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第5章 病めるときも健やかなるときも *
1.本音で訊け
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「……はぁーっ」
レオンの気持ちに気づいてからというもの、口を開けばため息ばかりが落ちていく。
「……でね。
アーサーったら……って、チハル、聞いてる!?」
「えっ、ピーターがどうしたんですか?」
話を振られ慌てて返事をする。
今日はお菓子の差し入れついでに恋バナをする、アプリコットさんに付き合っていた。
「ピーターじゃなくてアーサー!」
しかしながら上の空で聞いていたので名を間違え、アプリコットさんに怒られた。
「あ、すみません。
……はぁーっ」
「なに?
さっきからはぁーっ、はぁーっ、ってため息ばかりついて」
アプリコットさんの指が焼き菓子を摘まみ、ため息を止めるように私の口へ突っ込んだ。
「にゃ、にゃにするんですか……」
「もうそのため息、聞き飽きた」
新たなお菓子を摘まみ、今度こそ彼女が食べる。
「なんかレオンは気持ち悪いくらい上機嫌だし、なのにチハルはため息ついてばっかりだし」
はぁーっと、とうとうアプリコットさんの口からもため息が漏れた。
「あー、えっと。
ですね」
こんなことを彼女に相談していいのだろうか。
でもなんか、アプリコットさんは恋愛エキスパートっぽいし。
「その。
……レオンから、好きって言われまして」
「ふーん。
レオンが好き、ねぇ……」
興味なさそうに新たな焼き菓子を摘まみ、パリンと囓る。
あ、そんな反応なんだ、なんて思ったものの。
「ええーっ!
レオンから好きって言われたー!
……いたっ!」
テーブルに手をつき、勢いよく立ち上がろうとしたせいでアプリコットさんが椅子から落ちる。
この家の家具は大きなレオンサイズで、私でも大きい。
なら、ほぼ同じサイズのアプリコットさんも、椅子に座ると足がつかないのだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
慌てて椅子から飛び降り、彼女を助け起こす。
「うー、お尻打った……」
尻尾のあたりをさすさすしながらまた椅子によじ登り、アプリコットさんは座り直した。
「チハル、レオンから好きって言われたの?」
黙ってこくんと頷く。
「その、……一匹の獣として好きだ、と誤魔化されたんですが」
「なにそれ。
へたれ。
意気地なし」
アプリコットさんはなにげに、厳しい。
「でも、キス、……されそうになったし」
「……きすーぅ?」
硬く握られた彼女の両手がぶるぶると震え、語尾が不快そうに上がっていく。
「なにあいつ、チハルにキスしておいて、はっきり好きだって言わないの!?」
ダン! と思いっきりアプリコットさんが両手でテーブルを叩き、食器がガシャンと跳ねた。
「あの、されそうになった、ってだけで、されてはない、……です。
……たぶん」
もしかしてあれは、不発に終わっただけで、されたとカウントしていいのか?
「しようとしたのはしたのと一緒!
オスなら潔く、告白しろー!」
アプリコットさんの主張はもっともだけど、レオンの気持ちもわかるのだ。
なにしろ私は……人間、だから。
「チハルはどう思ってるの、レオンのこと」
「え、えーっと、……尊敬、しています。
あと、感謝」
私がもし、獣人だったとして。
レオンのように人間のために怒れるかっていえば、きっとそんなことはないだろう。
せいぜい、アプリコットさんのようによく知った人間となら仲良くなれる程度だ。
私を対等に扱ってくれるだけじゃなく、人間全体の幸せを考えているレオンを、尊敬している。
「人間だからって遠慮してない?
恋に種族なんて関係ないわ!」
ビシッ、とアプリコットさんの指が私をさす。
おおっ、恋愛ごとになると人間差別もなくなるんだ。
そういうところ、好きだぞ。
「その。
……好き、です。
たぶん」
「たぶんってなに!?
はっきりしなさい!」
うぇーん、恋愛の話になるとアプリコットさん、怖いよー。
「尊敬してるし、好意はあります。
でも相手がライオンなんてどうしていいのかわからないし、それに」
「それに?」
一度、言葉を切り、深呼吸をして再び口を開いた。
「……私だけが幸せになっていいのか、自信がないんです」
いまの環境で私は十分に幸せだ。
なのに人――獣を好きになって愛される、なんて幸せ、許されるのかな。
「あー、もー、レオンは絶対、チハルのそういうところが好きなんだわ。
私がオスなら、思わず押し倒していたとこだし」
「え……」
それはちょっと……うん。
「まあ、私のことはいいの。
周りが不幸だからチハルが幸せになっちゃダメとか、あるわけないじゃない。
だいたい、自分が幸せじゃないのに他の人を幸せにできるわけないでしょ」
ぽりぽりと勢いよくアプリコットさんがお菓子を囓る。
最近、太り気味だからダイエットが必要だわ……とか言っていたのは誰だ?
まあそれはいいが、確かに彼女の言うことは一理ある。
「だからチハルは、レオンと幸せになっていいの。
てか、幸せになれ!」
ビシッ! とアプリコットさんの指が私の鼻先へ突きつけられる。
「で、でも……」
それでもやっぱり、躊躇ってしまうのだ。
恋愛と結婚は別だと言っていた。
種族が違うどころか私はこの世界で卑下されている人間で、相手はライオン。
いまはよくてもこのあとは?
そんなことを考えたら、怖くてたまらない。
「あー、もー、苛々する!
そういうときはレオンに本音で訊けばいいでしょ!」
アプリコットさんはそう言うが、この不安な気持ちをうまく言葉にできる気がしない。
「む、無理ですよ……」
「つべこべ言わない!
