【モフモフは正義‼︎】親友に裏切られて国外追放された悪役令嬢は、聖女になって返り咲く

星 佑紀

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第参譚

0024:怨霊殿下

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【side ノア・フィックスド(皆の先輩)】 


 ーーここはフィックスド家ノアの実家のお屋敷内にある食堂。ーー


「着ぐるみのお姉ちゃん、ちゃんと食べてまちゅかー?」

「ええ、アルトちゃん。しっかり、いただいていますよ。(ふふふと微笑むマリア嬢)」

「魔王しゃまがいない間にたらふく食べておくんでちゅよ‼︎ あと、僕ちんともたくさん遊ぶでちゅ!」

「そうですね。ご飯を食べ終わったら、アリスちゃんと三人で遊びましょうか!」

「いいでちゅね、その調子でちゅよ!(あざとウインク)」


 どうも、皆さん。いろいろあって、パトリック殿下にマリア様、隊長のサネユキ様を実家に匿っているノア・フィックスドです。パトリック殿下は、あの運命の日爆弾投下日から一向に目を醒まされません。だからといって、事切れているのかと云えばそうでもなく……。呼吸も脈も至って正常ですが、の存在が確認されないので、何処か遠くに行っているのかもしれないですね。いずれにせよ、俺たちに出来ることは、殿下が目醒めるまで身体を清め、見守ることだけ。そのほとんどは、現在マリア様が率先してやっていただいているのですが、そろそろ交代制にしようかと考えているところです。


「マリア様、午後からの殿下のお世話は、俺とオリビアさんの二人でやりますから、マリア様は休まれてください。」

先輩ノア様、ありがとうございます。ですが、……。」

「マリア様、ずっとパトリック殿下につきっきりですと、身体を壊してしまいますわ。もう少しすれば、アルト達のお昼寝タイムですので、マリア様も一緒にいかがですか?」

「オリビア先生……わかりましたわ。午後から少しだけ休ませていただきます。お二人とも、よろしくお願いします。(ペコリ)」

「任せてください‼︎(やる気満々ノア)」


 よしっ、これでマリア様が休憩できるぞ!

 殿下が意識不明になってからマリア様は、献身的に殿下のお世話をされていて、俺もオリビアさんも、内心とても心配していました。俺達が何度も『代わりますよ。』と言っても、マリア様の意志は固く、誰かに任せることなんて全くありませんでした。……あの日から一週間が経って、マリア様にも、何かしらの心境の変化があったのでしょう。マリア様、……長期戦に備えて、休めるときに休むのです!


「おっ、着ぐるみのお姉ちゃんも一緒にお昼寝でちゅか! 仕方がないでちゅね。特別に僕ちんが添い寝をしてあげるでちゅよ!(可愛い女性に目がないアルト)」

「アルトちゃんが添い寝してくれると、ぐっすり眠れそうですわ。(優しい微笑みマリア嬢)」

「あっ、うー!(マリア様、私も! 興奮アリス)」

「健気なマリア様、素敵ですわ。(何故か酔ってるビア)」


 ……野営地で寝泊まりしていた時と違って、お屋敷の中は、なんだかほのぼのとしていて安心だ。……隊長の言う通り、これから何が起こるのか、誰にもわからない。だからこそ、今だけは、このささやかな日常を喜んで通りたい。

 そう。俺は、ここで、とんだ間違いを犯していた。

 パトリック殿下の嫉妬が、山より、いや、宇宙の果て以上に大きいことを、俺たちは忘れていたのだ………………‼︎


『(マリア嬢の背後からにょきっと顔を出して)……随分と楽しそうだね。(ノアを殺す気で睨みつける魔王殿下)』

「ーーーーっ⁉︎(な、ん、だ、と⁉︎)」


 俺の目の前には、マリア様とマリア様の背後からこっちを睨みつけているパトリック殿下の亡霊(?)が⁉︎ 勿論、霊力の無い、マリア様にオリビアさん、アルトとアリスには、殿下の亡霊は視えていない。

 ……隊長ー‼︎ 殿下がいますよー‼︎ のんきにご飯食べてないで、マリア様の方を見てくださいー‼︎ すんごい自己主張の激しい亡霊がいるからー‼︎ めちゃくちゃ不満ありありな目で睨んでくる殿下に構ってあげてくださいよー‼︎


「アルトちゃんは、ひとりでお昼寝できるかな?」

「できまちゅよ! お昼寝は得意中の得意でちゅからね! でも、今日はお姉ちゃんと一緒に寝てあげるでちゅ。」

『(ボソッと)でちゅでちゅうるさいんだよ。僕のマリア様と添い寝しようとするなんて、笑止千万。子どもでも許さないよ。死刑だね。(ヤンデレ魔王殿下)』


 ひいいいいいいい⁉︎

 瘴気ってやつなのかな? 真っ黒くて物凄い澱んだオーラが飛び交ってるよー⁉︎ あと、ボソッと言うのやめてくれませんか? めちゃくちゃ怖いです‼︎ 俺たちの子どもを呪わないでください、殿下‼︎(ガクブル)


「……何故でしょう。先ほどから、寒気といいますか、……背筋がゾクゾク致しますわ。(ブルブル震えるマリア嬢)」

「大丈夫ですか、マリア様。(心配オリビア)」

「風邪でちゅかね。僕ちんの人肌で温めてあげるでちゅよ!(マリア嬢に近寄ろうとするアルト)」

『マリア様を温めていいのは、僕だけだ‼︎(瞳孔ピカッ)』


 ーーアルトは何もないところで、転んだ‼︎ーー


「ぴぎゃあーーー‼︎(転んで痛いアルト)」

「アルトちゃんー⁉︎(びっくりマリア嬢)」

「アルト大丈夫⁉︎(急いでアルトを抱き起こすビア)」

『僕のマリア様に触れようとするから、転ぶんだよ。(マリア嬢から見えていないのをいいことに、マリア嬢にベタベタくっつく亡霊魔王殿下)』

「ーーーーっ⁉︎(殿下、大人気ねーー‼︎)」

「はは、ぼくちんが倒れてもげんきでいるんでちゅよ。……かはっ‼︎(魔王殿下の瘴気に当てられて気を失うアルト)」

「アルトーーーー⁉︎(絶叫オリビア)」

『ふん、ちょっとこけたぐらいで大袈裟だな。』


 ……なんだろう。亡霊殿下が来てから一瞬で地獄絵図と化してしまった。最恐すぎる‼︎


「マリア様、アルトの手当をしてきますので、マリア様はしっかり休まれてくださいね!(アルトとアリスをグワシッと両手に抱えて救護室へ急ぐオリビア)」

「ええ、……先生、ありがとうございます!(感謝)」


 ーーオリビアとアルトとアリスは退出した‼︎ーー


 ここに残るのは、俺とマリア様と隊長(と亡霊殿下)だけ……。とりあえず、マイペースにご飯を食べている隊長にどうにかしてもらおう。(怨霊っぽい殿下と対等にやれるのは、隊長だけだからね。)


「……隊長、ちょっといいですか?」

「うん、どうした?(もぐもぐサネユキ)」

「(サネユキの耳元で)殿下が来てます。」

「なんだって⁉︎ (立ち上がるサネユキ)」

「(小声で)ほら、マリア様の背後です、背後。」

「……視えない。いや、がオフモードのままだった‼︎」


 ーーサネユキは、自身のをオンにした!ーー


「おー、視える、視える‼︎ 正真正銘、パトリックの霊魂だな‼︎(再び会えて嬉しいぞ!)」

『チッ、気づかれたか。ノア、チクってんじゃねえぞ。』


 怖えええええええ‼︎ 殿下、そんな般若みたいな顔しないでくださいよ! 怖すぎて逃げたくなるじゃないですか!


「パトリック、久しぶりだな‼︎(マリア嬢の背後にいる殿下に話しかけるサネユキ)」

「…………?(きょとんマリア嬢)」

『きょとん顔のマリア様、可愛すぎるー! ほんと、連れて帰りたい。マリア様、僕のこと大好きだから、一緒に霊界に連れて行ったら、マリア様喜ぶかなー?(きゅるるん)』


 ……殿下、今、さらりと爆弾発言されましたよね? 駄目ですよ。マリア様は生者なのですから。殿下は、死者なのか生者なのか判断はできかねますが、マリア様を安易にあの世へ連れて行こうとしないでください‼︎


「……実雪様、パトリック様がいらっしゃるのですか?」

「ええ、マリア嬢。目には見えないと思いますが、怨念の深いパトリックがマリア嬢の肩付近にいますよ。」

「(ふるふる震えて)………………パトリックさまーー‼︎(気が抜けて大泣きマリア嬢)」

『ーーーーっ‼︎(我に帰るパトリック殿下)』

「…………。(成程。パトリックの言う通りだな。)」


 食堂内には、マリア様の泣き声が響き渡った。……そして、マリア様の周りでオロオロしているパトリック殿下の、亡霊なのか、怨霊なのか、はたまたただの霊魂なのか……。わからないけど、透明な、透けた身体で、マリア様を抱きしめる殿下の目元には、うっすらと涙が光っていた気がする。


「ノア、……もう少ししてから、パトリックの安置部屋を、あたたかくしておいてくれ。マリア嬢が落ち着いたら、すぐに連れて行こう。(やさしく微笑むサネユキ)」

「了解です、隊長。」

「なあ、ノア。……いつ死んでも後悔の無いように、大切な人にはきちんと想いを伝えておきたいよな。」

「そうですね、隊長。」

「……私も、早くジョナサンに会いたいぞ。(寂し涙)」


 マリア様には、殿下の姿は見えないはずなのに、……何故だろう。目の前にいる二人は、お互いの存在を感じ取っているように、俺には視えた。


 ーーマリア嬢の涙は、殿下の澱んだ心を洗い流す‼︎ーー
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