いつかあなたに食べられる日まで~元社畜女子はもふもふに癒やされる~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第2章 人間と獣

5.奴隷じゃなく対等の獣

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そのままレオンさんは、ここでの生活の注意点を教えてくれた。

「奴隷の首輪、あるだろ?」

「はい」

反抗したら締まるようになっている、首輪。
なぜか私には効かなかったけど。

「あれは人間を守るためでもあるんだ。
首輪をしている人間は誰かのものだから、危害を加えると罰を受ける。
だから普通は、手を出さない」

「ああ、そーゆー」

だからあの灰色狼は、私が首輪をしていないからと主張していたのだ。

「じゃあ私も、首輪をした方がいいんですか」

そうすれば、今日のように庭に出たくらいで命の危険にあったりせずに済むのだろうか。

「……そうだな。
でも俺は、チハルに首輪を嵌めたくない。
チハルと俺は対等な獣だから」

対等、だなんて言われて驚いた。
ここでは人間は、蔑むべき最下層の生き物だ。
だからこそなにをしても平気なのだ、それこそ肉にして食べようと。

「……対等、ですか」

「そうだ。
おかしいと思わないか。
神は二本足の動物は対等だと仰っている。
なのに魔法が使えないという理由で人間を差別するなんて」

レオンさんは力説しているが、その宗教観はコメントのしように困る。

「そもそも、最初の番が子供を集めて宴会を開いたとき、欲張って猫が魔法の実をふたつ食べたから人間は食べられなくて、それで魔法が使えないなんて可哀想すぎないか!?」

「えーっと……」

確かにそれが事実だとすると、ちょっとあんまりだな……。

「それで魔法の実をふたつ食べた猫はどうなったんですか」

「特になにもない」

「……は?」

ええーっ、そこは猫だけ、特別強い魔法が使えるようになった、とかじゃないの?

「幾つ食べようと授かる力は一緒なんだ。
ああ、ただ副作用なのか自在に身体の形を変えられる術を手に入れた、だったかな」

「そう、なんだ……」

もしかして現世でも猫の形が自由自在に変わっていたのって、このせい……?
な、わけないか。

「神様の話はおいておくにしても、人間は魔法が使えないだけで俺たちと同じように話し、考え、行動する。
だいたい、食い物を作ってくれているのは人間だ。
人間が畑を耕し、魔獣を飼ってくれるおかげで、俺たちは食っていける。
なのに、差別するなんておかしいだろ?」

レオンさんはどこまでも真剣だ。
この世界にこんなにも人間のことを考えてくれている獣がいるとは思わなかった。

「……レオンさんみたいな獣がたくさんいたら、少なくとも食べられなくなるのにですね」

燃やされた村で同じ檻に入れられていた人たちは死んだ目をしていた。
私のよく知っている、会社の同僚たちと同じ目だ。
絶望することにすら、疲れ果ててなにも感じなくなった無の表情。
あんなの、いいわけがない。

「同じ考えの獣はけっこういて、人間の権利を守ろうという運動もやっている。
それでもさっき言ったように、魔法の使えない人間は禁忌外にしていいんじゃないかという過激派もいるから、なかなか上手くいかないのが現状だ」

はぁーっ、とレオンさんの口から落ちていくため息は苦悩の色が濃い。
死ぬ前も地獄、死んだあとも地獄、なんて絶望もしたが、ここにはレオンさんみたいな獣もいる。
まだ、捨てたもんじゃないかもしれない。

「俺は必ず、チハルを守る。
でもここはこういうところだ。
チハルを危険な目に遭わせないためにいろいろ不自由な思いをさせると思うが……すまない」

真摯に彼があたまを下げてくれる。
悪いのは彼じゃない、こういう世界だ。
それに彼は、彼にできる精一杯の私の自由を守ろうとしてくれている。

「レオンさんがあやまることじゃないので。
私こそ、いろいろご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします」

彼へ、精一杯の気持ちであたまを下げた。

「よせよ。
迷惑だなんて思ってない」

ぽりぽりと彼が、指で頬を掻く。
なんだかそれで、心の中が温かくなった。
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