いつかあなたに食べられる日まで~元社畜女子はもふもふに癒やされる~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第8章 ふたりだけで結婚式

3.……結婚、しよう

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「それ、できたんだな」

「ああ、はい」

私の横に転がる花冠を手に取り、レオンがあたまにのせてくれる。

「可愛いな、チハル」

「えっ、あっ、……そう、ですか」

アラサーになって花冠をのせて可愛いなんて照れくさいが、悪い気はしない。

「レオンも」

「はぁっ?
俺が似合うわけないだろうが」

「いいから」

彼は拒否してくるが、かまわずにそのあたまに花冠をのせた。

「似合いますよ、優しい王様って感じがします」

「そ、そうか」

まんざらでもないのか、レオンがぽりぽりと鼻を掻く。
そういうのが凄く可愛い。

「……チハル」

向かいあうレオンが両手を取り、じっと私を見つめてくる。
その真剣な瞳になにも言えなくて、私も黙って見つめ返した。

「……結婚、しないか」

その一言で胸の中が熱いもので満たされ、みるみる視界が滲んでいく。

「……はい」

落ちそうな涙を、慌てて拭った。

「獣の結婚って、なにかするんですか?」

「そうだな。
親しい人間を呼んでパーティを開くくらいか」

そこは私たちと変わらないんだ。
でも、……もっと確かなものが欲しい。

「じゃあ、私が生まれ育ったところの結婚式をしませんか」

「結婚式?」

「はい」

近くの花を摘み、手早くのリングを作る。

「神様に永遠の愛を誓って、それを誓いのキスで封じ込めるんです。
あと、結婚の証として指環の交換を」

「やろう、それ」

できあがったリングを見て、レオンは大きく頷いた。

向かいあい、両の手を、指を絡めて握りあう。

「その、神様に誓うってどうするんだ?」

「えーっと。
……本当はオスからなんですが、別に私からでもかまわないですよね。
先に私が言いますから、あとからレオンも同じように続けてください」

「わかった」

花畑の真ん中で、ふたりだけの結婚式。
祝福するかのように空は晴れ渡り、小鳥が歌う。

「病めるときも健やかなるときも、私はレオンハルトと共にあることを誓います」

促すようにじっと見つめたら、小さく頷いてレオンが口を開いた。

「病めるときも健やかなるときも、俺はチハルと共にあることを誓う」

ゆっくりとレオンの顔が近づいてくる。
目を閉じると、レオンの口が私の唇に……触れた。

「……」

目を開けて、レオンと視線があう。
途端に涙が、つーっと頬を伝い落ちていった。

「指環の交換を」

レオンの左手を取って、その薬指に花の指環を嵌める。
私の左手を差しだせばその意図に気づいて、レオンも薬指に指環を嵌めてくれた。

「これで私は、レオンのお嫁さんです」

そっと、レオンに抱きつく。

「これはけっこう、感動するものだな」

力を入れすぎないように気をつけながら、レオンが私を抱き締める。
人と獣、許されざる関係。
でも。

――それでも。

「あの誓いの言葉って、前にチハルが言ってた奴だろ?」

覚えて、いたんだ。
もう忘れていると思っていたのに。

「チハルはずっと、俺を好きでいてくれたんだな」

「……好きですよ、レオンが。
これまでも、……これからも」

声が、次第に鼻づまりになっていく。
結婚式を挙げて幸せなはずなのに、胸がこんなに苦しいのはなんでだろう。
いま、どんなときも共にあると誓ったばかりじゃないか。
なのにそれが――永久とわの別れに思えてならない。

「ずっと、ずっとレオンと一緒にいます。
だから、だから、私を離さないで」

「……チハル?」

堪えきれなくなってぽろりと落ちた涙を皮切りに、それはぼろぼろと止めどなく落ちていく。

「お願いだから、一緒にいさせて。
ひとりにしないで。
お願い、お願いだから……」

私の涙をレオンの毛が吸い取っていく。
彼は黙ったままなにも言わない。
それがさらに、私の不安を掻き立てる。

「……バカだな、チハルは。
いま、一緒にいると誓ったじゃないか」

私の身体を離し、そっとレオンは指先で私の涙を拭った。

「チハルをひとりにしない。
だから、安心していい」

彼が私へ微笑みかける。
けれどそれはどこか嘘くさくて、不安は晴れなかった。
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