いつかあなたに食べられる日まで~元社畜女子はもふもふに癒やされる~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第10章 いつまでも癒えない心

3.マークスは間違ってないよ

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城に帰ってすぐに、バルドゥルさんは医者を呼んでくれた。
大丈夫だとの言葉をもらい、子供たちのところへ戻る。

「せんせー、どこいってたのー?」

子供たちは見たことがないほどのお菓子の山に目をキラキラさせて、夢中で食べていた。

「んー、ちょっとね。
それより、お手伝いさんたちにお礼は言った?
みんなのために頑張って、お菓子作ったり準備したりしてくれたんだよ?」

「あー、まだだった!
ありがとうございまーす」

無邪気に子供たちがお礼を言う。
マークスも今日は、あの中のひとりだったはずなのに。
彼はいま、ひとりベッドの上で戦っている。

「みんな、我が家のお茶会はどうかな?」

しばらくしてバルドゥルさんが食堂へ姿を現した。
目があって、黙って頷く。

「あー、バルドゥル様だー」

「バルドゥル様ー」

わらわらと子供たちは寄っていく……けれど。

「うわーっ、ちょっと待った!」

止めるまもなく、彼は子供たちにいいように遊ばれていた。

「立派なたてがみー」

「お、下りなさい!」

よじ登った子供が、彼のたてがみを引っ張る。

「こらこら、たてがみをひっぱらならないでくれないかな」

などといいながらも、彼は嬉しそうに笑っている。

「私も!
私もバルドゥル様の肩に登りたい!」

「ん?
かまわない。
ただし、順番だよ」

あっというまに彼の前には列ができた。
そういう、お行儀がいいのはいいけれど。

「……すみません、なんか」

「別にかまいませんよ。
私は子供が好きなので。
……いたっ。
髭は引っ張らないでくれるかな?」

両肩に軽々と子供をのせているバルドゥルさんは、よきパパって感じがする。
こんなお父さんだったらきっと、子供は幸せだよね。

ひとしきり遊び、子供たちはバルドゥルさん連れられて城の探検へいった。
そのあいだにマークスのところへ行く。
治癒魔法で彼は、一応回復はしていた。

「マークス?」

「チハル先生……」

みるみる彼の顔が歪んでいく。

「もう心配いらないからね」

ぎゅっと抱き締めた途端、マークスは声を上げて泣きだした。

「オレが、オレが、父ちゃんの言うこときけないから……」

「マークスは悪くないよ。
マークスは悪くない」

まだ六歳の、小さな身体。
こんな彼を、しかも実の親が殴れるんだ。

「父ちゃんがドレイだったからカワイソウ、なのはわかるけど、なんでバルドゥル様が嫌いなのかわかんない。
バルドゥル様はオレたちに優しいのに」

「……そうだね」

きっと父親はマークスを殴りながら、バルドゥルさんの悪口を言ったに違いない。

「大丈夫だよ、マークスは間違ってない。
間違ってないから」

ぎゅっと、強く彼を抱き締める。
マークスの父親は何年たっても、心が奴隷から抜け出せなかった。
彼だけじゃない、きっとここにはそんな人がたくさんいる。
一度、卑屈になってしまった心は、ちょっとやそっとじゃ癒えない。
それは会社員時代、周りにたくさんいたから知っている。
どうしたらいいのかな。
カウンセラーとかいたら、なにか変わったんだろうか。

「マークス。
マークスのお父さんは……」

そこまで言って、止まる。
今日は楽しい、お友達とのお泊まり会なのだ。
なら、つらいことはあとでいい。

「身体は平気?
お医者さんはもう大丈夫だって言っていたけど?」

「うん!
オレ、元気だよ!」

証明するかのようにマークスがベッドの上を飛び跳ねる。

「じゃあ、みんなと合流しよっか。
カミルが心配してたよ?」

「本当!? オレ、せっかくカミルが迎えにきてくれたのに、出られなかったから」

マークスの手を引いて、城の中を歩く。

「あー、マークスだ!」

「なにしてたんだよ!?」

「ごめんごめん。
ちょっと、さ」

私たちを見つけ、みんなマークスを囲む。
よかった、この中からマークスだけがいなくなるなんてことにならなくて。

夕食の席も大騒ぎだった。

「せんせー、こぼしたー」

「ちょ、ちょっと待って!」

すぐに気づいたお手伝いさんが片付けてくれ、ほっと息をついたのも束の間。

「せんせー、おしっこー」

すぐに次の手が上がる。

「えっ、ひとりで行ける!?」

「せんせー、カミルがトマト残してるー」

「せんせー、マークスが僕のパン取ったー」

……うん。
もう、いちいち報告してこないでよろしい。
いつも学校は午前中だけだから気にしていなかったけれど、食事だけで戦争だ。
凄いな、保育士さんとか小学校の先生とか。
いまさらながら尊敬してしまう。
わたわたしている私に対し、バルドゥルさんといえば。

「ん?
トマトが食べられないのかな?
無理に食べることはないからね」

「パンを取られたのか。
なら、私のパンをあげよう」

はっはっはーなんて笑いながら、子供たちの相手をしている。
なんでそんなに余裕なんだ。
羨ましい。

大騒ぎの食事が終わったあとは、パジャマパーティのはじまりだ。

「私はねー、クラウスが好き!」

「えー!
私も!」

「私はねー」

小さくても恋バナがはじまるのはさすが、というか。
男の子の方はバルドゥルさんにお任せしているが……あの様子なら大丈夫か。
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