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邪魔なもの
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《だいじょうぶ。しんぱい》
頭の中に響く抑揚のない声。
アルタエン王国、シルベナル伯爵家次男ツイディア・リドリアは、美しい白金の髪の毛、汗で張り付いた前髪を指で掻き上げた。
露わになった黄金色の瞳は、頭上に浮かぶ満月を思わせる。
溢れ返る魔獣の群れを前に、左耳に着けた装飾、瞳と同じ色の魔力石がカチャリと揺れた。
「第二部隊はこのまま攻撃を! 防御と魔核石の回収は私が行います!」
ツイディアは自分が指揮を取る魔術師団第二部隊に指示を出し、直ぐに術者を保護する魔術陣を展開する。
魔術師から放たれる無数の攻撃とともに、魔獣の体から魔核石が剥き出しになった。
ツイディアは魔力で魔核石を包み、瘴気を吸収する。赤黒い石の塊となったそれは、瞬く間にツイディアの腰に下げている革袋の中へと消えてゆく。
北部にある魔塔に直接繋がっている収納袋である。
「隊長、範囲内の討伐終わりました!」
第二部隊隊員ロスタが声を張った。
《うれしい。きれい》
《はやく。こわそう。はなそう》
ツイディアは頭の中に響く声の原因、闇の精霊の主であるアルカディアン騎士団団長レヴィア・ルド・ハイネルタに視線を移す。
この暗闇でも艶めく漆黒の髪に、澄んだ湖のような青い瞳。
近付く者を死に誘うと恐れられて居るが、その妖艶さに心を奪われる者が後を断たない、闇の精霊に愛された者と言われている。
レヴィアは普段北部にいる為、ツイディアが見かけるのは王都周辺で起こる討伐や戦の時だけだった。
現国王の王弟でもあった前公爵ハイネの息子だが、その死もレヴィアによって引き起こされたと噂されている。
「先陣の騎士団の援護に回りましょう。魔獣が今の半数に減ったら、帰還の為の魔術陣の展開に移ります」
ツイディアは頭に響く声を追いやるように、こめかみに指を添えて指示を出す。今この場で精霊の声が聞こえるのは、ツイディアだけだ。
「隊長、後方に魔獣が一体現れました!」
後方では神殿から派遣された神官と聖人が負傷者を手当てをしており、負傷者の大半が神殿所属の者たちだった。
出来れば王都で大人しく帰りを待っていてほしいと、ツイディアは信仰のない神に何度か祈った。しかし、毎回こうして表に出てくるのである。
神殿の威厳の為かと思っていたが何度目かの遠征で、前公爵亡き後に懇意にしているレヴィアの為だとわかった。
「隊長、公爵の周りに魔獣の群れが!」
「私は公爵の援護に向かいます。他の者は後方の聖人たちの護衛に回ってください」
ツイディアは珍しく笑みを崩し、あからさまに眉の根を寄せた。これでは公爵を助けに来ているのか、討伐の邪魔をしに来ているのかわからない。
魔塔ひいては魔術師と神殿の折り合いが悪い理由の一つでもある。
「余計なことばかりですね」
ツイディアはレヴィアの側に転移すると、直ぐに宙へ魔術陣を展開し魔獣への攻撃を始める。
その後三度目の襲撃を経て、魔獣の出現が途絶え此度の討伐の終焉を迎えた。
ツイディアは隊員に魔力増幅薬を手渡し、満面の笑みで労いの言葉を掛ける。
「お疲れ様でした。では、これから皆さんを帰還させる魔術陣に各自魔力を」
「隊長……少しだけ休憩を」
「ええ、薬を飲んだらで構いませんよ」
ロスタは雲のように膨れた茶髪を両手で押さえ「それは酷いです」と、明らみ始めた空を見上げた。
王国有数の魔術師であるツイディアに憧れ第二部隊を希望したが、どの隊よりも魔力の消耗が激しいのである。
ロスタはひとり魔術陣の展開を始めたツイディアを見て、やはり敵わないと憧れを増した。
「隊長って怖いものとかあるんですか?」
「ありますよ。目に視えないものですがね」
ツイディアは聖人がレヴィアに走り寄るのを見届けて、声が収まったことに安堵する。
《じゃまだね。いらないね》
