嫌われ隊長が綴る呪われ姫の冒険譚

halsan

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帰還の章

再会

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 蜥蜴人の集落を出てから数日後、一行はワールフラッド南の街に到着した。

 一行は馬車の速度を緩めると、、流れに沿って街に入っていく。
「ねえディアン、なんかおかしくない?」
「ああ、妙だな」
 アリアウェットとディアンは、街の雰囲気に違和感を感じとっていた。

 それはなぜか妙に物々しいものだったのだ。
 街道を挟む市場の喧騒も、それは陽気なものではなく、どちらかというと罵り合いのような質の罵声が響いている。

「ガルバーン卿、シルフエーヌ様、とりあえず市中に宿を取りますのでご了解下さい」
「ああ、任せるよ、ディアン」
 彼らはとりあえず、ジルの宿に部屋を取ることにした。
 
「主人、部屋は空いていますか?」
 宿の扉を開くと、ディアンはアリアウェットと兄妹を演じていた時の言葉遣いで宿の受付に向かった。

「あ、いらっしゃいませ。何名様ですか? あっ!」
 受付にいたのは主人ではなく、ジル。
 花が咲くような笑顔をお客様であろう声の主に向けた彼女は、ほんの数十日前に見送っただけなのに、とても懐かしく思える二人を目の当たりにした。

「ディアン様! アリア!」
 ジルは受付の敷居をくぐると、アリアウェットに抱きついた。
「ジル、また泊めてね!」
「当然よ! アリア!」

 続けてジルは、意を決したような表情でディアンにも抱きついた。
「ディアン様もようこそ!」
 当然のことながら、ディアンはジルから伝わる突然の感触に硬直する。

 そんな騒動なのだから、当然宿の主人も何だ何だと、奥から顔を出した。
 父の気配に気づいたジルは、硬直したままのディアンから離れると、見覚えのない二人の男女にも頭を下げた。

「いらっしゃいませ!」
 ガルバーンとシルフェーヌは、硬直したままにやけているディアンに対し、当然のことながら何かを察知する。

「おや、ディアン様、アリア様、おかえりなさいませでよろしいのでしょうか?」
 宿の主人も受付越しに二人に笑顔で話しかけた。

 ここで我に返ったディアンは、咳払いをすると、改めて宿の主人に向かった。
「ええ、これからワールフラッドの王都に帰ろうと思っています。色々と準備もあるので」
 続けてディアンは主人に二泊で二人部屋を二部屋用意するように頼んだ。

「男性二人と、女性二人ですか?」
「いや、私とアリアで一部屋、そこのケダモノ夫婦で一部屋です」
「ディアン、お前、初対面の人間の前でさすがにそれはないだろ?」

 すかさず文句をいうガルバーンと、こうした話題ではすぐにガルバーンの背に隠れてしまうシルフェーヌ。
 そうした動きから察知したのか、主は気を利かせた。
「それでは、ご夫妻のお部屋は、離れの個室をご用意いたしましょう」

 父親の判断にいまいちピンときていない表情のジルには、アリアウェットが懇切丁寧に教えてやった。
「二人のギシアンタイムが、他のお客様に迷惑だからなのよ!」 
「ギシアン?」
「ベッドの上でギシギシあんあんよ!」
 律儀にもアリアウェットは、ディアンから教わった表現をそのままジルに伝えた。

 身も蓋もない言われように、いよいよシルフェーヌはガルバーンの背後で小さくなって隠れてしまう。
 アリアウェットの表現で行為を察したジルも、目のやり場に困り、視線を泳がせてしまった。

 そんなやるせなくなった空気を、宿の主がプロらしくまとめてみせた。 
「わっはっは! お元気でお羨ましいですな」
 主はそう笑い飛ばすと何事もなかったようにディアンに続ける。
「ディアン様とアリア様は、以前のお部屋でよろしいですか?」
「いや、今回は私とアリアもそれぞれ個室にしておこう」

 ガルバーンとシルフェーヌの雰囲気に当てられたのか、それとも、目を泳がせてしまったジルに何かを刺激されたのか、ディアンは突然自分たちは個室にしようと言い出したのだ。

 しかしそれは叶わぬ願い。
「いいえ、私とディアンの二人部屋でいいです」
 バッサリとアリアウェットがディアンの一人部屋提案を否定した。
「だってディアンは一人になったら、無理やり誰かさんを連れ込んで、ギシアンを始めちゃうかもしれないものね」

 先ほどのディアンの硬直で、ディアンとジルの間に何かあると女の勘で素早く気づいたシルフェーヌ。
 さらにジルの髪はディアンがバッグでこだわっていた赤色だと気づく。
 シルフェーヌはディアンの背後にそっと回ると、美しい顔に歪んだ笑みを浮かべた。

「ディアン様はそちらの娘さんがお気に入りのようですわね。どうぞ私達にはお構いなく、お楽しみ下さいませ」
 シルフェーヌからの挑発にディアンは顔を真赤にし、ジルも彼女の嬉しい指摘に頬を染めた。

 こうして、この場はアリアウェットと宿の主以外の四人が公平に辱められることで、無事終結することになる。
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