嫌われ隊長が綴る呪われ姫の冒険譚

halsan

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奪還の章

圧倒的な力

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「敵を殺すより、生き残ることを優先するのよ!」

 アリアウェットが団員達に強化魔法を唱える間、ディアンは彼らと魔物どもの間に広がる大地に地形変更魔法を唱えた。

 沼地召喚コールマーシュ
 すると大地は広範囲で水分を大量に含んだ泥へと変化した。

 そこに殺到した魔物どもは足元を泥にとられ、後ろから押されながらズブズブと沈んでいく。
 さらにディアンはその状況に呪文を重ねた。
 
 雷撃瀑布ライトニングフォール
 呪文の完成と同時に、沼地には豪雨と見まがう無数の雷撃が降り注いだ。

 電撃は沼に脚を取られた魔物どもを捕らえ、沈んでいった魔物にも沼の水分を伝って降りかかった。
 電撃系最大の魔法が魔物たちを薙いだ。

 しかし、これでも倒せるのは数百匹でしかない。
 文字通り「桁」が違う。
 魔物共は仲間の死骸を気にもせず、それらを地固めの足場としながらアリアウェットたちに迫る。
 続いて無数の光線が魔物どもからアリアウェットたちに向けて同時に放たれる。

 アリアウェットとディアンには光線を無効化する反射楯があるので、十分に持ちこたえられる。
 しかしこれではザックたち親衛隊員達が持たない。
 何よりも圧倒的に攻撃力が不足している。

「ディアン、ザックたちをお願い!」
 アリアウェットは一歩進み出ると、自らが現時点で使用できる最強の魔法を練り始めた。
 彼女から膨らむ魔力に気づいたディアンはアリアウェットの背後に回ると団員全員の前に再度反射盾を唱えた。

「東におわす春を司る青竜よ。我が魔力を食らい、我らに仇なす者を滅ぼし給え」
「南におわす夏を司る朱雀よ。我が魔力を食らい、我らに仇なす者を滅ぼし給え」
「西におわす秋を司る白虎よ。我が魔力を食らい、我らに仇なす者を滅ぼし給え」
「北におわす冬を司る玄武よ。我が魔力を食らい、我らに仇なす者を滅ぼし給え」
 呪文とともに、アリアウェットの右には青竜と朱雀が並び、左側には白虎と玄武が並びたつ。

 天罰ダミネーション
 呪文の完成と同時に彼らの咆哮が大地に響き渡った。
 
 青竜のブレスが魔物共を引き裂く。
 朱雀のブレスが魔物共を焼き溶かす。
 白虎のブレスが魔物共を粉砕する。
 玄武のブレスが魔物共を凍てつかせる。
 
 魔物共が一斉に砕け散る。
 しかしそれでもその数は万に届くかどうか。
 まだ足りない。
 
 そうしているうちに親衛隊達が光線に射抜かれてしまう。
 アリアウェットは必死で彼らを治癒し、ディアンも再度大規模魔法の準備を始める。
 アリアウェットも、もう一度「天罰」の準備を始めた。
 
 何発でも撃ってやる!
 心が枯れるまで撃ってやる!
 かかってきなさい!
 
 すると突然アリアウェットたちの視界が白銀に染まり、魔物どもが雪像と化した。
 雪世界モンテドゥネージュ 
「お待たせしましたわ、アリア」
 いつのまにかアリアの横に現れたシルフェーヌがいつものように優雅に微笑みかけた。

 魔物共を刃の残像が襲い、それは地平線まで伸びて行った。
 後には真っ二つになった魔物共の残骸が延々と続いている。
 
 武器強化ブーストアームズ斬鉄剣ソリッドブレイカー
「愛する妻の魔法剣をとくと味わえ!」
 相変わらずガルバーン卿は威勢がいい。

 空から白い筋が幾重にも降り注ぎ、魔物共を大地ごと吹き飛ばしていく。
 彗星召喚コールコメット
「遊びたいならいつでも連絡をよこせと言っただろうよ、アリア」
 ゼノスが妖艶な笑みを浮かべながら遺失魔法を展開していく。

 魔物共がギシギシと音を立て、崩れ落ちた。
 まるで腐って落ちたかのように。
 金属腐敗メタルコラプション
「小僧が届けてくれた脚のお陰で、効果的な魔法が見つかったぞい」
 好々爺然としたアドルフがニコニコと笑っている。

 白く輝く大きな球体が天空に放たれ、それは途中で無数の光球に分かれた。
 光球は狙いたがわず魔物共を打ち抜いていく。
 爆発放射エクスプロージョンブレス
「暇になったから遊びに来てやったぞ」
 竜王がその巨体を大空にはためかせた。
  
 竜王の脚から巨大な青い塊が飛び落ちた。
 同時に周辺の魔物共はその動きを止めてしまう。
 呪縛イプリ
「見なさいおっぱい女! これが私の実力よ!」
 巨人の背中につかまったシケリアがアリアウェットへと自慢げに振り返った。

 シケリアによって停止させられた魔物共は、大巨人の四肢によって無造作に踏み砕かれていく。
 魔物共の光線は大巨人に集中し、巨人の体表を焼くも、彼に気にしたようすはない。
 超再生ウルトラルクチュール
「お待たせ、アリアさん、ディアンさん」
 人のよさそうな単眼巨人が、その圧倒的な防御力と再生力で魔物からの圧力を跳ね返して見せた。

「皆さん待ってください!」
 声の主に振り返ったアリアウェットとディアンは、その姿を確認してさすがに唖然とした。
 同時に少年は両手剣を振りぬく。
 すると刃から放たれた剣圧が放射状に広がると、魔物共を竜巻と化した刃が切り裂き、吹き飛ばした。
 肉体強化ブーストボディ全能力解放リリースフルポテンシャル
 武器強化ブーストアームズ嵐滅剣ストームジェノサイダー

「ダンカンの野郎」
 ディアンは苦虫をかみつぶした表情になる。
 その姿はワールストームの少年王オルウェンであった。
 
「アリア、ディアン、これはたちの悪い召喚魔法じゃ。とにかく奥まで行くぞい!」
 皆を代表してゼノスが次の手を打つべく二人を促した。
 形勢逆転。
 
 彼らはその圧倒的な圧力で、文字通り魔物共を「粉々」にしていった。
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