呟くのは宣伝だけじゃありません!~仕事も恋もTwitterで!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第3章 運用廃止の危機ですよ!!

2.他社のTwitter運用の実情

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翌日、滝島さんと待ち合わせをした。
もう中の人業務は待ったなしの状態なので、早くレポートを仕上げてしまわないといけないから。

「伊深」

待ち合わせのコーヒーショップで滝島さんから呼ばれ、見ていた携帯から顔を上げる。

「滝島さん!
……と、サガさん?」

「もう、いまはプライベートだからみちって呼んでー」

笑いながら買ってきたコーヒーを手にサガさんが私の隣に座った。

「えっと……」

「……俺ばっかり伊深と遊んで狡いって丹沢姐サンがごねるから」

「こらっ、滝島くーん。
体育館裏に呼ばれたいかなー?」

ついつい、サガさんの定番ネタに笑いが漏れる。

「えっ、勘弁してくださいよー。
この間もそうやって、三阪屋さんから鯛焼きアイスせしめてたんじゃないですか!」

「人聞きが悪いなー。
せしめたんじゃなくて貢いでもらったの。
そのあとちゃーんと、宣伝してあげたし?」

三阪屋さんがついうっかり失言してサガさんが拗ねたあげく、貢ぎ物をして機嫌を取っているのもいつものこと。
でもちゃんとそのあとサガさんはしっかり宣伝をしているので、これはギブアンドテイクとして成り立っているのだ。

「カイザージムちゃん、ひさしぶりー。
ん?
ちょっと痩せた?」

ぷにぷにとサガさんが私の頬を指でつついてくる。

「確かに少し会わない間に引き締まった気がする」

私の前に座った滝島さんが、同意するかのように頷いた。

「わかりますか!?
スカートのホックが気合い入れなくても留まるようになったんですよ!」

「もう、カイザージムちゃん、可愛い!」

私をぎゅーっと抱き締めたサガさんからはいい匂いがする。

「あ、あの、サガ……路、さん。
私も茉理乃って呼んでもらえたら」

「茉理乃ちゃん、可愛い!
食べたいちゃいくらい!」

ぎゅーぎゅーとサガ――路さんが私を抱きつくもんだから、胸に顔が埋もれてちょっと苦しい。
同じ大きな胸でも私のはホルスタインとか言われたけど、サガさんのは男性が喜びそうだ。
……あ、いや、滝島さんはそそるとかいってくれたけど。

「……丹沢姐サン、そろそろいいですかね」

こほんと小さく滝島さんが咳払いし、ようやく路さんは私を離してくれた。

「そうだった、茉理乃ちゃんが中の人を続けられるように、作戦会議だったわねー」

「はい。
よろしくお願いします」

書いてきたレポートを滝島さんの前に置く。
受け取った彼は無言でそれを読みはじめた。

「会社の方針なら仕方ないけど、なんの指標もないのに成果が上がらなかったら廃止、とか言われても困っちゃうわよねー」

ごくりとコーヒーを一口飲んで、路さんはカップをテーブルに戻した。

「路さんのところはどうなんですか」

「私のところはねー、ある程度放任かな。
だから、体育館裏にいらっしゃーい、なんていうのも許される」

サガさんの姐さんキャラはもうすっかり定着している。
それを楽しんでいる人たちもいるくらい。

「その代わり、伝えるように言われたことはしっかり伝えるわ。
そのためのいつものキャラなんだから」

メリハリがしっかりしているから、サガさんのメッセージツイートはいつも説得力がある。
私も、あれくらいになれたらいいのに……。

「でもTwitter運用も会社によるわよね。
SMOOTHなんて橋川くんに丸投げ。
責任は社長が取るから好きにやっていい、って」

「それはちょっとうらやましいです」

そんなのだったら、苦労はないんじゃないかな?

