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帰還の章
政変の予兆
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翌日、ディアンとガルバーンがまず訪れたのは冒険者の店。
そこで受付嬢に銀貨を数枚渡し、最近のワールフラッドについての情報を幾つか手に入れた。
王都からの難民は、やはり東領の街の住民と、その周辺の村の住民たちらしい。
彼らが言うには、東の街一帯は、得体のしれない魔物に占拠されてしまっているとのこと。
ただ、魔物の正体まではわからない。
ではなぜ彼らは難民と化したのか。
それは領主であり、本来は領民を守らなければならないはずのマルムスの長男メルムスが、全軍とその家族を率いて、率先して東領の城から撤退してしまったからだという。
さらにはその無責任な行為を責めたダグラス王に対し、あろうことかメルムスは攻撃を開始したそうだ。
放置された東領の街は魔物の侵攻を受け、自力で逃げられるものは街から逃げ出した。
一方でメルムス軍の侵攻と難民の流入に、王都は大混乱に陥っている。
心優しきダグラス王は、メルムス軍相手には守りに徹する一方で、難民には門戸を開いた。
しかしそれは優しさがもたらす愚策となる。
難民のふりをしたマルムス軍の間諜達は本軍の王都攻撃に合わせるように住民を内部からゲリラ的に攻撃した。
ありとあらゆる卑怯な手段を用いて。
その結果、今度は王都から南の砦へ難民が流入するようになってしまった。
「それからもう一つ」
受付嬢はディアンとガルバーンの真剣な表情を信じ、彼らの耳元で最新の情報を囁いた。
なんとマルムスは、こともあろうにメルムス軍への援軍を準備しているというものだ。
それはダグラス王に対する明らかな裏切り行為である。
「馬鹿どもが」
ガルバーンは歯ぎしりをする。
「これは、マルムスの城に急ぐ必要がありますね」
「ああ、すぐにでも砦の城に向かおう」
ディアンとガルバーンは、準備のために一旦宿に戻ることにした。
さて、そんな男性陣のシリアスな状況を尻目に、女性三人は姦しいこと姦しいこと。
まずはシルフェーヌ。
彼女は前回アリアウェットとジルがドレスを購入した高級店に、いきなりダメ出しを行った。
「こちらのドレスは、街着にはともかく、マルムス卿に脅しをかけるお手伝いをするには、ちょっとラフすぎますわ」
次にジルが案内したのは、これまでジルは店内を覗こうとも思ったことがないお店。
そこはワールフラッド王都随一の高級衣装店の支店だった。
「ここが南の街では最高級のお店と言われてるけど」
ジルは明らかに尻込みをしている。
なぜなら、この店に足を運ぶのは、貴族のマダムとマドモアゼルだけだからだ。
庶民にとっては何の縁もない店なのだ。
ところがシルフェーヌはまだ納得していないような表情を見せている。
そんな彼女の手をアリアウェットが引っ張っていった。
「シルフェ、ここしかないなら仕方がないわ!」
しり込みするジルも不満気なシルフェーヌも、そんなアリアウェットの笑顔に納得し、三人で店の扉を開けた。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなお品をご用意いたしましょうか?」
すぐに品の良さそうな女性が近づいてきた。
恐らくは店の主人であろう。
彼女は最初、三人の衣装を一瞥すると、田舎娘を蔑むような目線となる。
しかしすぐにそれを改めた。
理由は三つ。
一つ目は彼女達の衣装が、この店ほどではないが、それなりの高級店で仕立てられたものだと気づいたから。
二つ目は、彼女達が持つおそろいのバッグの仕立ての良さ。
それは遠目に見てもそれは高級な一品物と瞬時にわかる代物だ。
そして三つ目。それはシルフェーヌが見せる優雅な物腰。
それはこの店の常連である奥様方と同様。
いや、それ以上の上品な振る舞いでさえある。
店内を物珍しげに見渡すアリアウェットと、値札を見て腰を抜かしそうになるジルを尻目に、シルフェーヌは女性主人の方を向いた。
「私たちにアフタヌーンドレスを一着ずつ。それに合わせた履物と下着をいくつか見繕っていただけますか?」
女店員は頷くと、三人を奥の応接に案内し、他の店員たちの手を借りながら真剣に衣装の選択を始める。
「シルフェ、アフタヌーンドレスってなあに?」
アリアウェットの素朴な疑問にシルフェ―ヌは優しい微笑みで答えた。
「殿方の日中の正装に合わせたドレスですよ」
シルフェーヌはディアンから、彼とガルバーンが身につける衣装を事前に聞いていたので、それに合わせたドレスを調達する必要があった。
だから先程の店ではダメだったのだ。
「ふーん」
「平和になりましたら、きっとイブニングドレスを纏う機会もありますよ」
シルフェーヌの説明はアリアウェットとジルにはちんぷんかんぷんだったが、それも店員たちが抱えてきたドレスを目の前にし、どうでも良くなる。
「素敵!」
「綺麗」
アリアウェットとジルの感嘆をよそに、シルフェーヌはドレスの吟味を開始した。
「それではじっくり選びましょうね」
そこからたっぷりと時間を掛け、ようやく彼女達の買い物は終了した。
