恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

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最終章

第232話 感謝の気持ち

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 セイン王子が部屋から出ていくと、火照った頬を押さえながら身支度を整えるためエリー王女は浴室に向かった。

 今ではほとんど自分で出来るようになっていたエリー王女は、一人で髪を洗い、体を洗う。誰かに頼るのではなく自分で出来ることは自分ですると決めていたため、マーサを呼ぶことはしなかった。

 湯に浸かりながら自分を振り返る。少しは成長出来たと思っていたが、まだまだ経験不足なのだと感じた。出来ないことは意地を張らずに助けを求めることも大切なのだと今回の事件で学んだ。

「もっと周りをよく見ないといけませんね……」

 エリー王女が勢いよく立ち上がると、体から弾かれたお湯が滴り落ちる。ゆっくりとした足取りで浴室から出るとマーサが待っていた。

「マーサ!」

 濡れた体のままマーサに抱きついたが、マーサは笑顔で抱き締め返した。

「皆さんご無事で良かったですね」
「はい……」

 それ以上何も言わずに頭を撫でてくれるマーサは、エリー王女の心を何もかも知っているようだった。体を離しマーサを見るといつもと同じ優しい笑みを返してくれる。

「さぁ、湯冷めしてしまいますよ」
「そうでした」

 マーサが用意したタオルで体を包み込むとエリー王女が気恥ずかしそうに笑った。

「本日の日没後に、ローンズ王国の皆様とデール王国の皆様と宴をなさるそうですので、一度陛下にお会いしてから、着飾りましょう」
「あっ! あ、あの……先ほど、とても酷い状態でセイン様とお会いしてしまったのですが……臭いとか……その……」
「大丈夫ですよ。毎日私が清潔にしていましたし、化粧などしなくてもエリー様は十分美しいですから」

 マーサは自信満々に微笑むがエリー王女は未だに不安な表情をしている。

「マーサはそう思っていたとしても……」
「ふふふ。セイン様もそう思っていらっしゃいますよ。では、もっと素敵になるように腕を振るいます。惚れ直して下さるほどに」

 マーサはそう言って楽しそうに微笑んだ。



 ◇

 身支度を整えたエリー王女が父であるシトラル国王の私室へ向かった。

「お父様!」

 エリー王女はシトラル国王を見るや否や走り出し、シトラル国王の胸へと飛び込む。シトラル国王はしっかりとエリー王女を抱きしめた。

「エリー……。苦労をかけて申し訳なかった……」
「いえ……私など何も……。お父様やこの国が救われたことが何より嬉しく……」

 元気な父の姿に胸がつまる。本当にディーン王子の手から解放されたのだ。

「エリー様。この度の件、誠に申し訳ございませんでした。とても不甲斐なく――」

 セロードとヒースクリフが足元で跪き、謝罪を始める。

「もうよいのです。それよりも二人が元に戻ることが出来たことがとても嬉しく思います。本当に良かった……。これからも父のことを宜しくお願いします」

 優しく微笑むと、セロードとヒースクリフはその慈悲深い言葉に更に頭を垂れた。シトラル国王とエリー王女は目を合わせ微笑み合ったあと、二人の顔を上げさせてその場にいるアランやアルバートを含めて全員でこの喜びを分かち合った――――。



 ◇

 シトラル国王のエスコートで大広間に入ると、既にローンズ王国の騎士団とデール王国の子供達がいた。エリー王女に見惚れている彼らを余所に、エリー王女は視線だけでセイン王子を探す。しかしリアム国王と共にまだ来ていないようだった。

 大広間の奥まで進んだ時だった。振り返ると入口からリアム国王とセイン王子が現れたのが見えた。



 その姿に胸が高鳴る――――



 先ほどまでとは違う正装されたセイン王子は輝いて見え、エリー王女にはもうセイン王子しか見えていなかった。セイン王子もまたエリー王女を真っ直ぐ見つめ、微笑む。

 自分が恋をした相手はこれほどまでに素敵な人だったのかと、頬を薄く赤らめ、エリー王女はときめいた胸を抑えた。

 騎士団が礼をしている中、リアム国王とセイン王子は真っ直ぐと二人の元へと向かってきた。

「今宵はこのような宴を用意していただきありがとうございます。シトラル陛下。エリー王女もお元気になられたようで心より慶び申し上げます」

 リアム国王の言葉に我に返り、エリー王女はリアム国王の方へと目を向ける。

「この度は何から何まで幣国に尽力を尽くして頂き、誠にありがとうございます。力を貸していただかなければ、我々は悪魔の手に落ちたままだったでしょう。あの時の恐怖は忘れられません。いえ、今でも実感を持つことができておらず、今もなお直ぐ近くにいるのではないかと思うほどの恐ろしい出来事でした。皆様は、そこから我々を救って下さったのです」

 エリー王女は会場内にいる一人一人に目を向ける。

「リアム陛下、セイン王子、そしてここにいる勇敢なる騎士たちと死力を尽くしてくれたデール王国の幼き勇者たち。感謝しても足りないくらいのことをしていただきました。誠に……誠にありがとうございます」

 深く深く頭を下げるエリー王女にシトラル国王がそっと肩を抱く。

「リアム陛下。先ほども申し上げたが――」

 リアム国王は手を上げてシトラル国王の言葉を制止する。

「もう十分お言葉を頂きました。それに、用意して頂いたご馳走を前に長話は酷というもの。シトラル陛下から宴開始のお言葉を頂戴しても?」

 若き国王と謳われたその人物リアム国王は、大国の国王であるシトラル国王に引けを取らぬほど大きなオーラを放つ。それは威圧的なものではなく、広く大きく受け止める器を感じさせた。

 エリー王女が周りを見渡すと全員が優しく笑みを浮かべ、誰もが誇りをもって胸を張っているように見えた。自分の感謝の気持ちは伝わったのかは分からなかったが、好意的なその姿にまた胸が熱くなった。

「ありがとうございます……」

 エリー王女は涙を浮かべながら、改めて小さく感謝の気持ちを伝えた。







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