いつかあなたに食べられる日まで~元社畜女子はもふもふに癒やされる~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第10章 いつまでも癒えない心

1.レオンの肖像画

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あれから学校では小さな問題はちょいちょいあるものの、大きな問題は起こっていない。

「チハル先生、さようならー」

「はい、さようなら」

今日も人間とうさぎ、猫が仲良く下校していく。
私がした話でいまのところ、子供たちに影響は出ていない。

「マークス、顔、まだ痛いか?」

「カミルのおかげでだいぶ治った!」

ネズミのカミルが人間のマークスを気遣う。
朝、マークスの顔が腫れているの気づき、すぐに魔法で氷を出して冷やしてやったのが、カミルだ。

「マークスの父ちゃんも殴ることないのにな」

「父ちゃん、前はドレイでカワイソウだから仕方ないんだ」

マークスは笑っているが、本当に腹が立つ。
確かに?
奴隷だった経験から獣と仲良くしたくない気持ちはわかるけど。
だからといって子供にそれを押しつけるのは間違っているし、さらに殴るのは許せない。
もう毒親だよ、毒親。

「マークス。
先生がご両親に……」

「チハル先生。
父ちゃんはカワイソウで仕方ないからいいんだ」

マークスの笑顔は純粋すぎる。
本当にいい子だ、彼は。
最近は悪戯……もとい。
彼の善意の行動が人に迷惑をかけることも減ってきている。
やる前に一度、これは本当に相手にためになるか考える癖がついたらしい。

とにかく。
こんないい子に手を上げられる両親は理解できない。
それに虐待死の課程を目の当たりにしている心境だ。
いい子だからこそ、両親を庇う。
だから、虐待が隠される。

「マークス!
しばらく先生のところに泊まろう!」

とりあえず、親から離したい。
それでご両親と話をして、それでもダメならもう、私がマークスを育ててもいい。
できるかどうかは自信がないが、バルドゥルさんに協力をお願いすれば、なんとか……。

「ええーっ、マークスだけズルい!
だって、チハル先生の家って、バルドゥル様のお城だろ!? 僕も、泊まりたーい!」

いきなり、カミルに詰め寄られてたじろいだ。
さらに、他の子もバルドゥル様のお城に泊まりたいと迫ってくる。

「あー、うん。
わかった。
バルドゥルさんに許可をもらってからね……」

「やったー!」

子供たちは喜んでいるが……責任、重大です。

帰ったら、バルドゥルさんはいなかった。

「まだ帰ってきてないんだ……」

彼は今日、街へ行くと言っていた。
本当は、連れていってほしい。
あそこへ行けば、レオンに会えるから。

「ううん。
考えない」

バッグを置き、机に向かって明日の教材作りをはじめる。
レオンと別れて三ヶ月がたとうとしているが、彼は一度も会いに来てくれないどころか、手紙すらくれない。
街へ行くバルドゥルさんへ私が託した手紙は、受け取っているのに。

夕食の時間にはバルドゥルさんは帰ってきた。

「あの。
お願いがあって」

「なんですか?
チハルさんからのお願いなんて珍しい」

今日もバルドゥルさんの食事は、野菜と魚だ。
メニューを見るにちゃんとタンパク質は取れているし、最近は私も同じメニューにしてもらっている。
ふたり分、別々の食事を作るのは面倒くさいだろうしね。

「その。
子供たちをこの城に招待してもいいですか?
それで一泊、お泊まり会的な。
あ、ご迷惑だったら別に」

やはり、ひとりやふたりならまだしも、あの人数は迷惑だよね。
いくら、それなりに広いお城とはいえ。

「別にかまいませんよ。
私も一度、子供たちとゆっくり話してみたいと思っていたので」

目尻を下げて彼がにっこりと笑う。

「ありがとうございます。
なるべく行儀よく、させるようにしますので」

「いえいえ。
子供は元気なのが一番です。
気にしなくていいですよ」

バルドゥルさんは笑っているけど、彼らの元気のよさは……本当に危険です。

「ああ。
手紙、ちゃんとレオンに渡してきました」

さりげなく彼が口にした言葉で、ぴくりと指が反応する。

「……元気に、していましたか?」

「一応は。
……これを、預かってきました」

机の上へ、布包みが滑らされる。
手に取って開けたその中には、写真大の肖像画が入っていた。

「……こんなの、渡してこないでよ」

みるみる視界が滲んでいき、慌てて拭う。
大事にそれを、胸に抱いた。

「……バルドゥルさん。
もうひとつお願い、いいですか」

「はい」

「肖像画家を呼んでいただけますか」

「わかりました」

バルドゥルさんは特になにも言わない。
きっと、わかっているんだと思う。
肖像画を愛する人同士で交換する。
それは、ここの獣人たちに流行っている習慣だ。
ならば私の肖像画を、レオンに届けなければ。

部屋に戻り、改めてレオンの肖像画を見た。

「……レオン」

会いたい。
いますぐに会いたい。
でも、私にはそれが叶わない。

「……あ」

よく見るとそれは、左手薬指に花の指環をしているのに気づいた。

「そんなの……」

泣かないと決めたはずなのに、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
こんなに愛しあっているのに、どうして私たちは一緒にいられないのだろう。
レオンが私を愛すれば愛するほど、私は彼に食べられる。

「食べてしまいたいほど可愛い、とはいうけれど……」

本当に食べられてしまうのは話が別だ。

「でも……」

一瞬、浮かんだ考えを慌てて打ち消す。
こんなことを考える私は、きっとおかしいんだと思う。

「私も肖像画に、指環を描いてもらいますね」

きっとそれが、離れていても夫婦だという証になるから。
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