呟くのは宣伝だけじゃありません!~仕事も恋もTwitterで!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

文字の大きさ
6 / 42
第1章 一夜の過ちの相手と再会!?

6.変わって、見返してやる!

しおりを挟む
もともとお酒にさほど強くないので、一杯も開けると口が軽くなる。

「だからー、フォロワー増やせってうるさいくせに、当たり障りのない商品宣伝しか呟かせてくれないんですよ。
それならこまめにキャンペーン打ちましょう、って提案しても予算がないで却下だし」

「うんうん」

「しかも自分こそメタボ診断で引っかかってるのに、私にデブだってー」

「そりゃ酷いな」

ミツミさんは笑って私の話を聞いている。
そういえば金曜も適度に相づちを打つだけで変なアドバイスとかしてこなかったから、気持ちよくなってついつい話しすぎていたような……。

「でもですね、やっぱり私、ダイエットしようと思うんですよ。
ミツミさんだって理想体重よりは重いって言ってたじゃないですか」

ビールを二杯も飲めば、酔いもかなり回り、それに伴って口もさらに軽くなる。

「ミツミじゃない。
滝島だ。
滝島蒼馬そうま

不機嫌そうに眉を寄せてそう言い、グラスを持ち上げたミツミさんだけど、空なことに気づいてテーブルに戻した。

「えー、だってみんな、会社名で呼びあっていたじゃないですか」

「いまはプライベートだろ」

店員を呼び止め、ミツミさんが新しいビールを注文する。

「あ、私も」

「お前はそろそろやめとけ。
週末の二の舞になりたいのか」

頬を膨らませながらも反論はできない。
ミツミさんが目配せし、店員は去っていった。

「ミツミさん、狡い」

「だから、ミツミじゃない」

アヒージョの残ったオイルにパンを浸し、ミツミさんは口に入れた。

「うっ」

プライベートだと言われれば、会社名で呼ぶのは確かにおかしいとは思う。
でもなんとなく、名前で呼ぶのは気恥ずかしかった。

「た、滝島さん」

顔が熱いのは酔っているからなのか。

「うん」

満足げに笑い、ミツミ――滝島さんが指に付いたオイルを舐める。
それが妙に絵になって、ぽーっと眺めていた。
不意にレンズ越しに目があい、途端にぽっと顔が熱を持つ。
ニヤッと、滝島さんの右の口端が僅かに持ち上がった。

「ダイエットは賛成だな。
確かに少し、痩せた方がいいとは思うし。
……でもさ」

言葉を切った彼がテーブルの上に身を乗り出し、私の方へぐっと顔を近づけた。
じっと見つめられ、喉がカラカラに渇いてくる。
知らず知らずごくりとつばを飲み込んでいた。

「どうせなら、お前を振った彼氏と、お前を馬鹿にする上司、見返してやりたくないか」

ニヤリ、と右頬だけを歪め、滝島さんが不敵な笑みを浮かべる。

「それは……」

「痩せて綺麗になって、彼氏の方から復縁してくれって頼み込んでこさせたくないか。
フォロワー倍……いや、とりあえず十万突破したくないか」

できるんだろうか、そんなこと。
現状の私を見れば、無理ゲーにしか思えない。

「お前がそうしたいって言うなら、俺が全力でサポートしてやる。
でも無理強いはしない。
俺もサガさんと同じで、現状でも伊深は可愛いと思うし」

さらりと滝島さんが可愛いなどと言ってのけ、慣れていない私はぽっと頬が熱くなった。

「でも少し痩せて化粧も服も変えたらもっと可愛くなる。
仕事だって俺がいままで培ってきたノウハウ、叩き込んだら絶対変わる。
……どうする?」

レンズの向こうから私を見つめる瞳には、揺らぎがない。
どうして、リアルでは週末あったばかりの私に、彼がここまでしてくれるのかわからない。
けれど――。

「……変わりたい」

「うん」

「そんなふうに変わって、彼氏を、上司を見返してやりたい。
私に、できますか」

強い意志を込めレンズ越しに滝島さんの目を見返すと、満足げに彼は頷いた。

「できますか、じゃない。
やるんだ」

「はい!」

私が力強く頷いたら、彼はくいっと眼鏡を上げた。

「わかった。
じゃあまずは……」

これからの計画に耳を傾ける。

私は、変わる。
いまよりもっといい女に。

待っていろ、英人。
きっと後悔させてやる。
待っていろ、大石課長。
絶対まいりましたって言わせてやるんだから!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

数合わせから始まる俺様の独占欲

日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。 見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。 そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。 正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。 しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。 彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。 仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される

中山紡希
恋愛
父の再婚後、絶世の美女と名高きアイリーンは意地悪な継母と義妹に虐げられる日々を送っていた。 実は、彼女の目元にはある事件をキッカケに痛々しい傷ができてしまった。 それ以来「傷モノ」として扱われ、屋敷に軟禁されて過ごしてきた。 ある日、ひょんなことから仮面舞踏会に参加することに。 目元の傷を隠して参加するアイリーンだが、義妹のソニアによって仮面が剥がされてしまう。 すると、なぜか冷徹辺境伯と呼ばれているエドガーが跪まずき、アイリーンに「結婚してください」と求婚する。 抜群の容姿の良さで社交界で人気のあるエドガーだが、実はある重要な秘密を抱えていて……? 傷モノになったアイリーンが冷徹辺境伯のエドガーに たっぷり愛され甘やかされるお話。 このお話は書き終えていますので、最後までお楽しみ頂けます。 修正をしながら順次更新していきます。 また、この作品は全年齢ですが、私の他の作品はRシーンありのものがあります。 もし御覧頂けた際にはご注意ください。 ※注意※他サイトにも別名義で投稿しています。

婚約者に裏切られたその日、出逢った人は。

紬 祥子(まつやちかこ)
恋愛
……一夜限りの思い出、のはずだった。 婚約者と思っていた相手に裏切られた朝海。 傷心状態で京都の町をさまよっていた時、ひょんな事から身なりの良いイケメン・聡志と知り合った。 靴をダメにしたお詫び、と言われて服までプレゼントされ、挙句に今日一日付き合ってほしいと言われる。 乞われるままに聡志と行動を共にした朝海は、流れで彼と一夜を過ごしてしまう。 大阪に戻った朝海は数か月後、もう会うことはないと思っていた聡志と、仕事で再会する── 【表紙作成:canva】

叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家 結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。 愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。

君に何度でも恋をする

明日葉
恋愛
いろいろ訳ありの花音は、大好きな彼から別れを告げられる。別れを告げられた後でわかった現実に、花音は非常識とは思いつつ、かつて一度だけあったことのある翔に依頼をした。 「仕事の依頼です。個人的な依頼を受けるのかは分かりませんが、婚約者を演じてくれませんか」 「ふりなんて言わず、本当に婚約してもいいけど?」 そう答えた翔の真意が分からないまま、婚約者の演技が始まる。騙す相手は、花音の家族。期間は、残り少ない時間を生きている花音の祖父が生きている間。

溺愛のフリから2年後は。

橘しづき
恋愛
 岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。    そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。    でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?

処理中です...