35 / 37
最終章 ずっと前から好きでした
4.
しおりを挟む
互いの気持ちを確認しあって最初のデートは、初めてのデートと同じコースだった。
「イッチー、チンアナゴ」
あの日と同じく包み込むように私の後ろに立ち、網代さんが顔を近づけてくる。
「ほんとはあのとき、網代さんを意識してチンアナゴどころじゃなかったんですよね」
「イッチーも?
僕も思ったよりイッチーが小さくていい匂いがして、チンアナゴとかちっとも見てなかった」
おかしくて、顔を見あわせて笑ってしまった。
「なあ。
やりたいことがあるんだけど、いいか?」
レンズの奥から悪戯っぽく網代さんは私を見ている。
「内容によります」
「イッチーを抱っこしたい」
「えっ、あっ!?」
いいともなんとも言っていないのに、いきなり抱き上げられた。
しかも腕に腰掛けさせるようなお子様抱っこだ。
「……恥ずかしいんですけど」
周囲の視線が痛い。
しかし、網代さんは平気な顔をしている。
「イッチーと話すのにいちいち足を止めるのは面倒だろ?
これなら大丈夫だ」
それはそうだけれども!
大人にもなってこの状態はない。
「あ、ほら!
携帯!
携帯で話しながらなら……」
「それはイッチーの可愛い声が聞こえないから、ダーメ」
ちゅっ、なんて鼻のあたまに口付けを落としてくるこの男は誰だ?
どうも両想いになってからというもの、網代さんのTLヒーロー化に拍車がかかっている気がする。
今日のイルカショーは少し後ろで見た。
「前は迫力はあるが、水がかかるからな。
仕方ない」
あんなに前回、びっしょりと濡れたのに網代さんはちょっと残念そうだ。
水族館を満喫し、お土産を買って出る。
今回も西沢さんが車を貸してくれると言ってくれたらしいが、前回のことを踏まえてレンタカーだったので、ペンギンのぬいぐるみだけ買った。
だってまた、網代さんが「イッチーに似てるから」って買いたがったんだもの。
私の部屋をペンギンだらけにする気か、あの人は。
「イッチー」
今日も車の前で、ペンギンのぬいぐるみを抱いて写真を撮られる。
「そういえば前回撮った写真って、どうしたんですか?」
「携帯の壁紙にしていつも眺めていたけど」
「……へ?」
思わず、変な声が出た。
まさか、そんな利用をされているとは思わない。
「新しい写真に差し替えないとな」
網代さんは至極当たり前って感じだが、そこまで?
今日も夏音さんデザインのレストランで食事をした。
「写真は撮らなくていいのか」
「あー。
今日はいいです」
前回、たくさん撮ったし。
それにいまは網代さんとのデートだ。
彼との食事を楽しみたい。
「イッチーってさ。
本当に美味しそうに食べるから、食べさせ甲斐があるんだよな。
次、なに食べさせようって楽しみになる」
「なんですか、それ」
意味はわからないが、網代さんは眼鏡の下で目尻を下げ、うっとりと私を見ている。
その顔にもうワインが回ったのか、見る見る顔が熱くなっていった。
「一生、イッチーに美味しいものを食べさせられるように、頑張って稼がないとな」
〝一生〟って結婚でもする気ですか?
でも、それもいいな。
そもそも、その気はあったんだし。
食後は前回と同じく、浜辺を散歩する。
「イッチー」
振り返った網代さんの手が私の頬に触れる。
意味がわかって目を閉じた。
そっと、彼の唇が私の唇に触れる。
離れていく顔をじっと見上げた。
ゆっくりと彼が私を抱き締め、耳もとで囁く。
「……今日、千代子を抱きたいんだ」
熱い顔で黙って頷いた。
「イッチー、チンアナゴ」
あの日と同じく包み込むように私の後ろに立ち、網代さんが顔を近づけてくる。
「ほんとはあのとき、網代さんを意識してチンアナゴどころじゃなかったんですよね」
「イッチーも?
僕も思ったよりイッチーが小さくていい匂いがして、チンアナゴとかちっとも見てなかった」
おかしくて、顔を見あわせて笑ってしまった。
「なあ。
やりたいことがあるんだけど、いいか?」
レンズの奥から悪戯っぽく網代さんは私を見ている。
「内容によります」
「イッチーを抱っこしたい」
「えっ、あっ!?」
いいともなんとも言っていないのに、いきなり抱き上げられた。
しかも腕に腰掛けさせるようなお子様抱っこだ。
「……恥ずかしいんですけど」
周囲の視線が痛い。
しかし、網代さんは平気な顔をしている。
「イッチーと話すのにいちいち足を止めるのは面倒だろ?
これなら大丈夫だ」
それはそうだけれども!
大人にもなってこの状態はない。
「あ、ほら!
携帯!
携帯で話しながらなら……」
「それはイッチーの可愛い声が聞こえないから、ダーメ」
ちゅっ、なんて鼻のあたまに口付けを落としてくるこの男は誰だ?
