いつかあなたに食べられる日まで~元社畜女子はもふもふに癒やされる~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第6章 肉食獣の家族

1.魔法って便利だな

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朝はちょっと早く起きる。
その時間をこちらの法律やなんかの勉強に充てている。
レオンの家にきて、五ヶ月ほどが過ぎようとしていた。

「んー、ここ、ちょっとわかんないなー。
あとでレオンに訊こう」

レオンの仕事は最初聞いたとき、行政書士のようなものかと思ったけれど、正確にはどうも、さらに税理士と弁護士も兼ねたもののようだ。

……そう。
彼はここでは超エリートなのだ。
なので人間の私を一人前の獣として扱っていても、表だってバカにしたりする獣は少ない、というのもある。

「チハルー、朝食できたぞー」

「はーい!」

そろそろ今日の勉強は切り上げようかと思っていたら、階下からレオンの声が聞こえてきた。
片付けをして一階へ下りる。

「おはようございます、レオン」

「おはよう、チハル。
今日も早起きして勉強していたみたいだな」

テーブルの上にはサンドイッチの朝食が準備されていた。

「わからないところがちょっとあって。
あとで教えてもらえますか?」

「ああ、かまわない」

今日も向かいあって食事をする。
ライオンと人間が食卓を囲む、この世界ですらありえない光景だ。

レオンは先に仕事場へ行き、私は洗い物をする。
この街は近くに豊富に水が湧き出る水源があり、そこから街まで水道を引いていた。
さらにそれを数戸単位で井戸として使えるようにしている。
それは江戸の街の水道システムとほぼ同じだった。
そんな事情で水はふんだんに使えるので街の広場には噴水があったりするらしいが……残念ながら私は見たことがない。

「昨日の書類の整理、やっちゃいますね」

「ああ、頼む」

表に行ったらレオンはもうすでに眼鏡をかけ、なにやらやっていた。
レオンの仕事場……というか事務所でいいんだろうか?
とにかくそこは、レトロに憧れる探偵事務所っぽい。
いや、レトロというかここではこれが普通なんだけどね。

昨日作った書類に穴をあけ、木のバインダーへ綴じていく。
金具なんてもちろんないので、薄い、木の板のあいだに挟んで紐で結ぶタイプだ。
これは社畜時代に似たような厚紙タイプのを使っていた。
しかしながらこちらのは木なもんで、中身を確認するのにいちいち紐を緩めないと開けないので面倒くさい。
会社で使っていたあれは紙だったから、表紙が折れてよかったんだけど。

「……あ」

思い起こせばあれは、表紙が開きやすいように折り目がつけてあった。
これもそうすればいいのでは?

「ナイフ……で、切れるのか?」

ベニヤ板程度の厚さなので、よく切れるカッターナイフなら可能だろうが、こちらのナイフだとどうだろう?
少し考え、作業用のナイフを当ててみる。
かなり力を入れたら、それなりに切れ目がついた。

「何度かやったら切れそう、か、……な!?」

力を込めすぎたナイフが、つるんと滑る。
しかもそれが押さえていた左手に向かってきたとなれば、……当然、焦った。

「うわっ!?」

「チハル!?」

大声を上げた瞬間、レオンがこちらへダッシュしてくる。
私が左手を引っ込めたのと、レオンがナイフを掴んだのは同時だった。

「……こういう危ないことはやめてくれないか」

「……はい」

後ろから私を包み込んだまま、レオンはナイフを置いた。
そのまま私が怪我をしていないか確かめているが、その手からは血が出ている。

「レオン、その。
……血が」

「これくらい舐めときゃ治る」

その言葉どおり、べろんと彼が傷を舐めた途端に傷が消えていく。

「簡単な治癒魔法は使えるんだ。
だから、俺の傷は気にしなくていい。
それよりチハルが怪我をする方が困る」

ゆっくりと彼が、私から身体を離す。

「……以後、気をつけます」

「うん」

私のあたまをぽんぽんし、レオンはまた机に戻った。
心臓がドキドキと速い鼓動を刻んでいる。
これはいま、怪我をしそうだったという危機的状況だったから、で。
無理矢理そう言い聞かせようとするけれど。

「……レオンって体温、高いのかな……」

ふわりと私を包み込んだ温かさが忘れられず、いつまでも心臓は落ち着かなかった。

また危ないことをするわけにはいかないので、結局、板はレオンに切ってもらった。
治癒魔法といい、こんなのも簡単に魔法で切れちゃうなんて羨ましい。

「こんなに切り刻んでどうするんだ?」

レオンは興味津々に、作業をする私の手もとを見ている。

「えーっとですね……」

糊、はあるので、切った板を、布を使って繋ぎあわせる。

「こうやってくっつけたら、紐を緩めなくても開けるようになると思うんですけど」

うまくくっつかなかったらどうしよう、と心配だったけど、思ったよりも糊は強力で、ちょっとやそっとじゃ剥がれそうになくて安心した。

「面白いことを考えるな、チハルは」

表紙をぱたぱた綴じたり開いたりしながらレオンは感心している。

「いや、別に……」

これくらいは普通、だと思うんだけど。

「これは便利だ。
残りの書類もこれにしてくれないか?」

「え?」

レオンのお役に立てるのは嬉しい。
が、部屋を見渡してさすがにヒクヒクと笑顔が引き攣った……。
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