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人外の章
竜王vs単眼巨人
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シケリアとケンの二人は蜥蜴人の集落前に住まいを構え、集落を他の魔物たちから守った。
ケンの穏やかな性格と、シケリアの奔放な笑顔は、すぐに他の蜥蜴人達にもなじみ、蜥蜴人の幼生たちも、二人の近くが一番安全だとばかりに、自然と二人の住まいに集まってくるようになった。
ところがある日。脅威が集落を襲う。
それは定期的にやってくる災害にも例えられる竜王の来訪である。
そう、竜王は、シケリアとケンからカモっていたのではない。
彼は蜥蜴人達からカモっていたのだ。
それはカモるという表現では笑い飛ばせないほど苛烈に。
「貢物を持ってこい」
集落中央へ周辺の建屋を踏みつぶしながら傍若無人に舞い降りた竜王は、いつものように蜥蜴人達を脅した。
しかしその日はいつもと、どうも勝手が違う。
まず、竜王の目の前に、小さな魔族の少女が胸を張って立ちはだかった。
彼女は竜王にびしっと指を向けると、こう言い放った。
「図体がでかくて強いだけの化物のくせに、威張ってんじゃないわよ!」
彼女はその後、竜王の尾の一撃で簡単に吹き飛ばされた。
しかし彼女が放った台詞は、蜥蜴人達の誰もが竜王に向かって言ってみたい言葉だった。
そう、彼女は全蜥蜴人の意思を代弁してみせたのだ。
「乱暴はいけないよ」
「ほう、巨人か。面白い」
続けて現れた単眼巨人に向けて、竜王は楽しそうに鼻を鳴らした。
巨人の体躯は竜王と向かい合っても遜色ない。
まず両雄はがっぷり四つに組みあった。
互いの身体が互いの圧力によってきしむ。
首相撲はほぼ互角。
だがそこまで。
竜王はその姿勢から一旦単眼巨人を突き飛ばすと、その顔面に向けて炎のブレスを放ったのだ。
思わず単眼巨人は両手で顔を押さえひざを折ってしまう。
そこに竜王は容赦なく電撃牢を放ち、単眼巨人の全身を電撃で縛った。
超再生を誇る単眼巨人も、絶え間なく続く電撃からのダメージには勝てず、そのまま倒れこんでしまった。
しかし彼らは竜王に「面白い」と言わせることに成功した。
その日の竜王は蜥蜴人達から何も奪わずに立ち去り、以降は蜥蜴人ではなくシケリアとケンに対して貢物を要求するようになった。
蜥蜴人の頃とは比較にならない緩い条件で。
竜王が天災から並の暴君へと変貌したのだ。
いつしか蜥蜴人達は、シケリアを女王様と呼ぶようになった。
それは彼らの留飲を下げた言動だけではなく、その魅力からだろう。
彼女に何の権限もないからこその、純粋な尊称としての女王様なのだ。
こうして今に至る。
「よかったら飯でも食べて行かないか?」
というサラムの誘いに、蜥蜴人の集落がどこにあるのかを知っておきたいと判断したディアンは乗ることにした。
一行はサラムの案内に従い、馬車の車輪が湿地に取られないようにしながら、湿原の奥に進んでいく。
集落は巨大湿地中央から真東に奥深く進んだ、砂漠の境界に近い場所に形成されていた。
そこは人間が簡単に迷い込むような場所ではない。
これならば、これまでワールストームやワールフラッドに単眼巨人の目撃報告がなかったことも納得できる。
その後一行に食事が振る舞われた。
それは湿地で取れる葉野菜や果物、獣や魚の肉が中心の質素なもの。
蜥蜴人は雑食で、基本的に何でも食べることができるそうだ。
シケリアの食事は魚と肉が中心。
ちなみに魚はシケリア自身が、肉は足代わりの犬達が食べる。
また、驚くべきことに、ケンは草食であった。
彼は目の前に積まれた湿原の野草をうまそうにモリモリと口に運んでいる。
料理のお返しにと、一行はゴールデンカピバラの肉をいくつか解凍して、彼らに提供した。
アリアウェットとシルフェーヌは、エリシャの店で補充してきた焼き菓子をシケリアや蜥蜴人達に振る舞った。
ディアンとガルバーンは豆を二十キロほど挽くと、熱した岩盤の上で、巨大な魔目のクレープを焼いて見せた。
これに湿地産の果物をたっぷりと添え、果実酒を一本丸々振ってかければ、巨人サイズのデザートが出来上がりである。
蜥蜴人達にとって、この日は竜王からの搾取から解放され、ゴールデンカピバラという最上の肉を味わうという、最良の日となった。
食事終了後、一行は蜥蜴人の集落から北西に針路を向けた。
サラムは彼らにこう助言した。
「最近北が騒々しいから気をつけろ」
シケリアは彼らにこう手を振った。
「また遊んであげるから、美味しいものを持って必ずまた遊びに来るのよ!」
ケンハ彼らに再び頭を下げた。