その日支払われた金額は同店の1か月分の売上に匹敵したという。
そこで受付嬢に銀貨を数枚渡し、最近のワールフラッドについての情報を幾つか手に入れた。
王都からの難民は、やはり東領の街の住民と、その周辺の村の住民たちらしい。
彼らが言うには、東の街一帯は、得体のしれない魔物に占拠されてしまっているとのこと。
ただ、魔物の正体まではわからない。
ではなぜ彼らは難民と化したのか。
それは領主であり、本来は領民を守らなければならないはずのマルムスの長男メルムスが、全軍とその家族を率いて、率先して東領の城から撤退してしまったからだという。
さらにはその無責任な行為を責めたダグラス王に対し、あろうことかメルムスは攻撃を開始したそうだ。
放置された東領の街は魔物の侵攻を受け、自力で逃げられるものは街から逃げ出した。
一方でメルムス軍の侵攻と難民の流入に、王都は大混乱に陥っている。
心優しきダグラス王は、メルムス軍相手には守りに徹する一方で、難民には門戸を開いた。
しかしそれは優しさがもたらす愚策となる。
難民のふりをしたマルムス軍の間諜達は本軍の王都攻撃に合わせるように住民を内部からゲリラ的に攻撃した。
ありとあらゆる卑怯な手段を用いて。
その結果、今度は王都から南の砦へ難民が流入するようになってしまった。
「それからもう一つ」
受付嬢はディアンとガルバーンの真剣な表情を信じ、彼らの耳元で最新の情報を囁いた。
なんとマルムスは、こともあろうにメルムス軍への援軍を準備しているというものだ。
それはダグラス王に対する明らかな裏切り行為である。
「馬鹿どもが」
ガルバーンは歯ぎしりをする。
「これは、マルムスの城に急ぐ必要がありますね」
「ああ、すぐにでも砦の城に向かおう」
ディアンとガルバーンは、準備のために一旦宿に戻ることにした。
さて、そんな男性陣のシリアスな状況を尻目に、女性三人は姦しいこと姦しいこと。
まずはシルフェーヌ。
彼女は前回アリアウェットとジルがドレスを購入した高級店に、いきなりダメ出しを行った。
「こちらのドレスは、街着にはともかく、マルムス卿に脅しをかけるお手伝いをするには、ちょっとラフすぎますわ」
次にジルが案内したのは、これまでジルは店内を覗こうとも思ったことがないお店。
そこはワールフラッド王都随一の高級衣装店の支店だった。
「ここが南の街では最高級のお店と言われてるけど」
ジルは明らかに尻込みをしている。
なぜなら、この店に足を運ぶのは、貴族のマダムとマドモアゼルだけだからだ。
庶民にとっては何の縁もない店なのだ。
ところがシルフェーヌはまだ納得していないような表情を見せている。
そんな彼女の手をアリアウェットが引っ張っていった。
「シルフェ、ここしかないなら仕方がないわ!」
しり込みするジルも不満気なシルフェーヌも、そんなアリアウェットの笑顔に納得し、三人で店の扉を開けた。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなお品をご用意いたしましょうか?」
すぐに品の良さそうな女性が近づいてきた。
恐らくは店の主人であろう。
彼女は最初、三人の衣装を一瞥すると、田舎娘を蔑むような目線となる。
しかしすぐにそれを改めた。
理由は三つ。
一つ目は彼女達の衣装が、この店ほどではないが、それなりの高級店で仕立てられたものだと気づいたから。
二つ目は、彼女達が持つおそろいのバッグの仕立ての良さ。
それは遠目に見てもそれは高級な一品物と瞬時にわかる代物だ。
そして三つ目。それはシルフェーヌが見せる優雅な物腰。
それはこの店の常連である奥様方と同様。
いや、それ以上の上品な振る舞いでさえある。
店内を物珍しげに見渡すアリアウェットと、値札を見て腰を抜かしそうになるジルを尻目に、シルフェーヌは女性主人の方を向いた。
「私たちにアフタヌーンドレスを一着ずつ。それに合わせた履物と下着をいくつか見繕っていただけますか?」
女店員は頷くと、三人を奥の応接に案内し、他の店員たちの手を借りながら真剣に衣装の選択を始める。
「シルフェ、アフタヌーンドレスってなあに?」
アリアウェットの素朴な疑問にシルフェ―ヌは優しい微笑みで答えた。
「殿方の日中の正装に合わせたドレスですよ」
シルフェーヌはディアンから、彼とガルバーンが身につける衣装を事前に聞いていたので、それに合わせたドレスを調達する必要があった。
だから先程の店ではダメだったのだ。
「ふーん」
「平和になりましたら、きっとイブニングドレスを纏う機会もありますよ」
シルフェーヌの説明はアリアウェットとジルにはちんぷんかんぷんだったが、それも店員たちが抱えてきたドレスを目の前にし、どうでも良くなる。
「素敵!」
「綺麗」
アリアウェットとジルの感嘆をよそに、シルフェーヌはドレスの吟味を開始した。
「それではじっくり選びましょうね」
そこからたっぷりと時間を掛け、ようやく彼女達の買い物は終了した。
その日支払われた金額は同店の1か月分の売上に匹敵したという。
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