子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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エピローグ 極悪上司ととうこ~京塚side

3.透子のと別れ

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新入社員のうちは忙しいので、早く子供は欲しかったが、しばらくは控えた。
そうして結婚して四年目、――杏里が、生まれた。
なにもかも幸せで、透子と出会わせてくれた神に感謝したほどだ。

けれど不幸は唐突にやってくる。
そろそろ二人目、欲しいね。
サンタにお願いしたら大人でも、プレゼントくれないかな。
なんて笑いあっていた、クリスマス直前。

「透子、おっせーな」

待ち合わせの時間はとっくに過ぎていた。
杏里もジュースを飲み終わり、飽きてきている。

「杏里。
ママを迎えに行こうか」

「うん!」

勢いよく頷いた杏里と、店を出る。
その日、休日出勤した透子と外で、待ち合わせをしていた。
クリスマスのイルミネーションを見て、食事をして帰ろう、と。

――ピーポー、ピーポー。

店を出ると、どこからともなく救急車の音が聞こえてきた。

「事故か?」

なぜか、胸騒ぎがする。
杏里を抱き上げ、透子が歩いてくるであろう道を反対に辿った。
それに連れて、救急車の音が大きくなっていく。

「……事故だって」

「……うわっ、ひっでー」

その交差点では、救急車が止まり、人垣ができていた。

「……いや。
そんなはずは」

人垣をかき分け、その前に出る。
そこに倒れていたのは――透子、だった。

「透子!」

夢中で駆け寄り、肩を揺らす。
でも、そのなにも映さない虚ろな瞳は、もう生きていないのだと物語っていた。

「離れて!」

俺に気づいた警察が、透子から俺を引き剥がそうとする。

「妻なんだ!
透子、透子!」

いくら呼びかけても透子はぴくりとも動かない。

「なんで、こんな……!」

そこからは記憶が曖昧で、ほとんどなにも覚えていない。



透子は横断歩道を渡っていたところを、信号無視で突っ込んできた車に跳ねられた。
しかも、倒れたところを避けきれなかった車にさらに轢かれて。
透子がその日、持っていたバッグの中には真新しい、母子手帳が入っていた。



「……パパ。
おなか、すいた」

小さな手が俺を引っ張り、振り返る。

「なんか適当に、そのへんにあるもん……」

そこまで言って、はっと気づいた。
いまは、何月何日だ?
あれから、何日たった?

あんなに透子が毎日、綺麗に整えていた家の中はすっかっり荒れ果てている。
積み重なる、カップラーメンとコンビニ弁当の容器。

「わかった」

こくんと頷いた、杏里はそこにあったお菓子を食べはじめた。

「……わるい、杏里。
ダメなパパですまない」

「……パーパ?」

杏里を、力一杯抱き締める。
透子がいなくなったからといって、腑抜けていてはダメだ。
俺にはまだ、杏里がいる。

その日から杏里のために頑張った。
そうすることで透子のいない現実を忘れるように。
けれど、あの日。
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