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最終章 公開告白を許してください
4.そういう趣味はないので!
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翌週の水曜、帰ろうとしたら駅でいきなり、後ろから肩を掴まれた。
このパターンは覚えがある。
振り返ったら案の定、英人が立っていた。
「茉理乃」
にこにこと、もし尻尾があったら楽しい子犬のようにパタパタと振っているだろう顔で私を見つめる彼はなんか気持ち悪くて……思わず、距離を取った。
「時間、取れないか」
「えっと……」
たぶん、彼の中では私はまだ、自分の自由になる彼女の分類になっているはず。
なら、ちゃんと別れを言ってあげた方がいい。
「……いいよ」
「やったー!」
スキップしそうな勢いで彼が歩いていく。
「いくぞ?」
少し歩いて着いてこない私を振り返った。
「ああ、うん」
いままでならさっさと先に行って、私を気にしたりしなかった。
やっぱりなんか、気持ち悪い。
なにを企んでいるんだろう。
食事、と言われたけれど、そんな気分にはなれなくて近くのコーヒーショップに入る。
素直にそれに従う英人はいままでの彼からいって想像できない。
「この間はごめんな、迷惑かけて。
……これ」
お礼を言って滑らされてきた封筒を、何事かと見つめた。
「タクシー代とか病院代とか茉理乃に立て替えてもらっただろ。
ありがとう」
さらに英人が、封筒を滑らせる。
あの英人がありがとうなんてまずありえない。
なさ過ぎてますます警戒が高まる。
「えっ、あっ、うん。
……どうも」
躊躇いつつ、受け取った。
これを理由になにか要求されるんじゃないか、とか考えた私に罪はない。
「茉理乃、綺麗になったよなー」
うっとりと英人が私を見つめる。
うん、いつぞやの大石課長のいやらしい目付きでもなく、どちらかというと滝島さんと同じ目付き。
「……そりゃどうも」
一応、お礼を言ってカフェラテを口に運ぶ。
さっきから英人はどうしたんだろう。
インフルエンザの熱でおかしくなった?
「ごめんな、いままで。
お前にデブとか言って。
許してくれたらいいんだけど」
「へ?」
思わず、口から変な音が出た。
優しい英人に、心を入れ替えてくれたんだ、嬉しい、などという気持ちは全く起きないが。
「こんな美しい茉理乃、オレにはもったいないくらいだ」
英人の手がそっと私の手に重なり、ぞぞぞぞーっと背筋が逆立つ。
「……なあ。
もう一度、やり直してもらえないか」
ずっと待っていた言葉なのに、聞いた途端にすーっと魂の底から冷えた。
ああ、やっぱり私の中で、この人とは完全に終わっているんだ。
「新しい彼女ができたんじゃなかったの?」
「あんなの、茉理乃に比べたらクズだ。
オレには茉理乃がいないとダメなんだ」
変わったのかと思ったのに、相変わらずの英人に反吐が出る。
私がいないとダメ?
ただの都合のいい女でしかないのに。
「この間、茉理乃に看病されて気づいたんだ。
オレには茉理乃しかいないって」
「私はあなたなんて……」
私の両手を掴み、妙に鼻息荒く英人が迫ってくる。
「なあ。
……お母さん、って呼んでいい?」
「……は?」
こんな状況にもかかわらず、間抜けにも口は半開きでぽかんと英人の顔を見ていた。
きっとまんがだったら、あたまの上にでっかいクエスチョンマークが浮かんでいることだろう。
「オレ、茉理乃みたいな美女に、赤ん坊扱いされたい」
「……は?」
待て待て待て。
これはあのとき、新たな扉を開きそうで踏みとどまった私とは反対に、英人は開いてしまったのか?
「えーっと。
そういうのはちょっと……」
「お母さん……」
さらに英人の顔が近づいてきて身の危険を感じる。
のけぞって離しつつ、掴まれた手を振り払った。
「そういうのはごめんだから!」
――バッシーン!
店内に響いた音で一瞬、すべての会話が止まる。
「ああん」
気色悪い声で英人が椅子へと崩れ落ちた。
冷たい視線を向け、周囲の声がひそひそ話に変わっていたたまれない。
「もっと、もっと……!」
頬を真っ赤に腫らし、ハアハアと荒い息で英人がさらに私の手に縋ってきた。
「私にそういう趣味はないから!
二度とつきまとわないで!
わかった!?」
「ああん、それはそれでご褒美ー」
まだひとりで興奮している英人を置いて店を出る。
私はいったい、彼のなんの扉を開いてしまったんだろう。
「ううっ……」
携帯を出して速攻でブロックする。
もう二度と、彼とは関わりあいたくない。
家に帰り、少し考えて滝島さんとのトーク画面を開いた。
「まだなんか、怒ってたらどうしよう……」
迷いつつ、お疲れさま、こんにちはとスタンプを送る。
「少しよろしいでしょうか、と」
文章が硬い?
でももし怒っているんだとしたら、さらに怒らせるようなことはしたくないわけで。
そわそわしながら返信を待っていたら、少ししてチロリロリンと通知音が鳴った。
急いで携帯を手に取り、開いた画面にはお疲れのスタンプとどうした?の文字。
ほっとして、指を走らせる。
【今日、元彼からやり直してほしいと頼まれました】
【でも私にはその気がないので、すっぱり断ってやりましたよ!】
すぐに既読になって新しいメッセージが上がってくる。
【そうか、よかったな】
【これで俺の役目も完全に終わりだな】
【じゃあ】
「え……」
会話は一方的に終わり、ありがとうとか送ったスタンプも既読にならない。
その後、何度か話しかけてみたけれど、既読にすらならなかった。
このパターンは覚えがある。
振り返ったら案の定、英人が立っていた。
「茉理乃」
にこにこと、もし尻尾があったら楽しい子犬のようにパタパタと振っているだろう顔で私を見つめる彼はなんか気持ち悪くて……思わず、距離を取った。
「時間、取れないか」
「えっと……」
たぶん、彼の中では私はまだ、自分の自由になる彼女の分類になっているはず。
なら、ちゃんと別れを言ってあげた方がいい。
「……いいよ」
「やったー!」
スキップしそうな勢いで彼が歩いていく。
「いくぞ?」
少し歩いて着いてこない私を振り返った。
「ああ、うん」
いままでならさっさと先に行って、私を気にしたりしなかった。
やっぱりなんか、気持ち悪い。
なにを企んでいるんだろう。
食事、と言われたけれど、そんな気分にはなれなくて近くのコーヒーショップに入る。
素直にそれに従う英人はいままでの彼からいって想像できない。
「この間はごめんな、迷惑かけて。
……これ」
お礼を言って滑らされてきた封筒を、何事かと見つめた。
「タクシー代とか病院代とか茉理乃に立て替えてもらっただろ。
ありがとう」
さらに英人が、封筒を滑らせる。
あの英人がありがとうなんてまずありえない。
なさ過ぎてますます警戒が高まる。
「えっ、あっ、うん。
……どうも」
躊躇いつつ、受け取った。
これを理由になにか要求されるんじゃないか、とか考えた私に罪はない。
「茉理乃、綺麗になったよなー」
うっとりと英人が私を見つめる。
うん、いつぞやの大石課長のいやらしい目付きでもなく、どちらかというと滝島さんと同じ目付き。
「……そりゃどうも」
一応、お礼を言ってカフェラテを口に運ぶ。
さっきから英人はどうしたんだろう。
インフルエンザの熱でおかしくなった?
「ごめんな、いままで。
お前にデブとか言って。
許してくれたらいいんだけど」
「へ?」
思わず、口から変な音が出た。
優しい英人に、心を入れ替えてくれたんだ、嬉しい、などという気持ちは全く起きないが。
「こんな美しい茉理乃、オレにはもったいないくらいだ」
英人の手がそっと私の手に重なり、ぞぞぞぞーっと背筋が逆立つ。
「……なあ。
もう一度、やり直してもらえないか」
ずっと待っていた言葉なのに、聞いた途端にすーっと魂の底から冷えた。
ああ、やっぱり私の中で、この人とは完全に終わっているんだ。
「新しい彼女ができたんじゃなかったの?」
「あんなの、茉理乃に比べたらクズだ。
オレには茉理乃がいないとダメなんだ」
変わったのかと思ったのに、相変わらずの英人に反吐が出る。
私がいないとダメ?
ただの都合のいい女でしかないのに。
「この間、茉理乃に看病されて気づいたんだ。
オレには茉理乃しかいないって」
「私はあなたなんて……」
私の両手を掴み、妙に鼻息荒く英人が迫ってくる。
「なあ。
……お母さん、って呼んでいい?」
「……は?」
こんな状況にもかかわらず、間抜けにも口は半開きでぽかんと英人の顔を見ていた。
きっとまんがだったら、あたまの上にでっかいクエスチョンマークが浮かんでいることだろう。
「オレ、茉理乃みたいな美女に、赤ん坊扱いされたい」
「……は?」
待て待て待て。
これはあのとき、新たな扉を開きそうで踏みとどまった私とは反対に、英人は開いてしまったのか?
「えーっと。
そういうのはちょっと……」
「お母さん……」
さらに英人の顔が近づいてきて身の危険を感じる。
のけぞって離しつつ、掴まれた手を振り払った。
「そういうのはごめんだから!」
――バッシーン!
店内に響いた音で一瞬、すべての会話が止まる。
「ああん」
気色悪い声で英人が椅子へと崩れ落ちた。
冷たい視線を向け、周囲の声がひそひそ話に変わっていたたまれない。
「もっと、もっと……!」
頬を真っ赤に腫らし、ハアハアと荒い息で英人がさらに私の手に縋ってきた。
「私にそういう趣味はないから!
二度とつきまとわないで!
わかった!?」
「ああん、それはそれでご褒美ー」
まだひとりで興奮している英人を置いて店を出る。
私はいったい、彼のなんの扉を開いてしまったんだろう。
「ううっ……」
携帯を出して速攻でブロックする。
もう二度と、彼とは関わりあいたくない。
家に帰り、少し考えて滝島さんとのトーク画面を開いた。
「まだなんか、怒ってたらどうしよう……」
迷いつつ、お疲れさま、こんにちはとスタンプを送る。
「少しよろしいでしょうか、と」
文章が硬い?
でももし怒っているんだとしたら、さらに怒らせるようなことはしたくないわけで。
そわそわしながら返信を待っていたら、少ししてチロリロリンと通知音が鳴った。
急いで携帯を手に取り、開いた画面にはお疲れのスタンプとどうした?の文字。
ほっとして、指を走らせる。
【今日、元彼からやり直してほしいと頼まれました】
【でも私にはその気がないので、すっぱり断ってやりましたよ!】
すぐに既読になって新しいメッセージが上がってくる。
【そうか、よかったな】
【これで俺の役目も完全に終わりだな】
【じゃあ】
「え……」
会話は一方的に終わり、ありがとうとか送ったスタンプも既読にならない。
その後、何度か話しかけてみたけれど、既読にすらならなかった。
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