不意に青い瞳に捉えられたツイディアは、頬を引き攣らせロスタの肩を押した。
「んー、権力ですか?」
「くだらない話はもうやめましょう。私たちは先に戻りますよ」
頭の中に響く抑揚のない声。
アルタエン王国、シルベナル伯爵家次男ツイディア・リドリアは、美しい白金の髪の毛、汗で張り付いた前髪を指で掻き上げた。
露わになった黄金色の瞳は、頭上に浮かぶ満月を思わせる。
溢れ返る魔獣の群れを前に、左耳に着けた装飾、瞳と同じ色の魔力石がカチャリと揺れた。
「第二部隊はこのまま攻撃を! 防御と魔核石の回収は私が行います!」
ツイディアは自分が指揮を取る魔術師団第二部隊に指示を出し、直ぐに術者を保護する魔術陣を展開する。
魔術師から放たれる無数の攻撃とともに、魔獣の体から魔核石が剥き出しになった。
ツイディアは魔力で魔核石を包み、瘴気を吸収する。赤黒い石の塊となったそれは、瞬く間にツイディアの腰に下げている革袋の中へと消えてゆく。
北部にある魔塔に直接繋がっている収納袋である。
「隊長、範囲内の討伐終わりました!」
第二部隊隊員ロスタが声を張った。
《うれしい。きれい》
《はやく。こわそう。はなそう》
ツイディアは頭の中に響く声の原因、闇の精霊の主であるアルカディアン騎士団団長レヴィア・ルド・ハイネルタに視線を移す。
この暗闇でも艶めく漆黒の髪に、澄んだ湖のような青い瞳。
近付く者を死に誘うと恐れられて居るが、その妖艶さに心を奪われる者が後を断たない、闇の精霊に愛された者と言われている。
レヴィアは普段北部にいる為、ツイディアが見かけるのは王都周辺で起こる討伐や戦の時だけだった。
現国王の王弟でもあった前公爵ハイネの息子だが、その死もレヴィアによって引き起こされたと噂されている。
「先陣の騎士団の援護に回りましょう。魔獣が今の半数に減ったら、帰還の為の魔術陣の展開に移ります」
ツイディアは頭に響く声を追いやるように、こめかみに指を添えて指示を出す。今この場で精霊の声が聞こえるのは、ツイディアだけだ。
「隊長、後方に魔獣が一体現れました!」
後方では神殿から派遣された神官と聖人が負傷者を手当てをしており、負傷者の大半が神殿所属の者たちだった。
出来れば王都で大人しく帰りを待っていてほしいと、ツイディアは信仰のない神に何度か祈った。しかし、毎回こうして表に出てくるのである。
神殿の威厳の為かと思っていたが何度目かの遠征で、前公爵亡き後に懇意にしているレヴィアの為だとわかった。
「隊長、公爵の周りに魔獣の群れが!」
「私は公爵の援護に向かいます。他の者は後方の聖人たちの護衛に回ってください」
ツイディアは珍しく笑みを崩し、あからさまに眉の根を寄せた。これでは公爵を助けに来ているのか、討伐の邪魔をしに来ているのかわからない。
魔塔ひいては魔術師と神殿の折り合いが悪い理由の一つでもある。
「余計なことばかりですね」
ツイディアはレヴィアの側に転移すると、直ぐに宙へ魔術陣を展開し魔獣への攻撃を始める。
その後三度目の襲撃を経て、魔獣の出現が途絶え此度の討伐の終焉を迎えた。
ツイディアは隊員に魔力増幅薬を手渡し、満面の笑みで労いの言葉を掛ける。
「お疲れ様でした。では、これから皆さんを帰還させる魔術陣に各自魔力を」
「隊長……少しだけ休憩を」
「ええ、薬を飲んだらで構いませんよ」
ロスタは雲のように膨れた茶髪を両手で押さえ「それは酷いです」と、明らみ始めた空を見上げた。
王国有数の魔術師であるツイディアに憧れ第二部隊を希望したが、どの隊よりも魔力の消耗が激しいのである。
ロスタはひとり魔術陣の展開を始めたツイディアを見て、やはり敵わないと憧れを増した。
「隊長って怖いものとかあるんですか?」
「ありますよ。目に視えないものですがね」
ツイディアは聖人がレヴィアに走り寄るのを見届けて、声が収まったことに安堵する。
《じゃまだね。いらないね》
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