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第1章 襲った償いは秘密の結婚でした!?
4.タイプの人間
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下座で女性に囲まれている男をちらり。
……なんで蔭木課長がいるんだろ。
その週の木曜は倉下部長の送別会だった。
なのに、部外だけど参加している蔭木課長の方が目立っている。
「蔭木課長、どうぞ」
「蔭木課長、なに飲みますか?」
「蔭木課長、……」
女性たちにちやほやされているというのに、当の本人はむすっと黙っていた。
……愛想笑いくらいすればいいのに。
もともと私は、蔭木課長が苦手なのだ。
俺様、横暴。
婚約者がいるのに女性に甘い。
そんな人間、誰が好きになれるとでも?
その割に群がる女性はあのように多いのだけど。
きっと、あの顔と地位に騙されているに違いない。
「なんなんですかね、あれ。
今日は倉下部長の送別会なのに」
「まーまー、美月くん。
怒んないの」
私を宥め、倉下部長はお猪口のお酒をくいっと飲んだ。
「だって、部長を無視とか酷いです」
空になった彼のお猪口へお酒を注ぐ。
何度もいうが私は倉下部長が大好きだ。
ナイスミドルという言葉がぴったりな、ダンディな彼は温和で、いつもにこにこ笑っていて怒鳴ったところを見たことがない。
けれど間違ったことをしたときは厳しく叱ってくれる。
まさしく私の理想の男性なのだ。
「僕はこうやって美月くんと差しで飲めるだけで満足だよ」
目尻を下げてにっこりと倉下部長が笑う。
「倉下部長……」
ぽっと熱くなった顔を見られるのが恥ずかしくて、俯いた。
倉下部長となら結婚したい。
もし、彼がそれに応えてくれたなら、私の抱えている問題は一発で解決なのだ。
けれど、下がった視界に見える彼の左手薬指には既婚者の証が光っている。
年の差からしても部長にとって私は、娘みたいなものだから。
「部長がお父さんだったらよかったのに」
「ん?
また父親から見合いを勧められたのかい?」
楽しそうに口もとを緩めながら部長がお猪口を口に運ぶ。
「そうなんですよ、いい加減にしてほしいです」
「まー、父親は娘がいくつになっても可愛いもんだからね。
そういう僕も美月くんを変な男には渡したくない」
悪戯っぽく部長の目が光る。
「もう、倉下部長ったら!」
ケラケラと笑う私と一緒に、部長も笑っている。
こんな話も部長とはもうできない。
淋しさで胸がいっぱいになっていった。
「なんの話をしてるんですか?」
女性たちを振り切ってきた蔭木課長が突然、どさっと私の隣に座る。
「倉下部長、どうぞ」
「今日は忙しいのにわざわざ来てくれてありがとう、蔭木くん」
彼が差し出すお銚子を、倉下部長はお猪口で受けた。
「いえ、部長には大変お世話になりましたから。
私が一人前になれたのも倉下部長のおかげです」
「相変わらず口が上手いね、君は」
部長と蔭木課長が同時に、一気にお酒を飲み干す。
いまは本部のMD戦略推進企画室勤務の彼だが、店舗勤務の時代は倉下部長の下で働いていたらしい。
「ああ、もう入ってないですね」
確かめるように軽くお銚子を振りながら、蔭木課長の目が私へと向く。
「君はまだ大丈夫か?」
「あ、えっと……」
飲んでいたレモンサワーのグラスはすでに空になっていた。
けれどそろそろ、ソフトドリンクに変える頃合い。
「それはなんだ?」
視線が、空のグラスを指す。
「レモンサワーです……」
「わかった。
……監事!」
テキパキと蔭木課長が飲み物の追加を注文する。
すぐに私の目の前には新しいレモンサワーのグラスが置かれた。
蔭木課長と倉下部長は互いにお酒を注ぎあい、昔話をしている。
私はひとり、グラスを睨んでいた。
「そういえばさっき、なんの話をしていたんですか?