どうも両想いになってからというもの、網代さんのTLヒーロー化に拍車がかかっている気がする。
今日のイルカショーは少し後ろで見た。
「前は迫力はあるが、水がかかるからな。
仕方ない」
あんなに前回、びっしょりと濡れたのに網代さんはちょっと残念そうだ。
水族館を満喫し、お土産を買って出る。
今回も西沢さんが車を貸してくれると言ってくれたらしいが、前回のことを踏まえてレンタカーだったので、ペンギンのぬいぐるみだけ買った。
だってまた、網代さんが「イッチーに似てるから」って買いたがったんだもの。
私の部屋をペンギンだらけにする気か、あの人は。
「イッチー」
今日も車の前で、ペンギンのぬいぐるみを抱いて写真を撮られる。
「そういえば前回撮った写真って、どうしたんですか?」
「携帯の壁紙にしていつも眺めていたけど」
「……へ?」
思わず、変な声が出た。
まさか、そんな利用をされているとは思わない。
「新しい写真に差し替えないとな」
網代さんは至極当たり前って感じだが、そこまで?
今日も夏音さんデザインのレストランで食事をした。
「写真は撮らなくていいのか」
「あー。
今日はいいです」
前回、たくさん撮ったし。
それにいまは網代さんとのデートだ。
彼との食事を楽しみたい。
「イッチーってさ。
本当に美味しそうに食べるから、食べさせ甲斐があるんだよな。
次、なに食べさせようって楽しみになる」
「なんですか、それ」
意味はわからないが、網代さんは眼鏡の下で目尻を下げ、うっとりと私を見ている。
その顔にもうワインが回ったのか、見る見る顔が熱くなっていった。
「一生、イッチーに美味しいものを食べさせられるように、頑張って稼がないとな」
〝一生〟って結婚でもする気ですか?
でも、それもいいな。
そもそも、その気はあったんだし。
食後は前回と同じく、浜辺を散歩する。
「イッチー」
振り返った網代さんの手が私の頬に触れる。
意味がわかって目を閉じた。
そっと、彼の唇が私の唇に触れる。
離れていく顔をじっと見上げた。
ゆっくりと彼が私を抱き締め、耳もとで囁く。
「……今日、千代子を抱きたいんだ」
熱い顔で黙って頷いた。
0
あなたにおすすめの小説
隣の夫婦 ~離婚する、離婚しない、身近な夫婦の話
紫さゆり
恋愛
オムニバス形式です。
理解し合って結婚したはずの梓、同級生との再会が思わぬことになる雅美、年下の夫のかつての妻に引け目を感じる千晴、昔の恋の後悔から前向きになれない志織。
大人の女性のストーリーです。
フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛
春咲さゆ
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。
【完結】泡になった約束
山田森湖
恋愛
三十九歳、専業主婦。
夫と娘を送り出し、静まり返ったキッチンで食器を洗う朝。
洗剤の泡が立っては消えるその繰り返しに、自分の人生を重ねながら、彼女は「ごく普通」の日常を受け入れている。
愛がないわけではない。けれど、満たされているとも言い切れない。
そんな午前中、何気なく出かけたスーパーで、背後から名前を呼ばれる。
振り返った先にいたのは、かつて確かに愛した男――元恋人・佐々木拓也。
平穏だったはずの毎日に、静かな波紋が広がり始める。
元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!
春燈に咲く
naomikoryo
恋愛
春の名をもらいながら、寒さを知って育った。
江戸の外れ、貧しい百姓家の次女・うららは、十三の春に奉公へ出される。
向かった先は老舗呉服屋「蓬莱屋」。
そこで出会ったのは、何かとちょっかいをかけてくる、
街の悪ガキのような跡取り息子・慶次郎だった――
反発しながらも心に灯る、淡く、熱く、切ない想い。
そして十五の春、女として、嫁として、うららの人生は大きく動き出す。
身分の差、家柄の壁、嫉妬と陰謀、
愛されることと、信じること――
それでも「私は、あの人の隣に立ちたい」。
不器用な男と、ひたむきな少女が織りなす、
時代小説として風情あふれる王道“和風身分差ラブロマンス”。
春の灯の下で咲く、たったひとつの恋の物語を、どうぞ。
解けない魔法を このキスで
葉月 まい
恋愛
『さめない夢が叶う場所』
そこで出逢った二人は、
お互いを認識しないまま
同じ場所で再会する。
『自分の作ったドレスで女の子達をプリンセスに』
その想いでドレスを作る『ソルシエール』(魔法使い)
そんな彼女に、彼がかける魔法とは?
═•-⊰❉⊱•登場人物 •⊰❉⊱•-═
白石 美蘭 Miran Shiraishi(27歳)…ドレスブランド『ソルシエール』代表
新海 高良 Takara Shinkai(32歳)…リゾートホテル運営会社『新海ホテル&リゾート』 副社長
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる