が挙がっていく。
「なに、ディアンソン様だと!」
「先日の戦いで、オルウェン王を陰ながら支えたお方か!」
「俺は戦場でディアンソン様に肉体強化の魔法を唱えていただいたぞ!」
「俺なんかダンカン元将軍とディアンソン様が暴れていた店で、ともに暴れたぞ!」
「ディアンソン様、ぜひ握手をお願い致します!」
一躍アイドルとなるディアン。
但し男性限定ではあるが。
彼は名前を変えていてもらっていてよかったと、心の中でダンカンに感謝した。
騒ぎの中心にいた若者も、何故かディアンソン様握手会の列に並んでいる。
アリアウェットは既に騒ぎに興味をなくし、庇った娘を自分たちの席に連れて行ってしまった。
結局成り行き上、握手会終了後にディアンは若者の話を聞く羽目になってしまった。
ディアンは考える。
目的地であるワールフレイムの状況については、ダンカンのお陰である程度は把握できたが、肝心な「解呪師」の情報がまるでない。
彼ら二人は今、ワールストームの東に設置された砦に連なる街に滞在している。
ここからすぐ東が灼熱の荒野であることから、この街は冒険者たちの活気であふれかえっている。
何故なら、灼熱の荒野は「四大未開地」の中で最も金目のものが採取できる土地だからだ。
それは例えば貴重な鉱物であり、棲息するモンスター達から採取できる各種原料など。
「一攫千金を狙うなら灼熱の荒野に向かえ」
と言われるのは、あながち嘘ではない。
但し、この土地では水と食料の採取はほぼ期待できない。
食用の植物だけはやたら豊富だった底無湿地とは、このあたりが大きく異なるのだ。
そのため、水や食料を失った冒険者共が野盗となり、他の冒険者達を襲うのが灼熱の荒野では日常となっている。
「人が人を殺す場所」
それが灼熱の荒野の、もうひとつの異名となっている。
無事冒険者として活動を始めたアリアウェットとディアンは、冒険者の店に設けられた食堂の一席で、情報をさり気なく集めていた。
冒険者への依頼に「解呪師」の単語が含まれていないか。
冒険者達の会話の中に、それが含まれていないか。
だが、実際に聞き耳を立てて情報を集めているのはディアンだけで、アリアウェットは目の前の料理を睨みつけている。
何なの! この甘酸っぱくて香ばしくてジューシーなものは!
確か親衛隊長殿は、肉団子の甘酢あんと注文されていましたね。
獣の肉を挽いて丸めたものを油で揚げてから、とろりとしたスープを掛けていますね。
肉団子を一個食べた後、団子を凝視しながら上気しているアリアウェットをあきれた表情で横目に見ながら、ディアンは引き続き聞き耳を立てている。
するとそこに突然若者の叫び声が届いた。
「いきなり何しやがる!」
ディアンはやれやれと肩を落としてしまう。
彼が耳にしたいのは。そんな叫び声とかではなくて、もっと有益な情報であるからだ。
そして横目でため息をつきながら見送った。
アリアウェットが声の主へと勇んで向かっていくところを。
「女の子になんてことするのよ!」
アリアウェットは叫びながら、若者がかばっていた娘を抱きしめた。
いきなりの乱入に兵士共は一瞬戸惑うも、兵士の一人は若者に対して恫喝を続ける。
「ここをどこだと思ってるんだ!」
それに対し、若者に代わってアリアウェットが兵士に恫喝をし返した。
「ここは肉団子のお店でしょ!」
彼女から発せられた予想外の回答に兵士達の顔はひきつった。
「この小娘が、バカにしているのか!」
「あー面倒くせえ」
ディアンは独り言を呟きながら、アリアウェットの方に向かうと、彼女の「ここは肉団子のお店」宣言でからかわれたと激高している兵達に頭を下げた。
「悪い、そいつらは俺の連れなんだ。勘弁してやってくれ」
突然現れた男に兵士達は怪訝そうな表情を浮かべるも、直後に彼らは直立不動の姿勢となり、ディアンに次々と敬礼を始めたのだ。
そんな兵達に戸惑うディアンに、そのうちの一人が興奮しながら彼に確認を求めた。
「恐れながら、もしやディアンソン様ではいらっしゃいませんか?」
途端に周囲が兵たちを中心にどよめきに包まれる。
その変化に驚くディアンに、周囲から次々と声が挙がっていく。
「なに、ディアンソン様だと!」
「先日の戦いで、オルウェン王を陰ながら支えたお方か!」
「俺は戦場でディアンソン様に肉体強化の魔法を唱えていただいたぞ!」
「俺なんかダンカン元将軍とディアンソン様が暴れていた店で、ともに暴れたぞ!」
「ディアンソン様、ぜひ握手をお願い致します!」
一躍アイドルとなるディアン。
但し男性限定ではあるが。
彼は名前を変えていてもらっていてよかったと、心の中でダンカンに感謝した。
騒ぎの中心にいた若者も、何故かディアンソン様握手会の列に並んでいる。
アリアウェットは既に騒ぎに興味をなくし、庇った娘を自分たちの席に連れて行ってしまった。
結局成り行き上、握手会終了後にディアンは若者の話を聞く羽目になってしまった。
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