僕の幸せ

朝比奈和花

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その悲しみを帯びた微笑みはいつも明るい伊南さんとどこかちぐはぐな印象を与えた。

「周りはリュカの意志に関係なく期待して、纏わりついて、隙あらば利用して、落ちてくる恩恵に縋ろうとする。

失敗なんて絶対に許されなかった。

だからリュカは本音と偽善と嘘がわからないようにあの表情と口調にしたんだ。
今ではもう癖になってしまっているよ。

まぁそんな期待という刺すような視線をずっと前で浴び続けてくれたリュカのおかげで俺は好き勝手してきたんだ。
リュカの片割れである俺でさえリュカに守られていたと思う。

だから陽くんっていうリュカが素のままでいれる存在ができて本当によかった。」

ありがとうと頭を下げてきたのを僕は慌てて止めた。

「リュカさんは伊南さんにも素のままでいますよ。
だって、リュカさんがあんな風に軽口を叩いているのは伊南さんしか見たことが無いです。」

「そう……、そう、だね。
って陽くんひどいなぁ!」

その後は少し重くなった雰囲気を払拭するように楽しい話をしてくれた。





「リュカはね~、赤ちゃんのころよく俺の上で寝ていたんだって。

赤ちゃんだったかわいいかわいい俺のふっくらしたお腹をあいつ枕代わりにしていたんだよ。」

「ふふっ、伊南さんはそのころからリュカさんに遊ばれていたんですね。」

「本当だよ!リュカは俺にだけなんでかあんな風に接してくるんだよなぁ…。

かわいいかわいい弟に優しくしてあげようとか思わないのかねー?」

幼いころからふたりは今のような関係性だったようだ。
伊南さんをからかうことがリュカさんの兄としてのかわいがり方なのだろう。
伊南さんもそれをわかっている。

こういう関係も僕は素敵だと思う。


僕の休憩時間が少なくなってきたこともあり、伊南さんは-shiki-まで送ってくれた。

「伊南さん、今日はありがとうございました」

「あっ、陽くん待って!」

伊南さんは車から降りようとした僕の腕を掴み、僕の耳元に寄って囁いた。

「俺らの兄であるレイ=ロレンツォ=ルグゼンブルクにはくれぐれも気をつけて。」

なぜ僕に?と思ったがあまりにも目が真剣だったから素直に頷いた。



だから伊南さんと別れて-shiki-に入ろうとする僕を心配そうに見つめて

「本当に、気をつけるんだよ……。」

と呟いていたことを知らなかった。





僕の知らないところで各々が動き始めていたことに、疎い僕はまだ何も気づいていなかった。

変わったとわかるのはこの-shiki-の扉を開けたときだとも……。




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