変な男には渡したくない、でしたっけ。
まるで父親みたいですよ」
私の話題になり、ぴくりと指が反応する。
「そりゃ僕は美月くんを娘のように思っているからね」
思わずグラスを掴み、中身をごくごくと半分まで空けていた。
「まあそれは半分冗談だけど」
「半分ですか」
可笑しそうに笑いながら蔭木課長は手酌で酒を注ぎ、飲んでいる。
「彼女ね、しょっちゅう父親からお見合い勧められて困ってるんだ」
「へえ。
……好きな人間でもいるのか」
蔭木課長が半分、身体をこちらへ向けた。
「……いない、ですけど」
「ふーん。
なら別に問題ないんじゃないか」
「嫌ですよ、父が決めた相手とか。
結婚相手くらい、自分で決めたいです」
残りのレモンサワーを一気に飲み干す。
この話題は酔って忘れてしまいたい。
「どんなタイプが好みだ?
まず、男か女かそこからだな」
「は?」
くいっ、とそのかけている黒メタルスクエアの眼鏡を彼が上げる。
不躾ながらその顔を、まじまじと見ていた。
「俺が紹介してやる」
「は?」
間抜けにもまた、同じ一音が口から漏れる。
「俺の友人、知り合いなら、会社役員や御曹司が多いから、父親も満足なんじゃないか?」
「はぁ……それはそう、ですね……」
貧乏サラリーマンなど当然、父は認めてくれないだろう。
その最低条件をクリアしているという時点で、これは渡りに船……なのか?
「それで。
男が好きなのか、女が好きなのか」
「意識したことはないですが……たぶん、男性ですね」
いつのまにか頼まれ、テーブルに置かれたレモンサワーを無意識に口に運んでいた。
「どういうタイプが好みだ?」
「そうですね……、押しが強くなくて……優しくて……包容力があって……その、倉下部長みたいな……」
「それは嬉しいねぇ」
目のあった倉下部長が目尻を下げてにこっと笑う。
とても可愛いそれを見ていられなくて、ぐいっとグラスの中身を呷った。
「俺みたいなのはどうだ?」
「蔭木課長のような、人、ですか……?」
さっきから、目の前がふらふら揺れて見える。
容量はすでに超えていた。
「そう、俺みたいなの」
なんで蔭木課長はそんなことを訊いてくるのだろう。
しかもそんな、真剣な目で。
「わた、し、は……」
あ、ヤバい。
そう感じた瞬間、身体が崩れた。
必然、蔭木課長の胸に飛び込む形になってしまう。
「大丈夫か?」
「……あ、はぃ……」
甘い、けれどどこかセクシーな香りが私を包む。
限界をすでに超えていた身体はさらにその香りに酔わされ、意識は白い靄の向こうへ閉ざされた。
……なんで蔭木課長がいるんだろ。
その週の木曜は倉下部長の送別会だった。
なのに、部外だけど参加している蔭木課長の方が目立っている。
「蔭木課長、どうぞ」
「蔭木課長、なに飲みますか?」
「蔭木課長、……」
女性たちにちやほやされているというのに、当の本人はむすっと黙っていた。
……愛想笑いくらいすればいいのに。
もともと私は、蔭木課長が苦手なのだ。
俺様、横暴。
婚約者がいるのに女性に甘い。
そんな人間、誰が好きになれるとでも?
その割に群がる女性はあのように多いのだけど。
きっと、あの顔と地位に騙されているに違いない。
「なんなんですかね、あれ。
今日は倉下部長の送別会なのに」
「まーまー、美月くん。
怒んないの」
私を宥め、倉下部長はお猪口のお酒をくいっと飲んだ。
「だって、部長を無視とか酷いです」
空になった彼のお猪口へお酒を注ぐ。
何度もいうが私は倉下部長が大好きだ。
ナイスミドルという言葉がぴったりな、ダンディな彼は温和で、いつもにこにこ笑っていて怒鳴ったところを見たことがない。
けれど間違ったことをしたときは厳しく叱ってくれる。
まさしく私の理想の男性なのだ。
「僕はこうやって美月くんと差しで飲めるだけで満足だよ」
目尻を下げてにっこりと倉下部長が笑う。
「倉下部長……」
ぽっと熱くなった顔を見られるのが恥ずかしくて、俯いた。
倉下部長となら結婚したい。
もし、彼がそれに応えてくれたなら、私の抱えている問題は一発で解決なのだ。
けれど、下がった視界に見える彼の左手薬指には既婚者の証が光っている。
年の差からしても部長にとって私は、娘みたいなものだから。
「部長がお父さんだったらよかったのに」
「ん?
