灰かぶり姫と月の魔法使い

星 佑紀

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第壱譚

0004:灰かぶりの父

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「それで、一体どういうことなのか説明できますね、ツクヨミさん?(圧)」


「う、うん……。(汗)」



 どうも、魔法使いツクヨミさんを椅子の背もたれに縄でくくりつけている灰かぶりです。

 ツクヨミさんが言うには、隣国のお城で開催される舞踏会に私の父(?)が関係しているとのことですが、話が唐突すぎて全然ついていけてません。



「せ、説明の前に、灰かぶり姫、あのー、目隠しを外していただけないでしょうかー?(脂汗)」


「却下ですわ。……ツクヨミさんのを見ていると、まるで意識を乗っ取られているような、嫌な感じがしますので。」


「……御名答というか、なんというかー。さすが、お師匠様の娘さんだー。(大汗)」


「いいからさっさと洗いざらい話してください‼」


「うえーーん!(涙)」



 ツクヨミさんはぐずぐずなにかと理由をつけてはぐらかそうとしますが、刻一刻と時間は流れていくのです。もう日は暮れて、辺り一帯は真っ暗闇になりました。急がないといけません。

 ……ひとしきりぐずったツクヨミさんは決心がついたのでしょう。ぽつりぽつりと話し始めるのでした。



「……灰かぶり姫のお父さんは、僕の魔法のお師匠様で、この国……アデル皇国にある魔法省の偉大な魔法使いだったんだ。」


「ツクヨミさんと私の父(?)は、その魔法省で出会ったのですか?」


「そうだよ。……とても厳しい師匠でね、いつも練習サボって休んでいたらすぐに見つけられて、拳骨くらってたなー。いやー、思い出すと古傷が痛むねー。(遠い目)」


「それで、私の父(?)は今何処にいるのですか?」


「……隣国のお城さ。(汗)」


「隣国のお城? ど、どうしてアデルの魔法使いが、隣国のお城にいるのですか⁉」


「……ことの経緯を話すと少し長くなるんだけどいいかい?」


「……どうぞ。」



 ツクヨミさんは一つ頷いて口を開きました。



「僕達の国アデル皇国と隣国のトルネード王国は、数十年前から裏でバチバチに争っているんだ。」


「争う? そのようなこと、私、知りませんわ! ……だって、皇国新聞では、お互いの皇太子と王子が仲良く握手しているじゃないですか⁉」


「そう。世間ではアデル皇国とトルネード王国は仲が良いことになっている。貿易は盛んだし、人の行き交いも激しい。経済的には友好関係さ。……けれど、では、お互いの魔法使いが駆り出されて日夜バトルを繰り広げているんだ。(汗)」


「し、信じられませんわ……。」


「そうだと思う。こんなにも、表向きは平和なんだから。簡単には信じられないよね。」


「そ、それで、父(?)はどうなされたのですか?(不安)」


「……先日、とある事件で、僕達を助けようとして身体に大ダメージを受けたんだ。」



 ツクヨミさんは、声色をいっそう暗くしました。とても衝撃的なことだったのでしょう。



「本来なら、すぐにでもお師匠様をアデル皇国に連れて帰りたかったんだけれど、お師匠様から、『舞踏会が終わるまでは、トルネード王国にて待機だ‼』って言われちゃってさ……。(トホホ)」


「そ、そうだったのですか……。(汗)」


「お師匠様は、僕に言ったんだ。『ツクヨミ、お前に一生のお願いだ。一人娘のルナ・ロックを守ってくれ。』とね。」


「ロック? …………待ってください! 私の真名はルナですが、姓はロックではありませんよ⁉」


「いいや、君は正真正銘ロック家の人間だ。その証拠を今から見せてあげるよ。……僕の胸ポケットに小石が入っているから取り出してみてほしい。」



 私は、言われた通りにツクヨミさんの胸ポケットから小石を取り出しました。



「ありがとう。じゃあその小石を力強く握って、目を閉じて。」



 言われるがままに小石を両手で包み込み、目を閉じます。そして、手に力を込めると――。



 シャンシャンシャンシャンシャーン♪



 ――遠くから鈴の音が聞こえてきます。その鈴の音は、とても晴れやかで、心地のよい音色でした。……そして、目の裏に鮮やかな赤色が浮かび上がり、まるで溶けてしまいそうになって――――。



「……いいよ。目を開いて、鏡を見てご覧。」



 私はゆっくりと目を開き、壁掛けの薄汚れた鏡を覗き込みました。



「……えっ⁉ こ、これは誰ですか?」


「君だよ。……君の本来の姿さ。ロック家一族が受け継ぐ銀髪に鮮血の瞳。膨大な魔力。君は、……ロック家唯一の生き残りだ。」



 鏡の奥にはシルバーブロンドの髪の毛に、真っ赤な瞳を大きくした女性が立っています。



「……私の髪の毛はくすんだ灰色で、瞳も鳶色だった気がするのですが。」


「お師匠様が魔法で隠していたからね。……じゃあ、もう一度目を瞑って小石を握りしめて。」


「は、はい。(汗)」



 もう一度目を閉じて、両手に力を込めます。鈴の音は聞こえませんし、目の奥は明るくなりませんが、何かが変わった気がしました。



「……もういいよ。君の通常の姿に戻っているはずさ。」



 私はパチッと目を開けてまじまじと鏡を見ました。そこには元通りの自分がアホ面で覗き込んでいるのでした。



「その小石は君のものだから大切に持っていてほしい。お師匠様からの贈り物だよ。」


「は、はい。……ありがとうございます?」



 状況が突飛すぎて、頭が追いつきませんが、私はロック家(?)の人間で間違いないみたいです。

 私は、不思議な小石を落とさないよう、ワンピースのポケットにそーっと入れました。



「灰かぶり姫、……僕達の不手際でお師匠様が重体になった。……そして、君もお師匠様のような目にあうかもしれない。……君は、隣国の監視対象になっているのだから。」


「……何故、私なのですか?(脂汗)」


「……詳しいことは追々話そう。まずはここから脱出するんだ。」


「脱出⁉ それは一体――――。(汗)」


「……君が、父や継母様おかあさまと呼び義姉様おねえさまと慕う家族達は、……君をこのお屋敷に閉じ込めているからね。」



 ――衝撃的な事実が、灰かぶり姫の心を大きく揺らすのであった。――
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