私にいい考えがあるから!」
ピーン! とアプリコットさんが髭を張り、もう悪い予感しかしなかった……。
レオンの気持ちに気づいてからというもの、口を開けばため息ばかりが落ちていく。
「……でね。
アーサーったら……って、チハル、聞いてる!?」
「えっ、ピーターがどうしたんですか?」
話を振られ慌てて返事をする。
今日はお菓子の差し入れついでに恋バナをする、アプリコットさんに付き合っていた。
「ピーターじゃなくてアーサー!」
しかしながら上の空で聞いていたので名を間違え、アプリコットさんに怒られた。
「あ、すみません。
……はぁーっ」
「なに?
さっきからはぁーっ、はぁーっ、ってため息ばかりついて」
アプリコットさんの指が焼き菓子を摘まみ、ため息を止めるように私の口へ突っ込んだ。
「にゃ、にゃにするんですか……」
「もうそのため息、聞き飽きた」
新たなお菓子を摘まみ、今度こそ彼女が食べる。
「なんかレオンは気持ち悪いくらい上機嫌だし、なのにチハルはため息ついてばっかりだし」
はぁーっと、とうとうアプリコットさんの口からもため息が漏れた。
「あー、えっと。
ですね」
こんなことを彼女に相談していいのだろうか。
でもなんか、アプリコットさんは恋愛エキスパートっぽいし。
「その。
……レオンから、好きって言われまして」
「ふーん。
レオンが好き、ねぇ……」
興味なさそうに新たな焼き菓子を摘まみ、パリンと囓る。
あ、そんな反応なんだ、なんて思ったものの。
「ええーっ!
レオンから好きって言われたー!
……いたっ!」
テーブルに手をつき、勢いよく立ち上がろうとしたせいでアプリコットさんが椅子から落ちる。
この家の家具は大きなレオンサイズで、私でも大きい。
なら、ほぼ同じサイズのアプリコットさんも、椅子に座ると足がつかないのだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
慌てて椅子から飛び降り、彼女を助け起こす。
「うー、お尻打った……」
尻尾のあたりをさすさすしながらまた椅子によじ登り、アプリコットさんは座り直した。
「チハル、レオンから好きって言われたの?」
黙ってこくんと頷く。
「その、……一匹の獣として好きだ、と誤魔化されたんですが」
「なにそれ。
へたれ。
意気地なし」
アプリコットさんはなにげに、厳しい。
「でも、キス、……されそうになったし」
「……きすーぅ?」
硬く握られた彼女の両手がぶるぶると震え、語尾が不快そうに上がっていく。
「なにあいつ、チハルにキスしておいて、はっきり好きだって言わないの!?」
ダン! と思いっきりアプリコットさんが両手でテーブルを叩き、食器がガシャンと跳ねた。
「あの、されそうになった、ってだけで、されてはない、……です。
……たぶん」
もしかしてあれは、不発に終わっただけで、されたとカウントしていいのか?
「しようとしたのはしたのと一緒!
オスなら潔く、告白しろー!」
アプリコットさんの主張はもっともだけど、レオンの気持ちもわかるのだ。
なにしろ私は……人間、だから。
「チハルはどう思ってるの、レオンのこと」
「え、えーっと、……尊敬、しています。
あと、感謝」
私がもし、獣人だったとして。
レオンのように人間のために怒れるかっていえば、きっとそんなことはないだろう。
せいぜい、アプリコットさんのようによく知った人間となら仲良くなれる程度だ。
私を対等に扱ってくれるだけじゃなく、人間全体の幸せを考えているレオンを、尊敬している。
「人間だからって遠慮してない?
恋に種族なんて関係ないわ!」
ビシッ、とアプリコットさんの指が私をさす。
おおっ、恋愛ごとになると人間差別もなくなるんだ。
そういうところ、好きだぞ。
「その。
……好き、です。
たぶん」
「たぶんってなに!?
はっきりしなさい!」
うぇーん、恋愛の話になるとアプリコットさん、怖いよー。
「尊敬してるし、好意はあります。
でも相手がライオンなんてどうしていいのかわからないし、それに」
「それに?」
一度、言葉を切り、深呼吸をして再び口を開いた。
「……私だけが幸せになっていいのか、自信がないんです」
いまの環境で私は十分に幸せだ。
なのに人――獣を好きになって愛される、なんて幸せ、許されるのかな。
「あー、もー、レオンは絶対、チハルのそういうところが好きなんだわ。
私がオスなら、思わず押し倒していたとこだし」
「え……」
それはちょっと……うん。
「まあ、私のことはいいの。
周りが不幸だからチハルが幸せになっちゃダメとか、あるわけないじゃない。
だいたい、自分が幸せじゃないのに他の人を幸せにできるわけないでしょ」
ぽりぽりと勢いよくアプリコットさんがお菓子を囓る。
最近、太り気味だからダイエットが必要だわ……とか言っていたのは誰だ?
まあそれはいいが、確かに彼女の言うことは一理ある。
「だからチハルは、レオンと幸せになっていいの。
てか、幸せになれ!」
ビシッ! とアプリコットさんの指が私の鼻先へ突きつけられる。
「で、でも……」
それでもやっぱり、躊躇ってしまうのだ。
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いまはよくてもこのあとは?
そんなことを考えたら、怖くてたまらない。
「あー、もー、苛々する!
そういうときはレオンに本音で訊けばいいでしょ!」
アプリコットさんはそう言うが、この不安な気持ちをうまく言葉にできる気がしない。
「む、無理ですよ……」
「つべこべ言わない!
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