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しおりを挟む伊南さんにお礼を言って帰る準備をしていると
「陽くん、まだお昼休みだよね?」
と声がかかった。
「……?はい。」
返事した途端満面の笑みを浮かべた伊南さんを見て、あ、失敗したかも、と瞬時に悟る。
「俺、今日は午前外来なんだ。
一緒にランチでもどう?」
「あ、お仕事に戻ら「リュカの小さい頃の話とか興味ない?」」
馬鹿な僕はまんまと餌に釣られてしまった。
伊南さんおすすめの喫茶店で昔ながらのナポリタンスパゲティーをいただく。
ちょっぴり焦げ目の入ったウインナーが愛おしい。
リュカさんもそうだけど伊南さんも美味しいお店を見つけるのが上手なようだ。
おかげで色々な料理を学べて材料は限られるけれど、少しりぃくんに美味しいものを作ってあげられるようになったと思う。
「リュカって陽くんの前ではどんな感じ?
陽くんが見たリュカってどんな人?」
唐突な質問に面食らってしまった。
「えっ、あ、そ、そうですね。
……ひとことでいうのは難しいですね。
僕が気づかない間に色々してくれているんです
でも優しくて一緒にいて楽しい人です。
最初なんて会ってすぐ僕の誕生日だからってお祝いしに来て、携帯をプレゼントしてくれて、え、なんなんだろう。この人。って思っちゃったんですけど。
後で携帯持っていない僕が柚さんとか保育園とかに連絡が取りやすいようにしてくれていたり、りぃくんの写真を撮りやすいようにしてくれたんだ。って気づいたんです。
ものばかりじゃなくて、京都に旅行に行ったときに人にもさりげなく体調を気遣ってくれたり、りぃくんに楽しい話をたくさんしてくれたり……。
そうやってさりげない優しさを常に配ってくれる人。
それに、普段常に笑みを浮かべているけどたまにそれが驚いた顔になったり、目尻に皺を浮かべて声出して笑ったり、遠くを見つめて物思いに耽ったりって、ふと表情が変わるのを見つけるのが楽しい人です。」
たまに変なことを言うのも面白いと思う。
僕の話を目を見開いて聞いていた伊南さんは僕が話し終えるとふ、と零すように微笑んだ。
この顔はリュカさんもしない顔だな……。
「リュカってね、昔から無気力なんだ。」
可笑しそうに言っているが僕には伊南さんが何を言っているのかさっぱりわからなかった。
リュカさんは無気力という言葉からは遠いと思っているから。
「あいつ、こどものときからなんでもできたんだ。
本当に、なんでも、人並み以上に。
少し見たり聞いたりすれば要領を掴んですぐ相手の意図を汲んで満点を出す。
リュカ、医師じゃないのに医師免許持っているの知ってる?
やりたいことがないからって俺のいた医学部に入ったのさ。
それも郡を抜いて優秀な成績でね。
皆、必死こいて医学部入って、必死こいて勉強して、医師免許取得を目指しているのにリュカにとっては暇潰しだったんだよ。
もう周りは次元が違うと妬むことすらできなかったさ。
その医学部も飛び級してさっさと辞めて、結局、全く関係のないファッションの世界に身を置いたけどね。」
「それは、すごいですね……。」
僕には想像もつかない世界だ。
「だからなんだろうなー。
リュカはいつもつまらなさそうだったよ。
なんでもできるから何がしたいのかわからない。
ルグゼンブルクの重役どもはこれで次代も安泰だ。なんて言っていたけれど。
少なくともリュカはこの世界になんの感情も抱いていなかった。
リュカの抱える悩みは、他人には傲慢と思われて相談すらできない。」
「……だからなんですね。
リュカさんがいつも敬語を使っていつもあの変わらない微笑みを浮かべているのは。」
それを聞いた伊南さんは悲しそうに笑う。
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