89 / 101
88
しおりを挟むその悲しみを帯びた微笑みはいつも明るい伊南さんとどこかちぐはぐな印象を与えた。
「周りはリュカの意志に関係なく期待して、纏わりついて、隙あらば利用して、落ちてくる恩恵に縋ろうとする。
失敗なんて絶対に許されなかった。
だからリュカは本音と偽善と嘘がわからないようにあの表情と口調にしたんだ。
今ではもう癖になってしまっているよ。
まぁそんな期待という刺すような視線をずっと前で浴び続けてくれたリュカのおかげで俺は好き勝手してきたんだ。
リュカの片割れである俺でさえリュカに守られていたと思う。
だから陽くんっていうリュカが素のままでいれる存在ができて本当によかった。」
ありがとうと頭を下げてきたのを僕は慌てて止めた。
「リュカさんは伊南さんにも素のままでいますよ。
だって、リュカさんがあんな風に軽口を叩いているのは伊南さんしか見たことが無いです。」
「そう……、そう、だね。
って陽くんひどいなぁ!」
その後は少し重くなった雰囲気を払拭するように楽しい話をしてくれた。
「リュカはね~、赤ちゃんのころよく俺の上で寝ていたんだって。
赤ちゃんだったかわいいかわいい俺のふっくらしたお腹をあいつ枕代わりにしていたんだよ。」
「ふふっ、伊南さんはそのころからリュカさんに遊ばれていたんですね。」
「本当だよ!リュカは俺にだけなんでかあんな風に接してくるんだよなぁ…。
かわいいかわいい弟に優しくしてあげようとか思わないのかねー?」
幼いころからふたりは今のような関係性だったようだ。
伊南さんをからかうことがリュカさんの兄としてのかわいがり方なのだろう。
伊南さんもそれをわかっている。
こういう関係も僕は素敵だと思う。
僕の休憩時間が少なくなってきたこともあり、伊南さんは-shiki-まで送ってくれた。
「伊南さん、今日はありがとうございました」
「あっ、陽くん待って!」
伊南さんは車から降りようとした僕の腕を掴み、僕の耳元に寄って囁いた。
「俺らの兄であるレイ=ロレンツォ=ルグゼンブルクにはくれぐれも気をつけて。」
なぜ僕に?と思ったがあまりにも目が真剣だったから素直に頷いた。
だから伊南さんと別れて-shiki-に入ろうとする僕を心配そうに見つめて
「本当に、気をつけるんだよ……。」
と呟いていたことを知らなかった。
僕の知らないところで各々が動き始めていたことに、疎い僕はまだ何も気づいていなかった。
変わったとわかるのはこの-shiki-の扉を開けたときだとも……。
650
あなたにおすすめの小説
欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
泡にはならない/泡にはさせない
玲
BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――
明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。
「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」
衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。
「運命論者は、間に合ってますんで。」
返ってきたのは、冷たい拒絶……。
これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。
オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。
彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。
——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
今からレンタルアルファシステムを利用します
夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。
◆完結済みです。ありがとうございました。
◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる