ハミルトン・ヴァレーの客人令嬢

駒野沙月

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 突如落とされた爆弾に、ちょうどカップを傾けていたルーカスは咽せて咳き込んだ。
 大丈夫?と首を傾げる友人に向かって吹き出さなかっただけ僥倖か、と思いつつも、彼は呼吸を整えて友人を睨んだ。

「…お前、姫さまが今何歳いくつだと思ってる」
「歳の差を考えろって言いたいの?僕らの間じゃ、これくらいの歳の差も割と普通だってことくらい、君なら知ってるだろう」
「俺はただの平民なんだが?」
「君くらいの男なら大丈夫でしょ。父上だって認めてくれるさ」
「…またお前は父親を敵に回す気かよ」
「元より勘当されてないのが僕としては驚きだがね」

 この友人は冗談にしか聞こえないようなことであっても、このような真面目な顔で話すきらいがある。この発言も冗談なのか、それとも本気で言っているのか、彼には正直区別がつかなかった。
 戸惑いを隠せない様子の友人の顔を、リチャードは普段通りの飄々とした、どことなく達観したような面持ちで見つめていた。

「あの子が父親の後を継ぐにせよ継がないにせよ、あの子を正しく導き支える者として、君以上の適任はいないと思ってるんだけどね」
「それは教師か補佐役の役目だろ。夫じゃなくたって出来ることじゃねえか」

 困惑しつつもどうにか彼が答えを返せば、リチャードは「…そうか。うん、安心したよ」と満足気に頷いた。

「何がだよ」
「いやね、結婚云々は一旦置いておくとして。君はこれからもあの子の傍にいてくれるつもりなんだなと」
「…どう解釈すればそうなる」
「だって君、さっきから年齢と身分差ばっかり気にしてるんだもん。拒否しないってことは、少なくとも嫌ではないんだろうなって」

 彼からすれば、嫌だとか嫌ではないとかそういう問題ではないし、そもそも、娘でも一応おかしくない歳の少女が"そういう"対象になる筈がない。
 だがしかし、こうなった友人には何を言っても無駄であるということも、彼はよく知っている。

「…そういう問題じゃねえっての」
「お転婆すぎて困るとか、友達の姪っ子だから嫌なのかと」
「…お転婆すぎるのは違いないな」

 一時の沈黙に満ちた部屋に、ノックの音が響く。
 扉の向こうに居たのは、隣の部屋にいるはずのロッテであった。伯父の姿を目にした彼女は、ぱあっと顔を輝かせ、二人の方へぱたぱたと駆け寄って来る。

「伯父様もいらしていたのですね!」
「やあ、ロッテ。今日も元気そうで何よりだよ」

 スカートを摘まんでお辞儀をするロッテに、リチャードは軽く手を挙げて答える。

 そのついでのように時間を尋ねられ、ルーカスは「それくらい自分で見ろよ」とぼやきながらも懐中時計を開く。
 針が指す時刻は2時半。それを伝えれば、彼は満足そうに微笑んだ。

「そうか、お茶にはちょうどいい時間だね。君も一緒にどうだい、ロッテ」
「はい!」
「…さっさと帰れよ、お前ら」

 まるで自分の部屋でもあるかのように椅子と茶を勧める古馴染と、それらを素直に受け取っている小さな"友人"。
 まだまだ帰るつもりはないのであろう彼らに、彼はまたもや深く息をついていた。


 彼は自分のカップに茶を注ごうとして、テーブル上のポットにはもう中身がないことに気が付いた。
 私が行こうか、というロッテの申し出も断り、自ら部屋を出て行く。ここでは湯は湧かせないため、キッチンまで貰いに行ったのである。

 彼の姿が扉の向こうへと消えた頃、リチャードは不意に「…ふふ」と笑みをもらす。
 きょとんとした顔を上げた姪っ子に向かって、彼は口を開く。

「彼の真意はどこにあるんだろうと思ってね。さっさと帰らせたいのか、まだ居てほしいのか」
「…単に、気を回してくれただけなのではないのですか?」

 面白がるように笑っている伯父に対し、少女は不思議そうに首を傾げた。
 ついさっき、友人が出がけに残りの茶を入れていったカップを傾けつつも、その様子を見た彼はまたその口元を綻ばせる。

「それもあるだろうけどね。…良い男だよ、まったく」
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