また父親から見合いを勧められたのかい?」
楽しそうに口もとを緩めながら部長がお猪口を口に運ぶ。
「そうなんですよ、いい加減にしてほしいです」
「まー、父親は娘がいくつになっても可愛いもんだからね。
そういう僕も美月くんを変な男には渡したくない」
悪戯っぽく部長の目が光る。
「もう、倉下部長ったら!」
ケラケラと笑う私と一緒に、部長も笑っている。
こんな話も部長とはもうできない。
淋しさで胸がいっぱいになっていった。
「なんの話をしてるんですか?」
女性たちを振り切ってきた蔭木課長が突然、どさっと私の隣に座る。
「倉下部長、どうぞ」
「今日は忙しいのにわざわざ来てくれてありがとう、蔭木くん」
彼が差し出すお銚子を、倉下部長はお猪口で受けた。
「いえ、部長には大変お世話になりましたから。
私が一人前になれたのも倉下部長のおかげです」
「相変わらず口が上手いね、君は」
部長と蔭木課長が同時に、一気にお酒を飲み干す。
いまは本部のMD戦略推進企画室勤務の彼だが、店舗勤務の時代は倉下部長の下で働いていたらしい。
「ああ、もう入ってないですね」
確かめるように軽くお銚子を振りながら、蔭木課長の目が私へと向く。
「君はまだ大丈夫か?」
「あ、えっと……」
飲んでいたレモンサワーのグラスはすでに空になっていた。
けれどそろそろ、ソフトドリンクに変える頃合い。
「それはなんだ?」
視線が、空のグラスを指す。
「レモンサワーです……」
「わかった。
……監事!」
テキパキと蔭木課長が飲み物の追加を注文する。
すぐに私の目の前には新しいレモンサワーのグラスが置かれた。
蔭木課長と倉下部長は互いにお酒を注ぎあい、昔話をしている。
私はひとり、グラスを睨んでいた。
「そういえばさっき、なんの話をしていたんですか?
変な男には渡したくない、でしたっけ。
まるで父親みたいですよ」
私の話題になり、ぴくりと指が反応する。
「そりゃ僕は美月くんを娘のように思っているからね」
思わずグラスを掴み、中身をごくごくと半分まで空けていた。
「まあそれは半分冗談だけど」
「半分ですか」
可笑しそうに笑いながら蔭木課長は手酌で酒を注ぎ、飲んでいる。
「彼女ね、しょっちゅう父親からお見合い勧められて困ってるんだ」
「へえ。
……好きな人間でもいるのか」
蔭木課長が半分、身体をこちらへ向けた。
「……いない、ですけど」
「ふーん。
なら別に問題ないんじゃないか」
「嫌ですよ、父が決めた相手とか。
結婚相手くらい、自分で決めたいです」
残りのレモンサワーを一気に飲み干す。
この話題は酔って忘れてしまいたい。
「どんなタイプが好みだ?
まず、男か女かそこからだな」
「は?」
くいっ、とそのかけている黒メタルスクエアの眼鏡を彼が上げる。
不躾ながらその顔を、まじまじと見ていた。
「俺が紹介してやる」
「は?」
間抜けにもまた、同じ一音が口から漏れる。
「俺の友人、知り合いなら、会社役員や御曹司が多いから、父親も満足なんじゃないか?」
「はぁ……それはそう、ですね……」
貧乏サラリーマンなど当然、父は認めてくれないだろう。
その最低条件をクリアしているという時点で、これは渡りに船……なのか?
「それで。
男が好きなのか、女が好きなのか」
「意識したことはないですが……たぶん、男性ですね」
いつのまにか頼まれ、テーブルに置かれたレモンサワーを無意識に口に運んでいた。
「どういうタイプが好みだ?」
「そうですね……、押しが強くなくて……優しくて……包容力があって……その、倉下部長みたいな……」
「それは嬉しいねぇ」
目のあった倉下部長が目尻を下げてにこっと笑う。
とても可愛いそれを見ていられなくて、ぐいっとグラスの中身を呷った。
「俺みたいなのはどうだ?」
「蔭木課長のような、人、ですか……?」
さっきから、目の前がふらふら揺れて見える。
容量はすでに超えていた。
「そう、俺みたいなの」
なんで蔭木課長はそんなことを訊いてくるのだろう。
しかもそんな、真剣な目で。
「わた、し、は……」
あ、ヤバい。
そう感じた瞬間、身体が崩れた。
必然、蔭木課長の胸に飛び込む形になってしまう。
「大丈夫か?」
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