網代さんを怒らせたい

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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最終章 ずっと前から好きでした

3.

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車に乗った途端、彼はハンドルにもたれかかるようにして大きなため息をついた。

「あの……」

「……もの扱いとか嫌だよな、ごめん」

……え、いま言うのがそれ?

とは思ったが、網代さんらしいというか。

「その、……嫌じゃなかった、です。
私は……網代さんが、好きだから」

彼からの返事はない。
もしかして私が彼に恋をしているので、引かれた?
でもさっきの網代さんはまるで――。

「……よかった、恋をしたのが僕だけじゃなくて」

しばらくたってからそれだけぽつりと漏らし、網代さんは車を出した。

……それってどういうこと?
網代さんも私が好き?

先ほどの言動で感じてはいたが、いざ言葉として聞くと混乱した。
網代さんは恋ができないはずで。
だからずっとヤキモチすら妬いてくれなくて。
なのに。

「イッチー?」

私がずっと黙っているものだから、心配そうに網代さんが声をかけてくる。

「あの。
……恋をしたって、誰に?」

「イッチーに決まってるだろ」

超不機嫌に返されたが、わかりきっていることを聞く私が悪いんだから仕方ない。

「でも、木村さんから告白されたって言っても、そのあとも、普通でしたよね?」

だから網代さんは私を好きになったりしないのだと思っていた。

「普通?
はらわたが煮えくりかえっていたさ」

網代さんの語気は荒い。

「でもイッチーが恋ができないのだとしたら、僕の感情を押しつけるのはよくないだろ。
だから冷静なフリをしていた」

「……そっか」

網代さんも私と同じ気持ちだったんだ。
なのに、いろいろ試していた私はなんてバカなんだろう。
初めから素直に、好きになったんだと伝えていればよかったのだ。

「でもよかった、イッチーが僕を好きになってくれて。
ずっと不安だったんだ」

ふっ、と薄く、彼が笑う。
それは心から安堵しているようだった。

「私も不安でした、恋をしたのが私だけだったらどうしよう、って。
網代さんの負担になるのが怖くて、言えなかった……」

「僕たちはやっぱり、似たもの同士だな」

「そうですね」

網代さんは嬉しそうに笑っている。
きっと私も同じ顔をして笑っているだろう。

抱えていた悩みも、その後の悩みも同じだなんて、よほど気があうんだと思う。
だからこれから先も上手くやっていけるはず。



数日して、また木村さんから会社に、親展で手紙が送られてきた。
前回のことがあるし、警戒してしまう。
開けたくはないがこのまま捨てるわけにもいかず、封を切る。
中から出てきたのは便せん一枚で、とりあえずほっとした。

最初は、スキンシップが過剰だったと詫びる言葉。
あとは彼氏さんに悪いことをしたのであやまっておいてくれ。
もともと脈はないのはわかっていたし、いい夢を見させてもらったのでありがとう。
真っ当な内容に、あの日は怒って帰るなどちょっと大人げなかったなと反省した。

――しかし。

【今回は一旦、手を引きますけど。
また違う方面からアプローチさせてもらいますね】

「はぁーっ……」

私の口からでっかいため息が落ちていく。
木村さんの辞書には諦めるという文字がないらしい。
彼に早く、私よりもいい人が見つかるといいのに……。
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