「でもその分、責任重大よ。
橋川くんの呟きはSMOOTHって会社を背負ってる。
それを常に考えてのあの呟きだから」

「あ……」

まだ私が大学生の頃、SMOOTHは上層部が総入れ替えになり、新生SMOOTHとしてやり直すと発表があった。
世間は元モデルの美しすぎる社長の誕生にばかり注目していたけれど、Twitterでは新しい中の人の話題で持ちきりだった。
いままでのSMOOTHに対する批判と謝罪、そして新生SMOOTHへの期待と抱負。
内部の人間だとできない、けれど内部の人間だからできることをやったのはいまの担当、橋川さんだ。

「橋川くんは見た目、ただの爽やかイケメンだけど、あの中身はかなりしっかりしているわ。
しかも年上女房の二児のパパだし!」

「えっ、そうなんですか!?」

なんかちょっと意外だ。
でも左手薬指に指環をしていたし、そういえば子供が熱出したから帰ったとか滝島さんが言っていたような。

「それに三阪屋の小泉は食い意地が張ってて、食レポにすぐれているってだけで選ばれたらしいし」

「それはなんか納得です」

うん、三阪屋さんの試食レポートは本当に美味しそうで、ついつい買いたくなっちゃうもん。
あれはあれで正解だ。

「そしてこいつ」

ちょい、ちょいと路さんが親指で滝島さんを指す。

「会社にTwitter担当がいないのをいいことに、俺がやります!
って勝手にはじめて、あとから公式に認めてもらった人だから。
あんまり真似しない方がいいわ」

「えっ!?
はぁっ!?」

「ん?
なんか言ったか?」

読み終わったのか、滝島さんが顔を上げた。

「えっと……。
なんでもない、です」

ちょっぴり気まずい思いをしている私とは違い、路さんは素知らぬ顔でコーヒーを飲んでいる。

「ん。
じゃあこれ。
九十点。
まあ合格」

「百点じゃないんですね……」

けっこう自信はあったのだ。
でも九十点って。
滝島さん、採点厳しくない?

「これでも甘くしてやったんだぞ」

嘘だ、そのわりにニヤニヤ笑っているし。

「これだけできたら上等だ。
次は前回のと今回のを踏まえて、企画書に仕上げてこい」

「了解です!」

「ちょっと待って。
滝島、あんた茉理乃ちゃんになにやらせているのよ」

パラパラと私のレポートを捲っていた路さんの眉間に皺が刻まれていく。

「宣伝の基礎はわかる。
でも市場経済の動向と消費者意識とか、アイドルの変遷と株価の変動とか必要?」

私も思っていた、消費者意識の方はまだわかるが、アイドルの変遷がなんの関係があるんだろうって。

「必要だ。
全部同じところに繋がってくるから伊深は黙ってやればいい」

くいっと滝島さんが眼鏡を上げ、レンズがキラリと光る。

「出たー、俺様滝島様ー」

路さんは苦笑いしている。
私も激しく同意だけど。

「でも不思議と、滝島がやることに間違いはないのよねー。
仕方ないけど茉理乃ちゃん、付き合ってあげて?」

器用に路さんが、私に向かってぱちんとウィンクした。

「わ、私こそ、いまは頼れるのが滝島さんしかいないから、ありがたいです!」

「ほんと可愛いー。
妹にしたいー」

「み、路さん!?」

また、路さんにぎゅーぎゅー抱き締められる。
そんな私たちを滝島さんは笑ってみていた。

「お腹空いたー。
ごはん食べに行きましょ?」

路さんに腕を引っ張られ、椅子を立つ。

「あ、でも私、ダイエット中で……」

「えー。
たーきーしーまー」

恨みがましく路さんに睨まれはぁっと小さくため息をついたあと、滝島さんは苦笑いを浮かべた。

「食い過ぎなきゃ大丈夫だ。
それにその分、運動すれば問題ねー」

「だって。
ほら、行きましょう?」

強引に路さんから腕を取られたまま店を出る。
そしてこのあと、前に滝島さんが、ひとりで丹沢姐サンの相手はできない、とか言ってきた意味を知ることになる……。
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