いつかあなたに食べられる日まで~元社畜女子はもふもふに癒やされる~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第10章 いつまでも癒えない心

2.ドレイだったからカワイソウ、とか言わせない

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バルドゥルさんが子供たちを城に招待していいといってくれたので、それなりのおもてなしの準備をする。

「チハルさんは面白いことをしますね」

「そう、ですか……?」

飾りつけた食堂を、バルドゥルさんは興味深そうに見ていた。
もらったハギレや書き損じの紙でガーランドとか作ってみたんだけど、こちらではこんなことはしないのかな?
「部屋を飾るなど、花を置くくらいしか思いつきませんよ」

「それはそれで華やかですね」

確かに、こういうのはないかも。
私の中では普通でも。

「こんにちはー」

お昼過ぎに子供たちがやってきた。
今日はお茶会後、お城の探検、夕食を食べてパジャマパーティ、朝食を食べて帰るプランになっている。

「あれ?
マークスは?」

子供たちの人数を確認する。
数人、都合でこられないと連絡をもらっていたが、マークスからはない。

「誘いに行ったけど、出てもこなかった」

心配そうなカミルの言葉で、心がざわつく。
マークスの親はバルドゥルさんすら嫌っているようだった。
その城に泊まりに行くとなれば、反対するかもしれない。
しかも、迎えにいったカミルに姿すら見せないのは、気になる。

「……バルドゥルさん。
あと、お任せできますか」

静かに目配せしたら、彼も異変に気づいてくれたようだった。

「私も行く。
今日は人手を借りてあるし、しばらくは彼らだけで大丈夫だろう」

「……ありがとうございます」

すぐに彼がお手伝いさんたちに事情を話し、子供を任して城を出た途端、一緒にダッシュした。

「マークスの親は前から、獣人と仲良くするマークスを殴っていたんです」

まさか、そんなはずは。
浮かんでくる最悪の可能性を必死に否定する。

「殴るのは酷いな。
自分たちだってやられてきて、嫌だっただろうに」

バルドゥルさんの意見はもっともだ。
自分たちだって散々、殴られてその痛みを知っているはず。
なのに、子供に暴力を振るえるだなんて。
お願い、マークス。
無事でいて!

「マークス!
マークス、いる!?」

上がった息も気にせずに、ドアをノックする。
けれど、反応はない。

「……どきなさい」

バルドゥルさんに場所を譲る。
彼は小さく息を吸い込んだあと、思いっきりドアを蹴り飛ばした。

――ドーン!

大きな音と共に、ドアが吹っ飛ぶ。

「マークス!」

床の上に横たわる、彼に駆け寄る。
マークスは全身が、痣だらけになっていた。
抱き起こしたら息はしていて、ほっと胸を撫で下ろす。
今日のお泊まり会でそのまま、マークスだけ城に残すつもりだった。
それが一番、親と無理なく離せそうだったから。
そんな、軽く考えていた自分に腹が立つ。
もっと早く、マークスを親と引き離すべきだった。

「……彼に、なにをした?」

低い唸り声が聞こえ、振り返る。
そこでは突っ立っていた父親の喉を掴み、バルドゥルさんが持ち上げていた。

「なにって、ライオンなんかの家に泊まりに行きたいとか言う、あいつが悪いんだ」

こんな状況なのに、父親はヘラヘラと笑っている。

「だからといって、子供に暴力を振るっていいわけないだろうが!」

バルドゥルさんの咆哮が、家を揺らした。

「殺すのか?
俺を、殺すのか?
殺せばいいだろ、お前たちにはその権利があるんだから」

「……!」

挑発され、苦しげにバルドゥルさんが顔を歪める。

――ドーン!

次の瞬間、彼が父親を投げ捨てた音が響いた。

「は、はははっ。
なんだよ、殺さないのかよ」

強がって笑う父親を、バルドゥルさんがじろりと睨みつける。
父親はひっ、と小さく悲鳴を上げた。

「私は人間を、自分より下に思ったりしない」

ぎゅっと強く握られたバルドゥルさんのこぶしは、ぶるぶると細かく震えている。

「けれど、キサマは別だ!
この村を出ていけ!」

再び、彼の咆哮が家を揺らした。

「ははっ、こんな村、頼まれなくたって出ていってやる」

威勢のわりに腰が抜けて動けない父親を無視し、バルドゥルさんはマークスを抱き抱えた。

「すぐに城に連れ帰り、医者を呼びましょう」

「お願いします。
……マークス、あと少しだけ辛抱してね」

ぐったりとしたマークスから返事はない。
瞼すら開かなかった。

家を出て、中を振り返る。
父親はいまだに這いつくばったまま、ブツブツなにか言っていた。

「……同情、なんてしない」

彼と私はきっと、同じ境遇だった。
でも私が彼と違うのはきっと、……レオンに、会えたから。
レオンに出会わなかったらもしかしたら私も、彼のようになっていたかもしれない。
そう考えると――怖い。
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