「この恩はいつかきっと返すよ」
そんな彼らの見送りを背に、彼らは彼らの国へと帰還する。
まず向かうはワールフラッド砦の街。
ケンの穏やかな性格と、シケリアの奔放な笑顔は、すぐに他の蜥蜴人達にもなじみ、蜥蜴人の幼生たちも、二人の近くが一番安全だとばかりに、自然と二人の住まいに集まってくるようになった。
ところがある日。脅威が集落を襲う。
それは定期的にやってくる災害にも例えられる竜王の来訪である。
そう、竜王は、シケリアとケンからカモっていたのではない。
彼は蜥蜴人達からカモっていたのだ。
それはカモるという表現では笑い飛ばせないほど苛烈に。
「貢物を持ってこい」
集落中央へ周辺の建屋を踏みつぶしながら傍若無人に舞い降りた竜王は、いつものように蜥蜴人達を脅した。
しかしその日はいつもと、どうも勝手が違う。
まず、竜王の目の前に、小さな魔族の少女が胸を張って立ちはだかった。
彼女は竜王にびしっと指を向けると、こう言い放った。
「図体がでかくて強いだけの化物のくせに、威張ってんじゃないわよ!」
彼女はその後、竜王の尾の一撃で簡単に吹き飛ばされた。
しかし彼女が放った台詞は、蜥蜴人達の誰もが竜王に向かって言ってみたい言葉だった。
そう、彼女は全蜥蜴人の意思を代弁してみせたのだ。
「乱暴はいけないよ」
「ほう、巨人か。面白い」
続けて現れた単眼巨人に向けて、竜王は楽しそうに鼻を鳴らした。
巨人の体躯は竜王と向かい合っても遜色ない。
まず両雄はがっぷり四つに組みあった。
互いの身体が互いの圧力によってきしむ。
首相撲はほぼ互角。
だがそこまで。
竜王はその姿勢から一旦単眼巨人を突き飛ばすと、その顔面に向けて炎のブレスを放ったのだ。
思わず単眼巨人は両手で顔を押さえひざを折ってしまう。
そこに竜王は容赦なく電撃牢を放ち、単眼巨人の全身を電撃で縛った。
超再生を誇る単眼巨人も、絶え間なく続く電撃からのダメージには勝てず、そのまま倒れこんでしまった。
しかし彼らは竜王に「面白い」と言わせることに成功した。
その日の竜王は蜥蜴人達から何も奪わずに立ち去り、以降は蜥蜴人ではなくシケリアとケンに対して貢物を要求するようになった。
蜥蜴人の頃とは比較にならない緩い条件で。
竜王が天災から並の暴君へと変貌したのだ。
いつしか蜥蜴人達は、シケリアを女王様と呼ぶようになった。
それは彼らの留飲を下げた言動だけではなく、その魅力からだろう。
彼女に何の権限もないからこその、純粋な尊称としての女王様なのだ。
こうして今に至る。
「よかったら飯でも食べて行かないか?」
というサラムの誘いに、蜥蜴人の集落がどこにあるのかを知っておきたいと判断したディアンは乗ることにした。
一行はサラムの案内に従い、馬車の車輪が湿地に取られないようにしながら、湿原の奥に進んでいく。
集落は巨大湿地中央から真東に奥深く進んだ、砂漠の境界に近い場所に形成されていた。
そこは人間が簡単に迷い込むような場所ではない。
これならば、これまでワールストームやワールフラッドに単眼巨人の目撃報告がなかったことも納得できる。
その後一行に食事が振る舞われた。
それは湿地で取れる葉野菜や果物、獣や魚の肉が中心の質素なもの。
蜥蜴人は雑食で、基本的に何でも食べることができるそうだ。
シケリアの食事は魚と肉が中心。
ちなみに魚はシケリア自身が、肉は足代わりの犬達が食べる。
また、驚くべきことに、ケンは草食であった。
彼は目の前に積まれた湿原の野草をうまそうにモリモリと口に運んでいる。
料理のお返しにと、一行はゴールデンカピバラの肉をいくつか解凍して、彼らに提供した。
アリアウェットとシルフェーヌは、エリシャの店で補充してきた焼き菓子をシケリアや蜥蜴人達に振る舞った。
ディアンとガルバーンは豆を二十キロほど挽くと、熱した岩盤の上で、巨大な魔目のクレープを焼いて見せた。
これに湿地産の果物をたっぷりと添え、果実酒を一本丸々振ってかければ、巨人サイズのデザートが出来上がりである。
蜥蜴人達にとって、この日は竜王からの搾取から解放され、ゴールデンカピバラという最上の肉を味わうという、最良の日となった。
食事終了後、一行は蜥蜴人の集落から北西に針路を向けた。
サラムは彼らにこう助言した。
「最近北が騒々しいから気をつけろ」
シケリアは彼らにこう手を振った。
「また遊んであげるから、美味しいものを持って必ずまた遊びに来るのよ!」
ケンハ彼らに再び頭を下げた。
「この恩はいつかきっと返すよ」
そんな彼らの見送りを背に、彼らは彼らの国へと帰還する。
まず向かうはワールフラッド砦の街。
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