子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第2章 極悪上司の事情

3.極悪上司は子煩悩

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キーを打つ手を止め、斜め前の席をちらり。

「ん?
なんかあったか?」

私の視線に気づいた、京塚主任がにかっと笑う。

「あの。
これって納入価格が標準切ってるんですが、通しちゃっていいんでしょうか……?」

「どれだ?」

席を立ってきた京塚主任は画面をのぞき込んだ。

「あー、これなー」

なんかわけあり?
なんて思った次の瞬間。

「西山!」

「ハ、ハイッ!」

京塚主任の鋭い声が飛び、瞬間移動でもしたかのように西山さんがその前に立った。

「見積もりの段階で言ったよな、こんな価格でうちの社員をただ働きさせるつもりか、って」

トントンとせわしなく、京塚主任の長い指が私の机を叩く。

「で、でも。
もう長い付き合いの会社ですし……」

西山さんは必死に言い訳をしているが、完全に怯えていた。

「付き合いが長いとか短いとか関係あるか。
足下見てくるような会社は、容赦なく切れ」

「で、でも……」

「でもじゃねぇ!」

「ひぃっ!」

眼光鋭く京塚主任に睨み上げられ、とうとう西山さんが短く悲鳴を上げる。

「もう今回は納入されたあとだからしゃーねーが、メンテ料とかは見直せよ?」

「わ、わかりました!」

こくこくと壊れた人形のように西山さんが頷き、京塚主任は私へと視線を向けた。

「そんなわけなんで、それは通していい」

「わかりました」

パソコンに向かい直し、警告を無視して実行キーを押す。
ちょくちょく京塚主任は営業のことに口出しするけれど、いいのかな……。

「星谷、昼」

「え、もうそんな時間ですか」

気がついたらお昼休みになっていた。
京塚主任に声をかけられ、簡単に片付けをしてパソコンをスリープにし、席を立つ。
休憩室で空いている席を探した。

「ここ、いいですか」

「あ?」

大口を開け、ご飯を頬張ろうとしていた京塚主任が止まる。

「別にいいけど」

気を取り直すように再び口を開け、今度こそ彼はご飯を食べた。

「いただきます」

私もお弁当を開け、食べはじめる。

「愛妻弁当ですか」

「あ?
まあな」

素っ気なくそれだけいい、引き続き彼が食べているそれは、酷く味気なかった。
おかずのほとんどがどう見ても冷食だし、唯一調理……と呼んでいいのかわからないが、されたものはウィンナーを炒めたものだけ。
もしかして奥さんは、料理下手とか?
それでも作ってくれるだけましといえばましなのかな。

「オマエの弁当、華やかでいいな」

「え、そうですか?」

京塚主任のお弁当をディスっといてあれだが、私だって冷食を多用している。
色味は気をつけているけど。

「そんな弁当だったら娘も、喜んでくれるのかな」

「……え?」

はぁっ、と小さく彼がため息をつく。
もしかして、もしかしなくても、娘さんのお弁当もこの京塚主任のお弁当と似たようなものなんだろうか。
保育園児に、それはさすがに……可哀想すぎる。

「あ、あの……」

「ん?」

彼は箸を止めて私を見た。

「その、キャラクターもののかまぼことかあるので、それを入れるだけでもだいぶ違うんじゃないかな、と」

「ふーん」

興味なさげにそれだけ言い、京塚主任がウィンナーを口に運ぶ。

「ああ、スミマセン、スミマセン!
余計なお世話、でしたよね!」

慌てて、前言撤回した。
奥さんだっていろいろ考えてこのお弁当なんだろうし。
なのに、私がアドバイスとか何様すぎる!
ううっ、この机の下にでも潜って隠れようかな……。

「いや、参考になった。
サンキュ」

にかっ、と八重歯を見せて京塚主任が笑う。
途端にトス、とハートを矢に射貫かれた。

「あ、いえ。
そんな……」

熱い顔でちまちまと、一粒ずつご飯粒を口に運ぶ。

……なにあれ。
危うく、「……好きです」なんて口走りそうになったじゃない!
顔のせいで怖がられているなんて絶対、嘘。
結婚してなかったら、狙っている人もいたんじゃないのかな……?

午後からも通常どおり、仕事をこなしていたけれど。

「星谷。
悪いんだが俺、早退してもいいか……?」

外で携帯に出ていた京塚主任から、戻ってきた途端にそう言われた。

「え、別にかまいませんけど、どうかしたんですか?」

彼にしては珍しく、妙にそわそわとしているのが気になる。

「娘が熱を出したって保育園から連絡があったんだ。
迎えに行かなきゃならないから……」

「大変じゃないですか!
早く行ってあげてください!
下野課長もいいですよね!?」

「早く行ってあげなよー」

課長はゆるーく、ひらひらと手を振った。

「オマエひとりで大丈夫か?」

「大丈夫かって、なんとかするから大丈夫です」

まだ迷っている主任を、出口へぐいぐい押していく。

「なんかあったらすぐに電話しろ」

「私のことはいいですから、早く娘さんのところへ」

私のことを心配してくれるのは嬉しい。
しかしながら私の上司は他の人でもできるが、娘ちゃんのパパは京塚主任しかできないのだ。

「じゃあ、あとは任せた!」

踏ん切りがついたのか、そこからは一目散に駆けていく。
その背中を見送りながら、格好いいな、なんて思っていた。
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