網代さんを怒らせたい

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

文字の大きさ
14 / 37
第3章 初めての……

3.

しおりを挟む
当日は早く目が覚めた。
まるでデートを楽しみにしているかのようだが、丸一日も彼女らしい行動ができるかどうかの方が不安でよく眠れなかったのだ。

「……引かれるかな」

着替えて鏡の前でくるりと回って確認する。
今日は袖が着物風に振りのある白ブラウスと、紺の袴風プリーツスカートの組み合わせにした。
あとこれにかかと低めの黒パンプスあわせたらいいとは思うが、なにせ普段から私の格好はコスプレと周りの評判が悪い。
やっぱり一般ウケのいい服がいい気もするが、そうなると通勤服しかないわけで。

「ま、いっか」

これでとやかく言われたら、たとえ練習という仮の恋人関係でも網代さんとはそれまでだったというだけだ。

「いってきまーす」

毎朝と同じ経路を私服で辿るのはなんか変な感じだ。
電車を降り、駅前の信号でさりげなく周りを見たが、いつもの白杖のおじさんはいなかった。
さすがに、今日は休みだしね。

会社の裏に着いて連絡を入れようと鞄から携帯を出しかけたら、プッとクラクションが軽く鳴らされた。
見渡すと、水色のハイブリッドコンパクトカーが見えた。
その運転席から網代さんが手を振っている。

「おはようございます」

「おはよう」

助手席のドアを開けてそこに乗り込む。

「車、持ってたんですね」

「いや。
西沢さんが貸してくれた」

周囲を確認し、網代さんが車を出す。

「レンタカー探していたら、和倉さんとデートなら車くらい貸してやる、とかニヤニヤ笑ってたな」

それを聞いてなんとも言えない気持ちになった。
どおりで昨日、『明日は天気がよかったらいいな』とか言われたんだ。

「水族館まで二時間くらいかかる。
途中、なにかあったら言ってくれ」

網代さんとの遠出は初めてではない。
クライアントのところへ一緒に行ったりするし。
でも今日はなんか緊張するなー。

今日の網代さんは濃紺のパンツに白のカットソー、それに紺ストライプの七分袖シャツをあわせていた。
無難なラインではあるけれど、スタイルがいいからかお洒落に見える。

「今日のイッチー、可愛いな」

「へ!?」

聞き慣れない言葉が出て、不躾ながら変な声が出た。

「その服、イッチーによく似合っていて可愛い」

これはお世辞……だよね?

「その。
無理に褒めようとしてないですか?」

そんなに卑屈になる必要はないと思うが、普段が普段だけについ警戒してしまう。

「……僕が社交辞令苦手なの知ってるだろ」

網代さんのご機嫌が斜めになっていく。
そうだ、彼は嘘はつくが思ってもいないことは言わない。
ということは、これは本音……?

「……スミマセン。
いつもからかわれるので」

疑ってしまった自分が恥ずかしくて、背中が小さく丸まる。

「なんでからかわれるんだ?」

「その。
普通じゃない服だから」

私は可愛いと思って着ているが、世間から見れば私が着ている服は〝おかしい〟のだ。

「普通じゃなかったらなんか悪いのか。
そもそも普通ってなんだよ。
ただの大多数ってことだろ」

網代さんの毒舌がなぜか、耳に心地いい。
彼の言うとおりだ、普通なんていま、大多数を占めているだけの意見に過ぎない。
時代が変わればいまの普通も変になる。

「そうですね」

ずっと私の服装を見て、陰口を叩かれるのが嫌だった。
でもこれからはそれにめげず、自信を持って着られそうだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

隣の夫婦 ~離婚する、離婚しない、身近な夫婦の話

紫さゆり
恋愛
オムニバス形式です。 理解し合って結婚したはずの梓、同級生との再会が思わぬことになる雅美、年下の夫のかつての妻に引け目を感じる千晴、昔の恋の後悔から前向きになれない志織。 大人の女性のストーリーです。

フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛

春咲さゆ
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。

そして、恋の種が花開く。

松本ユミ
恋愛
高校を卒業して七年、代わり映えのない日々を送っていた赤木さくらの元に同窓会のハガキが届いた。迷った末に同窓会に出席することにしたさくらの前に現れたのは……。

【完結】泡になった約束

山田森湖
恋愛
三十九歳、専業主婦。 夫と娘を送り出し、静まり返ったキッチンで食器を洗う朝。 洗剤の泡が立っては消えるその繰り返しに、自分の人生を重ねながら、彼女は「ごく普通」の日常を受け入れている。 愛がないわけではない。けれど、満たされているとも言い切れない。 そんな午前中、何気なく出かけたスーパーで、背後から名前を呼ばれる。 振り返った先にいたのは、かつて確かに愛した男――元恋人・佐々木拓也。 平穏だったはずの毎日に、静かな波紋が広がり始める。

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

春燈に咲く

naomikoryo
恋愛
春の名をもらいながら、寒さを知って育った。 江戸の外れ、貧しい百姓家の次女・うららは、十三の春に奉公へ出される。 向かった先は老舗呉服屋「蓬莱屋」。 そこで出会ったのは、何かとちょっかいをかけてくる、 街の悪ガキのような跡取り息子・慶次郎だった―― 反発しながらも心に灯る、淡く、熱く、切ない想い。 そして十五の春、女として、嫁として、うららの人生は大きく動き出す。 身分の差、家柄の壁、嫉妬と陰謀、 愛されることと、信じること―― それでも「私は、あの人の隣に立ちたい」。 不器用な男と、ひたむきな少女が織りなす、 時代小説として風情あふれる王道“和風身分差ラブロマンス”。 春の灯の下で咲く、たったひとつの恋の物語を、どうぞ。

解けない魔法を このキスで

葉月 まい
恋愛
『さめない夢が叶う場所』 そこで出逢った二人は、 お互いを認識しないまま 同じ場所で再会する。 『自分の作ったドレスで女の子達をプリンセスに』 その想いでドレスを作る『ソルシエール』(魔法使い) そんな彼女に、彼がかける魔法とは? ═•-⊰❉⊱•登場人物 •⊰❉⊱•-═ 白石 美蘭 Miran Shiraishi(27歳)…ドレスブランド『ソルシエール』代表 新海 高良 Takara Shinkai(32歳)…リゾートホテル運営会社『新海ホテル&リゾート』 副社長

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

処理中です...